未来面「日本を始めよう。」経営者編第3回(2011年11月21日)

提言

挑み続ける日本を始めよう

セブン&アイHD・鈴木敏文会長

※肩書き等は掲載当時のものです。原稿のため、掲載時とは差異があります

 2011年は、日本にとって大きな転換点になった年だと思います。3月11日の東日本大震災が私たちに、企業や社会システムを大胆に変革していかなければならない、という命題を突きつけたからです。

 震災直後、多くの店で商品が棚から姿を消しました。日本には豊富にあると思われていた水も、コメも、店頭からなくなってしまいました。水は緊急輸入でしのいだほどです。同じような現象は、被災していない西日本でも起きました。もしかしたら、これは日本の将来の姿かもしれない。そんな思いが胸をよぎりました。

 これから日本は国として、海外からの食糧調達体制を一段と整備する必要があるのと同時に、小売業が国内の農業、メーカーとの関係を、今まで以上に強固に築かなければならないと、痛感しました。農村の高齢化を考えると、日本の農業の将来は厳しいと言わざるを得ません。しかし、生産量が細ればスーパーやコンビニの品ぞろえも成り立ちません。私たちは農業の担い手を確保し、生産性を向上させ、食料自給率の改善に取り組む努力を迫られています。

 震災ではセブン&アイグループの多くの店舗も壊滅的な被害を受けました。しかし、店舗復旧や商品の調達にグループ力を結集させて、なんとか営業を継続させました。避難生活を支える欠かせない機能の一つは、生活に寄り添う商品の供給拠点であり、まさに「近くて便利」な機能だと思います。だからこそ、私たちの店舗はライフラインとして、震災復興を通して再認識されたわけです。このような期待に、私たちはたゆまない自己変革によって応え続けなければなりません。これこそ流通事業者の社会的な存在意義なのです。

 変わらなければならないのは、行政や公的機関と企業との関係も同じです。少子化や過疎化によって行政単位の規模が小さくなると、十分なサービスを住民に提供できなくなります。これからは民間企業が、そうした行政の不足部分を補う役割を果たす場面が増えるのではないでしょうか。例えば過疎化が進んだ地域には、学校給食の提供が難しい地域も現れています。セブン&アイグループには食事の宅配会社があり、こうした学校に食事を届けるサービスも検討しています。このように流通業の姿やあり方は今後、ものすごいスピードで変わっていくはずです。

 日本は成熟社会で、市場は飽和し成長力が乏しくなったといわれます。そんなことはありません。消費者の嗜好は絶えず変化しています。だからおにぎり1つとっても、毎年のように梅干しの味の改良をし続けています。そうしなければお客様に飽きられてしまうからです。また、生活者のライフステージが変わることでも、新しいニーズが生まれます。人間は常に新しい物やサービスを求め続けるのです。それに対応し続けていけば、事業が行き詰まることはありません。

 技術などのブレークスルーで新しいモノが生まれ、市場のパラダイム(枠組み)が変わることもあります。最近ではスマートフォン(高機能携帯電話)が典型でしょう。手のひらの上でインターネットにつながるコンピューターは、今やビジネスおよびプライベートの様々なシーンで利用されています。10年前に誰がこんな日常風景を想像していたでしょうか。

 今の日本だけを見ていると、閉塞感の漂う姿に思われますが、過去から眺めてみれば社会がいかに発展したかがよくわかるはずです。私たちが今すべきことは、将来に対する希望を描き、それを実現するための道筋を作ることでしょう。現在の惰性を保つだけなら行き詰まるのは明らかです。新しいことに挑戦しなければいけません。

 そこで欠かせないのがリーダーシップの存在です。リーダーは新しい発想を出し続け、挑戦するきっかけを組織の中に埋め込む役割を担うのです。自ら決断し、周囲の人間に変革の必要性を気付かせ、背中を押し、自らも挑戦しなければなりません。そうすることでようやく組織もついてくるのです。

 閉塞感に覆われる中で新しさを打ち出すことがチャレンジであり、結果として新しい需要を作ります。自由競争の社会で、人間が生活していくなかで、まだ市場が飽和することはあり得ません。競争社会には、常に新しいニーズが誕生する機能が備わっているのです。もし、飽和だと言うのなら、新しい市場をこじ開けてでも、世の中に提供していくのが企業の存在価値のはずです。

 時代と共に、便利さの意味も価値も変わります。消費者や地域社会にとって、ためになるものは何かを常に模索し続ける。そうした信念を持って革新性の高い商品やサービスを提供していきたいと思います。流通業はお客様の喜ぶ姿をじかに見ることができる産業です。それが醍醐味です。ネット社会の進展に合わせ、自らも一層システム化して新たな便利さを消費者に届ける。それが未来の商人道の役割だと思います。

コメント

U-sonさん

 「理念を体現するために自主課題を持ち、人的ネットワークを形成していく」。私もリーダーシップの質が鍵になると思います。リーダーシップは学問になっていますが、大学院まで学校で体系的に学ぶ機会はなく、クラブ活動や学内のイベントでリーダーシップの重要性を痛感していました。鈴木さんが小学生にリーダーシップをどのように説明されるのか興味のあるところです。小学校で「リーダーシップ」を体系的に学ぶ、どの授業でも「リーダーシップ」という言葉を使う。学校教育の目的に「個人の世界観を形成し、志を涵養し、理念を掲げる主体の確立」を加え、私たちが理念を体現できる日本にして行きましょう。

eriririさん

 鈴木敏文社長がおっしゃる通り、成熟した日本社会は大きな転換点を迎えています。消費者のニーズやウオンツは常に変化し続けていますが、彼らは更なる便利さを本当に求めているのでしょうか。過剰な便利さは私達の身を滅ぼし、ますます環境破壊や非常時の対応不足等をもたらしていくように思えます。企業を中心に、日本社会は消費者を教育する新たなライフスタイルを提案することが求められているのではないでしょうか。

さとうやんさん

 コンビニといえばこれまで、都会的なイメージを強く抱いていました。しかし、震災報道などを通じて、地域にとても密着した存在であることを認識しました。商品物流の仕組みが確立しているため、被災地に早期に物資を供給できたこととともに、鈴木会長のお話しの通り、消費者や地域社会のためにチャレンジしていく姿を見ることもできました。特に素晴らしいと感じたのは、こういった活動が地域のためだけでなく、企業の利益にきちんと結びついていることです。当然といえば当然なのでしょうが、しっかり利益を稼ごうとする企業行動によって地域が幸せになる、これが企業の本来の姿なのだと改めて認識しました。

Davidさん

 鈴木会長の「流通業は決して飽和状態ではない」と言う意見に賛成です。他業種でも、淘汰される会社は別にして、発展・継続している会社は常に進取の精神と取り組みで新たな市場造成の努力をされているからだと思います。それはひとえに、市場が決して飽和状態ではないからだと思います。今の時代、そしてこれからの時代は同じ業種だけの市場開拓ではなく、異業種とのバリアを除いた、壁を越えた共同開拓の時代だと思います。提案する側は常にお客様の立場・視点で物事を考え、それを実施すれば、おのずと飽和ではなく、新しい仕組み、商品が生まれるものだと考えます。

keitennさん

 セブン&アイ・ホールディングスで、農産物の工場を事業に出来ないのだろうか。既に実施していれば、すみません。計画的に安心・安全な食物が生産できれば、価格が若干高くても、購入する人が増えると思います。環境にやさしいものをアピールし、みんなが共感できれば共存共栄できると思います。

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