未来面「日本を始めよう」経営者編第10回(2012年6月18日)

提言

技術で世界をわくわくさせる日本を始めよう

三菱重工業・大宮英明社長

※肩書き等は掲載当時のものです。原稿のため、掲載時とは差異があります

 2008年に社長に就任した時に1通のお手紙を株主の方から頂いた。「定年退職した夫婦です。時々海外に旅行で行くことがありますが、常々、日本製の飛行機が飛んでいないことを残念に思っていました。今回、貴殿が社長になられ、MRJ(三菱リージョナルジェット)という旅客機を開発されると聞き、夫婦でいつか海外で乗りたいね、と話しています」としたためられていた。その年に残った年賀はがきを使っておられ、きちんとしたつましい生活をされていることがうかがわれるお手紙だった。私は大変感激した。我々がつくるひとつの商品が人々に楽しみや夢を与えることができるのだと改めて感じたからだ。

□日の丸旅客機の夢

 その年の秋、日本は米国発のリーマン・ショックに襲われ、そこから回復しつつあったところで、昨年3月には東日本大震災の直撃を受けた。民間企業の生産は低下、個人消費も落ち込み、日本はマイナス成長に陥った。今年1~3月期の国内総生産(GDP)伸び率は年率4.7%と急回復を示したが、長期のデフレからはまだ脱却できておらず、本格的な成長軌道への復帰も果たしたとは言いがたい。振り返れば、日本は過去20年以上、停滞を続けてきた。そのなかで社会全体に閉塞感が漂い、若い人が行く先を見失いつつあるように感じる。

 私が就任時に事業化を決めたMRJは、1960年代から70年代前半にかけて生産された「YS11」以来の国産旅客機となる。三菱重工業もYS11の開発・生産事業に参画したが、当時の社員はとうに退職し、社内には旅客機をつくった経験者は残っていない。技術的にも難しい点が多いのは確かだ。だが、こうした技術開発を通じた夢の実現こそ、日本の閉塞感を打破し、日本を活性化させる動きにつながると確信している。

 昔、米国に暮らした時のことだ。70年代前半までは海外で日本車はあまり走っておらず、たまに見かけると誇らしく、うれしかった。当時の日本車は性能や機能面で欧米メーカーに遅れていた。80年代に入り日本の産業は急激に成長し、自動車はじめ様々な分野で米欧に肩を並べるようになった。小型で燃費がよく、走行性能も高かった日本車は世界でシェアを高め、日米、日欧間で、自動車摩擦まで引き起こした。当時の日本の商品は世界に注目され、感動を与えていたように思う。最近では日本は技術や商品ではなく、ゲームやアニメなどのコンテンツ、「おもてなし」という言葉に代表されるサービスなどで世界を引きつけている。経済のソフト化だが、やはりまだ日本は技術やものづくりで人々をわくわくさせることができる国だと思う。

□粋を結集したスカイツリー

 先月22日には東京スカイツリーが開業した。自立式タワーとしては世界で最も高い。高いというだけではない。そこにはデザイン、耐震・免震や工期短縮など様々な点で、日本の技術の粋が結集している。三菱重工も最頂部のゲイン塔と呼ばれる部分の制振装置を製造している。58年に完成した東京タワーが多くの人々に明るい明日を予感させ、日本の高度成長を側面から後押ししたように、世界がその技術の高さに目を見張るスカイツリーも閉塞感を打ち破るものになると期待している。国内の素材・部品産業の保有する技術、ポテンシャルは極めて高い。安定した品質、低い不具合率、多品種少量生産への対応などは海外で求めようとしてもすぐには難しい。もちろんグローバル競争のなかで、韓国、台湾、中国などの台頭や円高やエネルギー問題など国内の状況は厳しい。しかし、国内の優秀な素材・部品産業と三菱重工のような最終製品メーカーの双方で技術の擦り合わせや共同開発を進めれば、日本はバリューチェーン全体での力の向上、真の総合力の発揮ができる。日本のものづくりはまだグローバルな競争力を持っている。

□粋を結集したスカイツリー

 一方で、日本は若い世代に活力がなくなっているように感じている。数年前、35歳の「団塊世代ジュニア」に関するテレビ番組をみて驚いた。将来不安から彼女がいても結婚せず、結婚しても子供をつくりたくない、という意見が多かったからだ。若い世代が希望を持てなければ社会が活性化するわけはない。そこから社内で35歳前後の社員を集めてコミュニケーションを活性化させる「フォーラム35」という活動を始めた。様々な課題、悩みなどについて討議する場だ。参加者からは「社内で生涯の友ができた」といった前向きな反響が多く、活動に手応えを感じている。日本は何かに挑戦し、失敗すればすべてを失い、再起するチャンスも少ない社会といわれてきた。若い世代に元気がないのもそうした点に関係しているだろう。若い世代が果敢に挑戦できる環境をつくり、かつてのように技術で世界をわくわくさせる日本を再生したいと考えている。

コメント

現実夢さん

 製造現場は「ものづくり『道場』」で技能伝承だけでなく精神修練の場ということですか。おっしゃる通りと思います。円高対策のため安易に海外進出せず、是非三菱だけでなくトヨタや日立、東芝など日本を代表する企業の先端技術が入った製品が製造できる製造現場を日本国内に維持し、雇用と技術を守って欲しいと切に思います。関連会社含めて日本にいる自分の親や家族、親戚が携わった製品が世界を席捲すればみんなわくわくし、子供も育つと思います。よろしくお願い致します。

パンダさん

 三菱重工がMRJで新しいバリュウーチェーンの構築を志向されているとのことですが、是非成功させ他の業種のモデルになってほしいと思います。現実には自動車、情報家電等でバリューチェーンの崩壊が進んでいる現実もあり非常に厳しいと思いますが、やる気があり技術のある中小企業にもっともっとビジネスチャンスを提供してほしいと思います。

さとうやんさん

 日本の技術については、「アピールが足りない」とか「ガラパゴス」などと言われますが、そもそも技術力のレベルが低ければそのように言われることすらないはずです。日本人は、自分たちにどれだけの技術力があるのかを実は認識していないのではないでしょうか。まず日本の「もの作り」の実力を知ることが大事で、次にその技術を守り発展させることで閉塞感を打ち破り、明るい未来を描くことにつながるのではないか、大宮社長のお話しを読んで、そのように思いました。

aikiさん

 現在介護の仕事をしています。これから変化を恐れずにかかんにチャレンジしていってどんどん失敗して成長していこうと思いました。今の仕事は人間関係もよく働きやすい環境で居心地がいいですが、変化を恐れずに違う仕事に挑戦しようと思います。もっと成長したいですし、大宮さんの記事を読むことができたので、ありがとうございます。

T.Kさん

 拝読し共感いたしました。人、企業、国、併せた社会全てに「夢=目標」が必要です。夢を実現させることができれば、達成感も大きく、生きる喜びにつながると考えます。同時に、夢を共有し活動する仲間との間に、連帯感=絆が生まれ、理解し合い、助け合いながら寄り添う仲間が生まれると思います。大宮さんの提言は、企業全体を牽引し同時に国民が夢を共有するなかで、それぞれの努力で活性化して行こうというものだと受け止めました。まさにこの事は「失われた20年」の間、ずっと言われ続けてきたことだと思います。貴社が展開する「フォーラム35」は、企業・国にとっても大変重要なことです。この世代が、企業活動の中での中核であり、彼らの活力で、企業=国の将来が決まっていくことでしょう。今の社会環境の中では、貴社の提案する“場”を提供する仕掛けが必要。期待し応援します。

recaldentさん

 工業製品のものづくりを取り巻く技術力を維持することだけでなく、新興国が追い上げている環境の下で日本は、工業製品以外にも技術開発の分野を広げてここでも輸出競争力をつけるべきだと思います。特に規制産業たる農林水産業、医療、介護、教育、環境、通信、運輸、金融などのサービス分野での技術力を大きく向上させて、いわばオールエリアでの戦いに勝つ必要があります。その為には政府は規制に絡め取られた部分を大幅に緩和する、あるいは規制を廃止して工業で成し得たように国内外の民の力を最大限に活用して闊達な競争をできる環境を提供することが喫緊の課題だと思います。

haroさん

 大宮英明さんのご意見に全く賛同です。戦中、米国戦闘機を凌駕するゼロ戦を開発した技術力、戦後YS11でその片鱗が見られましたが、その後航空機製造では立ち消え状態でした。そこに“やっと”MRJが登場し期待をつないでいます。国土面積や資源面で国際的に劣位にある日本は、その中核を、技術力や「ものづくり道」に集中することで世界に貢献し続けるしか永続する展望はありません。ものづくり道で世界をリードしていける人材を、輩出していける土壌や総合的(多角的)仕組みの充実が不可欠です。

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