未来面「日本を始めよう」経営者編第8回(2012年4月16日)

提言

共創で活力を生む日本を始めよう

NTT・三浦惺社長

※肩書き等は掲載当時のものです。原稿のため、掲載時とは差異があります

 コンバージェンスという言葉をご存じでしょうか。端的に言うと融合といった意味合いです。あまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、実は私たちの社会の中にはいろいろなコンバージェンスが溶け込んでいます。

 金融と数学が融合して金融工学が、生物学や医学、化学が融合することで遺伝子工学、バイオテクノロジーといった新しい学問が生まれて世の中に役立っています。こうした領域に限らず、産業と別の産業が融合することで新しい産業が芽吹いています。特に、あらゆるものがネットワークにつながり、あらゆる情報がデジタル化する時代だからこそ、エネルギー、環境、自動車、住宅といった分野の高度な技術がICT(情報通信技術)と融合して、新しいサービスが創出されつつあります。当然、そこには人材の融合もあり、新たな雇用も生まれます。

 身近な例として、福島県の山間部にある檜枝岐(ひのえまた)村では医療とICTとのコンバージェンスが進んでいます。過疎化と高齢化が進むこの村でNTTグループは医療機関などと一緒に昨年夏から遠隔健康相談を始めました。これは村内の家や診療所、集会所を光回線で県内の病院と結んでネットワーク経由で健康相談をするものです。ICTによって地域社会と医療機関が連携し、村全体の住民を見守る仕組みが出来上がりました。

 とはいえ、ハード面が整備されたとしてもそれだけでは本当の融合ではありません。檜枝岐村の皆さんが診療所や集会所に足を運び、診療所の先生たちと健康相談を行うだけでなく、そこに集まってくる人たちと世間話に花を咲かせることで新たなコミュニティーも生まれ、楽しさという価値がそこに加わります。診療所や集会所まで定期的に歩く習慣をつけ、みんなと会話が弾めば健康増進にもつながるでしょう。コンバージェンスをきっかけとして、人とのつながりや生きがい、活力が生まれているのです。今後は交通、行政、教育、買い物支援などにもICTとの融合の輪を広げていき、コミュニティー全体としてスマート化のモデルケースを目指します。

 農業についても当てはまります。温度や湿度、肥料、水、土壌などをICTで結んだセンサーで管理することで、農作物の味や品質を高めたり、生産性を上げたりすることができるでしょう。新しい仕組みを取り入れることで植物工場も含めた大規模化が可能になります。また、生産、加工、流通・販売まで手がけることで付加価値の高い「6次産業化」が視野に入ります。新産業としての強い農業を育て、高齢者だけでなく若者の雇用創出にもつなげることが必要なのです。

 生活者の視点では、より豊かで快適な暮らしが実現できるでしょう。ICTが家と結びついて、外出先からスマートフォン(高機能携帯電話)を使って鍵をかけたり、エアコンを調整したり、自宅にいるペットの様子を見たりすることができます。また、電気自動車は蓄電池の役割を果たすので、ICTによる電力管理の仕組みを活用すれば、電力料金の安い深夜にマイカーに充電して、日中に自宅の電力として使う道も広がります。現在、横浜で積水ハウス、日産自動車などと実証実験に取り組んでいます。新たな市場やビジネスモデルを創り上げるためにも、まずはスピード重視でやってみることです。やってみないといろいろなことがわかりませんし、次には進めません。

 もはや一企業だけで新しいサービスや産業を立ち上げるような時代ではありません。外部とオープンにして融合することが、価値創造の扉を開くのです。共創という言葉があるように、単に足し合わせるだけではなく、シナジーやイノベーションを新たに創り出すことに意味があるのです。新しい価値と活力を生むことが日本の社会に求められており、その促進剤としてICTが役に立てるのです。

 震災復興を契機として多くの被災地に特区が導入されようとしており、いろいろなコンバージェンスが生まれることでしょう。規制にとらわれず、新しい発想で新しい産業を興すことが必要です。檜枝岐村のように新たなコミュニティーが形成されれば、住む人々に活力をもたらすことができます。そこから生まれた新産業、新サービスを日本全体に広げて、さらに海外に展開することが、日本の新たな成長戦略となるはずです。

コメント

IMIさん

 わたしも「ICT」と各分野との融合は非常に重要と考えます。今、個人事業ですが「ICTマーケティング研究所」を開設し活動をしています。特定のテーマを設けて(例えば、「医療」や「エネルギー」等のサービス)をグローバルな視点で設定して、その解決のために「Total System Solution」という形で日本の上流から下流までの優秀な企業に集って頂き集団を結成。解決策を策定し、国内外のお客様に提供できるようなビジネスモデルが出来ればと熱望しています。これを自身は「Smart Business Community(スマート・ビジネス・コミュニティ)」と称しています。日本の元気を復活させるために協議会を設立し推進していければと思います。

recaldentさん

 三浦さんの意見には反論ありません。コンバージェンスには統合とか収束と言った概念も含まれます。例えば電気自動車で車は家造り、街造りなどの一要素になりこれらの産業と統合されます。古くは行動科学が学問の垣根を越えて学際という概念を提唱しました。カール・ポパーの発想の原理です。この様な環境下では、異なる産業を俯瞰できる構想力がなければイノベーションは実現できません。日本の教育も学部レベルではリベラル・アーツに徹して専門教育は大学院で実施する様にしないと構想力は育たないと思います。

ご隠居さんさん

 三浦氏の提言に賛成ですが、一点補足させていただきます。それはICTを活用しコンバージェンスによってシナジーなりイノベーションをそこに新たに創り出していくためには、その環境の中で、人々から能動的なコミットメントを引き出し、マネージしていく中心人物が不可欠だ、ということです。その人物は組織を単なる情報処理機関としてではなく、そこに情報共有の場をつくり、そこから発信される様々なアイデアを集約し、意味のあるイノベーションの芽としてとらえ得る人材であります。そういう人材をいかに発掘し、あるいは育成していくかが成否の鍵をにぎると思います。

さとうやんさん

 「共創」はとても良い言葉だと思います。みんなが力を合わせて新しいものを創りあげることであり、実は日本人が得意なことではないでしょうか。三浦社長の話は、それがみんなの生活を豊かにし、企業にもノウハウが蓄積されて、さらに多くの人々を豊かにしていくということだと思います。みんながWin-Winの関係を保ちながら社会が強く結びつくことが大事だと思います。「共創」はまさしく日本の「競争」力なのでしょう。

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