未来面「経営者と話そう。」経営者編第4回(2014年11月4日)

課題

グローバル時代に、保険ができることは

柄澤康喜・三井住友海上火災保険社長

※肩書き等は掲載当時のものです。原稿のため、掲載時とは差異があります

<柄澤さんの主張>

●世界の様々な地域の社会に根を下ろし、「守るべき生活」を守るのが使命

●保険の「現場」はあらゆる場所に

●アジアは有数の災害多発地帯

 保険はモノやヒトに密着し、リスクをカバーする仕事です。英ロンドンや米ニューヨークなど世界の金融センターのオフィスでモニター画面を眺めるだけではありません。都市のほか郊外の工場や農村、海上や未開地帯まであらゆるところに「現場」があります。保険ビジネスのグローバル化は地球上の様々な土地のニーズを知り、その市場に貢献し、共に発展していくためにローカル化、土着化を競う段階に入っています。

 三井住友海上火災保険はちょうど90年前にロンドンに事務所を開設し、グローバル化の一歩を踏みだしました。現在39カ国・地域に約8000人の現地社員がいます。今、特に力を入れているのが東南アジアです。この地域は経済成長でビジネスチャンスが豊富な点が魅力なのはもちろん、「欧米とは異なる価値観を我々と東南アジアの人々は共有できるのでは」と直感したからです。共有できる価値観とは「長期的な関係性を重視する風土」です。

 日本は世界的に見ても「老舗企業大国」です。調査会社によれば100年以上続く企業が2万社以上もあるそうです。企業が永続する秘訣は目先の利益にとらわれない長期的な視野でしょう。とりわけ、アジアの人々、企業には同じ感覚があるように思います。

 一般的に保険は資産を大きく増やすような「攻めの金融商品」ではありません。「守るべき生活」があって初めて保険が求められます。保険は社会との関わりの中でレーゾンデートル(存在価値)を見いだされ、社会や人の人生に寄り添っていく商品なのです。

 我々はアジア社会に深く入っていく過程で発見した新たなニーズを、商品・サービスに反映させています。マレーシアやインドネシアのイスラム保険「タカフル」はその一例です。契約者の死亡時に、聖地への巡礼や寄進を代行するなどの業界初の付帯サービスを用意しました。これも現地の社会のニーズというか、心情をくみ取ることで生まれた保険です。

 アジアには世界有数の自然災害多発地帯という過酷な側面もあります。2011年のアジア開発銀行(ADB)年次総会では、「津波やサイクロンなどの水関連災害で、1978年から07年までに被害にあった人々の9割はアジア・太平洋地域」という話がありました。津波や洪水、異常気象などに伴う人的・物的被害をカバーする保険への期待に応えるため、巨額補償にたえうる保険技術を磨くことも必要になります。

 アジアはこれから守るべきものを持った中間層の人口がぐんと厚みを増していきます。保険は安定した社会の発展を下支えする不可欠なインフラだと思います。そこで若い皆さんからアイデアを募りたい。「グローバル時代に、保険にどんなことができるか」を。我々が思いもよらないニーズをアジアで知ったように、若い皆さんの発想に触れ、新しい保険を日本だけでなくアジア、世界に問うていきたいのです。

アイデア

海外起業保険

三島  悠太(産業能率大学経営学部3年、21歳)

 世界で活躍する日本のベンチャー企業はわずかだ。日本人が失敗を過度に恐れることが理由の1つだろう。海外相手にビジネスをするのは初期段階でコストがかかりリスクも大きい。そこで審査で一定の条件をクリアすれば加入できる「海外起業保険」を作るのはどうか。事業に失敗し、多額の借金を抱えてしまった場合は、何カ月かの生活費を支給する。「何かあった時の保険」ではなく「何かを起こすときの保険」も今後は求められるだろう。

寄付つき旅行保険

 アジアの発展途上国では保険が普及していない。柄澤さんの言う「守るべき生活が守れないほどの貧困」が一因だろう。そこで、海外旅行保険で保険料の何%かを途上国への寄付金に回す仕組みを提案したい。寄付金で学校や病院などを建て、生活環境を改善する。保険会社は寄付を通じて途上国で知名度が高められる。海外旅行に行く人も有効にお金を使ったという意識が持てると思う。途上国の人々、保険会社、旅行者の皆が幸せになれる保険だ。

ご近所共同保険

三浦 優奈(中央大学商学部2年、20歳)

 日本では保険の加入率が90%以上だが、アジアの発展途上国でまだまだ多い貧しい人たちは保険に入っているだろうか。アジアが自然災害の多発地域なら、なおさら保険に加入しておくべきだ。保険に入りやすくするために地域でコミュニティーを作って1つの保険を共同で支払い、どこかの家庭に問題が起これば、その保険を使って保障する。近所で助け合えるような保険があってもいいのではないか。アジアでもっと保険の普及率を高めるべきだ。

以上が紙面掲載のアイデア

バブル保険の開発

西田 理浩(流通科学大学総合政策学部3年、21歳)

 高度経済成長を経て、今や成熟国家になった日本。その保険業がアジア諸国の先輩として活躍できることとして今後、日本の後を追ってくるアジア諸国で起こる可能性があるバブル経済崩壊のリスクを分散する保険商品が必要ではないか。バブル保険を開発しておけば、アフリカやその他の発展途上国を救えるし、先進国でも起こるバブルのリスクも分散できるのではないだろうか。

時を越えて恩返しする精神

茂本 はな(慶応義塾大学法学部3年、21歳)

 最近、ユーチューブでタイのCMを見て感動した。母親の看病をしようと薬を盗んだ子供に無料でスープを提供したスープ店の店主が数年後に病で倒れ、高額の治療費が払えず困っている。以前スープを飲ませてもらった子供は成長して医者になっており、スープ店の娘に「治療費は以前もらった」として、一晩で請求額を支払ったという内容だった。時を越えて恩を返す。この精神が素晴らしい。これから発展する東南アジアで、子供の教育水準を向上させるような枠組みの保険商品があればと思う。

障害者幼児を救う保険

根本 祐輔(大阪大学経済学部4年、23歳)

 私は東南アジアを旅して、日本と比べて障害を持った子供が多いことに気付いた。ベトナムでは枯れ葉剤などによる影響から障害を持った人は人口の7%にも及ぶといわれる。しかし、発展途上国では障害者に対するケアが十分でなく、また障害者援助への知識も足りていない。こうした現状を踏まえ、私は先天性障害保証保険を提案する。出産前に加入する保険で、主に既存の生命保険の特約として位置づけられる。障害者認定を受けた際の一時保険金や、障害幼児が受けられる各種公的保証の情報提供などが挙げられる。こうした保険は途上国の障害者たちが社会進出できるサポートを担えるだけでなく、多くの人々に障害者援助の必要性を認識してもらう一助となるだろう。

国際結婚保険

黒岩 真穂(明治学院大学国際学部1年、19歳)

 グローバル化が進み人々が国境を越えて交流する現在、国際結婚が珍しくなくなった。ただ国際結婚には様々な障壁がつきまとう。そこで国際結婚保険を提案する。互いの国を行き来する際にかかる費用を補助してくれる。結婚前の様々な準備がスムーズに進められるし、結婚後両親に万一のことがあったときもすぐに駆けつけやすい。両方の国で子供に教育を受けさせたいという場合も、教育費の援助が受けられる。こうした保険は、将来国際社会で活躍する人材の育成にもつながる。

行政と保険の連携

丸山 麻子(鹿児島大学法文学部3年、20歳)

 発展途上国では災害が起きた際の政府の支援は不足しがちだし、保険会社は被災者に対して保険金を支払うだけだ。そこで、保険会社が火災保険に付加する形で支援物資の補給、医療サービスや避難所の提供などの役割を担うのはどうだろうか。生命に関わる問題なので保険加入者・非加入者に大差をつけず、行政の補助という立場で行う。低識字率の国ではイラストや動画、口頭説明で仕組みを理解してもらい、保険加入を促進する。医療サービスでは独自の医療機関を持つことで災害時の病院の混雑を減らし、日本政府からの要請で派遣される医師団より早く治療にあたることで、より現地のニーズにあった医療を提供できる。支援物資の補給では保険加入者に対し、加入時に非常食を配布し、実際に被害があったときにも救援物資、避難所、情報の提供を独自に行う。保険会社と行政の連携により災害からの復興が早く進むだろう。

ハラル産業のグローバル化

早坂 亜沙美(明治大学文学部3年、21歳)

 イスラムの戒律に従った「ハラル産業」に特化した保険を提案する。世界中に住むイスラム教徒は年々増え続けており、今では約20億人に達する。彼らが生活に困ることがなくなるよう、ハラルの製品をもっと世の中に広めることが必要だと思う。そこでハラル製品の製造から市場に出るまでに関する保険、またはハラル産業を新たに展開する事業に対する保険をつくってはどうか。ハラル認証を受けた製品は品質、衛生面でも安全とされる。ハラル製品が普及すれば、世界中に住むイスラム教徒が不自由なく生活できるだけでなく、イスラム教徒以外にとっても安心して消費できる商品が増えるメリットもある。さらに他国の文化を取り入れ、尊重する姿勢を育むことにもつながると思う。

保険による起業の支援

芦苅 光佑(海陽中等教育学校高校2年、17歳)

 保険は信頼や知名度のある現地の会社の方が有利であり、日本なら日本の保険会社が有利だろう。日本企業の多くが海外に移転する中、日本に企業を増やすべく新しく起業する人を支援する保険を作ることが重要になる。起業に伴う大きなリスクを取り払う保険があれば人々は起業しやすくなる。起業支援の保険を新設し、一般的な保険と同時加入すると保険料が安くなるというプランはどうか。新規企業を保険会社が総合的に支援し、経済を活発化できるだろう。

貧困層と保険

逢坂 亮祐(中央大学商学部1年、19歳)

 グローバル化が生んだ貧困層の生活を豊かにすることも保険ができることだと思う。貧困層の生活を豊かで安定したものにするのは非常に重要になると思う。貧困地域の村が加入できる保険を作り、個人では多くのお金を用意できなくても村そのものが加入することで生活が保障される仕組みがあればいい。治安を向上させ、貧困のため働く子供を学校に行かせ、重い病気になった人の多額な治療費を村の人々の資金で支える。日本の発展した保険を海外に広めることで、そうした地域を豊かなものにできるだろう。

コミュニティー保険

川上 優佑(早稲田大学政治経済学部3年、20歳)

 グローバルな規模で医療へのアクセスを公平に保障する取り組みを保険に期待したい。高額な医療費を負担できず医療を受けられない人々が世界には少なからずいる。低所得層向け「コミュニティー保険」に村や自治会などの地域単位で加入、一定の保険料負担を所得に応じて割り振る。万が一の際はコミュニティーの積立金から実際に発生した費用分を保障する。豊作・凶作に応じて保険料を弾力的に調整したり、都市労働者が故郷のコミュニティーに保険料を納めたりできる仕組みも必要だろう。そのような仕組みを保険が提供できれば世界中の人々が医療を受けられるきっかけになると思う。

世界遺産に保険を

佐藤 晃弘(青山学院大学経済学部3年、20歳)

 世界遺産の建造物や景観、自然にも保険をかけることを提案したい。世界遺産をはじめ各地の観光地を訪れる人は増える一方だが、各地で劣化や老朽化が進む遺産群もまた多い。紛争や災害、都市開発により劣化の危険にさらされるものもある。世界遺産を維持・修復できる資金のない国にはユネスコが補助金を出すが、あえて保険会社に一任し、地域を管理してもらう。いずれ保険料を支払う現地の人も、保険の対象物となる遺産群に責任と愛着が生まれるはずだ。

中国の「一人っ子」保険

松田結香(中央大学商学部2年、20歳)

 中国での「一人っ子保険」が必要になると思う。食糧や資源を確保するために1979年から始まった、この中国の人口規制策により、中国では兄弟のいない一人っ子が多い。だが、結婚して家を出ていった一人っ子が不幸にも事故などで死亡すると、その両親の面倒を見る人がいなくなる。一人っ子に両親はたっぷりの愛情とお金をかけて育ててきただろうが、自分らの老後の蓄えをする余裕はあまりないのではないだろうか。中国でも高齢化が進むが年金制度は十分ではない。子供に面倒を見てもらおうと望んでいる両親の老後の生活を保障し、面倒を見られる保険が必要になると思う。

講  評

社会の変化をとらえ、支える

 「グローバル時代に保険ができること」。このテーマを通じて最も伝えたかったのは、保険は社会との関わりの中でこそ存在できる仕組みだということです。多くの読者の皆さんから社会の変化を鋭く捉え、「人々のより良い生活を支えるために何ができるか」を意識したアイデアが寄せられました。

 商品化は難しいと感じるものもありましたが、言い換えれば「従来の保険という枠を超えた新しい商品・サービス」が求められているのでしょう。

 例えば、日本人がもっと世界で活躍できるよう起業を支援するための『海外起業保険』です。海外での起業や留学、国際結婚など、今や世界との接点は際限なく広がり、そこに発生するリスクも多様化しています。しかし、保険によって少しでもリスクを軽減することができれば、新たなチャレンジの可能性は飛躍的に広がっていくはずです。守るだけでなく、攻めるための保険といえます。

 『寄付つき旅行保険』にも同じことが言えます。新興国の経済発展に貢献し、生活を豊かにする。その豊かな生活を守るための保険を普及させる一連のサイクルは、私たちの目指す保険会社としての在り方そのものです。

 日本では保険はごく一般的なものですが、世界を見渡せば、まだ十分に普及しているとは言えません。例えば、当社が強みを持つアジアでは、自然災害への備えやさらに増加する中間層への対応は喫緊の課題です。『ご近所共同保険』のような仕組みは、保険の普及に向けた有効な手段になり得るでしょう。それぞれの国や地域のニーズにとことん寄り添うこと。それこそが、グローバル時代に求められる保険の役割だと考えています。

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