未来面「経営者と話そう。」経営者編第3回(2014年10月6日)

課題

世の中とどう混ざり、何を生み出しますか

木川真・ヤマトホールディングス社長

※肩書き等は掲載当時のものです。原稿のため、掲載時とは差異があります

<木川さんの主張>

●企業と行政の役割の線引きを乗り越える発想が必要な時代

●多様な価値観、認め合う仕組みを

●自治体と連携、様々な取り組み

 読者の皆さんとお話ししたいのは、今後の日本にとって「混ざる」または「混ぜる」という言葉が重要なキーワードになるということです。多様性の時代といわれる中で企業、教育、行政、地域などあらゆる分野で様々な価値観を認め合う仕組み作りと、その実践が求められていると痛感しており、それを象徴する言葉だからです。

 私が社会人になった約40年前の日本経済は、効率一辺倒の価値観でした。「大きいことはいいことだ」というテレビCMが流れ、会社は「全社一丸となって」と社員を鼓舞しました。社会も企業も豊かになるため、成長するための方向性は同じでした。人口が増え、経済の拡大が明確な時代ではそれだけで駆け上がっていけたのです。

 しかし、そんな考えはもはや通用しないようです。少子高齢化、過疎化、グローバル化など家族のカタチ、街の姿、国の役割といった社会構造が急速に変わり、従来の均質な価値観では社会が維持できないのは明白です。

 だからこそ、様々な価値観が混ざり、認め合う社会を作り上げる必要があるのです。例えば行政と企業のサービスには一定の線引きがありましたが、財政事情から行政には限界があります。民間の機能やインフラを活用して行政サービスを代替し、より良質なものに磨き上げることも可能になっています。官と民とが「混ざる」ことで新たな価値が生まれているのです。

 ヤマトグループでは「プロジェクトG(ガバメント)」と称し、各地の自治体と連携して「高齢者の見守り支援」「買い物支援」「災害時緊急輸送支援」などを展開しています。行政等と連携した案件は約680件、このうち150件以上が動き出しています。また、地元の生鮮品を収穫した翌日にはアジアの主要都市に届けるサービスで農業の活性化のお手伝いもしています。

 民間でも「混ざる」動きが加速しています。運輸業界では呉越同舟型の共同輸送が始まり、これまでの自前主義を脱して投資と環境負荷を抑えようとしています。異業種の連携から新商品・サービスも生まれています。そもそも従来の業種分類の枠組みも見直しの時期に来ているのかもしれません。

 女性や外国人が社会と「混ざり」、活躍の場を広げることも大切です。従来の業務の補完として考えるのは大きな間違いです。子育てや家事に忙しい主婦は、通勤時間が少なく短時間の勤務を希望されます。そうした働き方でも社会保障が受けられる制度を作り、ライフステージに合わせた働き方のメニューをそろえるべきです。外国人も自然に社会と混ざれる仕組みを作り、自国に戻ったら日本で身につけたスキルを発揮して働けることが理想です。

 そこで読者の皆さんにお尋ねします。一つは「あらゆるものが混ざるために必要な心構えや条件はどのようなものか」。もう一つは「どのようなものが混ざる(3つ以上でも可)と、どのような新たなサービスや価値が生まれるのか」。個別にお答えいただくか、どちらか選んでお答えください。

アイデア

違いを受け入れる

浅尾 由希(早稲田大学政治経済学部3年、21歳)

 うまく混ざるために必要なことは、自分と異なる人の存在を「当たり前」と受け入れる姿勢ではないか。かつて米国に留学していた頃、強く感じたのは多民族国家の米国は異質なものに対して寛容だという点だ。育った環境やどんな価値観を持っているかなどは、人によって違っていて当然という考えが浸透している。自分を異物として認識せず済む環境に居心地の良さを感じた。「混ざる」とは完全な一致を意味するのではないと思う。

「ふるさと納働」

 「ふるさと納税」ではなく、労働を無償で提供する「ふるさと納働」を創設してはどうか。移住は難しくても、短期間ならばふるさとのために汗を流したいという都市住民の希望に応えるものだ。労働提供を希望する者と受け入れを希望する自治体を仲介する仕組みを作り、受け入れ地域や労働内容、滞在日数などを決める。都会の労働力や知識が地方のヒトや自然と「混ざる」ことで、地方だけでなく、都市住民の心の活性化も実現できるだろう。

子育てカフェ

宮田 佳歩(東京大学教養学部3年、20歳)

 少子高齢化を解決するヒントとしてフランスに注目している。子供は社会全体で育てるものという同国の育児観とカフェ文化を参考に「子育てカフェ」を提案したい。若い女性にとって、カフェはおしゃれな趣味として人気が高い。ママ友たちとカフェで交流し、子供たちは絵本を読んだり遊んだりできる。退職後の時間を有効活用したい高齢者を店員として募集すれば、長年の育児経験を基に育児のアドバイスをもらうことも期待できるだろう。

以上が紙面掲載のアイデア

観光業と農業が混ざる

劉 子雲(神奈川大学経営学部2年、22歳)

 日本は環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉に参加した。交渉の内容によっては国内農業は強いショックを受けるだろう。そこで観光業と混ざるのはどうだろうか。農作物の生産を観光ビジネスとしても生かすことができるだろう。地域の自然環境を整備し、観光客を農園に呼べば、観光客は景色を楽しみ、自分たちがいつも口にする食べ物がどのように育てられているかを知ることができる。自分で農作業を体験すれば、命の大切さにも思いが至るのではないだろうか。

配送車両のNPO広告媒体としての活用

柳田 信一(無職、68歳)

 配送車両のNPO(非営利団体)の広告媒体としての活用を提案します。まず、膨大な数の配送車両の走行距離は毎日何万kmにもなり、多くの人の目に触れています。単なる広告媒体としての活用は顧客企業との関係もあり難しいと思いますが、社会で有意義な活動をしているNPOの広告媒体に提供できないでしょうか。NPOの多くは広告を出せるほどの財務力がありません。御社で審査し、適格と判断された広告を地区、期間で割り振れば、かなりの数のNPOが利用でき、社会的な意味もあると思います。。

配送員が町内パトロール

井上 紗希(早稲田大学国際教養学部3年、20歳)

 道を歩いていると、ヤマト運輸のロゴが付いた自転車をよく見かける。交番のお巡りさんよりもずっと高い頻度で町内を回っているように思える。そこで、配達スタッフが宅配の仕事と併せて地域のパトロールを担うのはどうだろうか。犯罪は人目につかない場所で起こりがちだが、自転車で配達するスタッフが通る住宅地の小道はそんな場所だ。仕事をしつつパトロールできるというのも時間の無駄がない。

老人と子供が同じ施設で暮らす

戸澤 結奈(中央大学商学部1年、19歳)

 お年寄りと子供が同じ施設で生活する「共生型施設」を増やす。現代では核家族化が進み、子供がお年寄りと関わる機会は少ない。小さい頃からお年寄りと接すれば子供にいたわりの心が芽生え、優しい性格に育ちやすいと言われている。お年寄りと子供が同じ施設で暮らせば、こうした効果が見込めるのではないか。お年寄りも子供との接触を通じて心が癒やされたり、「子供のために何かしてやりたい」と自分の役割を見つけたりして、元気を取り戻したという例もある。双方の家族が自然と集まり、交流することで地域の活性化も期待できるだろう。

ベンチャーと大企業が混ざる

西村 拓也(産業能率大学経営学部3年、21歳)

 就活を変えてみてはどうか。新卒は従業員数が少ないベンチャー、もしくは中小企業しか就職できないようにし、大企業は中途しか採用しないようにする。そのような風潮、制度を作ることによって、労働者は結果を出さないと安定はない危機感、競争心を持ち、若いうちからプロジェクトを担うことで成長する。大企業はこれをヘッドハンティングする。このシステムが成り立てば、ベンチャー、中小は労働者のモチベーションが高まり、成長する。大企業も優秀な人材による成長が見込める。就職がゴールになる学生はいなくなるであろう。これで日本を元気に!

彩りある日本版サラダボウルへ

下山 竜之介(25) 稲田大学大学院先進理工学研究科修士課程2年、25歳)

 米国・サンフランシスコに1年間留学をして、私は直感的に「この都市こそ、将来の世界の縮図なのではないか」と感じた。チャイナタウン、ジャパンタウン、メキシコ移民が集まる地区、金融街、北米最大のゲイコミュニティー……。これらが全て山手線の内側の広さに隣り合い存在し、混ざり合っていた。互いにないものを補いながら価値を発揮するサラダボウル型の混ざり方が、日本の社会にはもっと必要だ。多様な人をただ集めるだけでは坩堝(るつぼ)で溶かされ、無機質に合成された一固体になりかねない。多様性を認め合う価値観こそが新発見の種となる。

人間だから、もっと混ざろう

木村 公彦(会社員、40歳)

 「混ざろう」とのキーワードが心に響いた。私が混ざるべきと考える分野は以下の通りだ。まず「自衛隊・警察官・消防士」。おのおのの役割は多岐にわたり責任と使命は大変大きい。これから日本の人口が減っていくことを考えれば、(合理的すぎるかもしれないが)統合してもよいと思う。次に「教育現場と介護施設」。子供の教育という観点からも老人世代の知識は必要であり、老人にとっても子供の刺激は必要だ。そして「医療法人・宗教法人・学校法人」。経営という概念を取り入れなければ崩壊しかねない。税金の問題はあるが基本的に混ぜるべきだ。これらの「混ぜる」がイノベーションを生み、新たな価値を創造すると期待する。

「民」と「官」の協力

水谷 遥己(慶応義塾大学法学部3年、22歳)

 あらゆるものが混ざり新サービスを創造するには、「互いの情報の共有」と「共有するための場」が重要と考える。ヤマト運輸は岩手県で複数の市と協定を結び、災害時に自社の配送ルートと自治体の物資拠点を組み合わせ、迅速に被災者を救済するサービスを提供している。これは「民」と「官」が互いの流通と物資貯蔵に関する情報を共有して実現した。

 地震や台風、噴火など様々な災害が発生する日本で、こうしたサービスは全国に普及させる必要がある。「民」と「官」の流通関連情報をまとめたオンラインページを作成してはどうか。どのルートを使えば有事の際に効率よく輸送ができるか、問題のあるルートをどう補うべきかがひと目で分かれば、「民」と「官」の融合をサポートしてサービスをさらに発展させられるだろう。

人工衛星データの活用を

山本 航太郎(海陽学園海陽中等教育学校高校2年、17歳)

 「宇宙関連技術」と「第1次産業」を混ぜ合わせることを提案したい。例えば、日本版の全地球測位システム(GPS)「みちびき」の測位信号を活用し、田畑での農作業の進行状況を細かく把握。気象衛星「ひまわり8号」が10分ごとに更新する高解像度の気象写真からピンポイントで天候を予測すれば、農業をさらに自動化できる。このほか、海面温度から魚群の位置を予測して効率よく漁業を展開したり、超高速インターネット衛星で太平洋の真ん中から水揚げ地の市場の売値を調べて供給したりすることも可能になる。地球の外と地上をつなぐことで人々の暮らしをもっと良くすることができる。

健康ギャンブルという可能性

古谷祥悟(早稲田大学大学院創造理工学研究科修士課程1年、22歳)

 高齢者医療にギャンブルを取り入れるのはどうだろうか。麻雀やパチンコが脳の活性化につながるという研究があるようだ。あくまで少額の賭けに限るべきだが、実際の高齢者医療に持ち込むことで認知症を防止できないか。ギャンブル業界は世間では否定的に見られがちな面もあるが、医療に貢献することでイメージを好転させうる。さらに、この新しい融合を海外メディアに注目させることでパチンコ、麻雀という日本の文化を世界に進出させる大きな機会にもなるかもしれない。老人の孤独死が問題になっているが、麻雀などのコミュニティーを作ることで他人とつながることも期待できる。

スカラーシップファンドの設置を

豊田 広英(自営業、49歳)

 最近、経済的な理由で学業を断念する学生が増えている。親からの仕送りでは生活費が賄えず、遅くまでアルバイトをして授業に出席できない学生もいる。将来を担うべき学生が学業に専念できないのは国益を損なう問題だ。

 一方、金融機関は融資先がない「カネ余り」の状態にある。奨学金ファンドを設けて投資を募り、生命保険も組み入れる。場合によっては学校にも連帯保証人になってもらえば、トリプルAの格付けを取得して、学生に低金利で貸し出すことも可能だろう。学生も安心して学業に励めるうえ、学校も優秀な学生を確保できる。投資家も安全で、社会に役立つ運用になると思う。

保育事業とITを混ぜる

田中 優輝(早稲田大学商学部3年、20歳)

 保育とIT(情報技術)を混ぜ合わせたサービスを提案したい。女性の社会進出を支えるために不可欠な保育事業とITで新しいサービスを創る。具体的にはコミュニティーサービスのアプリの運営だ。アプリを通じて親同士が情報を交換し、手が空いているときに保育園や学校への子供の送り迎え、一時預かりなどで助け合う。親子の地域交流イベントなども催す。イベントを通してママ友を作り、いざというときに頼れる人を増やす。地域の子育てコミュニティーを作ってもらい、安心して子育てと仕事が両立できる環境を生み出すのである。このアプリを通して、働く女性の子育ての楽しさや辛さをママ友と分かち合い、地域ぐるみで子供を育てられれば良いと思う。

講  評

折り合うのではなく尊重し合い主張

 読者の皆さんからの投稿を読んでいて「日本もいい方向に変わりつつある」と感じました。それは「混ざる」「混ぜる」ために、自分の主張をトーンダウンしながら平均的なところで折り合うのではなく、個々人を尊重し、認め合いながらも自分の主張が受け入れられる社会を作ることを提案する意見が多く見受けられたからです。

 では、そうした社会を実現するにはどのような心構えが必要なのでしょうか。答えの一つが「違うことを『当たり前』として受け入れる」ということだと思います。一朝一夕にはいかないでしょうが、多様な価値観を空気のように意識しないで混ざることができる社会が早く来てほしいものです。今はまさにその過渡期であり、企業や社会でもその方向へ持っていくようにあえて意識的に行動すべきだと考えます。

 具体的な「混ざる」「混ぜる」の例として思わず膝を打ちたくなったのが「『ふるさと納働』の創設」です。まさに都市と地方、若者と高齢者、ヒトと自然が混ざり合う取り組みです。行政などがマッチングの役割を求められます。現政権の新機軸でもある「地方創生」の流れにも沿っています。私自身もやってみたくなりました。

 育児に関わるものも多くありました。「子育てカフェ」は、子育てをカフェを舞台に地域の人たちが一体となって支援しようという提案です。長年育児をしてこられた高齢者の方から育児の知恵も受け継がれることでしょう。

 アイデアには大胆でドキッとさせられるものもありました。実現には相当な困難が伴うことが予想されますが、それは我々自身に固定観念があるからです。それを取り払えば新しい未来は意外と早く訪れるかもしれません。

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