未来面「新しい日本人をつくる。」経営者編第2回(2012年12月3日)

課題

変える力を持つ人材をどうつくるか

渡文明・JXホールディングス相談役

※肩書き等は掲載当時のものです。原稿のため、掲載時とは差異があります

 日本は戦後の混乱から復興、高度成長を果たし、先進国入りしました。しかし今は、20年を超える停滞期にあります。ここから再生するのか、衰退していくのか、分水嶺に立っています。行き詰まりは歴然としています。日本の国内総生産(GDP)が世界に占める比率は、1990年には14%でしたが、11年は9%に縮小。1人当たりGDPでも2000年の世界3位から17位に下がりました。2060年の総人口は現在の32%減の8674万人、生産年齢人口はほぼ半減の4418万人になります。日本のマクロ指標は衰退を示しています。

□揺らぐモノづくり

 世界をリードしてきたモノづくり国家としての基盤も揺らいでいます。例えば、高度成長を支えた輸出は停滞し、GDPに占める比率は15%にとどまっています。日本と同じく製造業の強い韓国の52%、ドイツの50%との差は明白です。モノの流れはかかる状況を端的に示しています。00年に世界で2位の貨物取扱量だった成田空港は10位に後退、かつてコンテナ取扱量で世界のトップを競っていた港湾は国内最大の東京港でも今や世界27位です。さらに深刻なのは、外国人のうち、研究者、技術者など高度人材の占める比率の低さです。オーストラリアの29%、米国の13%に対し、日本はわずか0.7%。人口減少が進む日本ではイノベーションを担う優秀な人材を海外から集めることが急務ですが、現状は厳しいと言わざるを得ません。

 日本が再生、繁栄の道に進むには、戦後の高度成長を前提にした規制、制度、組織、国民の意識などの枠組みを大きく変えなければなりません。つまり、日本では「変える力」を持った人材が今、最も求められているのです。では、「変える力」とは何でしょうか?

 私は、2つの要素で構成されていると思います。第1は「ビジョンを構築する力」です。ビジョンとは国家のあり方といった大きなものでなくとも、自分の属する地域、会社、組織などについての「こうあるべきだ」という目標で構いません。ただし、当を得たビジョンを構築するには、正義感などをベースにした「個の確立」と競争に打ち勝ってでも「こうなりたい」と願う「健全な野心」が不可欠です。

 第2は「行動力」です。周囲を統率するリーダーシップとともに最後まで諦めずに努力し続ける「精神的な胆力」が必要です。胆力はぬるま湯の環境では養われません。挑戦と失敗を繰り返し、苦労と経験を重ねて初めて得られるものです。これは若者の挑戦を見守り、失敗を許容する社会があってこそ可能になります。

 つまり、「変える力を持つ人材」は、明確なビジョンを提示でき、その実現に向けて行動する人ですが、最近、我が社を振り返っても、今の若い人たちは課題を設定する能力はあるものの、解決に向けて率先行動しようとする気概が弱まっていると感じることがあります。中には「変える力」を発揮する者もいます。福岡県で家庭用燃料電池システム「エネファーム」を150台集中設置し、世界最大の水素エネルギーモデル都市(福岡水素タウン)を創りあげた社員、ベトナムの油田で未利用の随伴ガスを地元の火力発電所に供給し、世界初の大規模省エネ型CDM(クリーン開発メカニズム)の認可に結びつけた社員らは「変える力を持つ人材」といえます。

□輝き取り戻すには

 そうした人材を生み出すためにすべきことがいくつかあります。「ビジョンの構築力」を高めるには、正しい歴史認識が欠かせません。これまで学校教育では日本の現代史をしっかり教えてこなかったのではないでしょうか。国家観や愛国心に欠ける者が周囲を納得させるビジョンを描けるとは思えません。「行動力」を発揮するには、自分の意見を的確に発信する力が必要であり、言語リテラシーの強化は必須です。特にグローバルビジネスの武器となる英語の習得は避けて通れません。英語を学ぶには留学がいちばんですが、日本人の海外留学生数は04年の8万3千人をピークに今は6万人を割る水準まで減少しています。留学促進のためにも幼少からの英語教育は不可欠です。さらに「行動力」を養うには社会に自助の精神が浸透していることも大事です。生活保護受給者の増加の一因として、勤労意欲の低下、自助精神の希薄化が指摘されています。国などから受ける「公助」や周囲から受ける「共助」より「自助」を尊ぶ社会をつくる必要があります。

 日本人は「失われた20年」ですっかり自信をなくしてしまいましたが、まだまだ日本には「勤勉さ」「おもてなしの心」「匠(たくみ)の技」など、世界に誇れる多くの財産があります。「変える力」を持つ人材が増え、これらの財産がうまく活用されれば、日本は再び輝けるはずです。

 皆さんも日本や地域、所属する組織などに関して「変える力を持つ人材をどうつくるか」を考えてください。しなやかで力強い意見を期待しています。

アイデア

ディベート力を磨こう

伊藤 航(慶応義塾大学文学部3年、22歳)

 変える力とは、目標やアイデアを実現可能なところにまで掘り下げる力と人を動かす力だと考える。

 何かを変えたいという夢や思いは誰でも、子供でさえ持っている。しかし基本的に、経験と知識を備えた「大人」にしか変える力はない。経験を積み、豊かな知識を駆使できるようになって初めて、「だったらいいな」という漠然とした思いを、具体化への詳細な道筋を持つ目標へと掘り下げられる。プロジェクトの企画書を作るのに似た、いわば自分のアイデアを組み立て編集するこの力を身に付けるためには、ディベートが効果的だと思う。1つのテーマについて、経験と知識を総動員し、意見とその根拠を述べるのは、格好の訓練になるはずだ。

 小論文の執筆も同様の思考を要求するが、発言に筋が通っていないとその場にいる誰もが納得しないディベートの方が、人を動かす力を養う点でもより有効だ。欧米社会では、意見を言い合ったり人前で話したりするのは珍しいことではない。文化の違いといえばそれまでだが、日本でもそんな機会をもっと設けるべきだろう。アイデアはスケールが大きくなればなるほど、その実現により多くの人の協力が必要となる。ディベートを重ねることが、多くの人の賛同を勝ち取り、目的に向かって行動する力を磨く近道だと思う。

自分が変わることから始めよう

大西 俊(中央大学商学部2年、21歳)

 自分が変わらない限り、変える力を持つことはできない。そのためには、出る杭(くい)になり、周りからの批判に動じず、物事を遂行していかなくてはならない。

 普段はしないような自己主張を、やり過ぎと思うくらいにしてみることで、自分の殻を破れるのではないか。今までの自分にないものを発見できるかもしれない。自分の力が少しでも周りに影響力を及ぼすことを自覚すれば、1人でも状況を変えられる人材に近づいていけると思う。

 「後悔先に立たず」という言葉があるように、目の前にあるチャンスを逃したらもう2度と回ってこないと肝に銘じ、貪欲になるべきだ。そして、何より人生を楽しむことで、自分から何かをしたいという気持ちが強くなってくる。企業も役職・年齢に関係なく、誰もが平等に発言できる場を設けてみるべきではないだろうか。

失敗を認め、受け止めて

佐藤ラクミニ瞳ウィムッティ(桜美林大学リベラルアーツ学群1年、19歳)

 日本社会は「失敗」を認めてくれない。年配の人は若者の失敗を見て頭ごなしに「君はどうしてこうなんだ」と怒ったり、「これだから若い人は」と鼻で笑ったりする。それでは人材が育つわけがない。可能性を自ら踏み潰しているようなものだ。大切なのは、年上の者が失敗を受け止めること。そして、そのプロセスに関してきちんとフィードバックすることだ。ここをもう少しこうすればよかったのでは。ここが準備不足だったのでは。問題箇所の提示や欠けている箇所が分かるだけで、失敗した側は心も行動も軌道修正がきく。次に向けてまた頑張ろうと思える。「行動を起こして良い」という雰囲気が支えになるのだ。

 初めからすべて成功できる者はいない。失敗は誰もが経験する。失敗は成功のもとだ。それを潰すのではなく、どう修正して生かすかだ。私たちは可能性を秘めている。数々の努力と失敗によって大きく躍進するのだ。

以上が紙面掲載のアイデア

義務教育を変える

石間 千温(中京大学総合政策学部1年、19歳)

 日本や地域、所属する組織などを変える力を持つ人材をつくるには、義務教育の授業の仕方を根本的に変える必要があると考える。私たちは、自分なりの考えを思いついても相手に伝えたりせず、疑問に思っていても聞かないことが当たり前になってきている。授業の発表の時間には、手を挙げないこと、先生から質問されても顔を上げないことが「普通」なのだ。

 自分の意見を主張する習慣、相手に質問する癖がないから、皆が皆、同じ道に進むことを望み、平穏であるだけで、良い方向にも悪い方向にも行動を起こさないのである。幼少期に、朝起きたら「おはよう」と言うようしつけられたからこそ、自然にあいさつができるのと同様、自分の意見をはっきり述べ、相手の意見に疑問を持ち、質問する体験を、小さい頃から積み重ねていけば、それが「普通」になると思う。人の目も気にせずに、道を突き進んでいける人材こそ、今の日本を変えるのに不可欠であり、1人でも多くの日本人がそうなるためにも、教育方針を見直すべきだと考える。

経営者を一日教師に

河野 宏基(明治大学政治経済学部4年、22歳)

 小中高生のうちから、企業経営者の人生観について話を聞ける機会をつくる。厳格に管理されている日本の教育システムでは、一般的な価値観以外、身に付きにくいと思う。その価値観とは、有名大学に入って、大企業に就職することが最高のキャリアであるというものだ。

 その原因の一つに、学生に教えている教師自体が社会の競争でもまれた経験が少なく、学校で教わった価値観をそのまま教えているということがあると思う。このため、実際に社会でグローバルな視点で日本をみている企業の経営者などの話を聞ける機会があれば、早いうちに今までとは違う価値観を身に付けることができる。早いうちに働くことに意欲を持つ人も増え、日本を変えてくれる人材も増えていくと思う。もちろん、話が聞けるのは企業経営者に限らず、グローバルな視点で日本を本当に良くしようとしている人であれば誰でもよい。

「player」になる

長瀬 翔太郎(日本大学法学部4年、22歳)

 最近は人の意見に左右されたり、周りの空気を読んだりする「observer」が多い。交流サイト(SNS)も常に誰かとつながる便利な側面がある一方で、周りの目に過剰に反応する姿勢を助長していると思う。こうした環境で過ごした人が「変える力」を持つのは難しい。

 そんな状況を打破し、自らが変革に携わる「player」になるには、「意見を発信する力」と「多様な価値観を理解する態度」を養うことが必要だ。「意見を発信する」ことと「意見を持つ」ことは違う。observerも意見は持っている。大事なのは、その意見を発信(表現)する能力だ。

 ただし、現代では発信する力を養うのに相応の訓練がいる。家族の構成が変化し、地域とのつながりが希薄になった今、昔のような日常的に意見を発信する「場」が少なくなったからだ。若者らはディベートや討論をする機会をもっと持つべきだろう。そこで価値観の差異を理解する体験を繰り返すことで、playerに育つのだと思う。

「自由に使える期間」の導入を

熊澤 綾子(跡見学園女子大学マネジメント学部3年、21歳)

 私は「多様な視点」と「説得力」を持った人こそ、変える力を持つ人材であると考える。気付くためには多様な視点が必要で、他者に伝えるためには説得力が必要だからだ。多様な視点は経験で、説得力は体験で得られる。ではどうすればいいのか。

 一部のグローバル企業では入社式を10月にすることで、4月から入社式までの約半年間を自由に使えるという制度を導入している。私はその制度を模倣してみることを提案する。一定の期間を経験・体験のために使わせるのである。

 ボランティア活動や資格取得、語学留学を考える人も多いだろう。経験は大変であればあるほど人を飛躍的に成長させる。実体験をもとにした主張には説得力があるし、今までと違う視点を持つことができれば、気付かなかったことにも気付くことができるからだ。「変える力」を持つには、さまざまな経験をする機会を与えることこそが大切なのではないだろうか。

30代のいないチーム

大鳥 達也(桃山学院大学経済学部4年、22歳)

 変える力を持つ人材をつくるには、例えば30代がいないチームをつくるのがよいと思う。なぜなら、重要な仕事をしている人を直属の上司とすることで考え方を盗めるからだ。30代の中間層がいないため、20代の社員に重要な仕事の一部を任せることにもなる。

 もちろん、抜かすのは30代である必要性はない。重要なのは、年齢と技量の離れた人同士が近くで働くことと、上司が目配りをしつつ部下に重要な仕事を任せることだ。年齢の近い上司より、仕事ぶりを近くでみている年の離れた上司からのほうが素直に学びやすく、褒められたときの重みも増すと推測できる。マニュアルではなく、実際に仕事をしている場面を見せることが、物事を変えるために必要な「考え方」や「行動意欲」につながる。

斬新な花を咲かせよう

曹 一龍(中央大学商学部2年、24歳)

 変える力を持つ人材をどうつくるか、私は「個」としての強みを生かすことが、変える力をつくり上げることにつながるのではないかと思う。それは、私たちは「個」として、世界でただひとつのオリジナリティーだからである。

 世の中には、決して少なくない人が、自分の強みを理解していないため、弱みを補い、弱みのない人間になることが望ましいことであると勘違いしている。なぜなら、私たちは「個」として、生まれつきの才能があり、人それぞれであるため、理想像と全く同じような人間になりきるのは不可能なのである。そのため、もし必死に弱みを補おうとすれば、本来かけがえのない強みを失ってしまい、やがて、弱みもなければ強みもないどこにでもいそうなごく普通な人間になってしまいがちである。

 したがって、自分の「個」としての強みを十分理解し、それを限界にまで伸ばすことこそが、社会にかけがえのない斬新な変容をもたらすのではないかと私は考える。

公平がいいとは限らない

田下 文菜(中京大学総合政策学部1年、19歳)

 変える力をもつためには、順位づけが必要であると考える。今、子供の運動会でリレーの順位をつけないところがあると聞いたことがある。実際私の中学でもテストの結果は明確な順位が出されなかった。しかし、このように順位をつけないと向上心は生まれないのではないかと私は考える。

 どべで悔しい、一位になれなくて悔しいなど他の人と比較して競争心を持たせることで、もっと頑張ろうと自分を変えることにつながるのではないだろうか。これは日本の国内総生産(GDP)にも言えることであり、日本のGDPの順位に焦り悔しさを感じ世界に追い付こうとすることで、日本は変わるのではないか。日本の「公平なほうがいい、順位をつけることはよくない」という意識を変えることで、競争心が生まれ日本を変える力を持つ人材をつくることができると考える。

「しがらみ」を乗り越えるべし

千 明優(横浜市立大学国際総合科学部3年、22歳)

 日本には評価制度、組織構造、習慣、考え方による「しがらみ」があり、この「しがらみ」こそが変化への妨げになっていると私は考える。故に、明確なビジョンを持ち、自主的に行動を起こすことはもちろん、「しがらみ」を乗り越えていける気力がなければ、どんなに有能であっても大きな変化を起こすことはできないだろう。

 昨今、国際化という言葉が騒がれ語学力のある人材が優遇されているが、言語はただのツールである。2025年ごろには同時翻訳機能が発達し、外国の言語を覚える必要はなくなるだろう、という説さえある。国際化という言葉に惑わされず、「しがらみ」にとらわれない。そんな人材が、これからの世界を変えていくと私は思う。企業側から考えるなら、「しがらみ」をできる限りなくす努力をすれば、変える力を持つ人材はおのずと増えるのではないだろうか。

変える前に、自らが変わる

蛸井 宏和(東京大学工学部4年、22歳)

 変える力を持つ人間をつくるには、変わることの必要性の理解が重要になってくる。他のものを変える前にまずは自分自身の変革である。自分自身の変化を通して、変化の必要性、効力を理解した者は変化を起こそうという意欲が自然と湧いてくるのではないか。これを実践できるかどうかという問題はあるが、私は行動する以前の意欲の方が重要であると思っている。この意欲がない限り行動に移せないからである。

 今の若者は活力がないと言われているが、それは子供の教育が関係していると思う。競争意識を促さないだけでなく、みんなと同じであることの重要性ばかり伝えている。それでは自分自身で努力しようというインセンティブがない。そうではなくて小さい時から競争意識を持たせ、自分自身を変える必要性を訴えかけていかねばならない。そうすれば自然と変えることの必要性を理解している人が増え、結果、変える力を持つ人材の創出につながっていくのではないか。

疑問力をみがけ

鳴海 ひかり(明治学院大学国際学部2年、19歳)

 物事を変えるために最も重要な能力は、「疑問を持つ力」だ。もちろんビジョンを構築する力や行動力は必要不可欠である。しかしながら、まず疑問を持つことができなければ何も変えることができない。今や日本はもちろんのこと、世界中から日常生活に至るまで、ありとあらゆる場面において目に見えない問題というのは数多く存在する。

 目に見えない問題というのは、例えば一般的に女性は結婚し子どもができたら会社を辞めて専業主婦になるべきだ、という風潮が一因となり会社を辞めざるを得なくなるという状況が存在するというようなことだ。このような目に見えにくいことにこそ、変えるべき本質が潜んでいるのではないだろうか?

 変えるためには、まず毎日繰り返されるアタリマエの環境に潜む一般化された障害に気づくこと。そして、「なんかおかしい」「これでいいのか?」と疑問を持ち、問題の本質を見極めることが、最初の一歩であると私は考える。

「衰退国」であることを直視する

西村 惇(同志社大学経済学部3年、20歳)

 「変える力」とは「客観的に見ることができる力」である。客観的に見る対象は日本に限らず全ての者(物)だ。我々日本人は古い文化にとらわれるがあまり、自らを先進国と認識しているが、私は新しく「衰退国」と名付けようと考えた。

 そうだ。今や日本は全盛期を過ぎたスポーツ選手なのだ。ただ、そんな人は衰えるだけではないかと思うかもしれないが、トレーニングをすれば少しは維持することができる。そのトレーニングをするための計画が政策である。しかし政策だけでは徐々に衰えるのを遅らせる役目しかできない。そこで子供に夢を託すわけだ。無責任かもしれないが。

 しかし子供には可能性がある。その役割を果たすのが新興国やそれに準ずる国ではないか。つまりグローバルになることでしか次のステップは存在しないのだ。可能性を探る上では、客観的に見る自分の能力を知る事こそが、長期的な問題解決に必要なのである。

背中を押す力

渡邊 光司朗(明星大学経済学部3年、21歳)

 変える力を持つ人材を作るには、「影響」に気が付く力と、背中を押す行動が必要だ。人は皆、誰かの影響を受けた生き方を持っている。他者からの干渉の無い人間は存在しない。しかし、このことに自ら気付くことは少ない。

 先輩からの教えを受けることなく、天性で前へ進むことのできる人間はそういない。だからこそ、心の「影響」に気付き、後輩の背中を押してあげたい。私は学園祭の実行委員として新しいアイデアを出し、物事を進めてきた。これは先輩の厳しい言葉や、後押しがあったからこそできたことだと思う。だからこそ、私も後輩に対してこの行いを貫いてきた。

 目まぐるしく動く社会の中、自分のことだけで精いっぱいな人が多いと思う。けれども、一度立ち止まって観察する力を発揮してほしい。そうして自分の加減で後輩の背中を押してあげれば、彼らもやがて、誰かの「影響」を受けて成長していくことに気付ける人材になるはずだ。

踏み出して行動する勇気

秋山 早希(佐賀大学経済学部4年、22歳)

 学校で正解不正解がはっきりしていることばかり習うため、多くの日本の若者は「間違うこと」に恐れを持っている。魅力的なアイデアを思い付いたとしても、周りに批判されることを懸念して口にできない、行動に移せない状況が多々あるのではないか。そのような環境で「一歩踏み出して行動する勇気」こそ変える力ではないかと思う。

 否定されることよりも自分の意見や技術が世の中に貢献することをイメージし、行動できる人材が今の時代には必要である。「無難に」のポジションから一歩前に出ていくべきだ。

 若者の踏み出す勇気が変える力となれば、今後の日本の再生に大きく影響する。

変わらないことで変えていく

阿久津 宇慶(立教大学社会学部3年、22歳)

 世界を変えた偉人たちの一人にジャマイカの陸上選手ウサイン・ボルト選手がいる。今年夏のロンドンオリンピックでは100mを9秒63のタイムでフィニッシュし、前人未到の世界新記録を樹立した。実は彼は今年のジャマイカ選手権で後輩ヨハン・ブレークに100m・200mともに敗北を喫している。では、なぜ彼は再び王座へと返り咲き、世界を変えることができたのだろうか。

 その答えは「変えないこと」にあった。2位に転落した後、メディアからは批判、コーチからはランニングフォーム変更の打診があったものの、「自分の走り方が正しい」と信じ続け、一度は調整したフォームを改めて元に戻すことで本来のスピードを取り戻した。つまり、変えないことで世界を変えたのだ。

 逆説的な物言いになるが、「変える人材とは変わらない人材」である。経済停滞する日本社会の中で、周りに左右されず変わらずに自らの信ずる道を突き進む者こそ、世界を変えていけるのだと考える。

失敗への受容力

松口 佳奈枝(慶応義塾大学経済学部3年、21歳)

 「変える力を持つ人材」を生み出すために今の日本に必要不可欠なものは、失敗への受容力だと考える。明確なビジョンには、実現へのプロセスを設定することが必要であるが、そのプロセスには試行錯誤が多いはずである。プロセスは時代の変化に合わせその都度更新されなければならず、新しいものには常に不確実性が伴うからだ。そのプロセスを根気強く実行するための胆力は、積極的に失敗させるような教育環境から養われるものだろう。

 私は現在、米国に留学中だが、ここで、積極的に失敗させることが高く評価される教育現場を目の当たりにしている。ディスカッションにおいて、教授はヒント与えるのみ。たとえ学生に間違っていても、積極的に発言をさせる。このプロセスを通して、問題解決の糸口を発見させるのである。大手企業の凋落(ちょうらく)に代表されるように、経済不振が続いた結果、もはや安定が機能しなくなった現在の日本においては、リスクを取り、試行錯誤を繰り返すことこそ、新しい価値を生み出すプロセスではないかと考える。

異なる体験をさせる

郭 麗莎(中央大学商学部2年 留学生、26歳)

 日本の若者には水、食料、教育に困ったことがある人が少ない。だから、平和で便利な生活の中で、危機感を感じず、高い目標も持たないという人が増えている。この現状を変え、力を持つ人材をつくるために私は5つのアイデアを提案したい。

 1つ目は、学生に規律の厳しい生活を体験してもらうことだ。母国の中国では高校や大学に入学する前に、政府の協力を得ながら多くの学校で、全学生に約2週間の軍隊生活を体験させることがある。このような活動を通して学生たちに苦労を味わってもらうことで、物事に挑戦する意欲を高め、その結果、モチベーションを上げることにつなげている。日本の場合は国内・国際的に難しい環境にはあると思うが、可能なら自衛隊・警察・消防隊などに協力してもらい、学生たちに規律正しい生活を体験させるのはいかがだろうか。

 次は、お年寄に自分の孫の留学体験のためにお金を出してもらえるように訴えるようなテレビCMを出すことだ。日本ではシニアには富裕層が多く、若者は貧困層が多いという話を聞く。大学に進学している多くの学生は、家庭の負担を減らすためにアルバイトをしながら大学生活を送っているとも聞いている。また、3年生から就職活動に取り組む学生も多いため、海外留学や海外旅行のことを考える余裕がない学生が多いのではないか。政策としてシニアの年金を減らし、次の世代に貢献してもらうという社会的な仕組みの実現が無理ならば、自分の孫にお金を出して海外で見聞を広げる機会を与え、外国語の大切さを実感させると同時に、競争の厳しさを実感してもらうという考え方を広めるのはいかがか。多分、多くの家庭の理解をえることができ、実現可能だろう。

 3つ目は、正式の所属を持たない時期、いわゆる「履歴書の空白」をもつ人は中途採用で不利になるような風潮を、国が企業に働きかけてやめさせてはいかがだろうか。企業は中途採用する場合、対象者を他社で正社員として働いていた者に限ることが通例だが、卒業後の「空白」を恐れて、学生は大学を卒業する時点で慌ててそれからの約40年間の職業人生を決めなければならず、結果、就職後に自らの決断の誤りに気付き、すぐに離職してしまう学生も少なくないように感じる。企業が履歴書の空白を問題視しないようにすれば、学生は大学卒業後に留学・社会貢献など様々な経験を通してじっくりと職業人生に対する考えを固めることができるし、企業の側も、採用したばかりの学生にすぐ離職されるリスクが減るため、メリットがあるのではないか。

 4つ目は、国が大学生に対し海外ボランティアや留学の機会を提供することだ。奨学金のようなものを出せば、海外に出ようとする学生数が増え、英語に挑戦する学生が増えるだろう。

 最後に、大学が留学生をもっと活用するような提案をしたい。私が在籍している大学には何百人の留学生がいる。大学の留学生課や学生課が留学生を呼び込んで、日本人学生と留学生の日常場面での交流を促すような仕組みを作り、積極的に留学生と交流できるようにすれば、座学だけの外国語の授業ゆえ「会話が苦手」と話すような日本人学生の語学力が向上するのは間違いない。ちなみに、これからの世界は英語だけが重要ではなく、中国語やフランス語なども重要だ。机の前で文法を一所懸命勉強(インプット)するだけで、外国人と交流(アウトプット)しないならば、外国語がうまくなるはずがないと思う。

リスクにチャレンジできる環境づくりを

豊田 翔太朗(慶応義塾大学総合政策学部3年、22歳)

 変える人間をつくるには、「リスクにチャレンジできる環境をつくること」が必要だ。日本では挑戦して失敗した人に対して、白い目を向け批判的に論じる傾向がある。それは日本人が「和」、つまり協調性に重きを置いているからかもしれない。確かに日本で生きていくうえで協調性は重要だが、グローバル社会で生きていくのに他者の視線ばかり気にしていては、ハングリー精神旺盛な途上国の人々に日本人は後れをとってしまうことだろう。

 実際、環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉では日本人の良さである「和」が裏目に出ているように思われる。グローバル社会においては、日本らしい人よりリスクに果敢にチャレンジしていく人が適応していくのではないだろうか。リスクに挑戦していく人材を育てるために、学校・企業・政府は最適な環境を整えてほしい。たとえ挑戦し失敗したとしても、その人材に再投資できる環境が必要だ。それがリスクに挑戦できる人間を育てるということなのだから。

講  評

「志・ビジョンを具体化して行動に」

 国や地域、所属する組織などを変える力を持つ人材をつくるための方策について数多くのアイデアを寄せていただき感激いたしました。悩んだ末に選んだ回答以外にも「義務教育を変える」「経営者を一日教師に」など示唆に富んだ意見が多数あり、全てを紙面で紹介できないのが残念です。

  若い人たちが、今の仕組みを必ずしも善しとせず、どう変革すべきかについてそれぞれビジョンを抱いていることが分かり、大変頼もしく思いました。ただ、物事を変えるには、ビジョンに加えてその実現に向けた「行動」も重要です。その点について力強い意見が少なかったように思います。特に、今の若者が行動を躊躇(ちゅうちょ)するのは、「失敗を許さない社会」にその原因があるとの意見がいくつか見られ、やや気になりました。

 失敗は成功のもとであり、人間を強くもします。「失敗を許容すべきだ」との意見は正しいように見えます。しかし、今の社会の方が昔より失敗に対して厳しいことはないと思います。むしろ、あまたの先人たちは、逆境を突破するという気概で行動を起こし、日本を変えてきました。

 明治から昭和初期にかけて活躍した偉人に益田孝という人がいました。この人物は三井物産の創始者でもあるのですが、10代半ば、遣欧使節団一行に加わった父に随行してフランスを訪れ、そこで日本との国力の屈辱的な差に愕然(がくぜん)とします。しかし彼は、単に意気消沈するのではなく、どうしたら日本を欧米諸国に追いつかせることができるか、真剣に考えます。そして、貿易を拡大させて商工業を先進国レベルに底上げし、「産業貿易立国」として欧米列強に伍していける国を目指すというビジョンを打ち出しました。このビジョンを実現するために20代の若さで三井物産を立ち上げ、日本の発展を大きく後押ししたのです。ビジョン構築力と行動力の双方を兼ね備えていたからこそ、彼は日本を変えることができたと思います。

 皆さんも、志やビジョンを心にしまい込むのではなく、具体的な「行動計画」に落とし込んで、実現に向けて果断に行動してほしいと思います。一人ひとりの努力が社会を、日本を「変える力」になるのだと思います。仮に、真摯に行動した結果が失敗に終わったとしても、それは価値あることだと評価されるはずです。このような失敗まで責めるほど、今の社会はひどくないと私は考えます。これからの若い人たちに大いに期待しています。

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