未来面「世界一、□□□国、日本へ。」経営者編第8回(2010年12月20日)

提言

世界一、いのちを大切にする国、日本へ

味の素・伊藤雅俊社長

※肩書き等は掲載当時のものです。原稿のため、掲載時とは差異があります

農・畜・水産物の

先食いは許されない

いのちの輪を作るのが

21世紀を生きる企業の務め

日本食で世界を健康に

 日本が世界に発信できる強み、存在意義は何か。国や企業が今、必死になって探しています。あまりに身近な存在なので、気がついていないかもしれませんが、その一つに日本食があると考えます。このことは日本にいる我々よりも世界の人たちが「おいしくて健康によい」と認め、世界に広がっていることからわかります。一方、日本食には素材を大切に生かしきるという発想があります。健康や生物多様性の確保などの地球的課題に応える最先端技術が隠されているのが日本食です。

 世界一の長寿国で肥満が少ないことが何よりの証拠です。肥満が少ないのは、日本の料理を食べていると自然とセルフコントロールが働き、食べ過ぎを防げるからです。日本食は四季折々の新鮮な素材を使い、その味を大切に生かすために薄味です。味付けが薄くても、おいしくてその上、美しいのが日本食なのです。世界中の著名なシェフが何度も日本を訪れて素材を生かした日本食を研究し、その考え方を自国に戻ってフランス料理などに取り入れています。

 健康によい日本の食文化が世界に広まれば、それだけで、日本人の世界への貢献になると確信しています。

 なぜ薄味の日本食はセルフコントロールがきき、食べ過ぎを抑えることができるのでしょうか。それは日本食の中心を担う出汁(だし)などに含まれる「うま味」(アミノ酸の一種グルタミン酸や核酸)という成分が重要な働きをするからです。舌や胃の中で「うま味」を感じ、満足感を早く引き出すことが研究でわかってきました。「うま味」の感受性が低いと満足感がえられず、食べ過ぎになりやすく、肥満の一因にもなります。肥満は先進国共通の大きな社会問題となっており、日本料理の特徴である「だし」「うま味」の活躍の場は今まで以上にあるはずです。

 一方、途上国に目を転じると、全く別の世界が見えてきます。貧困による栄養不足です。この地球規模の問題解決にも「うま味」が一役買うことができます。栄養はあってもおいしさに乏しい素材をおいしく摂取できる機能が「うま味」に備わっています。世界に約40億人いる低所得者(年間所得が3000ドル以下)の人たちに日本食は手が出ません。しかし、現地の食材を使った料理に「うま味」を加えることができれば、健康状態は大きく改善します。

 また、日本食には、素材を「大切に生かしきる」=MOTTAINAI(もったいない)という発想があります。「うま味」は昆布、干ししいたけ、かつお節など自然界の恵みを源として作ることができます。21世紀を生きる私たちは自然の恵みを未来の人たちが利用できる分まで先取りすることは許されません。そうは言っても、多くの生き物は生存するために、別の生き物の栄養を摂取して自分のからだをつくる必要があります。突き詰めれば、私たちは「いのちをいただいて」生きていることになります。

 このような資源問題を解決するには「いのちの輪」(サイクル・オブ・ライフ)を作ることが大切です。味の素の事業領域でいえば、グルタミン酸などアミノ酸はサトウキビの砂糖を絞った糖蜜を自然界の微生物の力(発酵)で作ります。一緒にできる副生物はたくさんのアミノ酸、ミネラルを含んでいるので「有機質肥料」としてサトウキビ畑に戻しています。また、アミノ酸を入れたコンクリートを海や川に沈めると藻類などの育ちが良くなり、それを食べようと貝や魚が集まってくるなど、生態系再生の可能性を示す研究成果も出つつあります。環境に配慮して資源を生かしきることに努め、さらに資源を育てることで「いのちの輪」に貢献することが21世紀型の企業に求められる姿でしょう。

 人間の栄養と、その人間を支えている動植物への栄養。食物連鎖の土台となる農・畜・水産物を先食いすることなく増やしていく。いのちは私たち人間のものだけではありません。そのことを自覚して企業の強みを再構築し、誠実に実行すれば、地球規模の問題解決のお役に立てるはずです。「おいしくて健康な」食文化を築き、素材を「生かしきる」という発想を持つ私たちが、世界に貢献できることはたくさんあります。

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