未来面「経営者と話そう。」経営者編第8回(2015年3月2日)

課題

この国の一員として、今なにをなすべきか

木村康・JXホールディングス会長

※肩書き等は掲載当時のものです。原稿のため、掲載時とは差異があります

<木村さんの主張>

 日本はアベノミクスで少し明るくなってきた面はありますが、国際情勢は欧州、ウクライナ、中東など不透明、不安定な地域が増え、日本にも影を落としています。考えればバブル経済が崩壊して以降、日本は閉塞状況が二十数年続いているように思います。最近では少子高齢化、人口減少という先行きへの不安を誰もが感じるようになってきました。私は今回、若い人たちに「この国の一員として、今なにをなすべきか」と問いかけたいと思います。

 私が会社に入ったのは1970年でした。まだ高度成長期にあり、会社は活気がありました。しかし、そのなかで新入社員の私が感じたのは、「個人と組織」という問題でした。個人と組織の間に生じる矛盾を乗り越え、個人が組織のなかでどのように、そしてよりよく生きるか、という問題です。というのは、会社では個人が組織のなかに埋没し、流されてしまうと感じたからです。

 ある人が組織の抱える問題に気がつき、指摘しても「これは昔からそうだ」「どうしようもないよ」と言われることは少なくありません。このような経験をすると、人はそのうち問題提起をすることが組織を乱すように感じられ、何も言わなくなります。個人の集まりが組織ですが、組織のなかで個人の力が生かされなくなってしまうわけです。。

 国家も企業も右肩上がりで成長している時は問題があっても成長が解決するという面があります。しかし、成熟化してくると、問題を解決しなければ衰退につながります。今の日本はまさにその段階に来ていますが、個人の力は生かされているでしょうか?個人が日本社会の閉塞状況のなかで沈黙し、行動を起こさなくなっているのではないでしょうか?

 「付和雷同」という言葉があります。個人に主張がなく、全体の意見に安易に合わせてしまう、という意味ですが、日本人全体が付和雷同型になってはいけません。私は新入社員の時から少し生意気かもしれませんが、「和して同ぜず」つまり、組織のなかで協調はするがみんなと同じにはならない、と心に決めて来ました。積極的に違う意見も言い、流れを変えようと努力するが、決まったことには従って、全力を尽くそうということです。

 中国の明代の古典に「菜根譚」があります。処世術とりわけ指導者の生き方を説いたものですが、私は若い時から座右に置いてきました。組織のなかで個人を保つことで、組織を発展させようと努力すると、悩みも多くなります。平常心を保つために度々、菜根譚を開いてきました。

 さて、日本という大きな組織のなかで生き、日本を改革し、新しい活力を得るために皆さんは今、具体的に何をすべきだと考えていますか。

アイデア

個性発揮の自由全う

福島 佑里絵(上智大学総合人間科学部3年、21歳)

 社会は個人の集合体で、一人ひとりが個性を発揮すれば無限の可能性が広がり、社会の成長にもつながる。個性の発揮とは言い換えれば、自分に与えられた役割を全うすること。自分だからこそできることがあるはずだ。周りに迷惑をかけないようにと消極的になったり、自分の利益だけを考えて行動したりするだけでは社会の成長につながらない。無限の可能性を持つこの国をつくるため、個性を思う存分に発揮できる自由を私たちは楽しむべきだ。

調べ、考え抜き主張

 「自分が正しいと思ったことを主張したら? 海外では学校に何か言われても一度では引き下がらないわ」。大学に「規則だから」と断られて諦めようとした私に英語の先生が声をかけてくれた。自由に学べる幸せを忘れ、何事も楽な流れに身を任せ、諦めることに慣れていた自分に気づいた。ダメな理由があってもそれを覆す代案を主張し納得いくまで調べることを放棄したくない。様々な角度と方法を自分の力で見つけ、考えを主張したいと思う。

危機を数字に

保科 直人(中央大学商学部3年、21歳)

 現在の危機を数字に表すことで活力を取り戻せると考える。少子高齢化や大規模災害、外交など日本の抱える問題は多い。それらを数値化し「世界終末時計」のように危機を明確にする。私たちは「ゆとり世代」などと呼ばれ挑戦を恐れ、夢を抱けない人間が多いとされるが、裏返せば現実的でリスク管理能力が高いのではないか。現実をオープンにして当事者意識を持たせ、若い世代を活気づける。それが波及すれば日本が活気を取り戻すだろう。

以上が紙面掲載のアイデア

過去の失敗に皆が学ぶ

柏木 将(武蔵野大学人間科学部3年、22歳)

 よりよく生きるには日々、よりよい選択をすることが必要だ。何を選ぶべきかの知識を蓄えるのは難しいが、少なくとも選んではならない選択肢を知る方法はある。過去に学ぶのだ。日本史、世界史をはじめ、両親や家族、またインターネットを使ってさらに広く学んでいく。過去の失敗例は財産である。同じことを繰り返す必要はない。一人ひとりが過去に学び、前よりもよい選択をすることが少しずつ世の中に変化を与えていく。

NPOから考える企業

成田 健吾(兵庫県立大学工学部4年、22歳)

 日本には実に様々なNPOが存在する。その中に飛び込んで自分の興味のあることを見つけ、五感を育て、感性を磨く。企業や公的機関に勤務するようになったら自分という確固たる軸を大切にしつつ、集団という世界観で周囲を落ち着いて見回せる思考力が育つと思う。企業インターンシップではなく、NPOのような個性豊かな団体で若くして揉まれておくことは、自身のの将来を見据えると非常に効果が期待できると感じている。

日本の魅力を伝える教育を

斎藤 早貴(東京国際大学国際関係学部3年、21歳)

 日本人は自分の国のことをよく知らない人が多いと感じる。私自身も訪日外国人に日本の魅力は何か、どのような歴史があるかと聞かれたら自信を持って答えられないだろう。自国の歴史や自国について学生時代に習うがそれは高校受験や大学受験のための勉強でしかなく、周りの誰かに伝えるための勉強ではない。2020年の東京オリンピックや観光立国として外国人観光客を取り入れることに力を入れているが、なぜ日本がいいのか、日本の魅力は何か、私たちは自信を持って伝えることができるだろうか。外国人観光客は日本の家電製品やポップカルチャーを求めて来ている人もいるが、同じくらいに日本の歴史に興味を持った人たちもいるだろう。その人たちに日本の魅力を伝えるためには教育を試験のための教育ではなく、魅力を伝える、自分自身が誇りに感じる教育にしていくべきではないか。

「ファーストペンギン」になろう

丸地 優(海陽中等教育学校高等部1年、16歳)

 僕はこの国の一員として、自分の考えをしっかり主張することが必要だと考える。自分の意見を伝えきるためには「ファーストペンギン」になることが重要だ。「ファーストペンギン」とは群れの中で最初に海に飛び込むペンギンのこと。ペンギンは他のペンギンが海に飛び込まない限り自身も飛びこまない。周囲の雰囲気を尊重する日本には「ファーストペンギン」が必要なのではないか。誰かが「付和雷同」の雰囲気を打ち破れば、それについていく他の人も「付和雷同」の空気を打ち破ることができると考える。

 中学校、高校の時期から教育現場で時事問題などに関するディスカッションを積極的にすべきだ。このような場を設けることで、「議論の口火を切る」「相手に反論する」などの実践的な発信力を身に付けることができる。

製造業者の意識改革

木村 優樹子(横浜市立大学国際総合科学部1年、20歳)

 国内製造業の意識改革をすべきだ。日本企業はかつて太陽電池で技術的な優位があったにも関わらず、事業展開で海外勢に後塵を拝した。製造業の知財や規格の標準化に対する姿勢が「まだ消費者の認知度が低い」、「市場に浸透していない」などと腰が引けていることが問題だ。この姿勢が日本の産業力低下に拍車をかけている。標準化戦略を含む知財マネジメントは「どのようなタイミングで、どのような標準化組織を利用するか」など悩ましい問題が横たわる。しかし、それらの検討に時間を費やしたからといってうまくいくとは限らない。案ずるより産むがやすしですぐに行動を起こすことが大事だ。

海外留学の義務化

滝沢 翠里(東北大学大学院工学研究科修士1年、23歳)

 日本社会で個人が組織に埋もれてしまうのは、多様性が受け入れられにくいためだと考える。日本で生まれ育つとマイノリティ(少数派)になる経験が少なく,違いを許容する訓練をせずに大人になる人が多いだろう.そこで、全ての学生に海外留学を義務付けることを提案したい。海外で生きていくためには自分と相手との違いを理解し、意見を発して相手を変えるか、相手に合わせて自分を変えるかを選択しなければならない。常に意見のアウトプットが求められるため、付和雷同しがちという日本人気質を脱する絶好の機会となるだろう。留学を通して個人の多様性や異文化への対応力を向上させれば,個人の集合体である国家の発展にもつながるのではないだろうか。

自分固めに「敬聴」を

山本 南(上智大学経済学部4年、24歳)

 アメリカと香港の留学経験から、真の外向き思考を支えるものは、強固な自分(内部)固めだと大声で主張したい。異文化圏では常に「自分は何者なのか」が問われ、自分の座標軸を明確にし、相手に安心感を与え、初めて対話の準備が整う。故に今、国家の一員としてなすべき内固め施策に「敬聴」を挙げたい。周囲には敬聴すべき賢人であふれている。家族、所属する組織の諸先輩等、経験と見識という得難い宝を持つ人々の言葉を敬い、聴くことが最強の内固めと信じる。敬聴は聴き手の価値を格段に高め、自己の役割を見出す近道となり、敬聴で内固めした個の力は、日本国家の新たな活力源へとつながる。

自分のアイデアをどんどん出す雰囲気をつくる

水田 光(海陽学園海陽中等教育学校3年、115歳)

 学校で「意見を先生が求めるが、誰も何も言おうとしない」というシーンをよく見かける。何もいわないことをよしとする雰囲気ではなく、何か言い出し始める人を歓迎しない雰囲気だ。「空気読めよ」という生徒の発言がそれを如実に物語る。その雰囲気を壊すために私にできることは、「他者を受け入れる姿勢を表明すること」「自分のアイデアをどんどん出すことをよしとする雰囲気をつくること」だと思う。

日本の歴史を知り、外国に発信する

小関 貴也(中央大学商学部2年、20歳)

 日本国民としてやるべきこととして、まず初めにこの国の歴史をきちんと理解することだと思う。グローバル化が進む現代の社会では日本で生活していても外国人と接する機会が少なからず発生する。そのような時に、自分の国についてきちんと理解せずにいると相手の国によっては関係に亀裂が走ってしまう可能性がある。

 まずは自分たちが日本人であり、どのような過程や国際関係で現代に至ったのかを一人一人が意識する必要があるだろう。その上で、外国の人々とコミュニケーションを取り、相手の文化を尊重すると共に、日本人としての誇りを持ち、日本の良さを外国の人々へと発信していくことが、私たちがこの国の一員としてやらなければならないことであると考える。

講  評

「自分が変える」強い意識を

 やや抽象的な問いかけでしたので、どれだけ意見が出てくるか少し心配しましたが、まったくの杞憂(きゆう)でした。たくさんのしっかりした意見をもらったと思います。

 ふだん私たちが働いたり、暮らしたりしていると、社会や組織が前提として存在し、その下に個人が置かれているように思いがちです。実際は個人が集まって社会や組織ができているわけで個人が下にいるわけではありません。「個性発揮の自由全う」の意見はそうした社会、組織のなかで「当事者意識を持つ個人」を主張しており、同感しました。「他者に遠慮して消極的になるな」という部分も納得できますね。調和することは組織の目的ではなく、結果だからです。それは私自身が複数の企業が統合して誕生したJXグループを率いてみて、感じたことです。しっかり議論を戦わせ、多くの人が納得しなければ調和は得られないからです。

 「調べ、考え抜き主張」は飾らずに等身大で主張することの大切さを示しています。反対意見が出れば相手の意見を消化し、さらに知識を広げ、自分の意見を高めていく、そうした切磋琢磨(せっさたくま)のプロセスこそ社会の重要な機能なのです。自分を主張していく時に必要なのは、論理的に人に説明する能力です。より多くの人に納得してもらうには客観的なデータは不可欠でしょう。「危機を数字に」という意見は社会や組織のなかで人を巻き込んで、変化を起こす時の戦略を語っているように感じました。

 私は組織の一員には「当事者意識」「プロフェッショナル意識」「変革意識」が必要だと思っています。皆さんの意見と共通する部分が多いですね。

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