未来面「世界一、□□□国、日本へ。」経営者編第3回(2010年8月30日)

提言

世界一、人が集まる国、日本へ

東日本旅客鉄道会長・大塚陸毅

※肩書き等は掲載当時のものです。原稿のため、掲載時とは差異があります

大塚陸毅(67)東日本旅客鉄道会長:

 観光とは国の光を観(み)せること。人の交流は経済活性化だけでなく、安全保障にもつながる。

伊藤元重(58)東京大学教授:

 とにかくきてもらうことから始めよう。10年後に向け、どんな規制緩和が必要か。日本の制度設計が見えてくる。

「観光立国」

大塚氏

「グローバル化が進み製造業は海外に軸足を移すようになりました。少子高齢化も進展し、従来の考えでは内需拡大は期待できません。海外から来る観光客などを取り込んで、経済の活性化を図るべきです。観光というと、どうしても狭くとらえがちですが、すそ野は広く、経済波及効果や雇用創出力にも優れています。旅行、運輸、飲食、小売りなどが恩恵を受けるだけでなく、製造、建設などにもメリットがあります。観光庁の調査では2008年度の旅行消費額は23兆6000億円、生産波及効果は51兆4000億円、雇用誘発効果は430万人です。観光は広い意味で、21世紀のリーディング産業になっていくでしょう」

伊藤氏

「第1回ノーベル経済学賞を受賞したオランダの経済学者ティンバーゲン氏は、2国間の交易量が両国間の距離に反比例し、経済力に比例するというグラビティーモデルを貿易に応用しました。人の動きについても同じようなメカニズムが働くはずです。日本の周辺では中国、東南アジア諸国連合(ASEAN)、インドの3地域で経済発展が進んでいます。欧米に比べ極めて距離が近いので、こうした地域との結びつきは必然的に太くなります。従来は周辺地域が豊かでなかったために、日本に観光客がこなかっただけです。アジアの経済社会統合により、観光が日本の成長に欠かせないものになってきたのです」

大塚氏

「観光には平和へのソフトインフラという側面もあります。お互いの国を知ることで信頼関係が生まれます。 大切なのは人の交流ですが、日本は非常に遅れています。09年に出国した日本人数(アウトバウンド)は1545万人で、訪日外国人数(インバウンド)は679万人と2倍以上の開きがあります。もっと多くの人に日本に来ていただいて、日本を知ってもらいたい。そこで、大交流という言葉を提唱します。そうすることではじめて、本当のグローバル化となるはずです。相手の国の経済、文化、食、習慣などを知ることが、大事な国家戦略、安全保障につながるのです」

伊藤氏

「アジアの人たちの中には何かあると反日行動をとることがあります。お互いの理解が進めばこうした極端な行動はなくなっていくと思います。30年程前、英国を訪れたときに、食事があまりおいしいとは思いませんでした。今はそんなことはありません。国境を越えていろんな人たちが来ることで、次第においしい料理を出せるようになってきたのです」

大塚氏

「観光というのは、本当は『国の光を観(み)る』という意味なのですが、どうしても、贅沢(ぜいたく)だとか、物見遊山ととらえがちです。なので、行政にも、観光にお金をつけることに抵抗があるようです。日本の先端的な医療技術で診てもらうのも観光の1つです。国際会議、工場視察、風景や文化を体験することも観光です。多彩な切り口があることを認識すべきでしょう。多くの行政機関がかかわっており、民間ともなじみやすい。関連予算は国土交通省や厚生労働省だけでなく、農林水産省、経済産業省、外務省など約10の省庁で計上されています。08年に観光の旗振り役として観光庁が発足したわけですから、横断的な連携強化が必要です」

伊藤氏

「国として観光の必要性をもっとアピールし、国全体で世界にメッセージを発信すべきでしょう。官だけだとどうしてもチャレンジしない傾向にあります。民が知恵を出して取り組むべきだと思います。90年代のバブル経済が崩壊したときに、不良債権となっている土地をどうすべきかと議論になり、不動産会社や海外の金融機関などが加わって証券化という具体的に進めていくモーメンタムが生まれました。土地の処理が進み、再開発も動き出して、現在の東京になりました。観光は今、旬なキーワードです。いろいろな力を活用してアイデアを出すべきです」

 「少し乱暴な議論ですが、とにかく海外から日本にたくさん来てもらうことから始めないといけないでしょう。海外から実際に多くの人が入ってきてはじめてどのような整備が必要か見えてくるはずです。10年後の姿を描くための規制緩和や新たな制度設計も必要になります。成田空港と地方路線を結んだり、那覇空港や千歳空港と羽田・成田空港の間の路線に海外航空会社の参入を認めるというようなことを検討すべきでしょう」

大塚氏

「効果的なのはビザ(査証)取得の緩和、入国審査の短縮、審査手続きの簡素化です。観光に携わる人材の育成は急がなくてはなりません。観光学部などを持つ大学もいくつもありますから、インターンシップ(就業体験)制度で実体験を積んでもらいたい。学生を受け入れる観光施設やサービス企業の体制も整えて、大学側は学生に単位を与える。空港から日本各地へ向かう鉄道も海外の観光客にとって便利でわかりやすくならないといけません。日本の鉄道は全国に張り巡らされ、複雑です。電子マネーのカード1枚で鉄道にもバスにも乗れれば切符を買うわずらわしさから解放されます。日本人の意識改革も必要です。休暇の分散化を進めることで、働き方、生活の仕方が変わり、ワーク・ライフ・バランスの実現にもつながります」

伊藤氏

「観光の上位概念となる言葉をつくることも必要ですね。メタボという言葉ができて健康を気にする人が増えたように、国民的キーワードの登場が期待されます」

大塚氏

「観光の基本はフェース・トウ・フェース。人が動くと言うことは情報が動くことになります。観光は最先端の情報産業でもあります。私は現在、日本ナショナルトラストの会長も務めておりますが、この活動は地域の自然景観や文化財、歴史的環境を守り、後生に伝えていこうという多くのボランティアによって支えられています。観光立国を推進するには、グローバルな視点だけでなく、それぞれの地域の良さに目を向けていくことも大切です」

同企業からの課題

同テーマの提言