未来面「世界一、□□□国、日本へ。」経営者編第4回(2010年9月27日)

提言

世界一、KAITEKIを産み出す国、日本へ

三菱ケミカルHD・小林喜光社長

※肩書き等は掲載当時のものです。原稿のため、掲載時とは差異があります

ROE一辺倒の企業に

地球は救えない。

利益の追求とともに、

永続性を意識した経営を。

「KAIZENに代わる価値」

 20世紀の日本の産業界は「KAIZEN(改善)」という価値を発信しました。生産現場の知恵や熱意を結集して、コスト低減と品質向上を両立させる仕組みに、世界中が目を見張りました。KAIZENは今では世界共通語として定着しています。

 それでは、21世紀に日本企業が発信すべき価値は何でしょうか。KAIZENに倣うわけではありませんが、私は「KAITEKI(快適)」というキーワードを提案したいと思います。

 物質の探求に取り組む化学産業は過去にも多くの「快適」を産み出してきました。速乾性に優れた合成繊維は、蒸し暑い季節をさっぱりした気分で過ごすために欠かせない衣料素材です。

 食品の包装材は普段は気にもとめないありふれたものですが、様々な工夫が盛り込まれています。例えばマヨネーズの容器は6層のフィルムを重ね合わせて作っています。乾燥を防ぎ、鮮度を維持するために、食品会社と化学会社が知恵を絞った成果です。

 快適を広辞苑でひくと、「ぐあいがよくて気持ちがよいこと」とあります。私のいう21世紀型のKAITEKIは、人間にとっての気持ちの良さに加えて、社会にとっての快適、地球にとっての快適を考え、我々の行動のベクトルを一致させていくということです。

 地球温暖化の「犯人」として近ごろとりわけ評判の悪いCO2(二酸化炭素)や炭素ですが、植物はCO2を吸って光合成を行い、酸素を吐き出す。動物はその酸素を吸って植物を食べ、CO2を吐き出す。こういった植物と動物の補い合い、輪廻(りんね)で地球上の生態系は成り立っているのですから、CO2や炭素を一方的に悪者にするのは間違っています。

 炭素は使い方次第で大きな威力を発揮します。炭素を多く含んだ物質を有機物――考えてみれば、私たち人間の体も有機物で、たっぷり炭素を含んでいます――と呼びますが、この有機物は大きな可能性を秘めています。

 例えば現在開発中の有機太陽電池は、ペンキのように好きな場所に塗布できるのが特徴です。日当たりのよい壁に塗ればそこで発電できるし、極端な話をすれば、服やかばんに塗って出先で携帯電話を充電することも可能です。もちろん発電の結果、CO2を出すこともありません。有機太陽電池で発電し、リチウムイオン電池に充電して、白色LED(発光ダイオード)を光らせる。これらはいわば新エネルギーの三種の神器として、人類の省エネルギーに大いに貢献できます。

 あるいは、草などに含まれるセルロースから作る生分解性のプラスチック。これを家電製品やパソコンのボディーに使えば、製品は軽量化します。自動車に使えば、燃費がよくなります。その上、捨てるときも土に還元されるので、環境汚染の恐れがありません。

 これらの製品は、製造するときに一定のCO2を排出しますが、これまで使っていた素材に代替することでそれ以上のCO2の排出削減に貢献できます。製品の製造から廃棄までの全体の期間で環境への影響を評価することが大切で、このような考え方をLCA(ライフサイクルアナリシス)と言います。

 考えてみれば、地球は巨大な化学工場のようなものです。生物の死骸を地中深く高温・高圧下で1億年以上保持することで、石炭や石油といった化石資源を産み出します。こうした化石エネルギーに支えられて、私たちは豊かな生活を楽しんできました。

 しかし、化石資源も有限の存在であり、野放図に使えばいつかは枯渇します。地球という巨大な化学工場に頼りっぱなしではなく、私たちの英知で新たな資源を産み出すことが必要です。

 技術を実用化するまでには長い時間がかかります。10年先、20年先の地球が快適であるためには、どんな素材や製品が必要か。そこから逆算して今、我々は何をすべきかを考える必要があります。すぐに利益につながらなくても将来のKAITEKIにつながると判断すれば、創造事業として育成に力を入れ、成長・基盤事業へと発展させていく。

 企業の中には、自社の現在の利益さえ極大化すればよく、社会全体や将来のことなど関係ないというところもありますが、そんなROE(自己資本利益率)一辺倒の企業だけになったら、地球は持ちません。サステナビリティー(永続性)を意識した経営をしなければ、結局、企業も人も存立しないのです。

 日本はいうまでもなく資源小国ですが、KAITEKIを産み出すための資源、すなわち人材や技術は豊富にあります。日本語の快適が海外でKAITEKIとして使われるようになったとき、我々は新しい生き方、経営の在り方を世界に提示したことになります。

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