未来面「日本発のイノベーションを実現するためには」経営者編第6回(2013年4月1日)

課題

日本発のイノベーションを実現するためには

中山譲治・第一三共社長

※肩書き等は掲載当時のものです。原稿のため、掲載時とは差異があります

<中山譲治さんの主張>

●世界に出て、人類の課題を肌で感じよう

●イノベーションには志も欠かせない

●失敗を恐れない社会の実現を

 日本の20歳の人はこれから40~50年の間に、変化の激しい時代を経験することになります。最も端的に表れるのは人口の変化で、日本が世界史上でも空前の高齢化社会を迎えるほか、中国も生産年齢人口(15歳から64歳)のピークを迎え、その後も高齢化が急速に進みます。インド、アフリカは人口がまだ増加を続け、世界最大の人口を持つようになります。若い人はそうしたグローバルな情勢変化の中を生きていくということを積極的に受け止めてほしいと思います。

 日本という「箱」に閉じこもって考えていては、世界の大きな変化を理解することはできません。かつては箱の中で成果を生み出し、それを輸出すれば世界が受け入れてくれました。これからの日本は日本人だけでなく、海外から人を呼び込み、あるいは海外に出て、ともに何かを生み出していかなければなりません。グローバルに考えることがますます重要になっています。

■従来の延長にないもの

 カギを握るのはイノベーションです。イノベーションというと科学技術のように思いがちですが、新しいビジネスモデルを構築するのもイノベーションです。従来の延長線上にはないもの、柔軟な発想が生み出すものです。ニュートンが万有引力の法則を発見する以前も、リンゴの実は木から落ちていました。ただそれを見て重力に思い至る人はいませんでした。イノベーションは努力だけでは達成できません。難しいものだからこそ、社会や国がイノベーションを生み出そうとする人を大事にする必要があります。

 米国ではベンチャービジネスという仕組みが比較的うまくいっています。挑戦する人を評価し、2、3回の失敗は気にしないという文化があり、挑戦を支援する人たちがいるからです。挑戦者の側も、何回失敗してもチャレンジを続ける気力と粘りが不可欠です。

 これまでも言われていることですが、日本は1回失敗すると終わり、という発想がいまだに根強く、ベンチャーに挑みにくい社会です。第一三共は「Global Pharma innovatorの実現」を企業ビジョンに掲げ、イノベーションで画期的な新薬を開発し、世界に貢献することを目指しています。第一三共には消化酵素剤「タカヂアスターゼ」を開発した高峰譲吉博士、梅毒治療薬「サルバルサン」の国内における工業化生産に成功した慶松勝左衛門博士などの流れをくむイノベーションの歴史があります。高コレステロール血症治療薬である「メバロチン」や、合成抗菌剤「クラビット」など世界で広く使われる薬を開発してきました。

■「頑固者」に活躍の場

 日本も明治時代や戦後の高成長期にはベンチャー的な気風に満ちていました。社会が安定し、豊かになったことで挑戦する気風が弱まってしまいました。リスクを取らなくても何とか食べていけるようになったからでしょう。しかし、これからは再びリスクを取ってイノベーションに挑戦すべき時代になります。

 私は何年か前に社内でイノベーションと呼ぶに値する成果を出した数人の研究者を訪ねてみました。「頑固で、思い込みの激しい、しかし、絶対にあきらめない」という特長を持った人ばかりでした。組織人としては、なかなか難しいかもしれませんが、そういう人が活躍できる場を用意することも社会や企業には必要なはずです。そこで、第一三共は社内に「ベンチャーサイエンスラボラトリー」という組織をつくり、従来の研究開発とはやや異なる、ベンチャースピリッツに基づいたイノベーションを進めようとしています。

  イノベーションには志も欠かせないと思います。お金もうけだけでなく、社会に役に立つ、困っている人たちを救う、といった動機です。志があるからこそ途中で困難があっても耐え、研究開発を続けられるのです。豊かで安全な日本にいるだけでは世界が求めているものがみえにくく、志を立てにくいかもしれません。若い人はやはり世界に出て、何が今、人類の課題なのか肌で感じてもらいたいと思います。若い世代には「自分が何をしたいのかわからない」という人たちもいます。そういう人も世界の国々、特に途上国の現状を目の当たりにすれば目標がみつかるように思います。

 第一三共はインドのジェネリック(後発医薬品)メーカー最大手で新興国市場に強いランバクシーを数年前に買収しました。新興国、途上国では新薬だけでなくジェネリック医薬品を必要としている人が多く、品質が良く安価な薬品を供給する必要があると判断したからです。先端的な新薬を生む第一三共とジェネリックのランバクシーがハイブリッド化されることで、グローバルに貢献できる医薬品メーカーになったのです。

 若い人たちは世界の現実を知り、触発され、志を得ることでイノベーションを担える人材に近づけると思います。私たちの世代はそうした人たちの目標となり、アドバイザーにもならなければなりません。いわゆるメンターです。私の社会人人生ではそうしたメンターとなる上司が何人かおり、強い影響を受けました。どうしたら日本はイノベーションを実現し、世界に貢献できるのか、若い方々の意見を聞きたいと思います。

アイデア

卒論を眠らせるな

酒井 真理(東京農業大学農学部3年、24歳)

 イノベーションを実現するために提案したいのは、日本全国の大学から卒業論文を掘り起こし、事業化できそうな研究を活用することだ。卒業論文を取り上げる主な理由は2つある。

 1つ目は大学生が卒業論文を作成する本当の意味を見いだせるようになる点だ。単なる「卒業単位を取得するための論文」から「日本の未来に役立てるための論文」へと位置づけを変えることで、大学での学びの重要性が大きく変わるだろう。

 もう1つの理由は大学生の専門性を生かせること。学生の論文とはいえ大学で学んだことの集大成が卒業論文であり、イノベーションを実現するための研究材料が十分にそろっている可能性が高い。今こそ日本に眠っている莫大な量の研究論文をひもとき、活用する時が来たと考える。

プレゼン入試

西田 仁志(鹿児島工業高等専門学校5年、20歳)

 日本発のイノベーションを実現するには、大学受験制度を見直すべきだ。大学入試の筆記試験をやめて、プレゼンテーションに変更する。それぞれの大学の学科ごとに、受験生の発表内容によって入学の可否を決めるのだ。受験生の資質を見極めやすくなるだけでなく、日本語での筆記試験に抵抗を感じている留学生も受け入れやすくなる。

 結果として大学の国際性も高まるだろう。大学が多国籍になれば、その場にいるだけで周囲から様々な考え方のヒントを得られる。教育の内容も見直して、より実践的な学びを増やしたい。理論重視ではなく、実社会で起きていることに目を向け、そこから知識を広げていく方法を取り入れるのがいい。

 知識の量だけで決まる入試は、失敗が許されないという恐怖心につながる。何かを生み出そうという創造力にも悪い影響を与える。

経営者が夢を語る

河村 美喜子(慶応大学大学院経営管理研究科2年、28歳)

 世界はものすごいスピードで変化している。そのスピードに追い付け追い越せと企業は必死だ。私たちの日常はその経済の波に翻弄され、その場その場の対応に追われている。イノベーションは、そんな波に翻弄される土台の弱いところから生まれるだろうか。

 私は、イノベーションが生まれるところには堅強な基盤があると考えている。基盤は経営とか財務とか、そういうものではなく、むしろ、経営者の「夢」とか会社の「目指す姿」である。その基盤の上で研究者や従業員が、失敗に失敗を重ねながらも、「夢」や「想(おも)い」を形にするために日々努力した結果、イノベーションとしての形にたどりつくのではないだろうか。

 まずは、この世界のスピードに対し、翻弄されない基盤を作る覚悟をする。その次に、経営者が従業員と「夢」を語り合い、夢を形にしていく作業をサポートする体制作りを行うことが、イノベーションを生み出すのではないかと考える。

移民を受け入れ、グローバル人材を育てる

三田 郁美(東洋大学経営学部4年、21歳)

 イノベーションを実現するためには、移民を積極的に受け入れ、教育の質を上げることが必須であると考える。海外から移住してきた人たちを教職に迎えたり、友人として共に学んだりすれば、互いにグローバル社会を意識することになり、競争も生まれる。その結果、遠回りのようでも、新たな価値観を持ち、グローバルに活躍できる人材を着実に増やせるのではないだろうか。

  日本は世界的に見ても課題の多い国であり、現在、そして今後の日本の抱える課題として、超少子高齢化や、かつて日本を先導してきた産業の衰退が挙げられる。課題を解決する方法こそがイノベーションであり、高い質の教育を受けたグローバル人材なら、その担い手になれるはずだ。そして、課題への挑戦を通じて新しい産業が生まれ、世界のお手本となる国になれると考える。

 移民の受け入れは教育に新風を吹き込むだけでなく、日本の人口減少にも対応できる。さらに教育も大胆に変革し、自立し、主体的に学ぶような教育方法、好きなことや得意なことをどんどん伸ばせるような環境にしていけば、イノベーションを起こす人材がさらに増えると考える。

多様性の中で議論をする

坂 一博(一橋大学大学院国際企業戦略研究科1年、33歳)

 日本発のイノベーションを実現するには、「日本人だけで議論しない」つまり「外国人も含めて課題を議論する」ことが必要不可欠であると考える。

 現在、私の所属するビジネススクールの学生は約8割が海外からの留学生であり、その出身も14カ国にわたる。その多様性の中で日本と世界の課題を議論すると、日本人だけの議論ではなかなか出てこない大胆な視点やアイデアを得られ、非常に有意義な議論をすることができる。先日も「日本の観光を東南アジアでさらに売り込むには、どのような方策が考えられるか」というテーマで議論をしたところ、日本人のみでは10年かかっても出てこないような大胆なアイデアを数多く生み出すことができた。

 もちろんアイデアを具現化するためには、また別の次元の難しさが求められるが、まずは日本人だけでの議論を卒業し、外国人も交えて課題を議論することがイノベーションを生む第一歩となるのではないだろうか。

自分の課題であると自覚する

高木 海平(カーネギーメロン大学大学院医療工学・技術経営学1年、24歳)

 先輩に触発されて留学を目指し、昨夏から米国の大学院で医療工学を学んでいる。科学技術においてイノベーションをリードする米国では、高名な実業家から大学ベンチャーで活躍する大学生まで、幅広く若者のロールモデルとなる人たちがいる。身近な人をライバルとし、憧れを追いかける米国の未来のイノベーターたちには力強さがある。

 一方日本では、イノベーションに関して憧れの人物、身近な目標ともに少ないと感じる。例え優れた技術や知識、アイデアを持っていたとしても、そうしたロールモデルに出会えなければ、イノベーションを目指さず終わってしまうかもしれない。

 私は幸いにも出会いに恵まれ、その第一歩を踏み出すことが出来た。今、私自身がすべきことは、日本のイノベーション不足を自身の問題であると自覚することである。自らの憧れを追いながらも、私自身が次代の誰かの目標となれるよう、目先の私益でなく地道な努力を積んでいきたい。

女性の力や知恵を生かす

郭 麗莎(中央大学商学部3年、26歳)

 まず女性の力や知恵を発揮する場を提供する必要があるのではないか。日本では男性は家族を養うために、外で働き、育児や家事のことを女性に任せる。女性も多くは大学まで進学するようになったが、就業率が先進諸国ほど高くない。

 その一つの理由は、専業主婦の道を選ぶ人が多いことだ。育児にめどがついたときに、再び社会に復帰するのはなかなか難しいことが背景にある。ところが、人気のキッチン用品を見れば、その多くが主婦たちの知恵によって発明されたものであることがわかる。

 彼女らは育児や家事に専念しながら、経験を積み重ね、どんどん新しいグッズを発明している。これも主婦たちが起こしたイノベーションだといえる。日本は保守的な考えを捨て、欧米を見習い、女性の社会進出をもっと大事に考えるべきだと思う。

プロ意識を持つ

青山 小菜美(中央大学商学部3年、21歳)

 国民一人ひとりが「プロ意識」を持つことが必要だ。プロ意識とは日本国民であること、家庭、仕事や勉強など自分の置かれている立場を自覚し、向上心を持って真摯に取り組む姿勢のことである。

 私は、大学で商学部に所属し、将来、アグリビジネスの観点から日本の農業に貢献したいと思い、勉強に励んでいる。「学生」は、学業が第一という意識を常に持ち、「日本人」として学んだことを将来どのように世の中に活かすのかということを考えるように心がけている。当事者意識を持つことによって、自分で問題点を考えて解決しよう、現状をもっと改善しよう、という意欲が生まれる。

 このような意欲こそがイノベーションの原点ではないだろうか。プロ意識を持った人材の海外流失を防ぐためには、日本の政府、大学や企業のサポートや環境づくりも不可欠だろう。

教育は問題探求型で

岡庭 晴(メリーマウント・インターナショナルスクール・ロンドン12年、18歳)

 日本の教育は暗記を重視する。しかし、知識は暗記するものという考え方だけでは、新しい何かを生み出すことはできない。イノベーション、それは、創造性である。

 今、世界の教育界では国際バカロレアという教育手法が注目されている。美術、国語、数学といった教科にかかわらず、生徒が自分で課題を見つけ、調査をし、問題があれば解決策を練り、探究心と実行力を養う。私もこの教育を4年間受けた。もちろん教科書を読みこなしたり、学習ドリルで一問一答式の問題を繰り返し解いたりすれば、様々な知識が身につく。知識が豊富なら想像力が及ぶ範囲も広がるだろう。

 知識を詰め込む従来型の学びに加えて、創作的な学びの機会をつくるようにすれば、より開発的な人材を育成できるはずだ。夏休みの自由研究、夏に終わるべからず、である。

「MOTTAINAI」を極める

平岩 莉央(中京大学総合政策学部3年、20歳)

 日本はいくらベンチャーが挑みにくい社会であるとはいえ、主要先進国としてG7に含まれているように、ある程度の地位が保証された国だ。日本人特有の保守的思考は、そんな境遇に満足しているが故に存在するのではないだろうか。「それなりの生活が送れるのであればいいや」「そこまで頑張らなくてもいいや」といった妙な安心感が、日本人の危機感を払拭しているのだろう。

 ワンガリ・マータイ氏は日本人の「もったいない」という概念に感銘を受け、世界共通語として広めようとした。本来は環境問題における話だが、私はこれを将来の日本のために転換したい。「こんな機会はもう無いかもしれないのだから、やらなくてはもったいない」「まだ出来るのだから、限界を作っていてはもったいない」という具合に。

 課題解決のためには日本人が強い追求心を抱き、もっと貪欲になる必要があると考える。

壁をホワイトボードに

平野 佑佳(青山学院大学社会情報学部4年、21歳)

 自分が生活している場所の壁をホワイトボードにし、そこにアイデアが満ち溢れている状況を作りだす。アイデアを躊躇(ちゅうちょ)なく示し、共有し合える環境をつくることがイノベーションの実現につながるのではないか。学校や企業で出会う人々は出身地が異なっていたり、海外での留学・勤務経験や転職経験があったりなど多種多様だ。

 お互いの様々な経験から課題を見いだすことを通じて、社会に対して行動すべきことが何かを発見し、その実現を目指す。各人が経験してきた環境で見つけた課題を周囲の人々で共有することが、イノベーションを実現する第一歩になるのだと思う。

 たとえ提案したアイデアを実現する技術や能力が自分自身に備わっていないとしても、他者が示したアイデアについて共感や興味を抱き、自ら調査・研究に踏み込んでいくことも可能である。その結果、将来的にはイノベーションを実現することが可能になると言えるのではないか。

講  評

「将来の当たり前」を発見できるか

 日本発のイノベーションを実現するために、どんなアプローチがあるのか。難しい課題かなとも思いましたが、面白い提案がいくつも集まり驚いています。提案を寄せていただいた人は、すでにある種のイノベーションを起こしている方だといってもいいのではないでしょうか。

 中でも「卒論を活用しよう」という提案は、きっかけさえあれば大きな動きにつながる話だと思います。卒論は学生が自己を表現する大きな機会です。学生・指導教官ともに実社会に目を向けてもらうことが、大きな変化につながると思います。日本をどう変えたらいいのかを卒論のテーマにして、それを日本の将来のために生かすといった流れを作ってみるのはどうでしょうか。日本に開かれた大学を増やすための起爆剤になるかもしれません。

 人材を育てるうえで、やはり教育をどうするかは避けて通れない課題です。入試にプレゼンテーションを取り入れるというのも面白いアイデアです。教育を変えるには、やはり入試を変えるのが効果的だと思います。教育関係者から、プレゼンの内容を評価するのは難しいといった声が出るかもしれません。しかし、評価する側を変革することにむしろ大きな意味を感じます。強い意志をもって、何かを変えていこうという原動力になるはずです。また、「経営者が夢を語れ」というご意見は、私自身にとって刺激になりました。

 日本はもっと開国に向かうべきだとの指摘もありました。当たり前のような話に聞こえますが、この問題を明言する人は極めて少ないのです。そうしたことをあえて提案し、実現に向け臨む姿勢が大切なのです。イノベーションに必要なのは目新しさだけではありません。むしろ将来当たり前になることを、誰よりも早く発見できるかどうか。「リンゴが木から落ちる」ことの意味にいち早く気付けるかなのです。基本的なことのなかにヒントが隠れています。

 だからこそ若い人たちには、フレッシュな目で物事を見るようにしてほしい。もちろん妥協しなければいけない場面もあるでしょう。それでも新しい日本のために何かをしなければいけないという思いを持ち続けてもらいたい。基本的な気持ちを忘れずに、常にトライし続けることが大事です。我々の世代も、そんな若い人たちの声に積極的に耳を傾けていきたいと考えます。

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