未来面「過去の経験や失敗をどう生かしますか」経営者編第14回(2013年12月2日)

課題

過去の経験や失敗をどう生かしますか

尾堂真一・日本特殊陶業社長

※肩書き等は掲載当時のものです。原稿のため、掲載時とは差異があります

〈尾堂真一さんの主張〉

●日本企業は組織をまとめるリーダーの存在が大切だが、リーダーシップを取るという勇気をもった人が少ないのが残念。

●若いときの失敗は修復できる。重要なのは同じ失敗を犯さない一方で、失敗を恐れず色々なことにチャレンジすることである。

●失敗の経験やくじけそうになったことがあるはず。その原体験から将来、未来にどう生かしていくのか話を聞かせてほしい。

 日本特殊陶業と聞いてどれほどの学生の皆さんがご存じでしょうか。我が社の主力商品に「スパークプラグ」(点火栓)がありますが、これはガソリンなどで動く自動車やオートバイ、飛行機などには必ず使われており、エンジンを動かすためには必要不可欠な部品です。この分野で世界シェア40%弱を持っていて、今では売上高の8割が海外です。地味な会社ですがグローバル企業です。現在はダイバーシティーを重要な経営戦略と位置付け、多様な人材、特に女性の積極的な登用を進めています。また、近年ではセラミック技術を活用した半導体・電子部品や人工骨などの医療分野にも事業領域が広がっています。

 こうしたモノ作りに携われることや、海外でも活躍できることからこの会社に入社しました。今から36年前のことです。

■「お前、辞めるなよ」

 しかし理想と現実が違うことはよくあります。同期入社の仲間が入社して3、4年で海外赴任になる中で、取り残された自分がいました。一度、海外行きが決まったにもかかわらず、突然、上司から「この話はなかったことにしてくれ」と言われたこともあったのです。さすがにこれは堪(こた)え、会社を辞めようと思い悩みましたね。自分に与えられた仕事に地道に愚直に取り組んできたつもりでしたので、心が折れそうになったのです。

 そんな意気消沈の日々を送っている時に自宅に1本の電話がかかってきました。受話器から聞こえてきたのは違う部署の上司の声です。「お前、辞めるなよ」。よほど職場で覇気のない姿をさらしていたのでしょう。短い会話でしたが、考え直すきっかけをつくってくれました。そして今まで以上に、地道に愚直に仕事に取り組むようになった気がします。念願の海外赴任は入社10年目、場所はドイツでした。

 初めての海外赴任は戸惑うことばかりです。でも欧米流の合理的な考え方、トップダウンによる意思決定の在り方などを目の当たりにしたのを鮮明に覚えています。その後、日本と海外赴任を繰り返して現在に至っていますが、気づいたことは欧米企業は個々人の力に負うのに対して、日本企業は個々人が最高のパフォーマンスを発揮できるように組織をまとめるリーダーの存在が大切であることです。

 日本人の場合、その責任の重さなどからリーダーシップを取るという勇気をもった人が少ないのが残念なところです。失敗を恐れ、マイナスイメージが付くことを避けることもわからないでもありません。でも、考えてみてください。自分がこの世に生まれてきた価値を考えると立場、立場の使命感みたいなものが湧いてくるはずです。これが人間が生きていく上で大きなモチベーションになるのではないでしょうか。

 学生の皆さんは卒業後の人生に対して夢、希望、不安などいろいろな思いがあるはずです。多くの人は会社人生を歩むことになりますよね。少しばかりの人生の先輩としてお伝えしたいことがあります。

 会社は競争社会です。基本的には努力をした実力のある人が高い職制(役職)についていきます。その職制が高くなればなるほど仕事の内容、難易度も高くなりますが、それに合わせて情報量や社内外に関係する人たちも増えるものです。相手の立場になって物事を考えることが求められます。

■会社で人間性高める

 もちろん時には相手のために厳しいことを言う勇気も必要です。これは国際人、グローバル人材にも通じることで、相手の文化を理解、尊敬しながら自分の主張もしっかり言うことになります。相手の立場に立てない交渉事などあり得ません。よくWin-Win(ウイン-ウイン)と言いますがまずは相手のWinを考えないと自分のWinなどあり得ません。高い理想を持ち続けることも大切です。

 会社人生を送り続けることで人間性を高めることが可能になると確信しています。その人間性は結局、自分としてどれだけいろんな経験を積み重ねてきたかです。若いときの失敗の修復はききます。重要なのは同じ失敗を犯さない一方で、失敗を恐れず色々なことにチャレンジすることです。

 会社も社会の一員です。

素直な気持ちで自分を信じることができる人は必ず社会に役立つ存在になれます。

 若い皆さんにもいろいろな失敗の経験やくじけそうになったことがあるはずです。その原体験を将来、未来にどう生かしていくのか話を聞かせてください。

アイデア

人生は足し算

相場 翔太(工学院大学情報学部3年、20歳)

 人生は「足し算」であると考える。過去の経験も、失敗も、それぞれひとつのことにすぎない。人は過去の経験や失敗を積み重ねることで学び、成長するものだ。例えば、サッカーのリフティングでは、何回も失敗してコツをつかむことによって、うまくできるようになっていく。リフティングが上手になれば、ボールタッチがうまくなる。チームの監督から認められ、試合にも出られるようになる。サッカー以外でも同じだろう。過去の経験や失敗の「足し算」を繰り返した人が、いろいろなフィールドで活躍できるのだと思う。

自分を切り離し、客観視する

福田 幸弘(慶応義塾大学大学院経営管理研究科2年、33歳)

 過去の経験や失敗が人生の良い糧となることは、過去を客観視できるようになってからでしか分からない。いち早く立ち直り、次のアクションに移る重要性を頭では分かっているつもりでもそれをそしゃくし、体現することは難しい。

 そういう時は、自分が壮大な人生マップを旅する主人公だと考えればよいのではないか。そして、その主人公である「自分」を操るのは、少し離れた場所にいる現在の自分と考える。そうすれば、直面する出来事や失敗を自分から切り離して考えることができ、冷静さを失うこともなくなるだろう。むしろ「自分」を操る立場として、過去の出来事や失敗を人生マップの中でどのように位置付け、どのように活用できるかを考えるのではないか。そういった視点を持てば、現在の自分にとってつらいことが、主人公である「自分」には、ある面では良い経験や失敗だと、受け止めることができるのではないだろうか。

明確な目標設定と正しい原因追求

浅井 隆士(海陽中等教育学校5年、17歳)

 失敗や経験を生かすために重要なことは、明確な目標を設定することである。目標の設定では、自分の誤りを正しく見つめ直すことがポイントとなる。目標と今の自分の取り組みに、どのくらいの差があるのかを明確に確認し、そのギャップがなぜ発生しているのか原因を正しく把握するためだ。誰が見ても明確かつ測定可能な目標を設定しなくてはならない

 自分はこれまで、「楽しく取り組めればよい」などの曖昧な目標を設定していた。目標とそれに向かって取り組んだ自分とのギャップが明確ではなく、何が足りなかったのかを正しく把握できず、意味のある改善を施せなかった。現在は目標を設定する際、他人との対話の中で整理して紙に書くなど、情報を自分の頭の中から外に取り出して考えることで客観的視点を踏まえ、より正しい目標を設定するよう心がけている。

もう居眠りしない

芳野 翼太(東洋大学文学部2年、20歳)

 「最悪だ、やってしまった」――。一昨年の暮れのこと。アルバイト先でミーティングがあった。テーマは年末年始に売り上げを伸ばすにはどうするかというもの。連日の夜更かしでボーッとしていて眠ってしまった。気付いた時にはミーティングは終わっており、店長には「ふざけるな」と怒鳴られる始末。最後には「内容を言え」と言われ、大勢の前で恥をかいた。

 それを機に人が話している時はどんなささいなことでもメモを取るようにした。自分自身が会話の中心にいれば眠くならないということにも気づき、今では、どんな小さなプロジェクトにも首を突っ込んでいる。眠気も抑えられ、前向きな姿勢が評価され一石二鳥である。どんな人でも失敗する。しかしその失敗を糧に挑戦し続けなければならないと自分に言い聞かせている。

結果をイメージする能力を高める

楊 円円(中央大学商学部1年、24歳)

 中国には「以銅為鏡、可以正衣冠。以人為鏡、可以知得失。以史為鏡、可以知興替」という言葉がある。銅を鏡として見ると自分の服装が整っているかどうかがチェックできる、他人を鏡として見ると自分のやり方が正しいかどうかが分かる、歴史を鏡として見ると物事の発展が予測できる、という意味だ。だから、私たちも過去の経験や失敗などの歴史を通じて物事の発展をイメージし、時間や行動などの無駄をなくすべきだ。

 私は高校3年生の時、中国の大学を受験するか日本に留学するかを迷っていた。その時同級生はみんな、大学合格のために必死に勉強したので、私も努力すればなんとかなるのではないかと思った。そして私も留学のことはしばらく置き、毎日受験勉強をしていた。60人くらいのクラスの中で、結果的に大学試験に受かった人は10人だけだった。成績の順位が学年の中位だった私は、行きたい大学に進学することができなかった。

 もし、その時、私が自分の能力を判断できて最初から諦め、その時間に日本語などを勉強すればきっと今の日本語能力より上手になったと思う。この経験を生かし、今の私は何かやろうと思う時、良い結果を出すためにどういう戦略で進めばいいかをイメージし、無駄なことをしないようになった。

 私は、過去の経験や失敗をフィードバックしながら結果をイメージできる能力が若い人には不可欠だと思う。

自分用トラブルシューティングノートを作る

高橋 理貴(中央大学商学部2年、21歳)

 私は幼いころからサッカーをやってきたが、当時指導していただいていたコーチから徹底的にたたき込まれたことがある。それは失敗をノートに書くことだ。失敗の内容、なぜ失敗を犯してしまったのか、考えられる対応策とその成否を毎回、練習後に欠かさず記入してきた。

 この方法はスポーツ以外の勉強やコミュニケーションのときにも使える。私は現在、いつでも簡単に整理、閲覧ができるようにスマートフォンに分野別に記録している。自分だけのトラブルシューティング用の記録媒体を持つだけで自分の弱点や失敗の傾向が容易にチェックでき、自分を少しだけ客観的に見つめることができるようになる。同じ失敗を繰り返してもそれだけ自分の欠点をより深く知ることができ、その後に大きな達成感とともに成功をつかむことも数多くあった。これにより失敗やリスクを怖がらずにまい進することができるようになる。失敗を積み上げて土台を作り成功をつかみとることができるのだ。

自ら工程を考える

鈴木 理永(愛知学院大学商学部3年、21歳)

 私は一つのことに長い時間をかけてしまう。アルバイトでは終了予定時刻よりもいつも遅れる。自分が当たり前のようにやっていることがいけないのかとも感じるが、時間のことも気にしないといけない。

 こうした過去の経験から、時間を逆算して物事を効率よく進めることが大切だと考えるようになった。以前は何も考えず与えられた仕事に取り組んでいたが、目の前のことに集中していると時間は過ぎていく。自分で作業工程を考え、時間を逆算することによって明確な目標が生まれるのではないだろうか。

 社会に出ると時間との勝負になる。限られた時間の中で自分が与えられたことを責任もってやっていくことが大切になる。ただ、締め切りや期限にしばられ、失敗するのではと不安に感じていると何も進まない。自ら工程を考えることによって、深い思考や積極性が生まれてくるのではないかと思う。

失敗日記

嶋崎 沙朱(桜美林大学リベラルアーツ学群4年、23歳)

 私は毎日日記をつけている。疲れていてどうしようもない時には次の日に書くこともあるが、一言だけでもいいので、その日あったことを書くようにしている。その日に何を感じたかは時間とともに薄れていく。しっかり書きとめておくのが大事である。何か失敗してしまった時には、目立つように赤ペンで書く。こうすると後で読み返したときにわかりやすくなる。うれしいことがあったら、緑のペンで書くなど、その時の感情によって色分けする。そして、日記を時々読み返すことが重要である。自分がしてきた経験や失敗を思い起こし、その時に何を感じたかを思い出せる。私は特に何かつらいことがあった時に日記を開くようにしている。日記には今までの自分が詰まっている。その自分から勇気をもらうのだ。毎日つけてきた日記こそが自分のバイブルである。

悩みを共有

高原 淳(九州大学法学部1年、19歳)

 私は他人と積極的に悩みを共有するように心がけている。中学生のころ、学校生活に行き詰まったことがあった。しかし、当時の私は自分から周囲の人に悩みを打ち明けるのは自分の弱さを認めることであり、恥だと思っていた。一方で、私は周囲の人の救いの手にも期待していた。だが、願っていたほどには支援してもらえず、結果的に不信感を募らせてしまった。今、この経験を振り返ると、当時の私は他人に何かしてもらうことばかり考え、極めて受動的だった。しかし、他人の協力を得るには、自ら能動的に働きかけることが不可欠で、それが困難を乗り越えるための最善の策だと思う。恥ずかしがらずに自ら率先して悩みを話し、同時に他人の相談には真摯に耳を傾けられるようになりたい。

あの一瞬が教えてくれたこと

水沢 友里奈(日本女子大学人間社会学部3年、21歳)

 どうしても忘れられない瞬間がある。

 小学6年のとき出場した全国水泳競技大会200メートル個人メドレー決勝。150メートルを折り返した時点で3位。「これはもらった」と思ってタッチ板をたたいたが、結果は0.02秒差の4位。私自身3度目の4位に終わり、初のメダル獲得を逃した。

 どうしてあのとき、油断してしまったのであろう。この一瞬を今まで忘れることができず、「後悔先に立たず」ということを体感してきた。けれど、この一瞬があったからこそ、私は大いに成長することができたとも思う。

 今この瞬間は取り戻せない。だからこそ、常に目の前のことに対し120%の頑張りを自然と心がけてきた。先のことを見据えて計画を立てるのも大事だが、日々の生活の延長線上に未来の自分があると考え、常に「やるべきことをやらなくてはいけない以上に」と意識して行動してきた。この習慣を身につけることができたことは私の大きな武器である。

講  評

困難な道を選び、愚直に歩もう

 学生の皆さんから寄せられた数多くの考えの中から、自分なりに3つのキーワードをもとに選んでみました。これからの長い人生にとって必要な言葉だと思うからです。1つ目は愚直さです。素直さと言ってもいいかもしれません。2つ目は客観性。そして3つ目は積極性です。

 自分の歩みに照らすと仕事の中でいくつかの選択肢の中から決めなくてはならないことがよくあります。実現までの難易度が高いもの、中くらいなもの、簡単にいきそうなものに分かれたとしましょう。皆さんならどれを選ぶでしょうか。私はあえて難しいのを選ぶことが多いです。困難さを乗り越えた時の達成感もありますし、実現に向けた求心力が組織の中に芽生えるからです。難しいことに愚直に取り組み、冷静に客観的に互いの姿を見る目も必要です。そして何よりも難しいことを乗り越えて進もうとする積極性が組織内に醸成されていきます。近道はなく、遠回りをすることを心掛けています。

 アイデアを読んで目に留まったのは「人生は足し算」です。大変、シンプルだけど人生を言い当てていますね。失敗は後ろ向きではなく、それを生かそうとする積極性の表れです。「失敗を積み重ねる」というくだりは、大リーガーのイチロー選手が語る「失敗を体に刻む」に通じます。愚直さだと思います。

 「明確な目標と正しい原因追及」については、目標の「見える化」といえるでしょうか。人生も会社もいつもベストシナリオで進むはずはありません。ワーストにも対応できるような心の準備と、それを克服しようとする積極性がこのアイデアにはにじみ出ているような気がします。

 もう1つ、紹介したいのが「自分を切り離し、客観視する」です。おそらく今までに色々な失敗や経験をされてきたのでないかと推測されます。その原体験から生まれたアイデアと読めました。

 改めて自分の会社に置き換えてみて、学生の皆さんに課したテーマについて考えてみました。セラミックスという素材はかつては匠(たくみ)の世界で作られてきました。まさに、試行錯誤、失敗の繰り返しだったのです。その失敗の要因は科学技術の発展で解明され、セラミックスの知見が積み上がるようになりました。今では未来に向けた製品開発の予備軍になりつつあります。セラミックスで世の中を良くしたいと思う目標があるからこそ継続してこられたのでしょう。

 学生の皆さんには「目標を立てて絶対に諦めない」姿勢を貫いていってほしいです。

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