未来面「革新力」経営者編第6回(2016年5月9日)

課題

訪日客にふるさとの何を薦めたいですか?

高橋広行・JTB社長

※肩書き等は掲載当時のものです。原稿のため、掲載時とは差異があります

「交流」は、世の中をよくできるか。

 政府は2020年に海外からの訪日客を年間4000万人とする新たな目標を掲げました。一方で地方創生、地域経済の活性化も重要な政策課題です。訪日外国人のお客様と地方創生。この2つの課題が密接に連携する時代となった今こそJTBの出番だと思っています。

地方の文化を日本の新たな魅力に

海外のお客様は東京から京都・大阪へ流れるゴールデンルートだけでは満足せずリピーターを中心に地方へ足を延ばしています。JTBは10年前、地域拠点を分社化しました。地域にお客様を送り込み、交流することで地方を活性化する事業に力を入れています。

 地域に埋もれている観光資源を発掘したり、観光だけでなく、地域の伝統芸能を学んだり、独自の文化を体験したりする。様々な目的をもった人が日本中から、そして海外から、地方へ向かう。そんな流れを創出し、新たなビジネスチャンスを生み出す。このような「交流」を創造する仕事を私たちは「交流文化事業」と呼んでいます。

 人口減少に悩む地域もありますが、外国からのお客様7人を送り込めば、経済効果は人口が1人増えたのと同じ、という試算があります。定住人口の減少は交流人口の増加で補えるのです。海外からのお客様に、地方都市の良さを体感してもらえば、日本の新たな魅力を知る機会になり、国際的なイメージの向上にもつながります。

 ホテルが足りないと心配する声もありますが、地方に行けば、旅館という日本文化を体験できる素晴らしい観光資源があります。これまであまり訪日外国人のお客様を迎えたことがない地方都市でも、思わぬものが彼らには魅力的に映るかもしれません。それは名所旧跡に限らず、食べ物であったり、伝統行事であったり、農村の風景であったりします。雪に魅力を感じるお客様も多く、これまでオフシーズンだった冬場も観光客が増えています。人が自由に動き、交流できるのは、平和であるからこそです。私たちの手掛ける交流文化事業は平和産業であり、平和を生み出す産業なのです。

 そこで皆さんに教えていただきたいことがあります。海外からのお客様に、あなたは自分のふるさとの何をお薦めしたいですか。海外に発信できるあなたのふるさとの魅力を、ぜひ教えてください。

アイデア

祖母の銭湯で感じるぬくもり

坂田 拓朗(中央大学商学部3年、20歳)

 私の生まれた東京都江戸川区には祖母の銭湯がある。周りの同業者が次々と店をたたみ、祖父が他界してからも何とか今まで続けてきた。私は家族と帰省すると、まず祖母のいる番台へ顔を出す。祖母はいつも笑顔だ。そんな番台を通り抜け、私は風呂に入る。湯船につかっていると、隣の老人が笑顔で私に話しかけてくる。別に大した会話ではない。しかし、そのたわいもない会話は日常生活で忘れている大事なものを私に思い出させてくれる。「ここで感じるぬくもりは湯のあたたかさだけではない。人との交流だ」。大学に入り、私にも外国人の友達ができた。もし私が日本で彼らを、そして日本を訪れる世界の人々を案内するなら、一緒に買い物には出かけない。行くのは江戸川区にある小さな風呂屋である。

鳥肌が立つ神輿(みこし)の体験

早川 燈(法政大学経済学部2年、19歳)

 私のふるさと、神奈川県小田原市の神輿(みこし)をお薦めしたい。先日「小田原北條五代祭り」という小田原市でも最大の観光イベントがあった。祭りでは武者隊やマーチング隊などが町の中を歩き、各町内の神輿が出る。この時、私は人生で初めて神輿を担ぐことになった。そこでは男女を問わず一緒に神輿を担ぎ、掛け声をかけ、全力疾走するという体験をした。外で見ている観客からは「感動した」と言葉をかけてもらい、大きな拍手もいただいた。自分自身、他の神輿の迫力のある走りや、掛け声に鳥肌が立った。神輿を担いだことがない私がこんなに感銘を受けたので、恐らく神輿自体を知らない、あるいは見たことがない海外からの訪日客も感動するだろう。そして、神輿というものに興味を持ってくれるのではないかと感じている。

徳島の医療と海の幸

徳永 淑子(主婦、46歳)

 徳島県は新鮮な海産物や豊富な野菜、自然の体験など、日本を訪れた外国人観光客が楽しめる素材にあふれている。阿波踊りで有名な私のふるさとの徳島県で忘れてはならないのは人口に対する病院の多さだ。中国をはじめとした多くのアジアからの観光客の関心は買い物を楽しむ旅から、体験を楽しむ旅に変わってきているという。受け入れる側として大切なポイントは、いかに観光のオフシーズンでも訪れてもらえる強みを持つかだろう。訪日客は日本で高いレベルの医療や健康診断を受けることにかなり関心があるのではないか。冬でも温暖な気候の徳島で、人間ドックを体験しつつ、ゆったりと海の幸や自然を楽しんでもらって日本の良さを実感できる旅を提案したい。

以上が紙面掲載のアイデア

田植えという日本の原体験はいかが

西村 法子(大阪大学外国語学部3年、22歳)

 私のふるさと、岡山県新見市では毎年春に「田植え太鼓」という伝統行事が開かれる。「田植え歌」の響く中、苗を手で植えるという、特別な田植えとなる。女性は花笠をかぶり、かすりの着物を着て苗を植え、男性は太鼓をたたきながら歌を歌う。骨の折れる田植え仕事の疲れを癒し、田の神をたたえて五穀豊穣(ほうじょう)を祈る儀式として、このような慣習が生まれたと伝わっている。泥の中にはだしで入るのは、ひんやりとして何とも言えない感触だ。そして、仕事終わりに労をねぎらいつつ食べるおにぎりは格別においしい!この伝統行事を、外国人観光客にも実際に体験してもらうのはどうだろうか。稲刈りの後は、その田んぼでとれたコメや、そのコメで作った製品を送るのもよい。日本の伝統文化を体験したい人、美しい日本の原風景の中で地元の人たちと交流してみたい人、日本の伝統的な農業や、コメについて知りたいという人には魅力的に映るはずだ。

天然の渓流とワサビ栽培

守屋 誠(会社員、54歳)

 素晴らしい自然の中、天然の渓流を活用したワサビ栽培と人々をお薦めしたい。場所は島根県益田市匹見。国土交通省の水質ランキングでトップに輝く高津川の支流、匹見川と、緑豊かな山々に囲まれた地域だ。甘みすら感じられる品質の高いワサビの産地で「東の静岡、西の匹見」として有名だったが、生産性の低さを理由にその多くが耕作放棄地と化してしまっている。今はその復活を目指し、出身地を問わずやって来る「Iターン」の人たちがいる。私は高津川流域特区の通訳案内士の方々と、このワサビ田に加えて津和野や石州和紙、神楽、和太鼓などこの地域の魅力を組み合わせたツアーの提案や作成を試みつつある。広島からバスで3時間、というこの地域へぜひ足を運んでもらいたい。

アイヌ民族との交流

杉村 俊介(海陽学園海陽中等教育学校高校1年、15歳)

 僕のふるさと、北海道には雄大な自然やおいしい食べ物があり、海外からも多くの観光客が訪れる。しかし、僕が薦めたいのは自然や食べ物ではなく、先住民族であるアイヌ民族との交流だ。現在、アイヌ民族と呼ばれる人たちはほとんど北海道にしか住んでいないと言われる。アイヌ民族の文化はとても独特で魅力的だ。自然を神としてあがめる祭りや、木彫りのような芸術がある。また、僕は観光客にアイヌの人たちの文化を学び、体験するだけではなく、アイヌ民族と直接交流してほしい。世界では少数民族弾圧や民族間紛争が絶えず、異文化や異民族を尊重するという当たり前のことが忘れられていると感じる。そこで、アイヌ民族との交流を通じて、海外からの観光客に先住民族や少数民族を尊重する心を思い出してほしいと思う。

町を包むイチョウの匂い

斉藤 梨沙(中京大学総合政策学部3年、21歳)

 地元の友人に「ふるさとと言えば」と質問すると、口をそろえて「イチョウ」と答えるに違いない。秋になると黄葉し、町全体が黄色に染まる。愛知県稲沢市で秋に開催される「そぶえイチョウ黄葉まつり」は多くの観光客でにぎわう。私のお薦めは夜のライトアップだ。真っ暗な静かな町で明るく照らされたイチョウが心を落ち着かせてくれる。黄葉の季節になると、町中がイチョウの匂いに包まれる。イチョウというと「臭い」というイメージがあるかもしれない。だが、この匂いには長所もある。下校時に電車で寝ているときに最寄り駅のドアが開くと、イチョウの匂いで自然に目覚める。外国から訪れた人がどの駅で降りるのか分からなくても、この匂いで私たちのふるさとにたどり着くことができるだろう。

受け継がれる恩返し

長谷川 愛(駒沢大学グローバル・メディア・スタディーズ学部4年、21歳)

 私たちの故郷を訪れるときに感じてほしいのは「恩返し」だ。私は埼玉県深谷市にある岡部(旧岡部町)に住んでいるが、この地域では江戸時代から「獅子舞」や「屋台囃子(やたいばやし)」の伝統文化が親から子へと受け継がれている。少子化が深刻だが、祖父は子供のときに親から教わった恩返しの気持ちで「この文化を伝承したい」と子に伝えている。私たちの故郷では「この間はありがとう」「お礼にどうぞ」といった会話が飛び交う。現代ではお金があれば何でも買える。インターネットや仮想現実(バーチャルリアリティー)によって訪れなくとも、まるでそこにいるかのような体験を味わうこともできる。人と人の関わりのように、現地に足を運ぶからこそ感じることができる価値を実感してほしい。

分校で過ごす1日

中村 桃子(早稲田大学教育学部4年、21歳)

 私がお薦めしたいのは地方にある「分校」だ。具体的には日本を訪れた外国人の皆さんに、地方の分校に通う児童と一緒に同じ1日を体験してほしいと考えている。地方にある過疎地域には大抵、市などの小学校の分校がある。分校で過ごす子供たちは自然の豊かさや地域の人々に囲まれ、のびのびと成長している。訪日外国人の皆さんも地方で生活する良さを体感することができると思う。実際に訪れて分校を通じて地域をみることで日本の少子高齢化の深刻な姿や、手入れがされずに荒れている自然など、地方が抱えるリアルな課題にも触れることができるだろう。

出会えば皆兄弟

比嘉 七海(明治学院大学社会学部1年、18歳)

故郷の沖縄には「出会えば皆兄弟」という言葉がある。この言葉には国籍、人種を超え、出会ったら仲良くなろうというメッセージが込められ、沖縄の魅力を象徴している。人々と触れ合うことをベースに、さらにコンテンツを提供したいという視点で思い付いたのが伝統工芸品などの製作体験だ。沖縄の文化はアジアの貿易中継地点だった歴史を背景に様々な国の影響が混ざった独特のものだ。その歴史をオープンにして製作体験を通して知ってもらうことで親近感を感じてもらいたい。観光に来るということは、少しでもこの場所に興味を持っているということだ。オープンな精神で観光客を迎え入れるという他の文化との共存こそが沖縄のアピールポイントだ。

山に吹く風

歌 重義(山形大学人文学部4年、21歳)

 「どこの都市も似ている」。留学生に日本の都市の印象を尋ねるとこう答えた。確かに街路を歩くと路地の樹木、石畳の歩道、標識……。ふと目に浮かぶ近景はどこの都市でも大差はない。だが、遠くの山並みは各地で大きく違う。訪日客にはぜひ山に登ることを薦めたい。山に登ると、野の花や葉の色など季節によって変化する自然を見て触れて感じることができる。頂に立てば素晴らしい眺望を見られる。眼下には町並みが広がり、心地よい風が吹いている。日本人は山をあがめてきた。小さなほこらや路傍の石像は地域の信仰の証だ。ふるさとには必ずと言っていいほど身近なところに山があった。一番の案内人は地元の人である。地元の山を愛し、親しんできた知識や経験がある。それをぜひ訪日客に伝えたい。

島田髷(まげ)と島田髷まつり

杉村 智美(公務員、26歳)

 結婚式の花嫁の髪形として有名な文金高島田をはじめとする「島田髷(まげ)」の発祥の地という静岡県島田市。毎年9月の第3日曜日に「島田髷まつり」というあでやかな日本髪の祭典が開かれる。島田髷などの日本髪を結い、そろいの浴衣を着た70人ほどの女性が手踊りを披露しながら市内を練り歩く。最後を飾るのは、島田髷の考案者とされる「虎御前」の菩提寺である鵜田寺での「髷供養感謝祭」だ。注目すべきは、祭り参加者のほとんどが地髪で日本髪を結っていることだ。島田市には、全国的にも珍しく今でも日本髪を結うことができる美容院が数多くあり、誰でも好きな時に髪を結い上げる体験ができる。島田髷まつりはもちろん、地髪で日本髪を結うという貴重な日本文化体験をお薦めしたい。

汗と涙の甲子園球場

竹内 愛(青山学院大学法学部3年、20歳)

 応援の叫び声が響き渡る。ここは兵庫県西宮市にある甲子園球場。日本全国の青春が今、この甲子園球場に集結している。高校野球独特の雰囲気は外国人にとって珍しいのだろう。隣で観戦しているエミリーは、熱気に包まれた甲子園球場の光景を目の当たりにし、驚いている。高校野球には、プロ野球とは違う感動を味わえるという醍醐味がある。必死に声をあげる応援団、懸命にパフォーマンスするチアリーダー、手を合わせ勝利を祈るマネージャー。そして励まし合い、時にはぶつかり合ってきた仲間を信じて戦う選手達。彼らの最後まで諦めない思いが、ドラマチックな展開を巻き起こす。その全力で勝利を目指す姿に、勝っても負けても涙を流す姿に、観衆は胸を打たれる。「日本人はクールだ」と思っている外国人もいるかもしれない。私は高校野球を通して、日本人が心に秘める情熱を伝えたい。

ふるさとの心に触れる

宮本 彩加(明治学院大学心理学部2年、21歳)

 キラキラ、チカチカ、展示の最後、白の空間――。瀬戸内の柔らかで暖かな日差しがステンドグラス越しに、小さな小さなビーズを照らし続ける。私のお薦めは、広島県福山市にあるホロコースト記念館だ。冒頭の記述は、ユダヤ人の子供の犠牲者と同じ150万個のビーズを6本の筒に詰めた「150万の命のビーズとオブジェ」である。広島のお薦めといえば、宮島、原爆ドーム、広島平和記念資料館、お好み焼き……と語り切れない。しかしヒロシマの本当の魅力とは、県民ひとりひとりに根付く平和への思い、平和教育の水準の高さである。ホロコースト記念館では、平和資料館とはまた違った平和への願いを目にすることができる。訪日客の方にはヒロシマに足を運んで、平和へ思いをはせる時間を過ごしてほしい。そうしてヒロシマ人の心に触れていただきたい。

サブカルチャーの聖地

池田 愛莉(帝京大学経済学部3年、20歳)

 私のふるさと、東京都中野区の魅力はアニメーションなどサブカルチャーの聖地「中野ブロードウェイ」だ。ブロードウェイは歴史ある建物で、今年50周年を迎えた。当初はファッションビルとして人気を集めていたが、今ではサブカルチャーの聖地に生まれ変わった。ここ数年、若い外国人の間でアニメブームが定着し、秋葉原にはたくさんの外国人が訪れるようになった。しかし、ブロードウェイも負けてはいない。秋葉原は至るところにアニメ関連の店舗があるが、ブロードウェイは1つの建物に数十店舗も入っており、秋葉原を凝縮した感じだ。もう少し上の世代にはレトロな物を扱う店舗をお薦めする。世代ごとに楽しめるのも魅力の1つだ。私自身、ブロードウェイを訪れると子供時代の懐かしい感覚がよみがえる。外国人だったらもっと新鮮な気持ちになると思う。

講  評

 JTBグループは、お客様に日本各地に行っていただくことで生まれる様々な出会いを通して、地域の活性化を目指しています。今、外国からのお客様が続々と地方を訪れています。皆様のふるさとでお薦めしたいものをお聞きしたところ、本当に多数の貴重なご意見をいただきました。

 まず「祖母の銭湯」です。銭湯は日本固有の文化ですが、昨今、厳しい環境に置かれています。ただ訪日客が関心を持ち、日本人がその良さを再認識することで、新たな交流が始まる可能性があります。日本酒、着物なども同様に再評価の動きが出ています。

 「小田原の神輿(みこし)」も日本古来の文化です。ただ見るだけでなく、地元の人と訪日客が一緒に担ぐことで交流が生まれ、目に見えない日本の伝統や精神世界を感じ取ってほしいですね。

 「徳島の医療」は地域の特性を生かした提案です。徳島は人口比でみた医師の数がトップクラスで、人間ドックや高度医療と観光を合わせた「ヘルス・ツーリズム」は魅力的です。地域がそれぞれ独自性を生かし、訪日客を呼び込めば、夢が広がるでしょう。

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