未来面「革新力」経営者編第2回(2016年1月5日)

課題

イノベーションに向けた志とは?

大野直竹・大和ハウス工業社長

※肩書き等は掲載当時のものです。原稿のため、掲載時とは差異があります

「建築」は、世の中をよくできるか。

 昨年も日本人がノーベル賞の生理学・医学賞、物理学賞を受賞し、サイエンス分野では21人になりました。過去10年間で日本の企業や大学などが出願した国際特許件数が2倍近くに増えるなど、日本のイノベーション(技術革新)を生み出す力は高まっていると感じます。日本人は品質や美の観点から物事の本質を究めていく気質があります。その気質は研究開発に向いているのでしょう。

 企業にとってイノベーションは成長の大きな原動力です。企業は自己満足の研究に終わることなく、常に「人が使う、利用する」ことを前提に開発に取り組んでいます。当社も道を切り開いて成長してきました。「建築の工業化」という創業理念を掲げてプレハブ住宅を開発し、商品化するプロセスはまさに前人未踏の道でした。幹線道路に並ぶ飲食店や量販店の建物も、ビジネスモデルのイノベーションにより普及に弾みをつけました。

 最近はインターネット通販の急成長などをとらえ、最新機能を備えた物流倉庫にも力を入れています。単に建てるだけでなく、住宅建築を通じて培った「お客さまの声に耳を傾け、常にお客さまに寄り添う」という姿勢を持つ企業だからこそ、新しい社会ニーズに応え、人々の生活をよりよくできると実感しています。

創意の源泉は文化への感度と人間力

 イノベーションを生み出す企業の力は、社員一人ひとりの力の総和です。今あるものを何か改良できないか、まったく違う新しいもので置き換えられないか、という視点で考え続ける人を育てなければなりません。私はよく社員に「絵画を見なさい」「映画に行きなさい」と言います。芸術や文化に触れるなど、仕事以外でのさまざまな経験で人間力を養い、センスを磨かなければ、新しいモノを生み出すことはできないからです。人間力こそイノベーションの源泉であり、社会に役立つモノを生み出す基盤なのです。

 様々な企業や組織、大学などとの協同や協業も大切です。人間力あふれた人たちの色々な知を結集することで、より社会に役立つモノに磨いていけます。そして新たなイノベーションの創出は、そもそも「何を目指し、世の中をどう変えたいのか」という明確な意識、つまり「志」がなければ成しえません。

 次代を担う皆さんは、世の中をよくするイノベーションを生み出すため、どのような志を持っていますか。

アイデア

便利さの光と影 見定めて

境 陸杜(海陽学園海陽中等教育学校中学1年、13歳)

イノベーションを生み出す、とは人間の生活をどんどん便利にすることでもある。便利さは一見、人間の生活を豊かにする。これが光の部分だ。しかし、便利さは人間が本来できることをしなくてもよいようにする面がある。こうなると人間自身の能力は著しく低下し、どんどん退化する可能性がある。それは便利さの影だろう。

 私たちがこれから目指すべきなのは、「人間の能力で不可能なことをイノベーションによって解決すること」だと考える。例えば、ものすごく精密なモノを作ることや、危険な場所を調査することなどが挙げられる。こうした取り組みを続ければ、これから人間のできることの幅は広がり、人間が退化することなく、文明や人類の発展につながるだろう。

2500年前からの教え

遠田 将之(海陽学園海陽中等教育学校高校2年、16歳)

 「故きを温ねて新しきを知る、以て師と為るべし」。孔子の有名な格言だ。この温故知新の精神がイノベーションを生み出すために重要だと思う。なぜなら革新とは、今ある知識の違う使い方を見つけ出し、古いものを別の視点から見ることで生まれるからだ。

 例えば「ハニカムコア」という形状がある。正六角柱を蜂の巣状に隙間なく並べたもので、新幹線の扉や床への振動軽減や軽量化の材料として、建築では防音扉などに使われている。アンプなどの音響機器でもよく目にする。

 元をたどれば七夕飾りの紙細工をヒントに開発されたという技術が、多くの分野を革新に導いているのだ。革新に本当に必要なのは、ある事象に対して新たな視点を見つけていくこと。2500年前に孔子が説いた志は、現代にも通じていると思う。

子どもに学ぶ意味を

秋岡 正容(大阪大学法学部3年、22歳)

 漫然と学ぶ子どもをなくしたい。これが私の志だ。「なぜ勉強しなければいけないのか?」。友人や塾の生徒から、かつての自分からも幾度となく出た疑問だ。学ぶ意味がわからないことが現代の「閉塞感」の元凶ではないか。

 学ぶ必要性とイノベーションが求められる理由を皆が考え、自分なりの答えを持てるようなカリキュラムを中高校生の段階で組み込むべきだ。学んだことが将来どう役立つかをビジネスパーソンが教えたり、大学教授を招いて世の中を変えた身近なイノベーションについて考えさせたりする。学問がなぜ生まれ、各教科・分野がどう関連しているかを学ぶ。子どもたちが学びに意味を見いだせれば、世界はより生き生きとしたものになると思う。

以上が紙面掲載のアイデア

社会人が夢を語る世の中へ

木口 孝顕(工学院大学工学部3年、21歳)

夢を描く力。この「志」がイノベーションを起こす原動力として必要になっていくと考える。近年やりたいことがわからない若者が多いというニュースをしばしば耳にする。そこには良い点と悪い点がある。

 良い点は、昔は職業によってある程度生き方が決まっていたが、現代ではより多くの生き方が選択できるようになったということだ。悪い点は、やりたいことがわからないまま大学進学や就職先決定を「対策」で乗り切ってしまう若者が多くなったことだ。結果として職業人としての夢がない大人が増えてしまった。

 社会人が夢を語る世の中が実現すれば、夢を既に持つ人にとっては、多くの人の夢を知ることで分野を超えた発想の共有ができる。一方、夢を持っていない人には、夢を持つ人の情熱が伝染することで職業人としての夢を追うことができるようになると考える。何より夢を語る人は皆イキイキとしている。

疑う志

鷹崎 健太朗(神奈川大学経営学部3年、21歳)

 イノベーションに向けた志で必要なことは「当たり前を疑うこと」だ。私は高校生の時、東日本大震災を経験した。高校では避難訓練や防災訓練を行い、震災がおきたらこのように行動するというマニュアルがあった。私は震災があった時、このマニュアルに沿って当たり前に行動するべきものだと考えていた。

 しかし、実際に震災がおきたら当たり前が通用しなかった。この経験から、イノベーションを起こすためには当たり前を疑うことが大切だということを学んだ。与えられたもの、普段の生活の中で疑問を持ちそれを解決することがイノベーションにつながると思う。

どんな時も楽しく!全力で!

橋本 涼太郎(大分県立大分豊府高校1年、16歳)

 イノベーションに向けた志は、どんな時も楽しむことだ。社会を変えるイノベーションには、相当の情熱と努力が必要になる。そこに「楽しい」というわくわく感があれば、必ず成し遂げたいという情熱を生み、一瞬一瞬において全力で努力できるようになる。

 もちろん困難にぶつかることはあるだろう。そんな時も成長や飛躍に向けたステップだと考え、輝かしい未来を描いて「楽しむ」ことで、希望がみえて頑張る気持ちが湧き、解決の糸口も見えてくると思う。さらに、楽しんでいる人の所にはいろんな人が集まってくる。協力してくれる多様な仲間も得ることができる。どんな時も楽しみ、全力で臨むことで世界を驚かせるイノベーションを生み出せるはずだ。

実績にとらわれず前に進む

馬場 泰平(海陽学園海陽中等教育学校中学3年、15歳)

 イノベーションを起こすためには、今までの自分の「実績」を捨てることが重要だ。実績とは自分が今まで成功してきた経験や分野などを意味する。人はつい過去の成功体験からイノベーションを起こそうとしてしまう。しかし、今まで自分が成し遂げてきたことにとらわれては、前に進み、イノベーションを起こすことはできないだろう。

 1つの分野から生まれるようなイノベーションの多くはもう発見されている。様々な分野を織り交ぜて、初めて新しいものが生まれるのだ。自分の実績にとらわれず、何もない状態から様々な人の価値観や実績を総合的に検討し、織り交ぜなくてはいけないのだと思う。自分の「実績」は検討材料の1つととらえることで、前に進む原動力につながるのではないか。

イノベーションが生まれる場の提供を

加藤 久美子(大阪大学法学部3年、21歳)

 新たな住環境によって、人を変える――これが私の描く志だ。人は環境によって変わる。住居そのものや、周囲の環境によって心理状態だけでなく、行動指針までもが影響をうける。整理整頓された部屋にいると、思考も整理されるという。

 そこで、バックグラウンドが多種多様な人々が1つのコンセプトの下、同じ家に居住するシェアハウスのような場を提案したい。シリコンバレーのイノベーション人材の豊富さには、場の持つ力も大きい。人材が集まるカフェが多くあり、誰かと誰かが一日中議論を交わし、イノベーションを生み出している。日本の住居もイノベーションが生まれる場にしようではないか。集積がイノベーションを生み出し、イノベーションこそが人を変えるものだ。

「新しい当たり前」を創る

西尾 龍二(慶應義塾大学大学院修士1年、23歳)

 「世の中に“新しい当たり前”を生み出す」という志が必要だと考える。例えば、ヒット商品になった「におわない納豆」がある。納豆は独特の臭いを持つ食品で、食後になかなか口から消えない臭いが消費者にとって悩みの種だった。そこで開発企業は「納豆=臭う」という今まで当たり前だった常識を、「納豆=臭わない」という“新しい当たり前”を創り出し、消費者が喜んで納豆を食べられるようになった。

 このようなイノベーションを生み出すには、「身の回りにあふれる“当たり前”に対し、常に疑問や問題意識を持ち、社会を良くする“新しい当たり前”を生み出す」という強い志を持つことが必要ではないか。

できる方法を考える

瀧柳 祥太(立教大学経済学部4年、22歳)

 「あなたの提案は素晴らしい。しかし、そんなことはできっこない。」ある日のビジネスアイデアコンテスト。私の提案に対して、チームの1人がこう指摘した。私はその言葉に少し怒りを覚えた。その考え方こそ、悪ではないかと。現状には満足できないけれど、「できないから」やらない。そこにイノベーションは生まれないだろう。

 私は声を大にして言いたい。「できない理由ではなく、できるようにするにはどうしたらいいか、何をすべきなのか考えよう」と。「できない」が「できる」に変わるからこそ、イノベーションだと思う。アイデアはとりあえず言ってみる。アイデアが良いものなら、できる方法を考える。そうした姿勢や環境の中からイノベーションは生まれる。

流星を探すように

坪井 宏行(愛知学院大学経営学部3年、22歳)

 イノベーションとは、例えるなら流星のようなものではないだろうか。ずっと一点を見つめ続け、見つけようと焦ってもなかなか見つからない。ふと違うところに目をやった時に発見できることがあり、それだけに見逃してしまうことも多い。イノベーションのヒントはいつ、どこに転がっているか分からないものだ。いつも同じところを探さず、常識にとらわれず、視野を広く持つこと。そして何か予兆があれば、すぐに反応できるように集中力を保ち続けることが大切だ。

常に前と上を見続ける

荒木 太一(海陽学園海陽中等教育学校中学1年、12歳)

 常に前を見続け、上を見続けることだと思う。前を見続けるとは、未来を見続けるともいえる。研究をしていて、たとえ失敗しても新たな発見につながるかもしれない。そういう前向きなとらえ方が大事だろう。研究が何にもつながらなかったとしたら、その時は反省をしなければならない。ただし、後悔するのではなく、常に未来を見続けるための反省をすることが大切だ。

 上を見続けるとは、その分野のトップを見て学ぶということ。常に自分より上の段階を目指すハングリー精神と、トップの技術を学び、自分の力に生かすという2つが大変重要になる。昨日より今日、今日より明日の生活がよくなるように、と常に考えて実行すれば、未来のイノベーションは今よりもっといいものになるに違いない。

講  評

 イノベーションは、一人ひとりが新しい道を切り開くなかから生まれる。これからの社会を担う学生の皆さんに、そんな思いも伝えたくて「志」を課題にしました。真剣な投稿が多く、うれしく思います。

 「便利さの光と影」は技術志向に偏りがちなイノベーションを冷静に見つめた意見でした。ロボットやシステムの進化に目を奪われず、もっと人間に近い所で革新的なことを考える。企業でいえば、顧客に喜ばれるのか、従業員が使いやすいか、などで判断できるでしょう。「2500年前からの教え」も、歴史や先人の考えから次の社会のあり方を考えるという、イノベーションに欠かせない視点を挙げていました。

 問題に対処するヒントや助言はインターネット上などですぐ見つかります。ただ、そうして選んだ近道より、遠回りでも自ら考え抜いた道こそが次につながる本当の近道でしょう。「子どもに学ぶ意味を」の意見は、学生の皆さんにも当てはめて考えてほしいと思いました。なぜ学び、なぜ働くのか。疑問を抱え、失敗を繰り返しても自分だけの道を築く。そういう志が社会や企業をリードすると思います。

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