未来面「革新力」経営者編第8回(2016年7月4日)

課題

IoTで10年後の街はどう変わると思いますか?

東原敏昭・日立製作所社長兼CEO

※肩書き等は掲載当時のものです。原稿のため、掲載時とは差異があります

「IoT」は、世の中をよくできるか。

 人工知能(AI)で制御された無人の電車やバスが乗りたいときにやってくるから、時刻表は不要。ずっと健康でいるためには、どんな生活を送ればよいか、緻密なデータが教えてくれるから安心。

社会イノベーション、夢を実現

そんな、かつて夢見た時代が間もなくやってきます。あらゆるモノがインターネットでつながる「IoT」時代の到来は私たちの生活や仕事を劇的に変えます。今は想像もつかないような便利で快適な世界が10年後には実現しているはずです。日立の「社会イノベーション事業」が、その実現をリードします。

 電力や鉄道、水、産業・流通、金融、ヘルスケアなど様々な分野で日立は技術革新に取り組んできました。今も世界には水を必要としている人が8億人、電力が足りない人が12億人もいます。人々が快適で幸福な生活を送るために、日立の技術が役に立ちます。あらゆる技術がIT(情報技術)でつながることで全く新しい世界が切り開かれ、かつての夢が実現します。

 「エレベーターの待ち時間を短くしたい」「自宅で注文すれば、すぐに商品が届く製造・物流の仕組みを考えてほしい」。皆さんが日常生活で抱く夢や希望もどんどん実現していきます。

 便利で快適な世界の実現に向けて、日立はこれまで蓄積してきた技術やノウハウを広くお客様に開放し、同じ土俵で、同じ視線で課題解決に取り組む体制を取っています。他の企業や政府、自治体などが私たちの基盤に接して技術やノウハウを一緒に活用することで新たな価値の協創を目指しています。これからの時代、私が世界の日立グループ社員33万人に求めるのは、お客様と価値観を共有し、問題の解決法を一緒に考えることができる能力です。課題を克服し、お客様がメリットを得られたら、そのメリットを共有させていただく。これが日立の目指すビジネスです。

 私たちは高度な技術を高い倫理観を持って活用するために多様化する世界を理解し、適応できる人材を育てています。「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」。これが創業時からの日立の企業理念です。

 10年後、皆さんの住む街、生活や仕事はどのように変わっているでしょうか。IoTを活用して、あなたが実現してほしい夢、解決してほしい課題を教えてください。

アイデア

IoTで子育て支援

山村 哲也(会社員、42歳)

 子どもが通っている保育園と毎日、連絡帳でやり取りをしている。だが手帳に検温のデータに加え、食事やトイレ、睡眠など子どもの生活に関する時間と、連絡のためのコメントを手書きで記入しなければならない。朝の忙しい時間なので意外と毎日、手書きで記入することについて負担を感じている。あらゆるモノがインターネットでつながる「IoT」によって子どもの活動状況の情報「ライフログ」を自動的に記録したり、連絡のためのコメントを携帯電話での音声認識で自動的に記載できたりするようになれば、この負担から解放されるようになる。後で見ても楽しめるように写真を添付できるようにすれば、なお良い。そのような形でIoTによる子育て支援を実現してほしい。

高齢者に優しい街づくり

小川 英恵(明治学院大学社会学部1年、19歳)

 IoTで10年後の街はお年寄りに優しい街に変わるだろう。現在、日本は超高齢社会を迎え、お年寄りの孤独死の増加が深刻な問題になっている。家族と離れ、独りで暮らすお年寄りの生活を見守り、孤独死を防ぐのがIoTだ。例えば、気温の変化を察知し、自動的に室内温度を管理してくれるエアコン。腐った食べ物を食べないよう、食品の状態を判断して教えてくれる冷蔵庫。薬の飲み忘れを防ぐため、管理機能を持つ薬ケースもあったら便利だ。室温や薬の服用状況などが病院や介護ヘルパー、家族などにも伝わるようになったら、安心感は増すに違いない。様々な家電や日用品がインターネットとつながり、変化があったときにすぐ家族などが駆け付けられる仕組みができたら孤独死を防ぐことができるだろう。人と機械が連携し、高齢者に優しい街を実現するのが私の夢だ。

車が道路を診断

秋田 収(会社員、68歳)

 道路を走行している一般の自動車。これを道路の状況を把握するためのセンサーとして利用しない手はないだろう。道路を走ることにより車のタイヤだけでなく、床面に張り巡らされた道路センサーがリアルタイムに状況を調べ、データを送り込んでいくことができる。このようにして一般の車から収集した巨大なデータをIoTの技術を活用して解析していく。道路を素早く、そして的確にメンテナンスすることにつなげることができる。道路を補修するのもロボットの機能を搭載した「自動道路補修車」だ。一般の車から収集したデータを生かし、最小限の時間とコストで道路を自動的に修復していく。こうすれば道路を封鎖する時間も最も少なくて済むだろう。そんなことがIoTを使って実現できたらいいなと思っている。

以上が紙面掲載のアイデア

通勤のストレスがない電車

深瀬 広一(会社員、44歳)

 自宅で勤務できるテレワークなどが社会に浸透することで、会社に通勤するというスタイルが柔軟に選択できる社会になるだろう。インターネット電話を使えば自宅などの遠隔地から会社の会議に参加できる。既にグローバル企業では導入が始まっている自宅やカフェで仕事をするワークスタイルが普及することにより、会社に通勤する意味は薄れてきている。さらに電車にIoTを導入し、車内に搭載した人工知能(AI)が瞬時に混雑程度を把握して乗車を調整するなどの新しい仕組みが導入されることで、今の満員電車や通勤によるストレスがゼロになると期待している。10年後には今の通勤ラッシュが懐かしい記憶として語られる未来になると期待している。

一家にロボットが1台

長尾 達也(会社員、53歳)

 10年後、今の自動車のように一家に1台、ロボットがあり、介護や家事の手助けをしてくれる。ロボットがいれば介護のために会社を辞める「介護離職」をしなくて済むようになり、女性の社会進出もしやすくなる。離れて住んでいる親のことも安心していられる。空いている時間があればロボット同士で連絡を取り、助け合って仕事をしてもらってもよいだろう。例えば複数のロボットが子供の通学路で見守りをしてくれたら助かるし、力仕事は2台のロボットが協力するとよい。こういう集団作業の管理は人工知能(AI)の得意分野なのではないか。できれば10年後には軽自動車くらいの価格で家庭用ロボットを買えたらいいのだけれど。

インターネットは空気になる

森瀬 旭(会社員、56歳)

 安全な食材を食べたいときに、希望の価格で手に入れることができる。なぜなら自分たちの意思や好み、ニーズがネットワークに自然に反映されているから。いつ、どこで、誰が、どうやって育てた野菜か知ろうと思えば知ることができる時代が来る。病院では不愉快な思いをせずに診療を受けることができるようになる。自分だけではなく家族の病歴や遺伝子の特性から、一番身体に合う薬が処方され、治療が受けられるようになる。これらのもとになるのは、全てインターネットに吸い上げられた個人情報の蓄積だ。ネット社会で呼吸するように無意識に生きているうちに蓄積され、学習されて育った「自分」なのだ。ネットの膨大な情報の中に生まれて育っていくバーチャルな人格こそが、10年後の社会を変える鍵だ。

リアルタイムでの健康状態共有による健康管理サービスの実現

北野 善彦(会社員、32歳)

 現在、体組成計のデータをスマートフォン(スマホ)で管理できるが、その発展版として、例えば毎日、自宅の特定の場所を通ると、その人物を特定し、ありとあらゆる健康情報を測定できるようになる。今後の技術の進歩に依存する部分もあるが、そのデータを医療機関などにリアルタイムで送信し、もし健康状態に関する懸念や異常が発生していたら、速やかに警告を発して、しかるべき対処(食生活や睡眠不足への警告、場合によっては病院での受診など)を指示することで、人々の健康的な生活を支援するというシステムが考えられる。軽度な懸念や異常であれば朝、仕事に出て夜に自宅に帰ってくるときには必要な薬やサプリメントが届いているという仕組みもつくれるかもしれない。

IoTは世界を救う

片桐 渉(慶応義塾大学大学院理工学研究科修士2年、24歳)

 道路交通の利便性、安全性がIoTにより劇的に改善される。街を走る車やバイク、自転車、人々が持つ携帯電話などがインターネットにつながることにより、位置や速さなどの情報を共有できるためだ。車は渋滞を起こさず、最短、最速の道順を進むことができる。バイクや自転車にも自動制御が導入される。死角から飛び出してくる場合でも事前に相互に認識され、衝突することは決してない。通勤通学の時間は短縮し、交通事故の発生は激減する。防災対策としても活用できるのではないか。津波が堤防を越え、瞬く間に街が海に飲まれた5年前、科学技術の無力さをただただ痛感するのみだった。街中の人や乗り物がインターネットにつながっていれば、想定外の天災が起きても全員を避難させることができる可能性が高まるのではないだろうか。災害大国といわれる日本の技術が、世界中で災害から人々を救う未来を期待する。

日常生活での安全・安心を求めて

上原 康滋(自営・自由業、71歳)

 切実なる願いは毎日が安全で、安心して過ごせることだ。種々の課題がある中で、国内では当面、直下型地震の発生を心配している。事前の予測でいち早く避難対策を取り、被害を最小限度に抑えられるならと考えている。社会インフラ事業やIT関係の事業を中核とする会社には、確実な地震情報を少なくとも発生の2~3日前に広く伝えてもらえればありがたい。IoT技術を使ってビッグデータとオープンデータを融合するなかで逐次、確認しながら地震の発生予測を行うのだ。そうすれば地震の発生は防げないとしても、例えば会社員が発生予測地域へ出張するのを控える、といった事前の処置が取れる。また地震発生規模の予測を踏まえ、様々なインフラ設備の被害をシミュレーションし、事前のハード面での地震対策を進めることができればとも考えている。

IoTで簡単にダイエット

笠井 真由(明治学院大学文学部2年、19歳)

 私は最近ダイエットをしている。食事制限や運動、筋トレなどで何とか少しずつだが体重を減らすことに成功した。しかし、IoTの力で10年後にはもっと簡単にダイエットをできるようになってほしい。私は食事を入力するとカロリーを記録してくれるアプリで日々管理している。ただ、一般的な食べ物やファストフード、コンビニエンスストアなどの食事でなければ正確なカロリーがわからない。家で出される料理は一つ一つ、カロリーが細かく違うだろう。創作料理に至っては何となくしか分からない。こうした問題をIoTによって、写真を撮るだけで、あるいはセンサーで食べ物を感知し、料理のカロリーを正確に記録できれば、もっと効率良くダイエットをできる。また「褒められて伸びる人」のために、体重や体脂肪も管理し、痩せたら音声で褒めるようにすればダイエットを手軽に楽しく進められるだろう。

病院での待ち時間改善を

藤田 聰(会社経営、53歳)

 IoTで解決してほしい課題は「病院での待ち時間の改善」である。先日、83歳になる母と電話で話をしたら、定期健康診断を受けるためかかりつけのクリニックに行ったところ、すべて終わるまで4時間以上もかかったという。この暑いなか、80代の高齢者にはあまりにも酷である。何とかメスを入れてほしい社会的課題だ。各科ごとの病名と診察回数、診察時間、レントゲン室のような共有施設の利用、移動手段である交通網、医療機関の評判などといったビッグデータが共有化され解析されるならば、一番待ち時間が短くて患者に評判の良い病院を抽出し、薦めてくれるようになるだろう。高齢者にとって病院に行くことがワクワクする、と感じられる社会を実現できるならば、老人大国である日本にとって素晴らしいことだ。高齢者大国の予備軍になる他の国々にもシステムを転用できる。地球規模の視点で大いに貢献する技術だと考えている。

自動減速で停止回数を減らすシステム

下山 義郎 (会社員、57歳)

 長年、自動車の研究開発に携わってきたため、自動車の新たな機能を予想したい。ガソリン車も電動車も搭載されたエネルギーを有効に使うことが重要だ。車は停止状態から発進する時に多くのエネルギーを消費する。エネルギーを効率的に使うには停止回数を減らすことが有効になる。例えば車載カメラが赤信号を認識すると、停止をせずに交差点を通過できるよう、自動で減速する。自動でない場合はドライバーに減速したほうがいい、というメッセージを音や照明で伝え、できるだけ停止の回数を減らす運転を促す。市街地の見通しの良い道路なら、周囲の車に迷惑をかけることなく減速できるだろう。もちろん、道路状況に応じてこのシステムのオン・オフは任意で変えられる。カーブを曲がった先の信号が見えない場所ならば、信号の状態をカーブ手前で認識できる送受信システムを設置すれば円滑になるだろう。車の停止回数が減れば、渋滞の緩和にも役立つと考えている。

講  評

 IoTでどんな街や暮らしを実現したいのか、夢への提言をたくさんいただきました。「子育て支援に期待」のアイデアには大きな可能性を感じます。子どもの生活や音声データの蓄積によって、成長の記録や健康管理に活用できます。セキュリティーを確保しながら、家庭だけではなく学校や地域、国へとデータ活用の場を広げていけば教育の方向性を決めるうえでも役立つでしょう。IoTで「高齢者の暮らしに優しく」という街が実現すれば、ご本人はもちろん、家族や介護従事者にも大きな利点があります。大事なことはIoTによる支援が新たな社会的負担を招くことなく、より快適な生活や社会を実現することです。人と人とが地域で支えあっているような、自然にさりげない支援ができたらいいと思います。

 自動車はIoTで劇的に変わるでしょう。車にセンサーを搭載することで様々なデータの収集や分析が可能になります。収集したデータを、アイデアでいただいたような道路やトンネルの保全に生かしたり、マーケティングに活用したりといった可能性にも期待できます。今回ご提案いただいたような皆さんの夢を日立はIoTで実現していきたいと思っています。

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