未来面「将来、私たちが直面するリスクにどう向き合うか」経営者編第13回(2013年11月5日)

課題

将来、私たちが直面するリスクにどう向き合うか

柄澤康喜・三井住友海上火災保険社長

※肩書き等は掲載当時のものです。原稿のため、掲載時とは差異があります

〈柄澤康喜さんの主張〉

●21世紀に入って予測不能の大災害や大事件が相次ぎ、企業や個人が対処しなければならないリスクが増えた。

●損害保険会社は想定されるリスクを洗い出し、ベストな対処方法を提案するリスク・マネジメントが根本。

●「未来に夢を持ち、挑戦する過程で生じるかもしれない危険や損失」であるリスクにどう向き合うか考えてほしい。

 地球環境の変化や経済、社会両面でのグローバル化の進展で、世界のリスクは確実に巨大化し、複雑化しています。2011年の東日本大震災は未曽有の被害を日本にもたらしました。毎年の台風も大型化しており、大型の竜巻が国内でも発生するようになりました。海外では2年前のタイの大洪水など日本企業の経済活動に深刻な打撃を及ぼす災害も増えています。タイの大洪水では自動車、電機・電子などのサプライチェーンが寸断され、タイ国内だけでなく、日本や各国の工場の稼働にまで影響がでました。企業活動のグローバル化により、災害の影響も地球規模に広がっています。

■「減災」も保険の仕事

 金融市場でも08年のリーマン・ショックや欧州の債務危機が引き金となって世界全体が連鎖的に不況に突入するといった現象も起きています。中国の反日暴動や多くの日本人が犠牲になったアルジェリアでのテロ、さらに新型インフルエンザ、サイバーテロやパンデミックなど予測不能のリスクが急激に拡大しているのです。

 損害保険会社の使命は災害や事故などで損害を受けた方々に保険金支払いを通じて、再建、再生のお手伝いをすることですが、さらに一歩踏み出して、防災や被害を最小限にとどめる「減災」も業務のなかに組み込まれるようになっています。損害保険では「想定外は許されない」を原点に長期安定的な補償やサービスを提供しようと努めています。そのなかで、我々の技術や対応力も高度化してきました。東日本大震災の大津波の人的、物的な被害の巨大さを目の当たりにして、津波被害を確率的に予測するシステムを開発しました。

 もちろん巨大な災害で保険金支払いが巨額なものになっても私たちの経営が揺るがないように、リスクを管理する仕組みもできています。従来の再保険会社の活用に加え、金融資本市場の活用です。例えば、大型台風に対する損害の備えとして「AKIBARE2」という商品でリスクを証券化しました。再保険市場が安定的に機能していたとしても、自然災害の大規模化にともない大量の再保険を調達するのが難しくなることも想定されるからです。証券市場を活用し、我々自身の補償能力を高めているのです。

 個人にとってもリスクは高まっています。犯罪の高度化、雇用の流動化などによって個人が自ら対処しなければならないリスクが増えました。個人は組織に比べ非力な存在ですから、「保険などで対処しなければならないリスク」と「未然に防ぐリスク」を選別することが重要になります。損保会社としては、個人のリスク対応を保険商品の販売だけでなく、リスク回避に有効な情報の提供などでも支援するようになっています。一例として、スマートフォン向けに「スマ保」というアプリを提供しています。その機能のひとつが「運転力診断」です。これは車にスマホを取り付けて運転し、運転適性を判断したり、危険な場面を録画で振り返ることによって安全運転への意識を高めたりすることで、事故のリスクを減らすものです。交通事故の保険金支払いは高止まりしており、事故を減らすことで保険収支を安定させ、幅広い個人に自動車保険を提供できる環境をつくる狙いです。

 損保会社は保険を売る仕事と思われがちですが、想定されるリスクを洗い出し、リスクへのベストな対処方法を提案すること、すなわちリスクマネジメントが根本です。リスクをマネジメントする上では、国の制度構築も必要になります。日本には、官民合同で運営する地震保険制度があり、東日本大震災で被災された方々に多くの保険金をお届けすることができました。東日本大震災の後、中国の保険行政の関係者が日本の地震保険に関心を持ち、我々も手伝って地震の再保険や損害料率計算などの専門的な研修会を開催しました。大洪水に見舞われたタイも日本の制度に学び、「自然災害保険ファンド」を立ち上げました。日本をひな型にした損害保険をアジアの各国が作り上げることは日本企業のアジア展開にもプラスになるのは間違いありません。

■アラビア語で「明日の糧」

 保険の起源には諸説ありますが、紀元前2000年ごろにバビロニアで旅商人が隊商を組み、遠方と交易する際に盗賊による被害をみんなで分担し、被害者を救済する仕組みがありました。地中海沿岸では12~13世紀ごろに海上貿易で遭難などにあった場合は船と積み荷の返済を免れる「冒険貸借」という仕組みがあり、海上保険に進化しました。損害保険はそれぞれの時代に見合った形で、リスクに備え、社会、経済を支える重要なインフラとなってきたのです。

 リスクの語源は、イタリア語では「勇気を持ってこころみる」、アラビア語では「明日の糧」という意味があります。つまり「未来に夢を持ち、挑戦する過程で生じるかもしれない危険や損失」がリスクなのです。若い皆さんの柔軟な発想で、「将来、私たちが直面するリスクにどう向き合うか」を考えていただきたいと思います。

アイデア

社会の「免疫力」高める

大前 俊暁(海陽中等教育学校3年、15歳)

 リスクが多様化するなか、いくら「リスクを最小限(想定外をなくす)にする」といってもそれはイタチごっこになりかねない。リスクと立ち向かうためには「リスクからどう回復するのか」に重点を置くべきだ。生物は無意識にそれを理解して進化したのではないだろうか。絶対に傷つかない体に進化するよりもいち早く回復できるよう免疫機能を高めたり、外敵や気候変動といったリスクからうまく逃げたりして環境に適応したものが繁栄を享受できたのではないか。

 リスクから立ち直るという点に比重を置くことで、人間の社会も生物のような柔軟性や多様性を維持できるようになるのではないだろうか。「リスクをすべて洗い出す」ことよりも、「リスクに対し臨機応変な社会」を作ることが将来につながると考える。何か不都合があったら周りより自分を変える、それが生き残る道と信じる。

備えた人にポイント付与

保科 直人(中央大学商学部2年、20歳)

 将来あるかもしれない、目に見えないリスクに備えるのは難しい事だ。そのリスクを目に見え、手に入るものに置き換えることで、リスクと向き合いやすくしたい。例として、「準備ポイントシステム」という仕組みを考えた。これは、将来、導入が検討されているマイナンバー制を利用し、官民共同でネットなどを駆使してリスクへの備えを学び、学んだ人はポイントを貯められるというシステムだ。

 将来のリスクを危険度に応じて分類し、大規模の被害が予想される地震や津波などの対策を学ぶ。学ぶ事によって得たポイントは、公共料金などの支払いに使用できる。事前準備という形で知識を蓄え、リスクと向き合うのである。形のないものへの対策は、いくらやっても満足感が得られず、やめてしまいがちだ。しかし、このように何らかの見返りがあるとリスクへの備えを怠らなくなるだろう。

「一家庭一作物」

金子 日南(明治学院大学経済学部1年、19歳)

 私が今回焦点を当てたい未来のリスクは地球温暖化と日本の食糧自給率の問題だ。この問題に立ち向かう解決策として提案したいのが「一家庭一作物」という政策である。その名の通り「一つの家庭につき一つ以上の作物を栽培しなければいけない」ようにする政策だ。

 定着までに時間がかかるかもしれないが、サイクルが完成すれば将来訪れるかも知れない食糧不足の問題を市町村単位で解決できるかもしれない。作物を育てることで二酸化炭素を吸収する植物が増えるので温暖化の進行を少しでも軽減できる効果も期待できる。

事前にマニュアルを作成

森尾 友里加(奈良先端科学技術大学院大学 博士前期課程1年、23歳)

 将来のリスクに対しては、2種類の手段が考えられる。 1つ目はリスクの回避。まず、どのような事態が最悪かを想定し、次に、最低限何の準備があれば最悪な事態を確実に避けられるか、を考える。例えば、「気付かないうちに深刻な病が随分進行していた」という事態を防ぐには、年に1度、健康診断を受けることが大抵は有効だ。病気の早期発見が治療の幅を広げ、しばし延命にも繋がる。災害に対しては定期的な準備や避難訓練が相当する。

 2つ目はトラブルシューティングの技術だ。集団でトラブルに対処する場合、前もって、人の得手不得手に基づいた役割(器用な人はけが人を手当する、など)を決める。事前の役割分担により、迅速、且つ効率的な対応が可能になる。個人でトラブルに対応する場合も前準備は重要で、いくつかのケースを想定し、事前にマニュアルを作成する。パニックになっても、マニュアル通りに動くことで最悪の事態だけは必ず避けることができる。

事態に柔軟な対応を

水沢 友里奈(日本女子大学人間社会学部3年、21歳)

 人生におけるリスクと同様に生活におけるリスクも予測ができない。“完璧な備え”は、実現が不可能である。だからこそ大事になってくるのはリスクが生じたときの『柔軟性』ではないかと考える。

 今年9月に埼玉・千葉・栃木の3県で発生した竜巻による被害への国の対応は決して柔軟なものではなかった。被災者生活再建支援制度により、支援金支給の条件を「全壊が同じ市町村に10世帯以上」と定めたため、『支援の差』が生じてしまったためだ。 どんな場面においてもリスクに対する備えをしておくことは、重要なことである。被害を最小限にとどめるだけではなく、心の安心にも繋がるであろう。

 しかし、一番大切なことは完璧な備えではなく、事態が生じたときの柔軟な対応力ではないだろうか。リスクを完全に想定できないからこそ、どんな状況でも適切に対応できる力も重要であると考える。

共同保険でリスク共有

堀江 紗耶香(東京理科大学経営学部3年、21歳)

 リスクはあらゆるところに存在し、夢を実現するための挑戦もリスクを伴う。ただこれを抑制していては社会が発展しない。リスクを排除しようとするのではなく、リスクが生じるのを恐れない環境づくりが重要だ。そのために、リスクを共有する仕組みを提案したい。

 リスクの共有とは、人々がお互いの挑戦を支えあうことである。夢に向かって挑戦する人たちのための保険をつくり、多くの人に加入してもらう。それぞれの挑戦を支えあうのだ。だれかが挑戦に失敗し、損害が発生した場合には、その保険に加入している人たちの保険料から保険金が支払われる仕組みにする。これがうまく機能すれば、リスクを恐れずに挑戦しやすくなる。

 また、リスクを共有することで多くの人がつながるため、互いの挑戦を応援して切磋琢磨するといった効果も生じる。幅広い切り口で物事を考えられるようになり、リスクを明確にしたり、リスクマネジメントを円滑にしたりするのにも役立つだろう。変革が必要とされる今こそ、挑戦者同士を結びつける仕組みをつくるべきだ。

今までにない挑戦を支援

高沢 慧伍(早稲田大学商学部3年、21歳)

 挑戦する企業や人を支援することでリスクに対応、もしくはリスクを軽減できると考える。例えば、地震などの災害予知の研究や、海外で新たなプロジェクトに挑戦する企業や個人を、国をあげて支援する。その挑戦の過程で発見された新たなリスクを「経験知」として蓄えるのだ。

 今までにない新たな挑戦をすると、予知できない何かしらの支障に直面することが多い。その蓄積が、いずれ発生するかもしれない大きな災害などのリスクに備える糧になるはずだ。「今までになかったリスク」をなくすために、積極的に「今までにない」を作り出し、それを支援していく。その積み重ねが将来発生するリスクの軽減にもつながる。

経験やデータを広く共有しよう

鈴木 悠也(慶應義塾大学大学院理工学研究科、スウェーデン王立工科大学修士課程、24歳)

 リスクに向き合うためにはまずそのリスクの評価、定量化が欠かせない。将来のリスクをきちんと「数字」で把握しておくことが行動を決める目安となるはずだ。今日外に出たら10%の確率で事故に会うと言われたらほとんどの人は家にこもると思うが、これが100万分の1だったら「そんなもの気にしていられない」となるだろう。つまりリスクは程度問題なのだ。

 リスクを定量化するためには過去からのデータ、数値化された経験が必要で、なおかつそれらは広く共有されるべきものだ。将来のリスクと向き合うための土台(データ)がすべての人に提供され、さらに研究者がそれを用いてより良い予測を作り、パブリックに還元していく。このように人類の知恵が蓄積されていくことが望ましい。「私が経験したのだからあなたも経験して学びなさい」では進歩の速さは限られてしまう。小さなデータからでも将来のリスクに対する知恵の蓄積を始めていこう。

多重化で備える

相場 翔太(工学院大学情報学部3年、20歳)

 私が将来のリスクに備えて導入したいのがfault toleranceの考え方である。システムの信頼性設計のための概念で「構成部品を多重化して故障しても耐え切る」ことを意味する。リスクに直面したときに前もって仕組みを多重化しておけば耐え切ることができる。例えば、企業にとっての多重化とは拠点を増やすことだ。地震などの災害が発生しても、企業を存続させることができる。新たな拠点を被災地に置けば、震災の復興にも役立つだろう。

 個人レベルでは「メッセージング」の多重化が考えられる。SNS(交流サイト)や携帯電話会社が提供するMMS(マルチメディア・メッセージング・サービス)などを同時に使う。災害が発生しても代替手段があれば、1つのメッセージが遅延しても、もう1つのメッセージは相手に届くかもしれない。多様なリスクに対応するためには、1つの手段だけに頼るのではなく、複数の方法を確保しておくことが重要だ。

リスクの先を見つめる

鳥谷部 美沙希(桜美林大学リベラルアーツ学群1年、19歳)

 はっきり言う。私はリスクから逃げる。そんな臆病者の私が、「将来直面するリスク」への向き合い方を考えた。まずは情報収集。臆病者にとってこれは最も大事なことだ。全ての土台になる。次に準備。ここまではリスクを最小限にするためのものだ。最後に思い切った行動力。リスクを乗り越えるためには必要不可欠だ。

 中学でのソフトテニス部で、私は失敗を恐れてポジションである前衛の仕事を全うできなかった。そこで動きのパターンを覚え、練習を繰り返した。試合で相手をよく観察すると「ここだ!」という場面が来た。思い切って攻撃を仕掛けるとボールはラケットへと吸い込まれていた。いまそのパターンは私の最強の武器だ。準備を怠らず、相手の情報を瞬時に集め、思いきり行動したからこそ手にできた。

 「将来直面するリスク」のその先を見ていきたい。乗り越えた先にあるものはすばらしい成功か、それとも強力な武器か、それ以外か。自分の目で見たい。

ビッグデータの活用を

平野 佑佳(青山学院大学社会情報学部4年、21歳)

 総務省によると、ビッグデータとは「事業に役立つ知見を導出するためのデータ」であり、そのビジネスは「ビッグデータを用いて社会・経済の問題解決や、業務の付加価値向上を行う、あるいは支援する事業」と定義している。ビッグデータを活用することにより、未来に生じるかもしれないリスクに対して、備えができると考えられる。

 これからの日本では、専門家だけではなく、国民ひとり一人がビッグデータを活用できるようになり、各々の観点からリスクに向き合っていくことが望ましい。しかし、すぐにすべての国民がデータを読み解けるようになるわけではない。そこで、今後の社会を担う大学生及び院生に、文理の垣根を越えたデータ解析の学習に取り組んでもらう。一人でも多くが知識を身につけることにより、専門家や有識者だけではなく、国民が自らリスクに向き合う契機になるのではないか。

講  評

若者よ海外へ飛び出そう

 「リスクにどう向き合うか。」について学生らしい視点で多くの新鮮な意見をいただき、うれしく思っています。いただいた意見の中には、リスクへの対応として「適応力」「回復力」をあげたものが多く見受けられました。

 私たち保険会社の役割のひとつに「リスクマネジメント」があります。これは既に発生している、あるいは将来に発生するかもしれない損失を軽減、回避する活動で、「適応力」に近い概念です。

 そして、被った損失から立ち上がり、新たな一歩を踏み出そうというのが「回復力」でしょう。採り上げた意見の中には、「免疫力」「臨機応変」と表現したものもありました。このように学生の皆さんが「リスクと向き合う」という課題の本質をつかんでくれたことを頼もしく感じました。

 中でも将来の「マイナンバー制」を利用し、リスクへの備えを学んだ人にポイントを与え、公共料金の支払いなどに充てるというアイデアは斬新な切り口だと思います。

 「適応力」を持つにはリスクをいち早く認識し、正しく評価することが求められます。個人がそれぞれリスクへの適応力を高めれば、社会全体の被害を軽減することにもつながるはずです。

 さて、私が最も懸念しているリスクのひとつに地球温暖化に伴う気候変動があります。先日も超大型台風がフィリピンに甚大な被害をもたらしました。気候変動は、自然災害リスクの巨大化に加え、生態系や食糧生産へも影響し、人類にとって深刻な脅威となりつつあります。

 投稿の中にも、この問題に着目し、二酸化炭素の増加と食糧不足の問題を同時に解決するために、各家庭が一つの作物をつくる「一家庭一作物」という具体的で面白いアイデアがありました。

 気候変動にかかわらず、巨大なリスクや未知のリスクに対応するためには、備えを高度化、大型化する必要もあります。その有効な手段として、官民の連携が挙げられます。例えば、当社では国内のiPS細胞に代表される再生医療の分野で、産業化に向けた取り組みを進める「再生医療イノベーションフォーラム」に参加しています。

 また、海外でも保険市場が十分に発達していない太平洋島しょ国の自然災害に備える仕組みとして設立された「太平洋自然災害リスク保険パイロット・プログラム」に参画しています。

 保険という仕組みの根底には「未来に向けた挑戦を支えたい」という思いがあります。若い皆さんには将来のリスクと向き合いながら夢に向かって挑戦を続けてもらいたいと考えています。

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