未来面「日本を始めよう。」経営者編第2回(2011年10月17日)

提言

都市を賢くする日本を始めよう

JXホールディングス・渡文明相談役

※肩書き等は掲載当時のものです。原稿のため、掲載時とは差異があります

 3月11日の東日本大震災では日本経済の根幹であるモノづくりがサプライチェーン(供給網)の寸断で、大きな打撃を受けました。国家の危機といってもよいほどの深刻な状況でした。部品、原料だけでなく、電力、ガスなどいわゆるライフラインも供給が絶たれ、被災地の住民は厳しい環境におかれました。そのなかで、当社のガソリン供給は東北地方の1208カ所のガソリンスタンドのうち3分の2にあたる782カ所が震災直後にも営業可能な状態で、自動車用ガソリンや暖房用の灯油を供給できました。震災から2カ月後には96%が営業を再開しました。電力や都市ガスのような一極集中のネットワーク型とは異なる分散型エネルギーの強みが遺憾なく発揮されたといえるでしょう。

 今、日本が成熟社会になるにつれ、高度成長期に国づくり、都市づくりのモデルだった「一極集中」は通用しなくなり、「分散型」がキーワードになっています。このまま東京一極集中を続ければ、地方の衰退は進行するばかりでしょう。他方、東京も長い通勤時間、狭くて高価格の住宅など住む人にとって決して幸せな場所ではありません。地方では住民の減少によって商店が減り、買い物が不便になったり、治安が悪化したりするケースも増えています。国や都市の様々な面に「分散型」を取り入れることで、日本の再生を図るべき時です。

 例えば、エネルギーの供給では電力のネットワークへの依存を下げ、工場やビル、一般家庭に分散型の電源を導入することがエネルギー効率や環境面で日本の強みを高めることになります。工場向けなどではコージェネレーション(熱電併給)、一般家庭向けではエネファーム(燃料電池)のような電力とお湯を供給するシステムです。そうした分散型では投入したエネルギーの約80%を利用できるため、発電時に発生した熱を捨ててしまう通常の火力発電所よりはるかに効率的です。長距離送電による損失もありません。もちろん分散型だけではエネルギーは賄えないため、ネットワーク型と分散型のハイブリッドがこれからの日本に最適のエネルギー供給体制といえます。分散型とネットワーク型を組み合わせるひとつの手法が今、世界に広がり始めている「スマートグリッド」です。

 スマートグリッドの「スマート」は「賢い」ことを意味します。日本の再生には日本のあらゆる都市、街を賢くする「スマート化」が決め手となるでしょう。エネルギーだけではありません。ICT(情報通信技術)を活用し、行政から教育、交通、医療、サービスなど様々な社会インフラをスマート化すれば、日本は人にやさしく、より住みやすい場所になるはずです。

 日本の直面する最大の問題は社会の高齢化であることは言うまでもありません。現在、日本の65歳以上の人口は約3000万人で社会の23%に達していますが、これが2055年には40%を突破する見通しです。高齢者にとって住みやすい街、活動しやすい街をつくらなければ日本の活性化はあり得ません。高齢者が買い物に便利で、人と日常的にコンタクトしやすい「コンパクトシティ」の実現がひとつの方向ですが、それを支えるのは実はスマートグリッドなど分散型の技術であり、そうした製品が増えれば縮小する内需を再び拡大に向けることも可能でしょう。

 もうひとつ日本が取り組まなければならないことがあります。外需の取り込みです。戦後、日本は輸出によって外需を取り込み、先進国になってからは海外への工場や販売網の展開などで外需を日本に取り込んできました。ですが、輸出は円高や新興国の競争力の高まりで壁にぶつかり、海外への工場展開も日本の産業空洞化が加速するなど深刻な課題となっています。

 日本がこれから外需を取り込むには、外国の資本、企業、人を日本に呼び込むことです。そのためには、スマート化によって産業基盤の競争力を高め、暮らしやすさなど社会の魅力を高めることが必要です。これまで日本は「コストが高い」「人が密集して住みにくい」「通勤時間が長い」などの問題を海外から指摘されてきました。分散化によって、よりゆったりとした都市づくりを進めれば、日本のマイナスを消してゆくことができるのではないでしょうか。日本の地方には中堅中小の製造業を中核にした世界に誇るべき技術基盤が残っています。それに強い関心を持つ企業はアジアには多いのです。地方の中堅中小企業が海外に流出するのではなく、外国企業が日本の地方に進出するような流れをつくるべきでしょう。

 また、スマート化そのものが、日本の新たな産業創出になり再生の原動力になるはずです。ICT分野はもちろんのこと、高齢者向けの様々な製品、サービスはこれから日本の後を追うように高齢化社会を迎える欧州や中国などで大きな市場に育つ可能性があります。都市や街をスマート化することが日本全体を生まれ変わらせ、再生につながるのです。さあ「都市を賢くする」日本を始めましょう。

コメント

征さんさん

 これからはまさに地球環境に優しい分散型エネルギーをいかに効率よく活用していくか考えなければなりません。無公害の再生可能エネルギーは太陽光発電や風力ですが、いまだに化石燃料と比較してコスト高であり長期間の技術開発が必要です。化石エネルギーは石油、石炭、炭化水素などですが、その中で炭化水素が環境に優しいエネルギーであります。特に分散型エネルギーとして地球環境に優しく、低圧力で扱い易い化石エネルギーはプロパン、ブタンです。今後は再生可能エネルギーのコスト低下も見込まれ、スマートグリッドの構築に生かさなければなりません。

東雲牛さん

 太陽光や風力のみならず燃料電池や水素エンジンでのコージェネシステムなど、従来の生活を犠牲にせず環境対応できる要素技術が花開いてきた。電気もそうだが各家庭に雨水タンクを設置して、中水としてトイレの水や洗車に使い、都市をダム化する事も検討すべきだ。エネルギーも水もカスケード利用する事がこれからのキーワードになる。

さとうやんさん

 渡さんのお話しを読ませていただいて希望が湧いてきました。高齢化が進む日本。そのなかでも特に地方を「スマート」な技術で住みやすくする、ということだと思います。日本の技術力を駆使して、地域を元気にすることであり、東日本大震災で改めて感じた地域の「絆」を強くしてくれるものでもあると思います。老若男女誰もが自分の地域に誇りを持ち、また未来への希望を持つことにつながるのではないでしょうか。自分にできることは何か、じっくり考えてみたいと思いました。

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