未来面「経営者と話そう。」経営者編第2回(2014年9月1日)

課題

地球と共存するために、今やるべきことは

小林喜光・三菱ケミカルホールディングス社長

※肩書き等は掲載当時のものです。原稿のため、掲載時とは差異があります

<小林さんの主張>

●自然環境の持続性を守ることも経営の大きな柱の一つ

●続く異常気象と高まる食料不安

●英語力とICT 若者は2つの力を

 21世紀に入り14年目になりますが、どんどん地球が傷んでいることを実感します。たとえば、今夏も日本の各地が気象庁用語で「これまで経験したことのないほどの豪雨」に見舞われましたし、東京都内で大粒の雹(ひょう)が降り積もりました。世界をみても大洪水や竜巻、巨大台風が各地に発生しています。明らかに地球温暖化に伴う気候変動に伴う異常気象が起きています。日本でこそ少子高齢化対策が焦眉の急ですが、世界の人口は70億人を突破して増え続け、2050年までに90億人を超えるのは確実です。人口を支えるための食料生産は1人当たりの耕地面積の減少と淡水資源の不足によって厳しさを増しています。

 私たちは「地球の持続性の維持」という問題に直面しています。しかも今起きている変化は、気候変動や人口増加など短期間で元に戻すことができない不可逆的な性質を持っていることを認識すべきです。企業は利益を追求する組織ですが、存続するには地球の持続性が維持されなければなりません。

 三菱ケミカルホールディングスは、経営を「利益」「イノベーション」という企業やメーカーとしての当然の尺度とともに「サステナビリティ(持続性)」でもとらえて、この3要素をそれぞれ軸とした「3次元経営」を進めています。サステナビリティについては独自の指標をもって目標を立て、毎年、自己評価をしています。経営では自己資本利益率(ROE)が重要な指標になりますが、それだけでは企業の責任は果たせないのです。3つの軸のバランスがとれた状態、すなわち「中庸」を目指さなければいけないと思っています。

 日本は11年3月の東日本大震災で大きな被害を受け、福島第1原子力発電所事故で原発が稼働しない状況にあります。火力発電で代替しているため、二酸化炭素(CO2)の排出が急増し、燃料輸入の増加で貿易収支は赤字に転落してしまいました。この状況を打開し、地球の持続性を高めるには日本人、日本企業は知恵を絞らなければなりません。我々は化学メーカーですからより軽く、省エネにつながる素材の開発や二酸化炭素を吸収・利用する植物工場、植物由来プラスチックの実用化など様々な取り組みをしています。

 若い人たちには、世界とコミュニケーションし活躍するために、リアルとバーチャルのふたつのコミュニケーション能力を磨いてほしいと思います。リアルは世界の共通言語になった「英語力」、バーチャルは「ICT(情報コミュニケーション技術)」です。そうした力を鍛え、地球と日本の持続性のために働いてほしいのです。皆さんは「地球の持続性」と日本の現状打開のためにどんなことができると思いますか?フレッシュな意見を期待しています。

アイデア

企業が手綱を握れ

近藤 悠紀(中央大学商学部3年、20歳)

 地球と共存するためにリーダーシップを持つのは、政府や環境保護団体ではなく、人々の生活に深く関わる「企業」でなければならないと思う。地球との共存のためには世界全体での取り組みが必要である。現在も企業は環境のための製品開発や活動をしており、我々はそれらを利用している。今後も人々が環境保護に取り組むきっかけを与え続け、人々をリードしていくことが、地球との共存にとって一番必要なことではないだろうか。

エネルギーの地域循環

高橋 淳志(早稲田大学政治経済学部5年、24歳)

 地域単位でエネルギーとお金が循環するモデルを日本でつくり世界に広める提案をしたい。地域の住民や企業が主体となって地域に眠るエネルギー資源を発掘・活用し、エネルギーの地域内循環を進める。地域単位では外から燃料や電力を買わなくて済むようになり、住民のお金は地域のエネルギー資源のために使われ、地域経済の活性化に貢献する。地球単位では化石燃料需要や化石燃料由来の電力需要が減少し、二酸化炭素排出の抑制に貢献する。

植物の資源化で革新を

市地 福太郎(海陽学園海陽中等教育学校中学1年、12歳)

 植物の研究はどうか。コケなどで石油やガソリンに近い液体を作る研究が進むが、これに力を注げば日本は石油輸入に頼らずにエネルギーを安定生産しうる。植物の光合成を可能にする組織をアスファルトなどに利用して温暖化を解決する一歩になるかもしれない。もう一例が竹。竹の繊維は軽くて丈夫で、ビニールやプラスチックなどに代わる物質となりうる。身近な植物をもっと研究・利用すれば、より地球に優しくできるのではないか。

以上が紙面掲載のアイデア

企業は地球規模の先見性を持ち環境保護投資を

西田 理浩(流通科学大学総合政策学部3年、21歳)

 私は高度な静脈産業技術と高い自給自足力を持った国家への変化が必要だと考える。もし、世界の国々がこうした国家になれば、地球環境への負荷を大幅に減らせる。その国の国民や企業経営者、政治家は環境問題に対する高い意識が不可欠であり、静脈産業の技術やエネルギー自給率・食料自給率を高い水準にしようとする働きかけが必要だ。さらに、再生可能エネルギーの費用対効果がほかの発電方法よりも高いことに気がつくべきだ。まずは企業や政治家が地球規模の先見性を持ち、我々若者の先導役として環境保護産業に投資する勇気を持ってほしい。

異常気象時の緊急退避先の共有化

小林 啓吾(慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士2年、31歳)

 地球と共存するために、私は気象予測精度の向上と避難エリアの拡充が急務だと考える。まず、気象予測精度の向上で、異常気象がいつどこで起こるかを正確に把握できるようになる。これで避難に必要な時間が確保され、被害を最小限に抑えられる。避難エリアの拡充は、生命が脅かされる危険性のある災害が見込まれたとき、一時的に自分の居住区域を離れた方が良いケースがある。その場合、遠隔地からの避難者の受け入れに協力するという発想や体制作りが必要だ。日本国内の災害を日本全土のコミュニティで支えあうイメージだ。最終的には課題もあるだろうが、世界単位で異常気象時の緊急退避先をシェアすることができれば、より地球との柔軟な共存ができるのではないだろうか。

他国の情勢を自分のこととして考える

柴田 亜樹子(南山大学外国語学部1年、18歳)

 私たちがこれからの地球のためにすべきことは多様性の許容である。我々は自国の災害や事件のことには目を向けても他国の情勢を他人事のように見てしまいがちだ。たとえば病気の人に対する差別。アフリカを中心にエボラ出血熱が猛威を振るっているが、現地では感染者のいる病棟が襲撃にあったというニュースを耳にした。いま起こっている問題を「もし自分だったら」と考えることが大切ではないだろうか。たとえすべては理解できなくても、自分とは違う人々の立場をイメージする姿勢をもちたいと思う。

植物工場を人類の共有財産に

市川 裕太郎(海陽学園海陽中等教育学校高校2年、16歳

 世界人口の急増に伴う食糧問題を解決するため、巨大な植物工場を建設するべきだと思う。一国、一企業のレベルを超え、人類共通の財産として資金に乏しい国家も参加する。むしろ資金のない国家を助けるために。資金のない国は土地を整備できず最適な生産環境を保全できず、十分な食糧が供給されない状態が発生する。この悪循環を断ち切るため、他の国が供給をまかなうような仕組みの開発が必要だろう。海上移動が可能な人工島を作るなど、生態系を破壊せず、集中した環境で生産するのが望ましい。目先の国益や企業利益のために、関係のない場で人や環境が壊れていくのを見逃す時代を見直そう。

バイオ技術の正しい認識を基に

高林 宏樹(東京工科大学応用生物学部3年、21歳)

 「遺伝子組み換え」という言葉に嫌悪感を抱く人は多いが、遺伝子組み換え植物は異常気象やストレスに強い植物を作れる。二酸化炭素(CO2)の吸収をより高めることや、乾燥に強く砂漠で生きられる植物の栽培も可能になる。日本は遺伝子組み換え植物を生産していないものの、南北米大陸やアフリカ、アジア諸国など25カ国では既に生産され、消費者に届いている。地球との共存にはバイオテクノロジーの時代が訪れていると認識し、正しい理解を普及する必要がある。

実際に現地に行き、見て、感じる

村田 理穂(西南女学院大学人文学部英語学科4年、22歳)

 世界各地で自然災害が多発し、多くの人が命を失っている。私はそうしたニュースに触れたとき、これまでは「募金をしよう」と考えていた。しかしいまは災害が起こった現場を自分の目で見て、痛感することが必要だと考えが変わった。テレビの画面では見ることができない生の現場を見ることで、「自分にできることは何だろうか」と改めて考えるきっかけになる。地球温暖化を防ぐために家庭でできること、会社や学校でできること……。人それぞれ小さな発見があるだろう。企業は、社員が実際に現場に出向きボランティアをするための休暇を認める制度をより拡充してほしい。

水からはじまる地球革命

鈴木 久善(海陽学園海陽中等教育学校中学2年、14歳)

 水をきれいにできる日本の高い技術を世界に発信していくことが大切だ。地球の約70%が水で覆われているが、水がきれいな国は少なく、生物が繁殖できない水も多く存在するという。海水の淡水化や下水が処理できる高度な技術で、木を育てて森を増やし、二酸化炭素(CO2)を減らし、森でろ過されたきれいな水が流れる良い循環が生まれる。木がしっかりと根を張れば土砂崩れなどの自然災害も防げる。身近にあるきれいな水が生き物と地球の救世主になるはずだ。

企業は売った後まで責任をとる

石田将(中央大学商学部3年、22歳)

 政府は企業を規制し、企業は消費者の環境破壊を減らさなければならない。自動車メーカーを例に示すと、自動車生産過程の二酸化炭素(CO2)排出量、森林伐採量などを具体的数値を算出する。さらに売った車両の走行距離、燃費などネットを使い全て把握するシステムを作り、顧客のCO2排出量にも責任を持つ。国の規制はそれらすべてを含んだ数値とする。メーカーはよりCO2排出の少ない車両を開発し、顧客にも過剰に使用した場合、利用を制限する何らかの措置がとられるようになるだろう。これからは規制に強制力をつけ、企業は自社の顧客に対しても責任を取らなければならない。

講  評

人任せでない行動、自覚と意欲感じる

 大きな問いかけをしましたので、回答がどれくらい来るのか心配していましたが、多数の回答を頂き、勇気づけられました。多くに共通していたのは「誰かがすべきだ」というのではなく、地球と共存するために自らが行動しなければならない、という自覚と意欲でした。先進国に生きる我々が自分たちの周りの環境改善だけでなく、地球全体の環境維持に主体的に向き合うことこそ問題解決のカギだと思います。

 「企業が手綱を握れ」は政府や環境団体だけでなく、企業自らが環境問題で主体的に行動せよ、という意見であり、まさにわが意を得たりでした。企業には技術と人材、資本などの経営資源があり、これまで主に収益拡大に向けてきました。ですがこれからは、企業自らの事業基盤である地球の持続性が維持されなければ、企業自身の成長もあり得ません。政府やアカデミアと連携し、産学官で新たな技術開発、共同事業などを組み上げていくことが不可欠なのです。

 「エネルギーの地域循環」という視点は、企業に加え、地域からのアプローチの重要性を指摘しています。各地域が地元の未使用のエネルギー源を発見、開発していくことは大きな意味があるでしょう。「植物の資源化で革新を」は植物を新たなエネルギー源にする提案で、すでに藻類から燃料をつくる研究は企業も参加し、急激に進んでいます。人工光合成も大きなテーマで当社は長く探索研究を続けており、2年前から経済産業省と文部科学省の支援を受け、大学とも連携して研究に取り組んでいます。おそらく数十年がかりの研究になると思いますが、人類の未来を切り開く技術になると確信しています。

同企業からの課題

同テーマの課題