未来面「流通業のインフラをどう使いますか」経営者編第8回(2013年6月3日)

課題

流通業のインフラをどう使いますか

鈴木敏文・セブン&アイ・ホールディングス会長

※肩書き等は掲載当時のものです。原稿のため、掲載時とは差異があります

〈鈴木敏文さんの主張〉

●常識を壊し続けてきたのがコンビニの歴史

●社会の変化に目をこらし、「世の中のポータル」であり続けたい

●流通業のインフラを活用し、社会の問題を解決するプランを考えてほしい

 米国で生まれたコンビニエンスストア「セブンイレブン」が日本に登場して今年で39年になります。今では読者の皆さんの生活の中に溶け込んだ存在となったセブンイレブンですが、創業の頃は出身母体のイトーヨーカ堂だけでなく流通を専門に研究する学者からもコンビニ事業の将来性について懐疑的な見方が支配的でした。「小(コンビニ)が大(スーパー)を兼ねることはできない」とか「日本にはたくさんの中小商店があるのになぜコンビニを出すのか」といった具合です。一方、中小商店の店主さんからは「(値引き販売が全盛のスーパーの時代に)定価販売では商売にならないし、スーパーとコンビニの共存共栄などありえない」と指摘を受けました。

■便利さ求める顧客

 確かにどれも一理ある意見でしたが、流通業の世界にたまたま途中入社で飛び込んでしまった私にとって違和感のあるものでした。それは「業界の常識にとらわれすぎている」ことです。世の中は日々変化しているのになぜ変化を受け止めてそれに対応しようとしないのか不思議でした。人間は便利さを求めて行動します。「お客様の立場で」考えれば、便利さそのものも時代と共に変わることもわかります。過去の経験から醸成される常識は通用しません。

 家で作るのが常識だった、おにぎりやお弁当。セブンイレブンではどこよりも早く、こうした商品の発売に踏み切りました。一人暮らしの若者を中心に便利さを認めてもらったのです。

 「寝ている時間に店を開いて何になる」と24時間営業に疑問を投げかけられましたが、全国で定着しました。生活習慣の多様化や働き方も大きく変わったからです。いつでも開いている安心感がストアロイヤリティーにつながり、深夜だけでなく日中の売り上げも伸びるのです。消費者を知るには心理学も必要ですね。

 2001年にスタートしたコンビニ銀行のセブン銀行。ATMでのお金の出し入れ、送金業務のビジネスモデルはうまくいくはずがないと言われたものです。これも金融業界の常識からの見方でした。しかし、金融機関のリストラなどで支店の統廃合が進み、不便を感じた消費者がいつでも開いているセブン銀行のATMを使って下さったのです。セブン銀行はグループの主力企業の1つになっています。

 では、どのようにして常識にとらわれずに変化の兆しをつかんで対応していけるのでしょうか。若い読者の皆さんに私が言えることは是非、歴史を学んで頂きたいということです。歴史とは変化の積み重ねです。また、ある瞬間にパラダイムシフトが起きて世の中の風景が大きく変わることがあります。子どもながら鮮明に覚えているのは1945年8月15日の終戦を迎えた日です。

 多くの人が戦争に負けるとは思っていなかったわけです。でも、その大きな変化に対応したからこそまれに見る復興を成し遂げて世界の経済大国の仲間入りを果たしました。変化に対応できなければ生き残れなかったことは歴史から学べます。

 これからの日本、世界は今まで以上に大きく変わっていくはずです。グローバル化の流れは内需産業と言われてきた流通業界にも大きな変革を突き付けます。また少子高齢社会が加速していくなかで、流通業が地域社会にどのような役割を果たしていくべきか真剣に考えなくてはなりません。かつて「若者の店、家庭の冷蔵庫代わり」と言われたコンビニですが、セブンイレブンの来店客を年代別にみると一番多いのは50代以上の人たちになっています。シニア、高齢者の生活の拠点として重要度が増してきているのです。

■行政機能を一部代替

 IT社会の進展とともに行政サービスの在り方も変わってくるでしょう。セブンイレブンでは印鑑証明や住民票の発行など既に行政機能の一部を代替しています。一般家庭や企業に食事をお届けするサービスもしています。多方面からセブンイレブンをはじめ、セブン&アイグループの持つ店舗ネットワークやIT技術、経営資源の活用の提案を受けるまでになっています。

 そこで、学生の皆さんにもセブンイレブン(約1万5000店)やセブン銀行(ATM約1万8000カ所)などのグループの機能を活用し、これからの社会の問題を解決し、変化に対応するプランを考えていただきたいと思います。皆さんは常識にとらわれることのない柔軟な発想ができるはずです。

 「近くて便利」な存在であり続けるためにどうすればいいのか。未来を拓くアイデアを期待します。

アイデア

コンビニ 災害時の情報拠点に

積田 香菜子(明治学院大学社会学部1年、19歳)

 いまやコンビニエンスストアでは、食料品や雑誌、生活雑貨を買えるだけでなく、公共料金などを支払うこともできる。多様なサービスを24時間営業で提供し続ける点や、店舗数の多さから、都市の充実した流通に不可欠なインフラだといえる。

 一方、同様に生活を支えるインフラである道路や交通機関は都市においてはすでに十分に整備されており、今後必要とされるのは、災害時の情報インフラだと考える。東日本大震災の際には都市の情報インフラの脆弱さが露呈し、普段以上に必要な情報が提供されない、入手できないという状況に陥った。

 そこで、私はコンビニに非常用電源を設置し、広帯域無線アクセスシステムを利用できる災害時の情報拠点にすることを提案する。被災した時、安否確認のために携帯電話を利用したくても電池が切れてしまったり、インターネットが利用できなくなったりして情報を入手できない、という状況を防げる。ネット経由で集めた正確な情報を地元住民に提供したり、地元の被災状況を本社や自治体に伝えたりすることも可能だろう。コンビニに備えをすることで、災害時に地域に電源、ネット環境を提供できる新たなインフラとしての役目が果たせるはずだ。

健康守る「24時間薬局」

山本 智恵(桜美林大学リベラルアーツ学群1年、19歳)

 幼い頃、風邪をひきやすかった私は間違いなく母の負担になっていた。深夜に突然発熱した私に飲ませる薬がないが、近くの薬局は閉まっており、仕方なく朝になるのを待つ。母は幾度となくこうした場面に直面したはずだ。

 今も私の身近には一日中開いている薬局がない。そこで近くて便利なコンビニエンスストアの出番だ。薬剤師を常駐させ、医薬品を販売するのはどうだろう。健康について相談できる薬剤師が24時間身近にいれば本当に心強い。コンビニが健康を守る機関の一部になれば良いと思う。

日常の困り事 解決窓口

鈴木 宏(中央大学商学部1年、18歳)

 私たちの日常生活には様々な問題が起こっている。例えば、水道やトイレが詰まったとき、業者探しに困ったことがある人は少なくないだろう。どうすれば、早く簡単に業者を探し出していくかは、これからの課題だと思う。

 コンビニエンスストアは店舗数も多く、消費者にとって一番近い存在である。もし、コンビニが水道やガス、下水道、電気などの業者と連携ができたら、消費者の代わりに業者を探してくれる。消費者は近くのコンビニに行くだけで問題を手軽に解決することができる。

 あらゆる困りごとを解決する便利屋さんのような機能があれば地域の人々はとても助かるだろう。これこそが究極の便利さだと思う。

コンビニで家族をつなぐ

堀江 紗耶香(東京理科大学経営学部3年、20歳)

 コンビニ利用者の年齢層は以前に比べ上がっているという。そこで、コンビニを連絡・共有ツールとして活用できないかと考えた。具体的には、電子マネー「ナナコ」を利用する。

 まずは高齢者の安否確認である。来店者はあらかじめ知らせたい相手を登録しておく。カードをタッチすることで、来店したという情報を家族などに伝えることができる。これは、一人暮らしの高齢者が増えている現代において大いに役立つ。また単身赴任で家族と離れて暮らしている人の生活も、より快適にすることができる。購買情報を共有すれば、家族の健康状態や生活実態を把握できるからだ。

 これらは24時間営業しているコンビニにしか実現できない。一緒に生活できない家族が多い時代だからこそ、このような気軽に情報を共有するシステムを構築する必要がある。

セブンイレブンチルドレンが未来を創る

立壁 祥子(明治学院大学経済学部1年、19歳)

 流通業は少子化を食い止めることができるのではないだろうか。少子化が進む理由として、「忙しくて子どもの面倒を見る時間がない」「子供を預ける場所がない」といったことが考えられる。そこで、流通業のインフラを“保育”に利用するのだ。

 コンビニは24時間営業である。つまり必ず夜勤で誰かがいるということだ。このことは夜間保育も同じである。それならば、保育の資格を持つ人を店員として雇い、交代で保育・販売を行うのはどうか。そうすれば、夜勤の時間を効率的に使うことができ、さらに保育士の賃金をあげることにもつながる。また、コンビニで保育をすることで、子どもを迎えに来た親はそのついでに買い物をすることができる。おもちゃや文具などは、自社製品やすでにある流通経路で調達できるだろう。

 セブンイレブンで育った「セブンイレブンチルドレン」が、将来の日本を支える日が来てもいいのではないだろうか。

レンタル自転車の設置

尾崎 和(九州産業大学経営学部2年、20歳)

 コンビニエンスストアにレンタル自転車を設置することで、環境負荷の低減や公共交通機関の利用促進、駅やバス停から目的地までの交通手段を補完する役割を果たす。借りた自転車は同じ地区内の同じチェーンの店舗であれば、どの店舗でも返却可能とする。

 駐輪場が不足している地域では、みんなが気軽に利用できるだろう。現在は限られた都市部にのみ行政が導入しているが、コンビニが手掛けることで事業の拡大を後押しできるのではないか。

ばあちゃんレター

盛 雅功(立教大学経済学部3年、20歳)

 近年、若者の自殺、うつ病が社会問題化している。友達や親にも自分の悩みを打ち明けられず、相談できる人がいないのが実情だ。そこで、全国にいる人生経験の豊かなおばあちゃんたちが悩みを持つ若者の相談にあたるのはどうだろうか。

 悩みを持つ若者が専用のホームページに匿名で投稿し、それに対しておばあちゃんたちが直筆の手紙を近くのコンビニエンスストアに投函、それが若者の指定したコンビニに届くようにする。メールや交流サイト(SNS)では感じられない若者とお年寄りを結び付ける温かなコミュニケーションツールになると思う。

地元発の新商品を全国区に育成

片倉 賢治(慶応義塾大学大学院経営管理研究科1年、31歳)

 流通業のインフラを「地域経済活性化」のために活用することを提案したい。具体的には

1)全国各地に展開しているコンビニエンスストアの店舗をその街の「ポータル」と位置付け、地元商店街と連携し、地域密着型の新商品を開発

2)新商品を集め、各都道府県内などでサンプル発売し、人気投票を実施して厳選

3)選ばれた商品を全国の店舗で発売し、さらに人気投票を実施

4)全国で好評な新商品を表彰し、賞金や売り上げの一部を地元地域へ還元

――というプロセスを想定している。

 人気投票には情報通信技術を駆使し、コストを抑えたい。この提案を実施することで、流通業の原点である地元との「共存共栄」に立ち返るとともに、地域経済の活性化や全国へのアピールに貢献できると考える。

 ただし、実現には現在の店舗展開の主流であるフランチャイズ店のオーナーに対する配慮も必要だろう。住民票の発行、食事の宅配などサービスを多様化するにつれてオーナーの負荷が増大していることも否めない。本社、オーナーの関係をより緊密化し、互いに信頼を深めることが成功の鍵であると考える。

家庭ごみを処理

鳥越 千華(東洋大学理工学部4年、21歳)

 実家暮らしの私はごみ出しを頼まれることはあっても、自ら回収日を確認して出したことはない。そもそも回収日がいつかわからないのだ。ごみは出せるときに出したい。そこでコンビニエンスストアにごみを処理してもらうのはいかがだろう。

 24時間営業のコンビニなら好きな時間にごみを出せるので、一人暮らしの学生や単身赴任中の会社員らのニーズは大きいはずだ。コンビニの利用者も増えるだろう。コンビニが家庭ごみを回収してくれれば、集積所の不法投棄やカラスや猫による被害を減らせるので、地域の環境美化にもつながりそうだ。

初めての仕事はセブンイレブンで

三和 秀平(筑波大学大学院人間総合科学研究科1年、23歳)

 近隣の学校と連携し、積極的に職業体験を受け入れることを提案する。そこには3つの利点がある。

 一つ目は、実際に体験をすることによりセブンイレブンに親しみが持てるという点だ。二つ目は若者の自立支援だ。近年ニートと呼ばれる若者が増えている。その原因の一つとして働いたことがないからわからない、というものが挙げられる。生活に身近なコンビニの仕事を体験をしたことがあるということは、将来の職業選択において重要な経験となる。

 三つ目は店員の質の向上にもつながる。コンビニの店員はほとんどがアルバイトであり、接客態度は様々である。そのようなアルバイトが指導する側に回ることにより、接客態度の改善にも効果がある。

若者が職を見つける場に

渋谷 佑紀(東洋大学理工学部1年、18歳)

 失業者の多くは若者だという。若者の自分には気の重い事実である。しかし、多くの若者にとってハローワークは縁遠い施設で、情報サイトに頼りがちだ。そこで、コンビニエンスストアにハローワーク機能を持たせるのはどうだろう。毎日利用する24時間営業のコンビニであれば、買い物のついでに昼でも夜でも仕事を探すことが可能になる。仕事探しに伴う心の負担を減らせるし、コンビニを利用する若者は一段と増えるだろう。

将来の多文化共生に向けて

浜田 嵩人(立教大学経済学部2年、20歳)

 世界の伝統文化・食文化に注目したコンビニを考えてみた。今後、人口減少から他国の労働者を雇えば、多文化共生社会にならざるを得ない。規模のあるコンビニが他国の文化を扱うことで、その先駆けと、将来外国人を客層とした市場への参入が期待できる。

 老若男女があふれかえる都心部のコンビニで、世界各地の商品や文化を表すものを店内に置いてみてはどうだろうか。効果として、好奇心旺盛な若者の海外への興味を、日常から高めることにつながるのではないか。また、現在円安傾向にあり、日本は外国人観光客にとって来日しやすくなっているが、そうした店は異文化で戸惑う彼ら彼女らの逃げ場にもなりうる。

講  評

日本社会の課題を解決する役割

 今回、学生の皆さんから寄せられたアイデアの多くに共通点がありました。それはコンビニが小売業という枠を越えて今の日本社会が直面する諸課題を解決する拠点として期待されていることです。

 例えば「コンビニ 災害時の情報拠点に」。東日本大震災の時もそうでしたが食料品の供給だけでなく、コンビニは地域情報の発信の場所としても活用されました。既に一部地域で災害時につながる電話網の整備を通信会社と共同で取り組んでいます。また、真っ暗となった被災地でコンビニ店内の明かりがともっているだけで安心したということを被災された方から聞きました。コンビニは社会の機能として位置付けられています。

 「24時間営業」のコンビニの強みを発揮するステージはいろいろとあるのは間違いありません。「健康を守る『24時間薬局』」は薬という性格上、緊急性が求められますからいつでも開いているコンビニは頼もしい存在になります。ただ、まだクリアしなければならない部分が多いのも事実です。一方で高齢社会の進展、健康意識の高まりでニーズがあるのは確かです。規制の緩和や我々のイノベーションで解決できる糸口が見つかるかもしれません。

 「日常の困り事 解決窓口」のアイデアを読んで思い出したことがあります。今から約40年前の創業の頃、セブンイレブンでは過電流を防ぐ「ヒューズ」を売っていました。若い学生の皆さんにはどんな商品なのか分からないかもしれませんね。ヒューズが切れてしまうと電気が使えなくなってしまうのです。家の近くのセブンイレブンはまさに日常の困り事を解決するお手伝いをしてきました。

 セブンイレブンは約150平方メートルと極めて小さい店舗です。小さいから、もしお客様が求めていない商品を置いていると途端に売り上げが落ち込みます。ということは、お客様にとって必要で便利なモノを探し続けていく必要があるのです。お客様の変化に対応し続けなければ、セブンイレブンとしての存在価値がないことになります。

 時代と共に求められる便利さが変わることは、小さなお店であっても商品、サービス、機能は無限に広がっていくということだと確信しています。セブンイレブンの事業を始めて今のような品ぞろえになるとは夢にも思いませんでした。これからも夢にも思わなかったことがセブンイレブンで展開されていくはずです。

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