未来面「日本を始めよう」経営者編第7回(2012年3月19日)

提言

ふたたび世界をリードする日本を始めよう

三井不動産・岩沙弘道会長

※肩書き等は掲載当時のものです。原稿のため、掲載時とは差異があります

 日本国内の事業環境は円高、高い法人実効税率のほかに原発事故による電力供給制約などが加わり、「六重苦」とも言える国難に直面しています。欧州通貨危機の行方も予断を許しません。何も手を打たないままだと日本はゆで蛙(かえる)状態となり、衰退するしか道がなくなってしまう恐れすらあります。足元を見れば、成長と拡大するパイの分配という20世紀型の経済社会から、グローバル化と少子高齢化の大きな流れに身を置く21世紀型の成熟社会の中にいます。この大きなパラダイムの転換を直視し経済、国、都市、地方をイノベーションによって変えることが、日本が再び輝きを取り戻して世界をリードするために必要なのではないでしょうか。悲観論だけでは何も始まりません。

 現状は確かに先行き不透明な経済ではありますが、今の日本はパラダイムの転換によって既に多くの矛盾や課題を知るところになりました。少子高齢社会はもはや日本だけの問題ではありません。中国でも近い将来訪れる問題です。その一方で、世界人口は現在の約70億人から2050年には約93億人に膨れあがり、都市化が進んだ地域に人口が集中します。都市化の進展によって人々は水や大気汚染に伴う環境問題や資源・エネルギー問題、食糧不足にも直面することになります。安心・安全、健康長寿への取り組みも例外ではありません。大事なことはこれらの課題や問題は既に日本社会が解決に乗り出しているものばかりであり、その課題を解決するチャレンジ精神、不退転の決意と意思があれば知恵やイノベーションを起こすことができ、より良い社会が生まれるはずです。私たちはそうした「課題解決先進国」にいることをチャンス、商機と捉えるべきなのです。

 課題を世界に先駆けて克服し、トータルにマネジメントできる新たなビジネスモデルを確立することができれば、それがデファクトスタンダード(事実上の標準)になり世界をリードできます。特にこの1年は地震と原発事故によって電力というエネルギー問題が顕在化しました。まさに賢く電力と向き合う必要に迫られています。電力を創り(創エネ)、その電力を蓄え(蓄エネ)、無駄なく効率よく使う(省エネ)仕組みの構築が今日的な課題になっています。もはや化石燃料だけに頼るのでは持続的な社会を営むのは困難です。太陽や風力など再生可能な自然の力を借りるエネルギーミックスの必要性を痛感しています。

 今、新しいビジネスモデルを築き上げるための実証実験を進めている地域があります。つくばエクスプレスの柏の葉キャンパス駅(千葉県柏市)を中心に住宅、商業、ホテル、オフィス、大学・研究機関、農地などを一体開発する「柏の葉キャンパスシティ」です。地域全体で環境に優しいパッシブデザインを採用した「グリーン化」を進め、地産地消の再生可能エネルギーや蓄電池なども含めた地域全体のエネルギーを一元管理する次世代送電網(スマートグリッド)を整備した最先端の都市創りに取り組んでいます。

 さらに、ハードだけでなく、生活者や働く人たちも一体となって省エネに取り組む新しい暮らし方、働き方の可能性を探っていきます。国からは次世代型の街づくりである「スマートシティ」を目指した総合的な取り組みが評価され、規制緩和や財政支援等を省庁横断的に集中して受けられる「地域活性化総合特別区域」と「環境未来都市」に指定されました。もう理屈だけを言っている時ではなく、スピード感を持ってスマートシティのデファクトスタンダードを確立し、日本の失いそうになった国際競争力を取り戻す時期が来ていると思います。

 また、柏の葉キャンパスシティでは健康長寿、人間の老化現象を生物学・医学・心理学など総合的に研究するジェロントロジーや、公民学が連携した街づくり、新産業創造、農の地産地消など多くの課題解決への取り組みがなされています。

 日本は震災によってお互い協力し合うことの大切さを再認識しました。これからの都市はハードだけでなく、生活者が社会を維持していこうと連帯する力、ソフトも重要です。これは日本に住む私たちに根付いている底力であり、本当の意味のスマートシティを創り上げていくにはとても大切な要素です。

 都市に様々な付加価値を組み込み、スマートシティとしてパッケージ化することができれば、「街」そのものを輸出することも可能になるでしょう。また、一方で世界中から次世代型都市の魅力や新産業による付加価値創造のチャンスにあふれる日本に「ヒト、モノ、カネ」を呼び込むことも可能となり、産業空洞化の問題の解消にもつながるものと考えます。

 グローバル化した世界においては都市の魅力を競い合う都市間競争に勝ち抜くことが不可欠となります。世界中が今後直面する課題をいち早く解決する「課題解決先進国」を基盤として、今こそ、ふたたび世界をリードする、自信に満ちあふれた新しい日本の姿を示す時期であると確信しています。

コメント

IMIさん

 「課題解決先進国」へ言及されている事には賛同します。ただ、これを推進するにはビジネスモデルを根本的に変える必要があります。従来のやり方では無く、一つのテーマにつき川上から川下までの適切な企業集団を結成していわゆる「Total System Solution」として国内外へ提案すべきと考えます。それには旗振り役が率先してテーマを推進することがカギです。ハードとソフト、インフラの3点を同時に推進すべきで、日本は十分な技術と組織力を持っていると思います。

ご隠居さんさん

 日本が、現在から近未来へ向けて多くの先端的課題を抱えているだけに、「課題解決先進国」になり得る可能性を秘めている、というお考えに賛同します。そのためのアプローチとして、ハード、ソフト両面からの「新しいビジネスモデルの確立」を強調しておられますが、私はその補足として、「ビジョン・目標へ向けてのもって行き方戦略と推進リーダーシップの重要性」を加えておきたいと思います。何故なら、今の日本の最大の欠点は、実行への取り組みがあまりにも遅いというところにある、と思うからです。

さとうやんさん

 「課題先進国」である日本は「課題解決先進国」になれるし、なるべきだと思います。日本には素晴らしい技術があるのに海外への売り込みやアピールが下手だ、ということはよく言われています。しかし、持ち前の勤勉さでひたむきに取り組んでいれば必ず日の目を見る時が来る、ということも示唆しているのだと思います。現状を決してマイナスとして捉えず、そこに活路や商機を見出し、持ち前の力で勝負していく、日本人そして日本企業のたくましさに期待したいと思います。

リュウさん

あらゆる面で混沌とした先が見えにくい世の中で、希望を見いだせる力を持つ人間が必要であり、その人間がこれからの世の中をリードしていけると感じております。特に「課題解決先進国」という部分に非常に感銘ました。また「柏の葉キャンパスシティ」は、具体的な問題解決方法の一つとして興味を持って拝見しました。私は現在、仕事の関係で地方に居住しております。地方で生活をする中で、地方の若者世代の意欲の低下を非常に感じます。そこで、是非「柏の葉キャンパスシティ」のようなプロジェクトを地方活性化という意味と今後の、日本の様々な問題を解決するための方法として、是非地方都市で展開をして頂けたらと考えている次第です。

komkom2さん

グローバルに追いつくのも大切だけれど、ガラパゴスでいる大切さも忘れちゃいけない。ガラパゴスでいるから注目されるし、認められる。日本は先進国の中でいち早く高齢化を迎える、後に続く国が真似たくなるような楽しいジジババ大国をめざそう。結構、日本の社会システムは、そのことに有利なのでは。それにしても、お隣の中国は大変。だって、先進国になる前に高齢化を迎えるのだもの。

はじめの一歩さん

 地域に根差した街そのものをエネルギー創生、再利用などが効率的にでき、かつ商業ベースに乗るアイデアであれば、10~20年後には、都市の主流になるのかもしれないと強く感じます。地震で経験したことですが、自宅待機期間中に仕事をそれなりに出来ていたのであれば、なぜ在宅勤務制度が根付いていかないのか、各企業の経営の視点で検討が一層されてもよいのではないでしょうか? 実験的にスマート都市に賛同する企業が合同でサテライトオフィスを構え、都市の居住者が通勤時間を減らせられれば、社会全体としても、また各企業においての効率化にて、経済性が追求できるようなコミュニティを造っていただきたいと思います。

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