未来面「開かれた日本を始めよう」経営者編第1回(2011年9月26日)

提言

開かれた日本を始めよう

JR東日本・大塚陸毅会長

※肩書き等は掲載当時のものです。原稿のため、掲載時とは差異があります

 東日本大震災から半年が過ぎました。復旧・復興への取り組みも徐々に進みつつありますが、単に元に戻すのではなく、震災前よりもはるかに強い東北をつくり上げていくことが残された我々の使命だと考えます。

 弊社も本震と余震で延べ約7000カ所の鉄道施設が被災しました。「街と町、人と人とをつなげよう」。その一心で鉄道会社をはじめ多くの方々の協力を仰ぎ、津波などで大きな被害を受けた区間を除き運転を再開できました。再開し、鉄道の開通がどれだけ待ち望まれていたかを改めて強く認識しました。つながっているということの意味を実感したのです。東北の活力と元気を取り戻すために我々は何をすべきか。その一つが観光の復活だと思います。

 7月、経団連の夏季フォーラムで、米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)の日本部長マイケル・グリーンさんのスピーチがありました。知日派で知られ、岩手県にも住んだ経験のあるグリーンさんの主張は「復興の第1のカギは観光である」。経団連副会長として参加していた私も全く同感でした。一部の人に「壊滅的な被害を受けた地域に観光だとはとんでもない」という意見があるのは確かですが、人が動くことが経済によい影響を与えます。人の動きをつくること、それが観光だと考えています。

 様々な経済復興対策が打ち出されるなかで、一番即効性があるのが観光分野の施策でしょう。東北には豊かな第1次産業の営み、美しい自然とそれに映える歴史的な建造物、脈々と受け継がれた伝統芸能がたくさんあります。このような観光資源は地域の人々の誇りであり、その場所にあってこそ存在意義があります。震災後、産業の空洞化への懸念が高まっていますが、空洞化しない観光こそが東北復興の起爆剤となり得るのです。

 私が会長を務める日本ナショナルトラストも、震災で被害を受けた自然・文化遺産の復興支援に取り組んでいます。この取り組みはそれらを復旧して観光資源として活用することで東北の観光や経済を立て直すだけでなく、地域の絆を取り戻す、いわばソフト面からの復興アプローチといえるもので、大変意義深い活動だと思っています。

 震災により、観光の持つ本来の意義が明らかになりつつあります。被災地の現状を実際に目にすることで「何とかしなければならない」と感じ、そこから次の行動も起きます。知ることで風評被害のような事実誤認も避けられます。地域との交流・支援を目的としたボランティアツーリズムは新しい観光スタイルへの関心の高まりといえます。「応援消費」の考えには観光による地域・被災地への貢献も含まれています。観光が復興の力となるのです。

 海外の皆さんに日本をきちんと理解していただく努力も不可欠です。被災地で国際的な会議や学会を開催することも観光の1つです。幸い来春、観光分野のダボス会議といわれる世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)の第12回サミットが東京と仙台で開かれます。今回の国難を日本人はどう乗り越えようとしているのかを、足を運び肌で感じていただく絶好の機会になるはずです。新しい日本をつくり直す時に海外からのアイデアが生かされるかもしれません。こうした国際会議に参加される皆さんはその国のオピニオンリーダーで、発信力をお持ちです。実際に見た日本のたくましい姿をぜひ、自国で伝えていただきたい。このサミットを契機に、観光産業が本来持つ力と意義も国内外に発信していきたいと考えています。

 今、日本はいろいろな面で国を開くことが求められています。貿易立国である日本はTPP(環太平洋経済連携協定)、EPA(経済連携協定)などを積極的に進めるべきです。観光はその前提となる人の行き来を頻繁にして交流の場をつくる、まさに「国を開く」産業です。様々な経済活動の基盤、ソフトを担うのが観光です。観光は裾野が広い産業であり、観光の取り組みは地域に根ざした多くの産業の底上げにつながるでしょう。こういう時期だからこそ、観光の意義を多くの人に理解してもらうことが必要です。

 日本人の「旅行」に対する考え方も変えていかねばなりません。今夏はサマータイムや長期休暇の導入で働き方、ライフスタイルについて改めて考える機会になりました。一人ひとりがやりがいや充実感を持ちながら仕事と生活を調和させるワークライフバランスや、積極的に余暇を過ごすポジティブ・オフが定着するきっかけにもなりました。幼少期に家族旅行をたくさん経験した人は自分が家庭を持った時にも家族旅行によく出かけるという調査結果もあります。旅行、観光は家族の絆を強める力を持ち合わせています。観光は社会の在り方や人々の人生観さえ変える可能性のある産業ではないでしょうか。

 「失われた20年」といわれた日本には閉塞感が漂っています。震災でさらに失われ続けることだけは避けねばなりません。国を開きグローバルな需要を取り込む施策が大切です。観光立国に向けた取り組みは震災後の未来の日本を支える重要な政策の1つであり、国家戦略であることは間違いありません。

コメント

Gontaさん

 「観光の復活」が東北に元気を取り戻すという意見に同感です。阪神淡路大震災の起こった年の4月に、私は自ら異動希望を出して大阪支社勤務となりました。そして、友人たちと毎週2度3度と神戸に通い、地元で頑張っていらっしゃるお店に行って食事をして帰る日々でした。訪ねられるお店にとっても、訪ねる私たちにとっても楽しい時となっていくのをとても実感できたのを昨日のように覚えております。義捐金を送り、エールを送ることも重要な支援かもしれませんが、「普段通りに観光で訪ね、食事をしにいくことで、往復の運賃も旅先での食費も直接的な支援」になります。多額の金額が報告されるばかりで、どのように支給され活用されるのかがわからないもの(=義捐金)とは異なる「目に見える」復活の手ごたえを、観光を通じて感じることができると考えます。

socochanさん

 東京の外資系企業に勤務する外国人の方々が感動し、日本が大好きになって帰国される。それは地方の旅で日本人との出会いの体験があるからです。「日本人ほど利己主義でなく、まず人のことを考える国民に会ったことがない」と。災害時に暴動や略奪が起こるということは日本人にはまったく理解できないことです。困っている時こそ、助け合わなければ。日本人に出会う旅を。

heartcrossさん

 JR東日本は東北復興の重要な役割を担っています。震災後の東北新幹線復旧から始まり、今後は三陸方面の在来線の普及も課題です。在来路線復旧にあたっては、駅舎を3階建て以上の鉄筋コンクリート構造にして、3階以上の部分には次回起こる津波の避難場所にできないだろうか。普段は地域の特産品展示や朝市など地域交流の場として活用してもらいたいものです。

☆けむりさん

 世界から見た時に、東北は本当に安全なのかと思われています。世界中に流れた東日本大震災の情報は大きなインパクトを持っていました。まず、東北がどれだけ復興したかを映像で見せ、続けて文化や自然についての魅力を紹介することから始めたらどうでしょう。基幹の空港や鉄道、道路及び宿泊施設が復興し、観光のための移動に全く支障がない。更に復興から新しい価値が生み出されて行くことにつなげて、観光立地として世界に認識していただければと思います。

i-reconstrさん

 東京を始め東日本は文化的魅力をもっています。ミシュランは、移動経路に光るものがあるとして案内を出しています。魅力ある世界的な観光地を連携させ、観光ルートを設定する。これにより、ドイツのロマンチック街道やローマ帝国の軍事街道以上の魅力を世界に発信できると考えています。最大の国際観光都市東京と年間1000万人以上の観光客が訪れる日光や松島、そして世界遺産の平泉を、会津経由でつなげたいです。長野・群馬・日光を結ぶ日本ロマンチック街道と接続して東日本広域観光ルート「ディスカバー東日本」として実現を目指していきたいと考えています。

ゆうさんさん

 大手旅行業者が共催して東北応援ツアーを長期に渡り実施してほしい。業界団体があるので官民一体で広く周知すれば良いと思います。観光は裾野が広いので日本再発見キャンペーンを交通、宿泊など観光関係団体が結束してやり、経済活性化に寄与してほしいです。

郵趣家さん

 被災地では列車・代行バスによるアクセスが悪く、ボランティアセンターに受付時刻までに到着できない。宿泊施設も不足している。JR東日本にお願いしたいのは、ボランティア輸送・宿泊体制の確立である。たとえば、首都圏を寝台で夜間出発し、被災地最寄の駅で切離しながら福島・宮城・岩手へ向かう。朝まで車内で過ごし、バスで駅から沿岸部のボランティアセンターへ向かえると助かる。あわせて被災地のJR施設を宿泊施設として貸し出せないだろうか。観光客の輸送と兼ねて、在来線を活用できるといいと思う。

あすなろさん

 「観光が東北の力になる」とする考えは、正論と思います。問題は、それが一人一人に、どう受け止められ、どのように具体化するかだです。これまで、観光はスポット(地点)で考えられてきたきらいがあります。観光を点でなく面で捉え、地場の特異性を生かすにはどうしたらよいか。JRだけでなく、バスやレンターカーとも連携。さらに、農業も組み込んだグリーンツーリズムや、アグロツーリズムをどう形にしていくか。こういったことを全国、あるいは様々な行政単位で考えてもよいと思います

recaldentさん

 観光産業を復興の一つの手掛かりにする事には賛成。魅力的な観光プログラムによって内外からの人を引き付けることで活気が生まれ、復興の大きな助けになるでしょう。しかし被災地が実施するなら、お仕着せで従来型の観光ではなく、新しい形にする必要があります。自然資源を活かしたエコやスポーツツーリズム、医療を絡めたメディカルツーリズム、先端産業や産業遺跡を巡る産業ツーリズム、地方の生活を体験できるホームステイ型、長期滞在を前提としたコンドミニアム整備など東北の特色を活かした体験、滞在型の観光が望ましいと思います。

桐蔭居士さん

 観光で復興をとのご提言に賛成です。問題は如何にして観光を盛んにするかでしょう。JR東日本が中心となり、全国のJR各社や私鉄に呼びかけて運賃割引の東北観光ツアー、あるいはフリーキップを販売するのはどうでしょう。お土産とか記念品も用意すべきでしょう。リピーターには特典を付け何度も来てもらうのです。地元の自治体と観光業界にも協力をお願いする必要があります。

有燻さん

 まず、今回の震災に対するJR東日本関係者の皆様へ心から敬意と感謝を捧げます。仙石線など未だ目処のたっていない路線はあるものの、東北新幹線はじめ幹線を早期に復旧して下さいました。復旧の第一は交通手段であり、道路と鉄道は最も重要なまさに動脈です。大塚会長のご提言の通り、東北にとって観光は一大産業だと思います。観光は飲食やお土産、宿泊など経済的な波及効果も大きいと思います。ただ、一時のブームで終わらせない工夫が大事だし難しいのだろうと思います。ぜひ息長く東北の観光産業を強力にバックアップしてください。

LuckyOneさん

 今後の日本の鍵は東北にあると考えています。東北には豊かな資源と、まだまだ知られていない観光資源があります。震災は東北の、そして日本のターニングポイントです。「東北」が、世界の注目を浴びるくらいのめざましい潜在力を秘めていると信じます。

千葉のやっさんさん

 EPAの推進は賛成ですが、TPPは参加国に限定された閉じた経済圏を生み出す恐れがあり、そこに参加することによるメリット、デメリットをもっと議論する必要があると思います。日本が開かれていない、と言うよりも特定の業界が開かれていないだけなのではないかと私は考えています。

LADYDACKさん

 亡くなった父が国鉄職員だったこともあってか、幼い頃から、連れられて列車の旅が大好きでした。既に成人した息子も無類の列車好き。旅好きが高じて仕事には必要もない、旅行主任者の資格も取得し、出張先でも合間をぬって、観光スポットを見つけ、改めて旅行に出かける機会楽しもうと心がけています。観光とは、その場所を体感する素晴らしさです。一度訪れた旅先を年月を経て、改めて訪ねたときの懐かしさや、感動が旅行の醍醐味だと思っています。今夏、復興の中の東北で都会に暮らす私達家族はなにもできず、「ふらりと、気軽に」旅先で必要なものを味わい、楽しみました。地元の皆さんに歓迎され、よかったです。

水波さん

 旅行の形態が多様化する中、ボランティアツーリズムに実際に参加しました。私は旅行をする楽しみと、ボランティアが手軽にできる両面からより身近に観光地としての東北を感じることができました。もちろん、地元の方々の捉え方によっては、観光が弊害になる場合もあるでしょう。しかし、人との交流を通して外から見ただけでは分からないその土地のよさを多くの人に知ってもらえて、また立ち寄ってもらえるというよさがあります。観光立国日本の一つの在り方を模索していきたいです。

さとうやんさん

 観光の効果は経済的な面にとどまりません。訪れる人々そして地元の人々の双方に様々な意味を持ちます。観光客には見知らぬ土地や人々に接する楽しみがある。地元の人々は旅人を迎えることで自分の地域の魅力を再発見し、誇りや希望を得る機会を持てるのです。そういった意味で、復興の手始めとしての観光は有意義だと思いますし、一部の困難な地域を除いて鉄道など交通網の大部分が復旧していることはとても素晴らしいことだと思います。

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