未来面「経営者と話そう。」経営者編第13回(2015年8月3日)

課題

未来の家、街に何を期待しますか?

長栄周作・パナソニック会長

※肩書き等は掲載当時のものです。原稿のため、掲載時とは差異があります

より安心、エコなスマートシティー。その実現は地球規模の課題

 家や街は暮らしの舞台ですが、人によって期待するものが異なるでしょう。休息や癒やしを求める人、家族との団らんを期待する人、趣味や勉強に打ち込みたい人。それぞれだと思います。そうした多様な家や街に対する希望は、社会構造の変化や技術の進歩により大きく変わると思います。今回は未来の家や街に何を期待しているか、皆さんに聞いてみたいと思います。

 というのは、成熟した日本経済のなかで、家や街はリーディング産業にもなると考えるからです。実はパナソニックは家のビジネスと長い付き合いがあります。創業者の松下幸之助は戦後まもなく住宅産業に挑戦しました。日本が焼け跡や闇市から復興するのに欠かせず、復興に貢献できると考えたのです。

 その時は残念ながら実を結びませんでしたが、創業者の「人が生きていくうえで住まいは一番大切なものであり、また基本である」という信念は社内に受け継がれ、1959年に旧松下電工の建材事業部でプレハブ型住宅の開発を始めました。その後、住宅事業は着実に育ち、77年に今の「パナホーム」のブランドを創設し、大阪府枚方市で「枚方パナタウン」という初めての街づくりにも取り組みました。

 性能の高い住宅をつくることの価値を再認識したのは95年の阪神大震災でした。私たちのパナホームは半壊、全壊が一戸もなかったからです。人の命を守るという家の基本機能の重みを改めて感じました。

持続可能な暮らし、街まるごと設計

 今、世界的に「スマートホーム」「スマートシティー」という言葉が広がっています。エネルギー需要を抑え、環境性能の高い住宅、バリアフリーなど高齢者への配慮がある住宅、セキュリティーが高く子供を安心して育てられる街などが求められています。人口増加や衛生・環境の悪化、エネルギー需要の膨張といった都市問題の解決から少子高齢化や人口減少への対応まで、家や街の改善と活性化は地球規模で重要な課題なのです。

 課題に立ち向かう第一歩は、家や街を未来志向で考えることから始まります。パナソニックは神奈川県藤沢市の工場跡地を大規模再開発した「Fujisawa サスティナブル・スマートタウン」の事業を始めました。各戸に太陽光発電パネルと蓄電池をつけ、省エネと環境性能を高めました。東日本大震災の経験を踏まえ、3日間は電力や水道などのライフラインが途絶えても生活できる機能を持ち、監視カメラなどで街全体のセキュリティー水準を高めました。家と街が有機的につながることで暮らしやすさをつくり出せたと思います。

 これからもIT(情報技術)の活用などで、いろいろな家や街を考えていきます。皆さんは家や街の未来にどんな希望や期待を抱きますか?個性的で斬新なアイデアを期待しています。

アイデア

エネルギー「家産家消」

清野 晃 (無職、68歳)

 未来の家は災害でもインフラが断絶せず、エネルギーを浪費せずに創り出し、温暖化を防いで環境を害さないべきだと思う。これらを実現する有効な手段の一つが水素エネルギーだろう。災害の時も太陽光パネルで発電し、井戸から水を供給して水素を製造する。水素は燃料電池車のタンクに保存し、夜間や雨天などの時に使う。屋上で太陽熱を取り込み、窓に貼る太陽光パネルでも発電する。様々な自然エネルギーを生かす住まいに期待したい。

楽しめる老々介護タウン

川上 嘉将(会社経営、43歳)

 魅力ある大型の老々介護タウンを提案する。介護人員の確保、生きがい・楽しみの充実、効率運営の一石三鳥を狙えるだろう。まず老々介護や内職でタウン独自の通貨を得られる。通貨はタウン内の娯楽施設で利用できる。映画やマージャン、パチンコ、飲食店などを可能な限り高齢者同士で運営する。生涯住み続けられる老々介護タウンは楽しみと同時に、働くやりがいも追求できる。「早く年を取ってあそこへ行きたい」と言われるのが理想だ。

祖母を魔法使いにする家

冨田 菜月(法政大学文学部3年、20歳)

 人工知能を搭載した家に期待したい。以前、離れて一人で暮らす祖母が階段で腰を打った。スマホでメールを出せない祖母は固定電話まではうしかなかった。人工知能があれば、うずくまる祖母を感知し、私たちに知らせると同時に救急車も呼べる。祖母に「大丈夫ですか」と呼びかけ、応急処置の方法も伝えられる。治療が終わり帰宅した祖母が「さみしいね」とつぶやけばアームが伸びて、私の代わりに肩をもむ。そんな家が生まれたらいい。

以上が紙面掲載のアイデア

コンパクトシティーハウス

石島 行三(会社役員、71歳)

 2000~4000人を収容する集合住宅に学校や病院、スーパーマーケットなど生活の基本機能を入れる。日本は、家族がバラバラになり日本人らしい精神を失った。孤独が大きな弊害となり、冷たい世の中になった。アリ塚のように全てを集約することで、人の動きは楽になり、特に介護など高齢化社会への対応も楽になる。戸建ては6面が外気にさらされるが、集合住宅の多くは1面で済む。インフラのメンテナンスも少なく、コストが下がる。特に過疎の地方では有効で行政の負担は大幅に減る。都市部も防災を完備した集合住宅にすれば、管理も楽で災害時も各ユニットが機能できる。東北の港町でも、巨大堤防などでなく10階以上の集合住宅にすれば、津波対応ができるだろう。シャッターを下ろして波の浸入を防ぎ、波が引いたら機能回復を計る。いわばヨーロッパ中世の城塞都市の発想だ。

やどかりタウン

伊藤 彰一(無職、66歳)

 折り込み広告では3LDKの家ばかりが多くみられる。ライフサイクルを考えると住む人数は変化するのに、家はほとんど変えずに住んでいる。自宅周辺でも住宅が売りに出るとまず壊し、その跡を2~3軒の小割にして売り出している。家をスクラップ・アンド・ビルドの対象ではなく、道路や上下水道と同じ社会インフラの一部と考え、ライフサイクルに合わせた広さや間取りの家に移り住めるような街はないのだろうか。引っ越しは少々面倒くさいが、しっかりした長く持つ構造と材料で造り、間仕切りや仕上げを変えやすくしておけば、多くの人が利用すると思う。引っ越して何年か後に、前に住んでいた家の前を通りかかり、以前とほとんど変わらない街のたたずまいを見て「前はここに住んでいたんだよ。」と子供や孫と会話できる街ができれば、楽しいのではないか。

景観を変える「回る家」

田口 光(関西学院大学文学部4年、22歳)

 クルクル回る家を想像してほしい。その家は敷地内の可能な範囲で右もしくは左に回るのだ。日常で景観に「なんだか飽きたな」と感じてしまうことはないだろうか。私はある。毎日同じ部屋からの眺め、同じ時間帯にしか差し込まない日照。機能はハイテクになっても、住居は固定されているから肝心の眺めがつまらない。そこで「回る家」を提案したい。家のど真ん中に強固な大黒柱を立てる。それを軸にして回る。2階からの景色は90度動かすだけで随分変わるだろう。日当たりも変わり、「北向き」などもあまり気にしなくていいようになる。日本の技術なら、回転と安全を両立させた家を造れるはずだ。

未来の家に「和室」はあるのか?

米津 了輔(慶応義塾大学経済学部3年、20歳)

 昨今の住環境のテーマ、スマート化。あらゆるモノがインターネットにつながりライフスタイルがより効率的になる未来。そんな未来の家を考えた時、ふと奇妙なモノが自宅にあることに気付く。それは「和室」だ。洋風化が進む現代、その古風さは浮いている。だが、畳や掛け軸、陶磁器、盆栽、縁側、庭園など和室をとりまく言葉には日本のルーツがあり、未来の家を生かすソフトが浮かび上がる。多くが伝統工芸であり、伝統文化だ。高齢化が進み、都市化が進んだ未来で匠の技の担い手がおらず、ひっそりと日本のルーツが失われていく未来を憂う。技術革新でスマートになりすぎる未来の家に畳はあるだろうか。例えば畳にごろ寝していると、熱センサーが感知して、体温に合わせた除湿をしてくれる。そんなスマートな畳が生まれるかもしれない。未来の和室に期待したい。

「ひと」中心の街

柳田 信一(無職、69歳)

 最近の街は車主体に作られており、老人、体の不自由な人など社会的に弱い人への配慮がなくなっているように思う。歩行者用の信号がなく、歩道橋の使用を強制する交差点もある。車いすを使う人はどうすればよいのか。水はけが悪かったり、車進入を容易にするため道路側に傾いたりする歩道は健常者でも歩きにくい。北欧の街づくりがよいモデルになると思う。歩道は広く、車道との段差が小さく「道は歩く人が主体」ということを思い出させてくれる。人と車の分離、子供だけでも行ける公園など、安心して人が歩けるのが本来の「街」の在り方だろう。

現代の「向こう三軒両隣」を実現

小川 和巳(会社経営、62歳)

 経営する不動産会社で来年、新しいコンセプトのアパートを東京都の郊外に建てようとしている。コンセプトは現代的な「向こう三軒両隣」。8棟に24部屋あり、全く知らなかった人どうしが交流できるように、共通の話題、趣味として大型犬とも一緒に住めるようにする。周囲をフェンスで囲み、犬は鎖なしで屋上のドッグランや地上の日本庭園などを自由に歩き回れる。犬と同じ目線で思い、感じて暮らせるコミュニティーを目指している。未来の家造りとしてモダンな和風のデザインの建物と、屋外での憩いと集いというソフトを実現したいと思っている。

電力を分かち合う家

薦田 侑季(中央大学商学部3年、20歳)

 災害により、戸建て住宅は電気や水が使えなくなり困ることがある。この問題は太陽光発電を戸建て住宅に設置することにより、数日間は多くが解消される。しかし、太陽光発電が設置されていない家はそのような災害が生じれば生活難に陥ってしまうだろう。この解消のために、私は太陽光発電のない家とある家が電力などを分かち合えるイノベーションを提案したい。災害が生じ、電力が不足している場合、地域一体となって電力を分け合うことのできる家だ。このような家ができれば、災害時に生活難に陥ることは大幅に減るのではないか。

街全体で気温管理

竹島雄弥(会社員、26歳)

 今年の夏も暑かった。近年猛暑日の頻度が増えている。家単位で対処するならば「断熱材の利用」「家への日射への対策」「冷房の効率化」などがあるだろう。だが、室温は管理できても、それだけでは外出時にまた暑さにあえぐことになる。快適な街づくりには、街全体で気温をコントロールする必要がある。「比熱が高く温度変化に強い物質」で街を満たせばよい。つまり「水」を大量に街中に設置する。河川や噴水のような目に見える水の整備はもちろん、植物が含む水にも注目したい。街路樹や植え込みとして、さらに建築物の屋上や壁面の緑化で植物が増えれば、急激な気温の変化は大幅に減るはずだ。植物には日射を遮る効果はもちろん、蒸散により水分を周囲に提供する効果もある。暑苦しいコンクリートジャングルから一日も早くビジネスマンを解放してほしい。

歩行者にやさしい街

山田 真美(団体職員、42歳)

 歩道が芝生だったら、と日傘を差しながら毎日思う。こどもが転んでもすりむかない。ベビーカーへの照り返しも怖くない。犬の散歩も日が暮れるまで待つ必要がないだろう。足への負担は軽く、疲れにくい。ハイヒールの音も気にならない。大雨でも少しは水を吸収しそうだ。視覚にも嗅覚にも、聴覚にも触覚にも気持ちが良い。毎日のこととなれば、ずいぶん精神的に違うだろう。費用面や経済的な効果を考えていない話かもしれないが、歩道が芝生だったらよいのにと思う。

多世代で暮らせる家

冨田 若葉(中京大学総合政策学部3年、20歳)

 成長した子供が自分の生まれた家で暮らしていけるような、3世代、4世代がともに暮らしていける家づくり、街づくりを提案する。新しい団地ができると一時的に子どもの数が増加し活性化するが、やがて成長して巣立ち、高齢者ばかりが残って過疎化が進む。かつてのマンモス小学校も廃校になる。一方、都会では、保育所の入所待ちで仕事の継続が困難な親がいて、孤独死する高齢者もいる。祖父母が孫の面倒を見て、介護の必要な高齢者を若い世代でみる。大家族で住める団地があれば、人数の増減がなく安定した街づくりも可能。何世代かが暮らす家であれば、大きな家でも固定資産税に配慮があってもいいのではないのだろうか。

講  評

誰にとっても住みやすい場所に

 誰もが生涯を通じて、家や街と関わりを持っています。一人ひとりの人生が異なるように、今回は家や街の未来について様々な意見と個性的なアイデアをいただきました。ありがとうございます。

「エネルギー『家産家消』」はパナソニックの取り組みと重なる部分がいくつもありました。実際に太陽光発電などで得た電力を蓄電池に集めて災害時に使ったり、家電製品の消費電力を抑える省エネ技術と自家発電を組み合わせたりする「自給自足」を実現しようとしています。神奈川県藤沢市のスマートタウンなどでは、地域や町単位に広げていきます。水素エネルギーの研究も進めていますので、是非期待してください。

 「楽しめる老々介護タウン」は個人的にも大変興味を持ちました。今後の超高齢社会では、高齢者が安心して住み続けられる環境の整備が急務でしょう。いわゆる高齢者施設を造ったとしても、建物や設備だけでなく、入居される方々の「生きがい・楽しみ」が重要になります。高齢者同士で生きがいを充実させるというソフト面に着目した意見には、様々なヒントが盛り込まれていたと思います。

 「祖母を魔法使いにする家」はちょっと奇抜なタイトルが目をひきました。離れて暮らすおばあさんを思う気持ちが伝わってきて、心が温かくなりますね。これからは遠く離れた老親を心配する人も増えるでしょう。時代とともに変化する「困りごと」を解消していきたいと改めて感じました。離れて暮らすおばあさんが困らない、帰宅しても寂しくならないような家造り、街づくりを実現していきたいと思います。改めて多くの意見に感謝します。

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