未来面「仕事を通じて社会にどう貢献するか」経営者編第16回(2014年2月3日)

課題

仕事を通じて社会にどう貢献するか

原田泳幸・日本マクドナルドHD会長兼社長

※肩書き等は掲載当時のものです。原稿のため、掲載時とは差異があります

〈原田泳幸さんの主張〉

●経営陣が若者を育てるための議論を活発化させるべき。

●ビジネスで活躍できる人の育成には、民間企業で働いた人間を教壇に。

●若い皆さんが社会に必要な価値を作り上げ、社会に貢献ができるかどうかを考えて。

 まずは、経営者を代表して若い読者の皆さんに反省の弁を述べたいと思います。経営者に課せられた仕事の一つに人材、後継者の育成があります。しかし、そのことに真剣に取り組んできたと言えるのでしょうか。本当に若い人たちの能力を引き出そうと見守ってきたのでしょうか。もっとストレートに言うなら「若者をちゃんと使いこなしてきたか」ということです。

■成長を妨げる上司

 残念ながらそうなっていないのが今の経済社会なのです。上司が部下の成長を妨げるブロッカーになっていることが往々にしてあります。「失敗を恐れずチャレンジしろ」と言ったところで、リスクを恐れ、保守的な考えに立つ上司の下にいる若者がチャレンジ精神を発揮できるはずはありません。定年近くなればその管理職は大過なく企業人としての人生を終えようとします。その管理職の部下は同じ行動をとるでしょう。部下の失敗を許す度量を持っていません。マネジメントの原則は「自分の部下がおかしいと思うなら、(そうさせた)自分がおかしいと思え」です。責任は上司にあるのです。

 経営者は常日ごろから人材のグローバル化、多様性、流動性、女性の活用の必要性を訴えています。これから社会に飛び出そうとする学生の皆さんにも同じ言葉を投げかけることがよくあります。ところが自分の会社の経営陣に外国人や外部から迎えた人材がどれほどいるでしょうか。誰一人としていないのが一般的です。そんな環境の中でグローバルなどの議論ができるはずがありません。

 今、私がいる会社には海外の人材や私を含めフードビジネスと畑違いの分野の人材が多くいます。それでも事業会社の社長を約10年も務めてきた私は後継者の育成に失敗してきたと言っていいでしょう。変わらなければいけないのは、まずは今のニッポンの経済社会を設計した国や経営陣ではないのかと痛切に感じています。若者の意識を変える前に経営陣がもっと若者を育てるための議論を活発化させなくてはいけない。国が「社長は5年まで」といった期限を設けてもいいかもしれません。それくらいしないと変わらないと思います。

 教育現場の改革は待ったなしです。多くの若者が学校を出た後に企業で働くにもかかわらず、教育現場にビジネス感覚をもった先生が少ないのはおかしいと言わざるを得ません。ビジネスとは価値(バリュー)を提供して、対価(リターン)をもらうのが基本です。ビジネスの世界で活躍できる人間を育てるとするなら、教壇に立つ必須条件として民間企業で働いた経験を加えるべきだと考えます。

 ここまでは大人の反省ですが、若い皆さんも甘ったれていては困ります。世の中は刻々と変わっているにもかかわらず、皆さんたちは誰かに守ってもらえるという意識があるように思えてなりません。企業は変化に対応しないと巨大企業でも社会からはじき出されてしまいます。社員のコンピテンシー(能力要件)も変わっていかなくてはなりません。社会に求められるための変化に対応できるように皆さん自身はどうやって変わっていこうとするのですか。

■日本を忘れるな

 皆さんが社会に必要な価値を作り上げ、社会に貢献ができるかどうか考えてみてください。国の成長に国民がどう貢献するかです。日本人としての誇り、国家観なくしては成長も変化もできないし、議論も深めることができません。

 グローバルな人材になるためには英語を話せることも大事ですが、相手の異文化を知るコミュニケーション能力も求められます。日本語と英語の言い回しは異なり、翻訳できない言葉も多い。自分がどのように振る舞ったら相手がちゃんと自分のことをわかってもらえるのかを考えるべきです。「微力ながら頑張ります」を直訳したら、相手が戸惑ってしまいますよ。外資系の会社に入り、海外で働く日本人は多くなりましたが、思うように活躍できない人もいます。そうした人たちは「日本を忘れてしまった」のだと思います。だったら、本国からの人材を登用すればいいだけです。日本人としてのアイデンティティーを持ち、異文化を理解することが、新しい価値を生み出す力になると確信しています。

 皆さんは社会に出て会社やその先にある国にどのように価値をもたらし、貢献できるのか、キャリアアップのような小手先ではない「骨太な生き方」を考えていただきたいと思います。

アイデア

「ウーマノミクス課」コンテスト

中西 孝輝(東洋大法学部2年、20歳)

 日本は2013年の男女平等指数ランキングで136カ国中105位だった。特に女性の政治への関与、経済活動の参加とその機会が非常に限られている。グローバル化を唱える前に、まずは男女が平等に働ける環境づくりが必要だと思う。

 そこで、「ウーマノミクス課」コンテストを開催するのはどうだろうか。それぞれの企業が「ウーマノミクス課」を立ち上げる。女性の社会貢献につながれば内容は自由だ。面白い取り組みをした企業は表彰される。こうして女性が働きやすい社会にしていけば、今より子育てをしやすくなる。女性が働き手としてより自己実現できる社会にもなり得る。社会的に性の役割の価値観を再考し、働く環境を変えていくべきではないか。

「私事」から「志事」へ

高原 勁一(中央大学商学部2年、21歳)

 私は最近、塾講師のアルバイトをしていて、「仕事」のとらえ方が以前と大きく変わってきた。以前は、給料が高いからこの仕事をしようと考えたり、あまりこの仕事は体を使わないから楽だと考えたりして、いわば仕事を「私事」と捉えていた。しかし、2年間この仕事を続けていくうちに、レベルの違った子一人一人の勉強プランやカリキュラムを試行錯誤したり、難易度別のチェックテストを作ったりするなど、専門性の高い業務をするようになった。単に塾長(上司)からいただいたマニュアルを遂行していく「仕事」ではなく、プロフェッショナルとしての志をもって「志事」を率先してするようになったのだ。

 最近では、私のような先生になりたいと考える教え子も少なくない。少子高齢化が進み、これまで培ってきた技術の伝道者が少なくなっている現在、このように仕事に対する高い志をもつことで、人生の後輩に対して道標を立てることができるのではないかと考える。

胸を張り、たゆまぬ努力

米本 博敬(大阪大学大学院薬学研究科2年、26歳)

 「病気で苦しむ人々に画期的な新薬を届けること」。学生の頃の私ならこう答えていただろう。私は製薬会社で創薬研究をしている。これはあまりにも真っ直ぐで簡潔な答えだが、現実は甘くない。新薬開発は膨大な時間、大量の資金、賢人たちの英知がそろってなお困難を極める生業である。では、新薬が生まれなかった研究は無意味なのか。社会に貢献していないのか。決してそうではない。数限りない積み重ねと不断の努力が困難の扉を開くのだ。

 どんな仕事であれ、それは社会に貢献している。しかし、その仕事をする意味を他人にもわかってもらえてはじめて社会に貢献している、と言い切れるのではないだろうか。なにかを達成したり生み出したりすることはもちろん、その道半ばにさえ社会貢献の要素は詰まっている。「胸を張れる仕事をし続けること」。いまの私はこう答える。

若者に経営陣と直接話す機会を与える

一ノ瀬 良子(中央大学商学部3年、22歳)

 若者と経営陣が直接話す機会を設け、相互間にある誤解を解き、意見を交わす必要があるのではないか。まず、若者は原田さんが言うような「誰かに守ってもらえる」という意識は持っていないと思う。大企業が経営不振になったり、大量に人員削減がされたり、バブル崩壊後に生まれた私は企業にも国にも「守ってもらえる」と考えたことはない。このような誤解も、直接若者と会話をすればすぐに分かるのではないだろうか。また、若者と経営陣が直接会話をすることで「保守的な考えを持つ上司」を介すことがないので、新しいアイデアの芽が摘まれることもないだろう。

 若者と経営陣が互いを理解し、若者にアイデアを話す場を与えることでやる気のある若者はさらに奮闘するようになると考える。そして若者が元気に活躍するようになれば社会は活性化し、活気にあふれるだろう。これが私の考える仕事を通じた社会貢献だ。

本質と向き合う

大沢 一博(慶応義塾大学大学院経営管理研究科修士2年、32歳)

 景気が上昇してきたとはいえ、長期にわたりこの国の企業が受けてきた不況からくる心理的な傷はまだ癒えない。保守的な考えに立つ上司が若者のチャレンジ精神を阻害するのも無理はない。その結果、リスクを測り効果を予測し、賢く≒保守的に行動することが正解という空気がまん延している。「誰かに守ってもらえる」という意識から抜け出せないのもそういったことの表れだろう。

 そのこと自体は理解できるが、私はそこに本質はないと思う。重要なのは「計算結果」を知り、「賢く行動する」ことではない。より良い結果を出すために、より少ないリスクで行うために、仕事や自社と「とことん向かい合うこと」。これこそが一番重要なことだ。その過程を通し、「強み・弱みは?」「なぜ?」と何度も考え、社員、取引先、顧客と本音で理解しあえることで、これまでと全く別の見え方ができるだろう。成長や成功を確信し、自信も行動力もあふれ、必ず社会貢献につながると考える。

真のニーズの把握

小林 啓吾(慶応義塾大学大学院経営管理研究科修士1年、30歳)

 仕事には、その延長線上に必ずその恩恵を受ける人が存在する。しかし、多くの企業で働く人々はその恩恵を受ける人の笑顔に会うことがほとんどないだろう。仕事の延長線上にいる消費者をなおざりにした結果、消費者が使いこなせないような過剰な機能を備えた製品やミスマッチなサービスを世の中に送り出してしまっていることが散見される。

 社会における最大の貢献価値は、消費者が手軽に欲しい財やサービスを安価に享受できることである。この価値を実現するために、すべての仕事には消費者の肌感覚と驚きを与えられるような創造性が必要だ。製造部門は定期的に消費者の生の声が聞ける現場に赴く必要があるだろう。組織としては所属部署や階級にかかわらず若手の社員が誤解を恐れずに積極的に斬新な意見を言えるような雰囲気の構築にミドルマネジメント層を中心に寛容な姿勢で臨むべきであると考える。

仕事と勉強のつながりを考え、伝える

三和 秀平(筑波大学大学院人間総合科学研究科博士前期課程1年、23歳)

 私は今の仕事に学校での勉強がどう役立っているのか考え、次の世代に伝えることが重要だと考える。今の時代は世の中にある製品と子どもたちの勉強内容がかけ離れていて子どもたちは、今ある製品が勉強の成果だと気づけていないのではないか。

 例えば、スーパーに並んでいるお菓子は理科や数学の知識を応用した研究によりつくられている。それを売っている人も数学の知識を使いマーケティングをし、英語や国語の勉強を生かし仕入れや販売を行っている。働いている本人はあまり意識していないかもしれないが、働く上で、学校の勉強が役立っている部分は必ずあるはずだ。

 それぞれ今の自分の仕事をつくっている勉強を思い出し、仕事や製品と勉強をつなぎ合わせ「この勉強をすれば、こんなことができる」ということを伝えることにより、子どもの興味関心を喚起し、学習への意欲を向上させることができる。そのような活動が日本の未来を支える力となると思う。

倫理観を持ち仕事する

寺下 加陽里(立命館大学文学部1年、19歳)

 最近、日本の多くの有名デパートやホテルなどで食品の名称を偽って販売していた事実が明らかになった。このような問題は「少しなら許されるだろう」「公に知られることはないだろう」という安易な気持ちから生まれるものである。

 実際に何年もの間、消費者の誰もが気づくことはなかった。だが、公になった途端、販売する側はそれまでの利益と引き換えに信用を失ったのである。

 私が社会人となり仕事を通して社会と関わる時には、倫理観を常に持ち続けることを忘れたくない。「倫理観」という人としての基本があって初めて、社会に貢献するとことが可能になる。「先義後利」という言葉にあるように目先に見える利益にとらわれずに道徳をわきまえることが仕事をする上で必要だ。倫理的に物事を考えられることが社会に貢献することへの一歩と考える。

自分にしか出せない価値を創る

大谷 直也(東京大学経済学部4年、22歳)

 先日、就職予定の企業の研修に参加した際に、先輩社員から聞いた言葉だ。どんな社員も入社当初は何もできないが、徐々に仕事を覚え、その会社ならではの価値を出すことに貢献できるようになる。しかし、そこで止まってはいけない。そこから自分の強みを磨き、その会社の中でもその人にしか出せない価値を創ることが、自分が社会に貢献している証しになるという。

 研修課題をうまくこなすことだけを意識していた自分にとって、社会にとって自分は価値があるのかどうかという視点は、大きな刺激になった。自分がどんな価値を生み出せるのか、いまはまだ分からない。しかし、仕事を自分の生活の中だけで完結させず、外の世界へどんな影響を及ぼすことができるのかを考えることが重要だろう。

アウトプット義務化

磯部 大樹(早稲田大学大学院商学研究科修士1年、32歳)

 私はビジネスを通じて社会に貢献するには、自分の専門性を高めてアウトプットしていくことが、最善の策だと考えます。私たちの生きる社会は「分業と協力」で成り立っており、自分のした仕事が直接的、間接的な違いはあれ、誰かの役に立っていると思うからです。一方で、それをアウトプットする機会が非常に少ないと考えています。我々のような若手がもっとアウトプットする機会を作るべきです。

 そのために、国の政策として、若い社員たちに、自身が手掛けているビジネスの問題点や改善点、もしくは業界に関する提言をリポートにまとめるのを義務付けてはどうでしょうか。四半期に1度のペースで、A4の紙1枚のリポートを作らせるのです。無記名でも構いません。自身の社会に対する思いについて定期的に考え、書き記すという経験が社会の発展につながると思います。経営者にも社員たちのリポートを読み、フィードバックすることを義務付けます。意思決定する人と若者との対話も社会の発展には必要です。

何をすべきか教える

並木 隆広(明治大学政治経済学部4年、22歳)

 「若者は国の命だ」。これは戦後間もなく創立された母校の校歌の一節である。若い力が社会を変えるパワーの源であるというのは現代でも同じ。実際、私の周りの学生は意欲に満ちあふれている。より良い社会の構築ために何が必要かを考えている学生は多い。

 ただ、そのために今、何をすべきなのかつかめておらず、ひとまず「受験」や「就職活動」のためといった近視眼的な行動を取っているようだ。若者たちの意欲が社会に出てからも十分に発揮され、具体的な行動に結びつけば、日本は骨太な国になれるはず。そこで日ごろ感じている課題を実現する手段について教える「ビジネス学」の導入を提案したい。例えば、営業学では、様々な企業の人が講師として授業に参加して営業のノウハウや考え方、知見を伝える。

 私はかつて企業から製品企画の課題を与えられ、企業の人をまじえながら内容を検討したり、提案したりしたことがある。自分のキャリアを考える上でも有意義な経験だった。企業の人が仕事で得た知見をもとに、若者に今、何をすべきかを伝える機会をつくる。若者たちがそれに気付けば、未来に向けた行動を自ら起こすのではないだろうか。

100年後を考える

滝 孝亮(海陽中等教育学校1年、13歳)

 仕事を通じて社会にどう貢献するかは、仕事をしている人がどういう気持ち、どういう心構えで仕事をしているかが重要である。ではどういう気持ちで仕事をしたらいいのか。これは人それぞれであるが、私は「100年後の社会」を考えて仕事をすることだと思う

 社会をよくしたり、変えたりするのは時間のかかることだ。だから、いま社会をすぐよくしようと思うのではなく、いま自分がしている仕事が「100年後の社会」をよりよくするのだと思うことが大切なのではないか。また、いまの社会は「100年前」に社会をよくしようと必死に働いてきた人の結晶であるということも忘れずに仕事をすべきなのではないかと思う。

講  評

この国の設計図 問い直す必要

 学生の皆さんから「仕事を通じて社会にどう貢献するか」という私の問い掛けにたくさんの投稿をいただき、本当にありがとうございます。実は思いがけないことに2月3日に載った私の意見について、社会で活躍されている著名な人からも私と同じような問題意識を持ち、日本の未来作りについて危惧していることを知り、意を強くしました。経営者や政治家の意識を変え、この国の制度設計を改めて問い直す必要性を痛感したところです。

 その制度設計について言及しているのが、「『ウーマノミクス課』コンテスト」です。生まれたときの男女比率はほぼ半々なのに、官庁や企業の女性の管理職比率がなぜあれほど低いのでしょうか。優秀な女性が埋もれてしまっているのは明らかです。アベノミクスの1つである成長戦略をいくら描いてもそれを実行するのは人です。このままだと「誰が実行するのよ」となりかねません。仕事をしながら子育てをしている女性の姿を見ていると、限られた時間の中で実に効率よく仕事をしていることに気がつきます。当然、男性にも意識改革が必要です。残業などで帰宅時間が不定期だと、子育てもおぼつかないからです。

 「『私事』から『志事』へ」は、人の生き方の本質を突いていますね。「誰のために」「何のために」仕事をするのかを認識しないと人は成長できません。志の高さが常に価値を高めようと行動することになり、いろいろな社会に役立つ戦略も浮かんできます。それもいくつも湧いてくるものです。そして、3つ目の「胸を張り、たゆまぬ努力」は今の学生の皆さんに必要な心構えだと読みました。胸を張れる仕事とは「いい学校に入って、卒業後は大企業で勤めること」だという風潮が根強く残っています。これを全否定する気はありませんが、すべてでないことは実社会で色々な経験を積み重ねてきたビジネスパーソンならわかっています。中小企業の多くは匠(たくみ)の技とか、その会社でないと作ることができない技術をたくさん持っています。経済社会を構成する重要な役割を担うと共に、自分の生き方そのものが投影されているのです。「『いい学校、大企業』の枠の中で生きていけば成功」だなんて思わないでほしいです。こうした枠の中で考えているから、日本社会にはギャップ、ズレが生じ、社会的な損失になっていることに気がつかないといけません。

 熱い気持ちのある学生の皆さんはまず健康に留意し、運動を心掛けて下さい。健全な体があれば、自分で世の中に役立つ仕事をうむ発想力が培われるはずです。

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