未来面「世界一、□□□国、日本へ。」経営者編第5回(2010年10月25日)

提言

世界一、ITを使いこなす国、日本へ

キヤノン・内田恒二社長

※肩書き等は掲載当時のものです。原稿のため、掲載時とは差異があります

なぜ進まない、

日本の電子行政。

利用者目線のITが、

この国を明るくする。

「住基ネット、本気の活用を」

 日本にはたくさんのIT(情報技術)企業が存在しますし、携帯電話やデジタルテレビの普及を見ても、IT先進国であることは確かでしょう。しかし、国民が本当にITの成果を享受できているかというと、必ずしも世界の先頭を走っているとはいえません。「ITを使いこなせば、この国はもっと良くなるのに」。そんなもどかしい気持ちを抱いています。

 企業レベルでは、デジタル技術やITが大いに威力を発揮しています。写真の分野でも、デジタルカメラの登場で市場が大きく広がりました。フィルムが不要になったことで、写真1枚あたりのコストが大幅に下がり、世界中の人が撮影を楽しめるようになったのです。

 「日本企業はデファクトスタンダード(事実上の標準)を取るのが苦手」とよくいわれますが、写真関連についてはそうでもありません。例えば、パソコンを介在させずに、デジタルカメラとプリンターを直接つないで、写真をプリントアウトするための規格は「ピクトブリッジ」という名称で、日本発の技術が世界中で使われています。

 ITは業務の効率向上にも有効です。キヤノンでは2000年代の初頭に全社統一の商品コードを導入しました。事業部門や国ごとにバラバラの番号をつけていたのを、一本化したのです。それによって在庫管理などが容易になりました。統一した商品コードと設計情報をリンクすることで、開発業務の効率化にもつながりました。

 このように個別の企業レベルでは、ITの活用は日進月歩の勢いで進んでいます。ところが、残念ながらITの活用が不十分な領域があります。それが行政の世界、電子政府と呼ばれる分野です。

 数年前に住民基本台帳ネットワークシステムが稼働したとき、私は「いろいろなことが便利になるのだろう」と期待し、早速住基カードを取得しました。しかし、実際にはほとんど使い道がありません。逆に手間ばかりかかるというイメージです。例えば、私は同じ市内で別の区に引っ越したことがあるのですが、住所変更届と住基カードが連携していないために、もう一度区役所に行って住基カードを取り直さなければなりませんでした。

 今なお最終解決していない「消えた年金」も、システムがしっかりしていれば起こらなかった問題だと思います。米国では個人個人に社会保障番号が付与されており、それに基づいて年金関係の記録が管理されています。こうした個人を特定する仕組みのIT化が日本では未整備のために、年金を受け取れない人が出てくるのです。

 役所間の壁も大きな問題です。役所の所管ごとにバラバラの個人認証システムを導入しても全体的な効率は上がるどころか、ムダが増えます。企業でいえば、事業部ごと、地域ごとにまちまちのITシステムをつくるようなもので、むしろ全体の効率を阻害します。

 ポイントは、企業と同じように、個人認証データを一元化して利用できる仕組みを構築することです。たとえば、まずは住基カードの活用を充実させるために個人認証を保証する仕組みを作り、その上で、社会保障の手続き(年金、健康保険など)や役所への届け出(運転免許証、パスポートなど)を1枚の住基カードですべて行えるようにします。安心・安全の部分が担保されていれば、住基カードを活用して、非常に便利な明るい世の中への第一歩が踏み出せるのです。

 もちろん国がすべてをできるわけではないので、インフラ整備などは企業に任せればよいでしょう。大切なのは国が大枠のルールを決めること。そのためには、かなり困難は伴いますが、官庁の壁を取り払った行政のIT化、公共サービスの電子化を推進する政府の主導が必要だろうと思います。

 日本の将来は間違いなく少子高齢化に進んでいきます。そのときのためにも、今から少ない手間で便利にサービスを享受できるITを活用した仕組みを本気でつくり上げることが重要です。

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