未来面「経営者と話そう。」経営者編第10回(2015年5月11日)

課題

どのような夢や技術があれば、より良き社会が実現できるか

斎藤保・IHI社長

※肩書き等は掲載当時のものです。原稿のため、掲載時とは差異があります

<斎藤さんの主張>

●強い意志と創意工夫の積み重ねが未来をたぐり寄せる

●文科系と理科系、両輪の歯車がかみ合って社会に役立つ技術に

●「見て」「聞いて」「触れて」考えることでイノベーションは生まれる

欠かせない技術と人材

 私は社内で「意志」や「こだわり」という言葉をよく使います。読者の皆さんも同じでしょうが、夢を描いているだけでは、夢は実現しません。夢に近づくためには、夢の可能性を信じて、それを実現しようとする強い意志やこだわりを持ち続けることが大切だと確信しているからです。

 IHIは「技術をもって社会の発展に貢献する」「人材こそが最大かつ唯一の財産である」というビジョンを掲げています。夢を実現するには技術と人材が欠かせません。当社の創業した1853年(嘉永6年)はペリーが来航し、日本という国が覚醒し、新しい国づくり(工業化)が動き出した年でもあります。「ものづくり」を通して、160年超にわたり日本や世界の発展を見守ってきました。

 さて、若い読者の皆さんにお願いがあります。それは「どのような夢や技術があれば、より良き社会が実現できるか」を考えてもらいたいのです。

 夢と技術はどうすれば両立するのでしょうか。「遠くにいる人と話をしたい」という夢があったから、通信手段としての電話がうまれました。夢という創造力が技術の発展を促したのです。飛行機やロケットもそうです。遠くに行きたい、宇宙に行きたいという強い意志を持ち続け、日々の創意工夫や改善を積み重ねたことが夢を実現し、未来をたぐり寄せたのです。

 夢も技術も独りよがりになってはいけません。夢とは潜在的なニーズだと思います。この仕事をしていると、「お客さんもまだわかっていない。でも話し合っていくと、どんなところでお困りなのか」が見えてくることがあります。また、自分たちが持っている技術をオープンにすることで、新たな活用方法を提案してくれたり、別の技術と組み合わせることで新たな価値を生み出したりすることもあります。「見て」「聞いて」「触れて」考えることでイノベーションは生まれます。

 技術やイノベーションというと理科系の人たちの話のように思われますが、そうではありません。文科系の人たちの方が多様な発想ができるとみています。文科系と理科系は右脳と左脳の関係に似ていて、相互の話し合い(データのやりとり)をすることで創造力が発揮され、すばらしい発明・発見につながります。文科系は理科系の技術者に有益な示唆を与え、この両輪の歯車がかみ合って、社会に役立つ技術へと昇華します。化学反応ですね。

 世の中の変化は速くなり、その変化や革新を取り込むことで人間や組織は飛躍できます。ただ、その変化は複雑多岐にわたり、多様な価値観を認め、それを上手につなぐことで今までにない発想が生まれるでしょう。

「三現主義」を基点に考える

 私の好きな言葉に「三現主義」があります。三現とは現場、現物、現実です。アイデアも、三現主義を基点とすれば意外と思いつくかもしれません。これから社会に巣立とうとする若い皆さんの熱い思いを聞かせてください。

アイデア

技術のパズル

市地 福太郎(海陽学園海陽中等教育学校中学2年、13歳)

 それぞれの企業が培った技術のパズルを組み合わせ、今までにない技術を生み出すことを提案する。例えば地震などの自然災害に対して、防波堤は人々を救い、海水にぬれても農業を再開できる土に変える薬や技術は被災地の復興を支える。こうした技術の組み合わせは、一企業だとなかなか実現できない。時間がかかれば、被災地の復興に役立てない。色々な企業が得意な事を持ち寄り、新しい技術に生かすべき時代だと思う。

思いやりの技術

松田 瞳(横浜市立大学国際総合科学部4年、21歳)

 国籍を問わず、日本で生活する人が持つ最大の美点は他者を思いやる心ではないか。ものづくりの技術と同じく、世界に誇れる日本の素晴らしい「技術」といえる。財布を拾って警察に届ける行為や笑顔の接客、電車の整列乗車など、日本では当たり前だが世界に誇れる行動はこの技術があればこそだ。理系の技術者が作り出す物質的な価値(製品)と組み合わせれば、大きな力を発揮する「思いやりの技術」といえよう。

失わない技術

村瀬 慎(金沢大学理工学域機械工学類3年、21歳)

 車や飛行機、コンピューター。人間はこれまで「生み出す技術」を駆使して、体の各部位の能力を飛躍的に向上させる外部装置の開発を進めてきた。今度は、その制御に人間の「第六感」や「勘」に代表される潜在的な脳内情報を検知・視覚化する技術の開発を提案したい。原子力発電所やロケットの安全管理から、人体の微妙な違和感の感知まで応用可能だ。いわば事故や病気で「失わない技術」を磨くべき時がきた。

以上が紙面掲載のアイデア

環境を破壊しない気体

山口 拓也(東京理科大学理学部4年、24歳)

 私が考える、より良き社会を実現する夢や技術は「温暖化ガスを地球の外まで飛ばす気体」だ。今、世界は深刻な温暖化問題を認識しながら目先の利益ばかりを追って、自分達の家である地球に傷を増やしている。生物に無害で、温暖化ガスにだけ反応して結合し、宇宙空間まで上昇する気体の開発を提案する。この技術を応用し、温暖化ガスだけでなく、放射性物質や全ての生物に有害な物質と結合して宇宙空間に運んでしまう気体を開発できれば、より良い社会を実現できると考える。

記憶のデータ化と保存

大杉隼弘(中央大学商学部3年、21歳)

 現代は医療技術の発達により長く生きる人が増えた一方で、認知症にかかる人も増えた。私の親族も認知症にかかり、先日は私のことをほとんど覚えていないようだった。そこで、私は記憶のデータ化とバックアップという技術を願う。認知症で大切な思い出を失っても、過去に保存したデータを脳に送って記憶をよみがえらせる。この技術が実現すれば、大切な人を忘れる苦しみも、大切な人から忘れられる悲しみも、記憶を取り戻すことで喜びに変わるだろう。家族のつながりを今まで以上に大切にする社会になるはずだ。

新たな貨幣と新たな社会経済

濱家大輝(広島大学経済学部4年、21歳)

 全ての通貨を電子管理する技術があれば、人間らしさを伴った社会経済を実現できるのではないか。現在の経済的な豊かさは、貨幣という発明の恩恵が大きい。ただ、物事の本質を見失いがちにもなっている。貨幣も進化すべきだ。例えば貨幣の価値が時間とともに減る仕組みはどうか。人々は貯蓄せずに使い、実生活への関心を高めるだろう。所得や消費ではなく、貨幣の保有に課税すれば、税制はより効率的で公平になる。貨幣の流れを監視し、地下経済も排除できる。セキュリティなど課題はあるが、この夢の実現により、人々が経済を管理して生き生きと暮らす社会は近づくのではないか。

人が人間として生きる時間をロボットと共創する

袴田 達雄(学校法人成蹊学園、46歳)

 今後、AIとロボットの活躍分野は生活上のリスク排除や行動補助など人間の行動を補完する受動的対応にとどまらない。人間の思考や行動を膨大なパターン蓄積データを解析し、対象者の習慣や考察特性に適合した対応を人間の動きに先んじて能動的に行うよう、明確な市場戦略に基づき設計される。まるで一人ひとりが執事や家政婦を持つかのような、きめ細やかに配慮された生活支援が実現されるだろう。空間センサーによる声・身ぶり認識や各種ウェアラブルセンサーによる簡便な意思伝達で人間の労力が軽減された生活空間が2020年には標準規格化され、日本が世界市場のリーダーとして新たな住環境を広く世界に問う時代が来る。仕組まれたパターン動作でロボットを活用する時代は終わり、AIによる適時適合型の非汎用対応を行う、人間の能力を超えた集中制御AIによる家ロボットが実現。人間はすべてを端末一つで制御する時代が到来する。

技術は誰かのために

石川 萌依(中京大学総合政策学部3年、20歳)

 私が夢として掲げるのは、どんなに技術が進化しても、人々の心に他人を思う優しさがあり続けることだ。ペリーが来航した1853年から160年余り、日本は大きく変わり、とても便利になった。例えばスマートフォン(スマホ)は、家でも電車でも歩くときでさえも手放せないのではないだろうか。ところが歩きながらスマホを使ってしまうと、人にぶつかり、自分が被害者になることもある。どんな技術も「誰かのために」というステキな思いから生まれたはず。私たちはどんなに便利な技術を駆使できるようになっても、他人を思う優しさを忘れてはいけないと思う。

世界共通の翻訳機

鷹崎 健太朗(神奈川大学経営学部3年、20歳)

 より良い社会には、世界共通の翻訳機が必要だと考える。言語の壁を越え、誰とでもコミュニケーションできる夢をかなえるためだ。英語は世界各地で使えるが、識字率の低い国などでは英語を習得することが難しい。母国語ではない言語を操るのも容易ではない。ただ、言語の壁を越えられれば、他人の価値観を理解し、深くコミュニケーションできる。私自身、オーストラリアに留学した際、タイ出身の人と話す機会があった。しかし英語もタイ語もうまく話せず、自己紹介に苦労した。自分の知らないことを知り、学ぶためにも、万国で使える翻訳機によって広い視野で世の中をみてみる。そのことが少しでも紛争や宗教対立の解決の糸口になればいい。

仮想世界を作る装置

森 帆希(長野県飯田OIDE長姫高等学校3年、17歳)

 仮想世界を作ったらよいと思う。脳に直接つながる装置があれば、自分の意識は仮想世界と自由に行き来できるようになる。そうなれば、友人にすぐ会いたいときは、仮想世界で簡単に会うことができる。実際に学校や仕事へ行かなくても、仮想世界の学校や職場に参加できる。病気や事故で体が思うように動かせなくなった人も、この技術を使えば、仮想世界の中で体を自由に動かせる。遠方の医師のアドバイスを受けたり、身体が回復するイメージをつかめたりして、医療にも役立つだろう。

中小企業の技術共有

植松 伸斗(神奈川大学経営学部3年、20歳)

 より良い社会を夢や技術によって実現する方法は、ベンチャー企業や中小企業の革新的な技術を可能な限り共有することだと考える。学生の大企業志向や業績不振など様々な課題を抱える中小企業は自社の技術を世の中にうまく発信できていない。大企業が続々と海外進出し、産業の空洞化が進む日本で中小企業の躍進は必須だ。そこで中小企業、ベンチャー企業の技術共有という夢を掲げたい。企業同士の提携を迅速に行い、革新する力を結集し、中小企業の世の中への貢献度を高めていくのだ。日本人のほとんどが中小企業に勤めている。ベンチャー企業の経営者の起業家精神を結集して、1つの大きな事業を発展させていくことができたら、より良い社会が実現できるだろう。

夢の技術を守る

佐々木 浩允(東京農工大学大学院工学府2年、23歳)

 ドローンは長年の技術の蓄積で生まれた夢の技術だ。簡便な輸送や災害時の活躍が期待される一方、プライバシー問題に注目が集まっている。安易に制限することは、技術革新を阻害してしまう。そこで「セキュリティ」、「気象観測」など技術の組み合わせで課題を解決し、より良い技術へ導いてはどうか。例えば3次元レーダーで上空の様子やドローンの飛行経路などを捉える。小型の気象計で突風やゲリラ豪雨を予測し、安全な飛行を確保する。技術の悪い面を議論しながら、技術の良い面をいかに利用できるか。夢の技術を実現しようとする意思が社会の発展につながると考える。

無災害国家の実現

常井裕輝(上智大学法学部3年、21歳)

 マチュピチュやバベルの塔、シーギリヤなどの「天空都市」。飛行機を発明したライト兄弟に、ロケット技術開発のブラウン博士。人は天に憧れ続ける。世界最初の船舶や楔形文字を使用したとされるシュメール人は、自らを天から来た人々によって作られたと信じていたともいう。ならば、天に、雲上に都市を作ってはどうだろう。反重力技術の開発や、比推力可変型プラズマ推進機に利用される技術を使い、人類の夢である浮遊する都市群を建造する。個人の都市間の移動にはジェットパックを利用する。雲上では、地震、台風、津波、竜巻など現在我々が苦しんでいる地上における災害を避けることができ、隕石(いんせき)以外の災害はなさそうだ。人類の夢のため、人類の生存のために実現してもらいたい。

二酸化炭素をなくす

露木 光太郎(明治学院大学法学部1年、18歳)

 よりよい社会を作るには、地球温暖化を止める技術が必要だ。エネルギー使用の抑制による二酸化炭素の排出削減は、経済成長の足かせとなるため、限界がある。ならば、排出量を減らすのではなく、排出した二酸化炭素を分解してはどうか。二酸化炭素は酸素と炭素の結合でできる。逆に分離できれば、二酸化炭素をなくすことができる。現在の技術では多くのエネルギーが必要だが、もし集めた二酸化炭素を簡単な作業で分離できたら、どれほど人類が救われるだろう。今の段階では難しいが、現代の多くの科学技術は数十年前には実現不可能だった。それなら数十年後に生きる人々が、考えもつかない技術で人類を救うと考えても良いのではないだろうか。

献立機能付きアプリ

小松 瑞果(関西学院大学国際学部2年、19歳)

 「健康的でおいしい食事を楽しみたい」これは全てのビジネスパーソンの望みではないか。そこで「献立アプリ」を提案したい。まず目立たないサイズとデザインの専用リストバンドを装着し、血圧や体組成のデータを蓄積・分析する。アプリはデータをもとに、健康状態や個人の好みに合わせた献立を提示する。例えば、主菜を選ぶと副菜の選択肢が示され、調理済みの食事パックの宅配も予約できる。この情報データを使った仕組みにより、健康増進と食事を楽しむことが両立でき、働く人々の暮らしを豊かにするだろう。

講  評

衆知集める風土 作っていこう

 今回の課題から知りたかったのは、「若い皆さんが描く『より良き社会』とはどんな社会か」ということです。アイデアや意見から浮かび上がったのは「災害のない社会」「脱地球温暖化」「人に優しい」「思いやり」「仮想現実」「健康」といったキーワードです。既にある技術で解決できそうなものから、飛躍的な技術革新がないと実現不可能なものもあります。企業社会に身を置く者として、しっかりと受け止めないといけないものばかりでした。本当にありがとうございます。

 その中で、13歳の少年による「技術のパズル」は心を動かされました。このパズルこそ、企業やアカデミズムの分野で取り組みが急がれる「オープンイノベーション」です。1つの会社では「より良き社会」なんて実現しません。まさに衆知を集めることが求められています。中小企業が技術の共有や擦り合わせを自然にできる風土を、日本もつくっていくべきですね。

 「思いやりの技術」という意見で感じたのは、自己の利益より他人の利益を優先する利他の考えです。インフラ整備を手掛けるIHIにも通じます。居心地のいい社会にする技術やソフトの出番が増えることは間違いなく、心理学的なアプローチも必要でしょう。

 「失わない技術」のアイデアは、日本の優れた匠(たくみ)の技をどう継承すべきか問いかけています。匠の技や人の五感をロボットに蓄積し、後継者の技術指導に生かす時代は間近です。人もロボットも成長する共生の世界が、これからのモノづくりに広がっていくのは確実です。

 IHIは皆さんのアイデアを受け止め、より良き社会の実現のお役に立ちたいと思います。

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