未来面「世界一、□□□国、日本へ。」経営者編第6回(2011年2月28日)

提言

世界一、都市が魅力的な国、日本へ

三井不動産・岩沙弘道社長

※肩書き等は掲載当時のものです。原稿のため、掲載時とは差異があります

魅力ある都市こそが

経済の成長エンジンだ。

多様な機能を複合させ、

世界の人を呼び込もう。

「街づくりで日本に活力を」

 企業が事業展開のしやすさで、立地する国や地域を選ぶ時代になりました。10年ほど前だとアジアの拠点といえば東京や大阪など日本の大都市だったはずです。それが今やどうでしょう。外資系企業が1社、また1社と中国やシンガポールに移っています。日本を素通りして最初から別の国や地域にアジアの司令塔を置く会社も目立ちます。

 なぜ、日本が企業にとって魅力を失いつつあるのか。簡単に言ってしまえば、他の国に比べた税率の高さや円滑な事業活動を阻害する規制の多さなどが大きな原因だと思います。アジアの主要国は税制の優遇措置、諸手続きの簡素化など政策的に大胆なインセンティブを設けて積極的に企業を呼び込んでいます。この流れをもう一度、日本に引き込まないと、この国の未来は危ういと思います。

 世界の企業やそこで働く人たちにとって魅力的な国や都市はどのようなものなのでしょうか。まず交流する場としての空間が必要です。新しい価値を持つビジネスモデルを作り出すには先進的な技術、アイデアなどが複層的に出会える「場」が重要な役割を担います。様々な価値観を持つ人が直接会って議論をする「場」の提供こそが都市に求められる重要な機能なのです。

 今、痛切に感じているのは「都市の魅力とは複合の魅力である」ということです。ビジネス街、居住地区、商業地区、文化地区などがひとつの場所にバランスよく配置されるようなイメージです。私が社会人になった当時の日本は高度成長時代の真っただ中で、街はビジネス街、居住地区などに分けて作られるのが基本でした。重厚長大、大量生産が日本を豊かな社会に導く手段と言われ、その実現のために何より効率性が求められていたのです。居住地区から大量輸送機関の鉄道を使って事務所や工場に働きに出かけ、職場と自宅の中間に商業地を配したのが高度成長時代の日本の原風景であったと思います。

 しかし所得水準の向上などを背景に、新しい生活スタイルや価値観が誕生。単一の用途の街が魅力的でなくなったのは明らかです。例えばオフィス街。仕事中でも近くにリラックスできる空間があり、仕事が終わってすぐにショッピングや映画鑑賞、食事ができるような施設があればどれだけ快適な街になることでしょう。快適さは人を呼び込む力があります。建築技術も進歩して、複合的な建物でも様々な目的で訪れる人の流れに配慮した動線の確保が容易になりました。

 日本には治安、環境、歴史だけでなく、おもてなしの心など世界に誇るソフトパワーがいくつも備わっています。残念なのはこのソフトパワーを生かすためのインフラが脆弱なことです。改善されつつあるものの、空港の使い勝手はまだまだ。東京圏を走る環状道路もぶつ切れです。外国人向けの住宅、医療機関への不満も多く聞きます。優先順位をはっきりさせた「選択と集中」による早急な改善が必要でしょう。

 実は21世紀型の「世界一、都市が魅力的な国」として参考になる時代と場所があります。それは江戸時代の日本橋です。1673年に三井高利が越後屋呉服店(三越)を創業し、取引先への送金を担う三井両替店(三井住友銀行)も生まれました。江戸の水運の中心だった日本橋川には日本中から物品が集まり、観劇など娯楽を提供する施設も次々に誕生しました。日本橋は複合的な都市の魅力を兼ね備えた街でした。わたしたちは東京本来の上質な魅力を持つ日本橋を日本の都市再生のモデルのひとつにすべく「日本橋再生計画」に取り組んでいます。

 この新しい街づくりには、日本橋で働いたり、住んだりしている皆さんも積極的に参加されています。長い歴史の中で培った絆が街づくりの原動力です。日本橋には老舗もたくさんあります。こうした老舗が今でもお客様から支持されているのは、世の中の変化を積極的に受け入れる姿勢があるからです。「変わり続けることで歴史と伝統を守る」。これはどこの世界でも通用する流儀です。

 日本橋再生には未来を見据えた長い工程表があります。地域の合意形成から始まって複合的な機能を持つ都市が生まれたなら、今度はその街づくりのノウハウを世界に広めることも可能になってくるでしょう。今、鉄道や原子力発電施設などの社会インフラを輸出する流れが加速していますが、「街づくり輸出」もその中に加わるはずです。内需産業と思われがちな不動産業でも世界に打って出るチャンスはあります。

 魅力ある都市は経済の成長エンジンです。活力ある日本を作り直すため、まずは魅力ある街づくりを基点に描いてみるべきです。

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