未来面「経営者と話そう。」経営者編第9回(2015年4月6日)

課題

2020年に向けて、どのようなレガシーを新たに作りますか

三浦惺・NTT会長

※肩書き等は掲載当時のものです。原稿のため、掲載時とは差異があります

<三浦さんの主張>

●レガシー(遺産)とは未来志向で社会に役立つ取り組みだ

●東京五輪を契機に遺産にふさわしい具体的なアイデアを生み出そう

●「まだ5年もある」という姿勢で考えてほしい

これからの5年 何が必要か

 読者の皆さんは「レガシー」という言葉を聞いて、どんなことを思い浮かべるでしょうか。直訳すれば「遺産」ですから、過去から脈々と受け継がれ、守られてきた建物や自然、文化、風習などを連想する人が多いでしょう。しかし、ここでお話しするレガシーは将来にわたり、社会に役に立つ未来志向の取り組みのことです。幸いなことに東京オリンピック・パラリンピックが2020年に開催されることが決まり、国や国民として明確な目標ができました。これからの5年間で、新しい日本を作り、2020年以降も活力ある明るい社会を維持、発展させるために何が必要なのかを皆さんに考えてほしいのです。

 半世紀前の東京オリンピック・パラリンピックでもたくさんのレガシーが作られました。多くの競技施設はもちろんですが、開催に合わせて整備が進んだ東海道新幹線や首都高速道路、近代的なホテルなどは、その後の日本の経済成長に大きな役割を果たしました。戦後の復興をなし遂げて得た自信や平和な社会を大切に思う国民性もレガシーといえるでしょう。

 では2020年に向けた新しいレガシーとはどんなものになるのでしょうか。もちろん新国立競技場などの建設、選手村や会場などを結ぶ新交通網やバリアフリーなど新たな都市機能の整備は必要ですが、ハードだけでなく、新たなサービスなどのソフト面でのレガシーも重要になっています。NTTも2020年東京オリンピック・パラリンピックのゴールドパートナーとしてICT(情報通信技術)を駆使し、快適な通信環境の提供の実現はもちろん、スマートフォンやタブレットをかざせば最適な移動ルートや詳細な観光情報が多言語で得られるサービスなどの開発を加速させます。サイバーテロを含めたセキュリティー対策は喫緊の課題です。

 今年2月に東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が公表した「東京2020 大会開催基本計画」にも、レガシーを推進することを求めた「アクション&レガシー」が盛り込まれました。「スポーツ・健康」「街づくり・持続可能性」「文化・教育」「経済・テクノロジー」「復興・オールジャパン・世界への発信」の5本の柱で動き出すことになりました。

 読者の皆さんにはこの5本柱からより具体的なアイデアを考えていただいてもよいですし、これ以外に日本が世界に誇れる新しいレガシーを考えていただいても構いません。

成熟社会の課題 意識も改革を

 成熟した日本社会は課題が山積しています。2020年というターゲットイヤーに向けて、この5年間、集中して取り組み、日本が抱える課題を解決し、それを未来に引き継いでいくことが重要です。そして2030年、2040年、2050年といった将来にわたり、世界中で、日本で産まれたレガシーが通底にある明るい地球社会が持続していることを願っています。

アイデア

未来の隣人ロボ

池田 佳織(会社員、27歳)

 「ドラえもん」や「鉄腕アトム」、日本生まれの魅力あるロボットは多い。最近は愛らしいペット型から二足歩行型、人工知能で会話をするロボットへと進化している。道案内、通訳から「おもてなしの心」まで、五輪の場でロボットに託せるものは多い。「ロボットをどのような隣人として迎え入れるか」「人と同等の権利を持つ存在になるべきか」まで議論を深めた上で、ロボットが未来の隣人になるという、夢あるレガシーを生み出したい。

ユニバーサルな街づくり

成田 健吾(兵庫県立大学大学院修士1年、22歳)

 障がいをもつ方(交通弱者)に配慮した都市計画を進めるべきだ。生活空間や交通システムは誰にでも使いやすくなり、子供が都市に愛着や関心を持つことにもつながる。例えば車いすの方が不便と感じる場所や、外国の方が標識が欲しい場所などの情報を項目ごとに分類して地図情報に取り込み、ビッグデータとして管理し街づくりに生かす。電子掲示板や電車内で情報を共有すれば、地域のニーズをわかりやすく都市開発に反映できるだろう。

日本の自信と誇り

工藤 竜暉(海陽学園海陽中等教育学校中学3年、14歳)

 私は精神面のレガシーを重視したい。2020年には多くの外国人が訪れる。そのとき日本人は自信と誇りを持って、外国人に「日本はどのような国か」を話す必要があるだろう。国民に自信や誇りがなければ、真の意味で最高の五輪は開催できないと思う。そこで東京五輪を一つの契機に、日本の文化や歴史を見直し「自信と誇り」を取り戻すことを提案する。多くの外国人に日本をきちんと伝えること、それが日本のレガシーになるのではないか。

以上が紙面掲載のアイデア

地球市民の創出

上大田 友紀子(大学院1年、25歳)

 「世界中で活躍する地球市民の創出」というレガシーを新たにつくりたい。世界中の情勢を自身の日々の生活に引き付けて考え、世界中に幸福を与えるような行動を起こすことができる人材が「地球市民」であると思う。現在の日本社会はまさしく「グローバル社会」だが、5年後は今では考えられないほど国内のグローバル化は進んでいるだろう。その状況に十分に対応できる「地球市民」の確保が不可能になると、国内に大きな混乱がもたらされるのではないか。このレガシーを作り出すためには教育制度の改革が重要だ。日本は「日本人を教え育てる」という教育風潮が強いととらえているからだ。異文化に寛容なワールドワイドな教育制度を生み出し、このレガシーをつくりたい。

国立大学 in Asia

山瀬晴義(会社役員、56歳)

 私は今、クアラルンプールに住んでおり、周辺国も含め親日的だ。ただ最近では中国や韓国の勢いが勝っており、将来日本の存在が希薄になるのではと懸念している。将来に向けた遺産として、マレーシア辺りに日本の国立大学を作ったらどうか。日本やアジアの若者が自由に挑戦できる日本の国立大学だ。こちらにも大学はあるものの、レベルや制度には課題が残る。欧米の大学の分校もあるが、非常に学費が高く、金持ちしか行けないのが現状だ。日本のソフトパワーや高い技術力を活かすべく、国立東南アジア大学を作り、未来に向けて優秀な親日家を育成していくべきだろう。

地域ネットワーク

松田 結香(中央大学商学部3年、20歳)

 地域ネットワークの再構築を提案したい。メールやSNSを介さない「人と人とが直接コミュニケーションをとるネットワーク」だ。スマートフォンやSNSの急速な発展で便利になった半面、人が直接会う機会が減り人間関係が希薄化した。特に減ったのが近隣の「ご近所づきあい」。そこで、昔懐かしい回覧板を復活させてはどうだろう。回覧板は回す時にいや応なくコミュニケーションを取るし、地域で清掃などを行い人々が集う機会ができる。回覧板で活性化する地域の団結・協力、これが私が未来に残したいレガシーだ。

地域情報のデジタル拠点

藤田 由香(会社員、51歳)

 デジタルサイネージ(電子看板)などを設置した拠点をネットワークでつなぎ、地域情報のデジタル化と多言語対応ができれば便利だと思う。普段はニュースや広告、周辺の交通情報、地元のお店やイベントを発信する。必要に応じて地域の回覧板やオリンピックの中継映像を流し、災害時は情報掲示板になる。スマートフォンを持っていない高齢者や外国人にもわかりやすく情報を伝えられる。また、ネット接続できる公衆無線、監視カメラ、ソーラーパネルを搭載し、駅や繁華街、役場、小学校近くの公園などに設置して、多言語で防災や犯罪抑止の役割も担えるようになればいい。

成熟を活かす試み

倉島研(東北大学大学院 博士課程後期3年、39歳)

 成熟した日本社会は課題が山積しているとの指摘がある。高齢者の人口が相対的に多い社会という面に目を向けると、老化を成熟の極みと肯定的に捉える方が建設的だ。高齢者が自身をそのように認識できるレガシーが必要となる。例えば、子ども世代、子育て世代、現役世代の良き相談役となる機会を積極的に作る取り組みをすればよいと考える。情報通信技術が進歩しているので、主に高齢者にとって操作しやすいインターフェイスを作成することで実現可能なのではないか。相談され、頼られることは、自分を価値のある人間だと思うきっかけの一つになる。高齢になっても保たれる、これまでの人生経験から得た思考力を十分活かせると思う。

日本の口コミを世界の口コミへ

山口 瑞樹(海陽学園海陽中等教育学校中学3年、14歳)

 今や日本の多くの商業が「口コミ」の影響を大きく受けている。飲食店はその代表例だが、他にも観光施設や、病院・駅等の公共施設までもが、口コミにおける評判に左右されている。施設自らが公表している情報よりも、利用者の生の声に頼る人が大勢いるのだ。だが、多くの日本人が利用する口コミは、そのままでは外国人には使いにくいのが実情だ。施設の公表情報は、英語や中国語など多言語表示が増えているが、口コミの多くは当然、日本語。「日本人による日本人のための」口コミにとどまっている。口コミの外国語への翻訳を進めたり、外国人による書き込みを積極的に歓迎すれば、外国人観光客が利用しやすい「世界の口コミ」になるはずだ。オリンピックを機に日本の観光力を高めることは、直接的な経済効果をもたらすだけでなく、将来日本を訪れる全ての外国人のために役立つ、立派なレガシーになると思う。

地球貢献企業を日本から世界へ

江藤 一彰(会社員、39歳)

 日本経済は環境を犠牲にしながら成長してきた。しかし、企業が環境技術に投資し始めたことで,東京をはじめ日本各地の環境は驚くほど改善した。世界には,これから経済成長期を迎える多くの国々がある。日本で実績のある環境改善技術をICT(情報通信技術)やセンサー、人工知能で磨きをかけ、2020年に世界に紹介したい。これらの技術を世界に提供することが日本企業の使命と考える。地球環境に貢献する企業に対して、法人税など世界中のマーケットで優遇される仕組み作りも重要だ。そうした企業の行動基準を日本から世界へ働きかけたい。

スポーツから男女平等を

大竹 杏果(中京大学総合政策学部2年、19歳)

 現在、基本的に野球や相撲は男性のスポーツとされ、性別により参加できるスポーツは限られている。もうすぐ東京オリンピックが開催される中、スポーツの面で新たな日本のレガシーを構築するべきだと私は思う。それは、女性だけの野球、女性だけの相撲のように、今まで女性だから参加できなかったスポーツを女性も参加できるようにすることで、日本からスポーツの面で男女平等が発信されるのでは。オリンピックはその影響力を大きく伝える機会であり、やがては世界の男女の賃金格差、待遇格差の改善にもつながっていくと考える。男女の差別をなくそうと社会が様々な手段を発信しているが、このような場面にこそ、改善策があるのではないだろうか。

胃袋をつかめ

佐藤 七海(中央大学商学部3年、20歳)

 日本人は和食の偉大さを再認識すべきだと思う。和食はユネスコ無形文化遺産に登録された世界に誇るべき日本の文化、日本人がつくりあげてきたレガシーだ。しかし、最近の日本の街中では和食屋よりも、ファーストフード店やファミリーレストランばかりが目立つ。東京オリンピックには世界各国から多くの人が集まる。自国では高カロリーな食事が多い海外の人々にとって、和食は健康的で魅力的なはず。2020年に向け、私たちは和食の良さを見直すべきだ。そのためには例えば小中高の家庭科の時間に和食を作る回数を増やす。企業はハンバーガーのチェーン店にならった「おにぎりファーストフードチェーン」など展開してみてはどうだろう。オリンピックを機に世界の人々に触れてもらった和食は、新たな日本のレガシーとなるだろう。世界の人々の胃袋をつかもう。

外国人に時間と場所を譲る

毎熊さゆり(会社員、25歳)

 私たち一人ひとりが「時間と場所を譲る」ことをレガシーとして提案する。2020年に向けて、訪日外国人はさらに増える。すると、日本国内で一定の時間と場所に多くの人が密集しやすくなる。訪日外国人は十分に日本を楽しめず、日本にいる私たちもそんな毎日にうんざりしてしまうかもしれない。それなら、受け入れる側として時間と場所を譲り、お互いが気兼ねなく過ごせるように取り組んではどうだろうか。例えば、平日のランチタイムを12時台から13時台にずらす。休日の買い物は午前中に済ませ、午後は郊外でスポーツをする。出掛ける時は大通りを使わず、少し早めに出て脇道を使うなど普段より少し足を伸ばしてみる。一人ひとりが日ごろ使っている時間と場所を訪日外国人に譲れば、最高のおもてなしになるだろう。

講  評

課題の解決策 世界に指し示す

 街づくり、環境問題、日本文化、ICT(情報通信技術)の活用など、幅広い分野にわたり多数のアイデアを挙げていただき、ありがとうございました。失われた20年からようやく抜け出そうとしている今、少子高齢化、震災復興、環境・エネルギーなどの日本が抱える課題の解決に取り組み、その姿を世界に発信していくことが大切だということが共有できたと思います。

 アイデアの中で目に付いたのは「未来の隣人ロボ」です。従来のロボットは人間の代替、生産効率向上のための存在でした。最近では、身ぶり手ぶりや会話ができるような親しみが持てるロボットなども相次いで登場しています。介護、見守りなどにロボットの力を借り、うまく共存することによって安全・安心な社会を築くことができればいいですね。

 「ユニバーサルな街づくり」は、ハードだけではなく、ソフトの面にも着目し、外国人、障がい者、高齢者などにも優しく、皆が快適に暮らせる街づくりを目指すものです。NTTもビッグデータの活用などの面で、貢献していきたいと考えています。

 「日本の自信と誇り」は、まさにその通りです。前回の東京オリンピック・パラリンピックでは戦後の復興と高度成長によって「自信と誇り」を取り戻したように、今回は新しい価値観、多様性が求められる中で、明るく前向きに取り組む心構えとして必要なのは言うまでもありません。こうした思いを中学生が持っていることを頼もしく感じました。読者の皆様も、自信と誇りを持って、さまざまな課題に前向きにチャレンジしてほしいと思います。これからの5年を大切に、より良いレガシーを作っていきましょう。

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