未来面「日本を始めよう」経営者編第12回(2012年8月27日)

提言

持続可能な日本を始めよう

パナソニック・大坪文雄会長

※肩書き等は掲載当時のものです。原稿のため、掲載時とは差異があります

 2008年秋のリーマン・ショック、11年3月の東日本大震災、4カ月後のタイの大洪水。そして今年に入っての欧州債務危機。社会や経済を揺るがす地球規模の出来事が、ここ数年立て続けに起こりました。想定を超える事象の嵐によって、私たちは改めて「持続可能な社会」を築くための取り組みに真摯に向き合わなくてはならない、そうした思いを強めています。国や自治体は率先して新しい社会インフラづくりをどうするかを描き、実行していかなくてはなりませんし、企業や個人としてもできることから手を着けるべきです。

 グローバルな観点で世界を見渡しますと、新興国のめざましい発展によって、食糧や水不足が深刻さを増しています。資源・エネルギーも争奪戦となり、枯渇問題も現実のものとして危惧され始めています。大量消費社会から脱却しなくてはならない、ということが国際社会のコンセンサスになりつつあるのです。

 では、そのパラダイムシフトのなかで、私たちに何ができるのでしょうか。パナソニックは創業100周年にあたる2018年に「エレクトロニクスナンバーワンの環境革新企業」を目指すと公言しています。言い換えると「すべての事業領域の基軸に環境を置く」ということです。こう宣言した当時は、社外はおろか社内でも戸惑いの声がありました。

 「社会から求められている便利さや楽しさを捨てていいのか」「エコでは売れない」などという声が、私の耳にも入ってきました。もちろん、そうしたことを犠牲にするのではなく、環境との両立を実現してこそ新たな価値を生み出せるというのが真意なのです。環境に貢献すればするほど事業や企業が成長する構造に変えていかなくてはなりません。

 幸い、私たちには完全子会社化した三洋電機や吸収合併したパナソニック電工を含めて、グループで太陽電池やリチウムイオン電池、そしてそれを効率的につなぐ技術に強みを持っています。いわゆる創エネ、蓄エネ、省エネ、エネルギーマネジメントをワンストップでできる世界でも数少ない企業といえるでしょう。この経営資産を生かし、世界の人々に安心・安全かつ快適なグリーンライフを提供し、「くらし」を起点とした環境革新を起こすというのが私たちの究極の目指すところです。

 具体的な動きもあります。神奈川県藤沢市に13年に開業する「Fujisawa サスティナブル・スマートタウン」は、パナソニックの工場跡地19ヘクタールに住宅約1000戸を建てる計画です。すべての住宅に太陽光発電システムや蓄電池を設置し、つなげることで、家まるごと、あるいは街まるごと効率的なエネルギーマネジメントが可能となるのです。電気自動車(EV)なども駆使し、街全体の二酸化炭素(CO2)の排出量を1990年に比べて7割減らせると見込んでいます。

 来年以降、ここに暮らす人たちは、我慢したり背伸びしたりすることなく、エネルギーの地産地消を実現することができるでしょう。パナソニックが目指す環境と事業の両立の姿が、端的に表れます。こうしたスマートコミュニティーを今後、世界各国に展開していきたいと思っています。

 この事業を含めて重要なことは、単品のビジネスではなく、それらを有機的につないだパッケージで提供するということです。個々の製品の技術力や完成度が前提にあることは言うまでもありませんが、それを街の中全体で、あるいは家の中全体でつなぐパッケージ化によって、さらに価値を高めることにつながります。

 ここ数年、激変するグローバル市場において韓国勢に対応力、競争力の不足という現実を突きつけられました。リーマン・ショック後、彼らはいち早く立ち直りましたが、私たち日本企業は手間取りました。ただ、環境革新企業という観点ではコンセプトも技術力も私たちが先行しているのは間違いありません。世界のパラダイムが変わるなかで、中長期的には巻き返せると確信しております。

 とはいっても、当面目指す18年の「環境革新企業」に向けて、まだ1合目か2合目といったところです。山の形がようやく見えて、裾野を1周したところです。ここで一気に山を登れるか、足踏みするかは民間企業である我々の踏ん張りはもちろんですが、政府のサポートも大事になってきます。

 先ほどの韓国企業との差ではありませんが、日本企業を取り巻く環境はまさに「6重苦」です。円高や高い法人税率などに加え、最近では安定的かつ廉価な電力も損なわれました。グローバルで激しい競争をするうえで、極めて厳しい条件となっています。競争の土台をしっかりそろえるという意味で、この「6重苦」を無くせとは言いませんが、せめて極小化する努力を政府にはお願いできないかと思っています。これは一企業の浮沈という話ではなく、日本経済全体の中長期的な成長を左右する重要なファクターです。

 昨年度の赤字の責任は強く感じていますが、膿(うみ)を出し切った形となり、将来に向けての収益の足かせとなる要素は一気に排除しました。我々としては「環境革新企業」という目指す方向に間違いはないと強い思いを持っています。6月末に経営体制も変わりましたが、新体制のもと、課題にしっかりと手を打ち、力強く再スタートを切れたと確信しています。社会の公器として、今後私たちの存在感をいかに高めていくか。厳しく長い挑戦は始まったばかりです。

コメント

バブルスさん

 国民がいくら将来子どもたちが安心して暮らせる社会を望み、新しい社会や経済のありかたを考えても、大企業は、消費の拡大、便利さや価格競争に勝って利益を得ることだけが至上の命題だと思っていました。今回の提言を読んで、ああ、まだ日本には、とにかく儲かればそれでいいというのではなく、日本全体の将来をちゃんと視野に入れて考えている経営者もおられるのだなぁと安心しました。まだまだ全ての企業でこのように考えておられるわけではない中、「環境革新企業」のコンセプトで作られたパナソニックの製品を支持したいと思います。

とよひょんさん

 HV自動車の例が示すように「環境」と「経済性」の両立がそろって、初めて需要が喚起されると思います。ご指摘のようにさまざまな技術を組み合わせることで「化学変化」を起こしてください。その時に必要なのは「すりあわせ」が大事で、これはトップの方しかできないと思います。

しょうじさんさん

 農業を取り巻く環境もまた企業と同じく混迷の度を深めています。天候に翻弄されながら工夫、観察、成果、自然に学び取り組んでいます。農業にも畜産・野菜・果樹・環境をコントロールするハウス栽培農業も大坪会長の言われている通り、農家の完成度が前程ですが、単品をパッケージでという言葉の通り、今取り組んでいる事もこの言葉で説明がつきます。迷うことな(実践)できます。若い頃にこの仕事に取り組んだ時の事を思い、心の芯を大切にしたいと思います。

Gohyaさん

 大坪会長の論旨に異論はないが、その中において、Panasonicが必要不可欠な存在なのかどうか? 「ワンストップでできる企業」は東芝、日立、三菱や明電舎などが多数あり、個別商品でも高い競争力を持つ会社が他にもあり、”何でもある”だけでは競争に勝てないかもしれません。

 また、「環境革新企業」にふさわしい新機軸がいまだ打ち出されていない。例えば、自社の“工場丸ごと”自然エネルギーで運転するぐらいの大構想を打ち出しては? また、太陽光以外で、例えば、地中熱を生かして、大気中に熱を発散する現行エアコンの大欠点を解消して、ヒートアイランドの緩和に貢献してはどうでしょうか?

ご隠居さんさん

 大坪会長の論旨に賛成です。パナソニックの今後の展開に期待したいと思います。その場合3つの注文を提出しておきます。一つは、この実現のため実行プラン(工程表)を具体的に作り、その概要を発表してほしいこと。二つは、電機共通の欠点である単独孤高を脱して他社連携の中で実現し、電機の新しいビジネススタイルを形成してほしいこと。三つは、六重苦解決はいつも政府頼みではなく経済界としてもこうするという気概を示してほしいことーである。

ネハーンさん

 個々の要素技術、電池・太陽光パネルなど、に性能・コストで競争力がないと、それらを繋いでも結局競争力は弱いままで、この構想は絵に描いた餅で終わるのではないか。やはりメーカーは、物の研究開発力が基本であろう。

recaldentさん

 環境を企業経営の視点に据えることは当然です。しかしこれだけでは日本は持続可能にはなり得ません。大坪さんも言及しておられる通り、現在日本の製造業は6重苦もしくはそれ以上の苦労を背負わされています。しかし環境要件以外の異常な円高為替、高止まりの法人税、FTAの遅れ、労働政策、電力不安は政府や行政の無策、或いは不作為のために生じたいわば人災とも言えるものです。そうであるならそれらはすぐにでも改善手段を取れるはずです。そのすべてが成長擁護の視点に切り替えられてこそ持続可能性が見えてくるのだと思います。

げんきでやろうさん

 記事に賛同しましたが、昨年3月東電の福島原発の事故は国内ばかりでなく世界中に事故の恐ろしさを強く伝えました。ドイツは逸早く脱原発を宣言してその実現に取り組んでいます。当事国の日本の総理大臣はそれどころか関西電力の大飯原発の再稼働を認めるなど言語道断です。この夏も暑い日が続いていますが、引き続き原発なしで企業、家庭等の節電により乗り切るべきであった。と同時に大坪氏も述べておられる太陽光発電、風力、地熱、波力等公害の出さない電力システムの開発を推進することです。原発は使用済み燃料の処理等難問を抱える危険なものであることがどうして理解できないのか。脱原発は世界の進むべき道と考える。

アムールさん

 松下幸之助さんの言う「会社は社会の公器」という言葉の「社会」とは日本社会なのでしょうか。世界全体なのでは無いでしょうか? パナソニックの持つアセットを最大限に生かして社会に貢献するために、環境エネルギーに走らなくても従来の家電分野でまだまだできることがたくさんあると思います。

重要なことはむしろ、6重苦などと言わなくても良いような本当のグローバルカンパニーになることではないかと思います。そのために社長が外国人になっても、日本人の雇用が減っても構わない。ただ日本から出た経営哲学を維持するグローバルカンパニーになることが重要なのだと思います。

こもれび山荘おやじさん

 日本の再興に必要なものはビジョンである。小手先の対応ではなく、将来の世界のあり方を方向つける基軸を提示することだと思う。今後予測されるドラスティックな世界の経済勢力の入れ替わり、食とエネルギーの需給問題等考えると、環境が世界的な問題解決の基軸でなければならないことは明白である。さらにそこには宗教・民族間のエゴが絡むが、日本がリーダーとして環境を基軸にそれらの問題解決の方向を示すなら、それは説得力のあるものとなるに違いない。

楽天、ファーストリテーリング等世界に視点を置く企業が出てきたが、パナソニック大坪氏の今回の提言はグローバルリーダーとして存在を示しうる重要なビジョンであると考える。

asahizaruさん

 大坪さんのご意見には満腔の賛意を表します。ただ大坪さんの文言の中に「これは一企業の浮沈という話ではなく、日本経済の中長期的な成長を左右する重要なファクターです」に注目です。私はこの中の「日本経済」とあるのを「世界経済」と置き換えたい。何故ならばこの提言が一企業や日本経済に留まっていれば、「悪貨」が「良貨」を駆逐するカタチで、提言を実現する前の近い将来に、世界の資源・エネルギーが枯渇してしまうのは必定です。この素晴らしい提言に加え、「世界を必ずリードしてみせると云う視点」が是非ともほしいと思う。

segamailさん

 日本国内ではガソリン値上げ、消費税値上げ、原発廃止の動き等実生活にもエネルギー費用がかかり、多くの人がこの傾向が続くだろうという不安を持つようになっっています。今のタイミングでの「環境革新企業」を目指す(再定義?)大胆なかじ取りはさすがのパナソニック、と思いました。まだ10年は新興国の成長が続き爆発的普及とはいかないのではないかとも思っていますが、次の世代はさらに多くの不安(もしかすると具体的な問題)を抱えることになることになり、確実に重要な発展方向性だと考えます。自身の研鑽も行いつつも、応援しております。

deshimoさん

 「持続可能な日本」という見出しに思わず反応してしまいました。私はオーストラリアでサステイナブル・ツーリズムを専攻していて、どうずればその地域で持続可能な観光をやっていけるかを学んでいます。同じホスピタリティー枠のホテルやイベントマネジメントの生徒とは違って、就職に直結する分野ではありませんが、社会全体を見通すという面ではこれからの時代に必要な知識を観光を通して学んでいると思っています。観光だけでなく、どの事業も環境と上手く付き合い、それぞれのコミュニティーにあった経営をしていく必要があります。持続可能という言葉をパナソニックのような大企業か提唱されていることをとても嬉しく思います。

haroさん

 松下幸之助創業者の理念、’人’に対する思いが希薄化した感じは否めませんが、これからのパナソニックに期待したいと思います。日本(国民・企業・政府含め)は、韓国に対して、客観的で冷静な評価がかけていた結果が、サムスン・LGの後塵を拝し、現代自に肉薄されることになり、韓国大統領の日本評価につながっていると考えます。

四つ目の梟さん

 過去の高度成長期の幻影が見られます。これからは、原点に返るをテーマにして、松下幸之助さんの創業時に返って、細かい事業展開を考えるべき。何故ならこれからの日本は、失われた20年が更に20年延長するからである。

electron_Pさん

 「持続可能性」ということばに、いつも違和感があります。家電品の主要メーカーとしてのPanasonicの立場を理解した上で、「環境」意識を経営理念に入れることには異存はないのですが、「環境を守るためには、持続可能な発展が必要」という論理は、自己矛盾の最たるもののように感じるのです。「経済的発展」を目的とするときは、社会は持続可能ではありえない、と考えると、それは、資源やエネルギーの消費により始めて達成されるものであり、いずれ、大崩壊のときが来るように思われるのです。

さとうやんさん

 韓国企業の躍進が目立っているとはいえ、日本企業が持つポテンシャルは非常に高いと思っています。大坪会長がおっしゃるように社会の公器として世の中の要望を実現し続けていくためにそのポテンシャルを生かしていく、そしてその一方で企業として適正な利益をしっかりと稼いでいく、そのような力強い日本企業の活躍がこれからの日本を支えていくのだと思います。

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