未来面「革新力」経営者編第3回(2016年2月1日)

課題

最先端の技術を発展させるには?

柄沢康喜・三井住友海上火災保険社長

※肩書き等は掲載当時のものです。原稿のため、掲載時とは差異があります

「保険」は、世の中をよくできるか。

 『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』の映画をご存じですか。1作目は1985年に公開され、30年前にタイムスリップする話でしたが、2作目は30年後の未来、すなわち2015年の世界を描きました。まさに今です。ドローン(小型無人機)やバイオ燃料、テレビ会議といった技術が紹介されていましたが、そのほとんどが実現されたといえます。

 では30年後の2045年といえば、人工知能(AI)が人間の能力を追い抜く「シンギュラリティー(技術的特異点)」を迎えるといわれます。人間の事務作業はAIに置き換えられ、我々の保険業務の一部も代替されていくことが予想されます。

 例えばコールセンターでお客様からの相談に人工知能を使って的確に答えていく。そこで得られた情報をビッグデータ分析することで新たなニーズに応えていくことも可能になります。保険業務で重要なことは、新技術が登場してきた際に生じる未知のリスクをどう評価するかです。その場合にも人工知能は非常に有益です。

保険は技術革新を支えるインフラ

その意味で保険は技術革新やイノベーションを支えるインフラといえます。新技術を広めるには研究開発、実証実験、実用化などの各段階でリスクが伴います。自動車や飛行機の普及にも保険はリスクカバーの点で貢献してきました。今後はドローンや介護ロボット、再生医療といった分野にも必要になります。自動運転では実験段階のリスクをカバーする保険を昨年末から始めました。少子高齢化で人口が減り、自動車保険のニーズがこれまでのようには伸びない今こそ、こうした技術にチャレンジすることが重要です。

 ネット社会ではリスクに対する考え方も変える必要があります。サイバー攻撃を100%防ぐことは難しくなっています。だとすれば攻撃を受けた際の被害をいかに小さくできるかといった善後策を普段から考えておくべきです。日本で技術革新を促すには規制緩和も重要です。消費者保護や産業保護の観点は大事ですが、規制緩和と透明性の確保がなければイノベーションは起きません。既成概念にとらわれない人材の育成も重要です。

 そこで皆さんにおうかがいしたいのは、最先端の技術を発展させ、日本でイノベーションを起こしていくには何が必要でしょうか。たくさんのご意見をお待ちしています。

アイデア

次世代への投資

伊藤 麻有子(米ワシントン大学セントルイス校修士課程2年、26歳)

 米国の大学院で日本研究をしている。米国の学生たちと共に西洋を中心に発展してきた理論などを使い、新しい視点から見た日本を研究している。そこで感じるのは、日本は革新的なものや人に対して保守的だということだ。新しいものに対して「面白い」と素直に受け入れたり、可能性を見据えた上で多少のリスクを覚悟して投資をしたりすることが苦手だ。特に足りないのが教育や若手の人材育成といった次世代への投資だ。新しいテクノロジーや価値観・社会をこの先つくっていくのは若い世代。彼らが自らの研究や創作活動に没頭できる環境を整えるべきだ。学生本人や大学、研究所、ベンチャー企業などへの資金援助は今後、最先端の技術を発展させるのに価値ある投資になると思う。

「使う」発想で実用化

長谷川 慶(筑波大学理工学群3年、21歳)

 最先端の技術の発展において壁となる段階に「実用化」が挙げられる。実用化にあたって重要なのは技術を「使う」のではなく「生かす」ことだ。実用化に成功した例としてドローン(小型無人機)がある。報道、調査、さらには配送など様々な用途で使われている。これら多くの用途は開発側ではなく、多くの人がドローンを生かした結果生まれた。このような発想こそ現在の日本には必要だ。ではこうした発想をどのように編み出すのか。開発側が企業だけでなく、より多くの消費者に技術を知ってもらい、使ってもらうという努力をする必要がある。多くの人が使うことで、技術の新たな「生かし方」が生まれる。それを企業は利益がでるように事業化する。このサイクルが活発になることで「実用化」の壁が取り払われ、最先端の技術がより発展していくのではないか。

境界を越えた組織

西尾 龍二(慶応義塾大学大学院経営管理研究科修士課程1年、23歳)

 業界や部門の境界を越えた組織が最先端技術の発展に必要だ。例えば、既存のロボット技術を介護用ロボットに発展させる場合、ロボットメーカーに加え、社外のエンジニア、IT(情報技術)の専門家、心理学者など様々な知見を持つ人たちを一つの組織として機能させる。こうした「クロスファンクショナル(部門横断的)組織」は視野や発想を広げ、イノベーションを生み出すだろう。各業界には長年かけて形成された「業界の常識」が存在し、新たな発想を阻害しがちだ。しかし、業界の境界を越え、多様な人と議論すれば、従来気付かなかった視点が得られ、イノベーションを後押しできる。今求められているのは、国内の産学連携にとどまらず、国境を越えた「グローバル・クロス・ファンクショナル組織」だ。

以上が紙面掲載のアイデア

イノベーションのためのリスクヘッジ

太田 廉人(海陽学園海陽中等教育学校高校1年、16歳)

 イノベーションを起こすには多くのリスクが伴う。開発中はもちろん、実用化までの長い道のりの過程で様々なリスクが予測される。そのリスクをヘッジするために、国に規制緩和を迫ったり、問題が起きた時の後ろ盾になってくれるようなサポート組織があるとよい。それを公的組織にすれば、国と一体になって規制緩和も進みやすい。法律やコンサルティングなど様々な分野の専門家を抱え、様々な問題を柔軟かつ迅速に解決することができるようにする。さらに、省庁や企業からの資金提供を橋渡しすれば、資金力がない人も新たなイノベーションの担い手となれる。

リスクを負うのがイノベーション

松岡 昂佑(大阪大学法学部3年、22歳)

 ビル・ゲイツは言った。「リスクを負わないのがリスクである」と。ウィンドウズしかり。最先端の技術には、文字通り前例がない。そんな不確実な状況下でイノベーションを起こそうとすると、様々なリスクが伴う。それでも挑戦できるか。最先端の技術を発展させるには、リスクを負う「勇気」が必要だ。それを後押しできるものこそが、保険だ。保険は「インフラのインフラ」といわれるように、人々の挑戦の土壌をつくる。リスクをカバーするという至極単純な仕組みが、どれほど勇気を育むことか。リスクを軽減することは、リスクから逃げることとは全く違う。人工知能(AI)やネット社会……、科学や技術の進歩に従い、未知のリスクも誕生する。しかし、真に最大のリスクは、イノベーターたちがそれらにおじけづき、挑戦する「勇気」を失ってしまうことだ。来る時代に向け、人々の挑戦の土壌を、保険が先導して整える必要がありそうだ。

次代を担う発想力

深沢 忠善(国士舘大学政経学部3年、21歳)

 最先端の技術を日本で発展させるには「次代を担う発想力」が大切だと思う。世の中に染まっていない、つまり子どもたちの発想力だ。世の中に染まると、現実のことを考えすぎ、お金のことや現状を見て諦めてしまう。そういったお金や現状に照らして出たアイデアは既に誰かしらが言っている。子どもの頃は「ドラえもん」を見て、あんな道具があったら日常生活がよくなるのにと、今では実現できない不可能な考えを様々思いついていたように思う。目の前の利益や日本の発展のために技術を発展させていくのは私たち大人の役目だ。我々にない発想は子どもたちの何も考えず素直に口から出た言葉から生まれ、それが世の中の発展につながる。学校の科目や企業活動で子どもと触れ合う時間を増やしていくことが日本の変化になると思う。

技術に寄り添った保険

野口 裕太(上越教育大学大学院学校教育研究科1年、31歳)

 企業、個人が技術革新を生み出す過程には多くのリスクが伴う。想定外の出来事が起きる度にプロジェクトが止まっていては、競争に勝てない。保険会社は時代のニーズをいち早く察知し、想定されるリスクに応じた保険を迅速に生み出すべきだ。それにより、新しい技術を生み出そうとする企業、個人を側面から支援することができる。そのためには、保険会社自身も最先端の技術に精通していなければならない。視野を広くもち、想像力豊かにあるべき保険の形を模索しなければならない。もはや企業単体、個人での技術革新は不可能だ。自分たちの強みを持ち寄り、共同体として技術革新を引き起こすという発想が不可欠だろう。

幼児教育で失敗を許容すべし

鈴木 悠人(東京大学大学院工学系研究科修士課程1年、23歳)

 最先端の技術を発展させるには幼児教育で失敗を許容し、チャレンジ精神を育むことが必要だ。幼児期の教育が与える影響は大きいため、幼児期にチャレンジすることはよいことで面白いことだと感じることができれば、日本全体にチャレンジ精神が浸透し、それが技術の発展につながると考える。なぜチャレンジ精神が技術の発展につながるかといえば、未知の技術を生み出すには仮説を立て失敗を繰り返すことが必要であり、それを乗り越えるためにチャレンジを続けることが欠かせないからだ。成功=挑戦の数×成功率とおくことができるが、技術革新は不確定要素が多く成功率の向上が難しいと考える。そこで、日本人のチャレンジ精神を育み、より多くの人が挑戦するようになれば技術革新につながるのではないか。

創造するための想像

松本 健太郎(慶応義塾大学商学部4年、22歳)

 最も大切なことは、想像を膨らませることではないか。何かを創ろうと思ったとき、まずはそれを想像できなければ形にすることはできない。いい例は映画だ。映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー2」で描かれたもので、実際に形になったものがある。地面から浮くスケートボードのホバーボードやゴミを燃料として動く車などである。映画の中で想像されたものが実際に創造されるという例は数えきれない。裏返せば、映画の世界で想像されていなければ、今もホバーボードやバイオ燃料は存在しなかったかもしれない。したがって、「こんなものがあったらいいな」と想像を膨らませることで、実際にそれを形にしようと新たな技術の壁に挑戦する技術者がいる。このことが、最先端の技術を発展させていくために大事なことであると考える。

クラウドファンディングの普及

菅 諒馬(海陽学園海陽中等教育学校高校2年、17歳)

 最先端技術を発展させる際、一番の障害になるのは資金不足だ。今の日本で、銀行からお金を借りようとすると若者にとって担保や保証人の必要性が障害になる。これを打破するために「クラウドファンディング」の普及が重要だ。不特定多数の人がインターネットを介して、自分が賛同する事業に出資して資金を調達する方法だ。米国と比べ日本ではまだ浸透していない。出資したはいいが、資金を持ち逃げしたり、事業が成り立たずにリターンを分配できないような事態が懸念されていることが大きい。このリスクを払拭するために法整備を進めたり、会社ごとの基準ではなく、国が音頭をとって出資者に対する保険をつくってはどうだろう。新規プロジェクトが増加し、最先端技術の発展につながると考える。

大手とベンチャーの提携

伊藤 理菜(早稲田大学国際教養学部4年、21歳)

 日本企業は外資系の企業に比べて、新規ビジネスへ乗り出すスピードが遅い傾向があるように思う。新規事業を通すためにいくつもの部署を通さなければならない、という組織のピラミッド構造があり、イノベーションをそもそも生み出しにくい面がある。特に大企業ほど、そうした傾向に陥りやすいようだ。

 そうした中でもソニーやトヨタ自動車は、最先端技術を導入するためにベンチャー企業と積極的に組んでいる。資金力などを必要とするベンチャー企業と、新規事業に取り組むスピードが遅くなりがちな大企業は提携することで互いにメリットが生まれるのだ。例えばソニーはベンチャー支援企業と組み、キュリオというスマートロックの会社を設立している。トヨタはプリファードインフラストラクチャーという会社と共同で人工知能(AI)を利用した自動運転の研究を行っている。このように大企業とベンチャー企業の提携は、日本企業が最先端技術に乗り出すために一つの有効な手段であろう。

イノベーションを実感できる場

田口 絵未伽(東海大学法学部3年、22歳)

 最先端の技術を発展させるには、人々にイノベーションを実感してもらう事が重要だ。私も含めて人は革新的なものをどこか否定的に考え、保守的になりがちである。見たこともない最先端の技術を目の当たりにすると、好奇の目を向けても、自分から試してみようとまではなかなか思わない。実際に存在したのかという程度の認識で終わらせてしまうケースがほとんどだろう。

 これは、私たちに未知に対する恐れや不安があり、一歩踏み出すきっかけがないからだろう。最先端の技術に触れるイベントなどがあっても、多くは都心から離れた大きな会場ばかりで、時間や金銭に余裕がないと行く機会にはなりにくい。それよりも、都心で気軽に立ち寄れ、技術を体験できるような展示を積極的に広めてはどうか。多くの人に最先端の技術を体験できる場を提供できれば、良いものとして認識され、自然と受け入れられる。そのこと自体がイノベーションと言えるのではないか。

レジリエンスに秘められた力

上大田 友紀子(清泉女子大学大学院人文科学研究科修士課程1年、26歳)

 「最先端の技術発展」「イノベーション」の経済効果に関する報道を最近よく耳にする。だがもう少し非経済的効果という視点から注目するべきではないだろうか。そこで私は「レジリエンス」という心理学の用語を提唱したい。

 レジリエンスは「いざというときでも、皆が協力しながらしなやかに立ち直れる力」を指す。この力があふれる社会には、多様性に富んだ人材が集まってくる。年齢や性別、さらに国籍の違いなども、レジリエンスにはとても魅力的な力となる。様々な人材が共存して、それぞれの人が自分の能力が最大限に発揮できる社会は強い。レジリエンスこそが、最先端の技術を発展させ、日本でイノベーションを起こす様々なアイデアを生み出していけるのではないか。

ベンチャー×保険×ダイバーシティー

小西 里奈(東洋大学経営学部3年、22歳)

 ベンチャー企業の力と保険、ダイバーシティー(人材の多様性)の3つをかけ合わせることが必要だと思う。最先端の技術を生み出すためには、まず様々な可能性をもつベンチャー企業の力が必要だ。大企業の力だけで最先端の技術を生み出すのは難しい。さらに、技術の開発を継続し安心して利用していくためには、保険が欠かせないだろう。最先端の技術開発と利用には様々なリスクが伴う。保険はそのリスクに備えることができる。

 最後にダイバーシティーは、最先端の技術を生み出して発展させる、多角的な視点を持っている。例えば、他社と協力して利益を越えたメリットを追求する時や、思いもつかないようなリスクの発見と対策には、ダイバーシティーによる力が必要になる。最先端の技術発展には、一人や一企業だけではなしえず、ダイバーシティーの考えのもとに企業同士が協力する必要があると思う。

講  評

 今回、皆さんのアイデアから、最先端の技術を発展させるための要素として、人材育成、利用者目線の活用、ダイバーシティーの推進というキーワードが浮かび上がりました。

 「次世代への投資」は海外から見た日本人の保守性に着目し、リスクを恐れない支援の重要性を訴えています。若い世代が挑戦しやすい環境をいかにして整えるか。我々企業も既成概念にとらわれない新たな仕組みを考えていく必要があるでしょう。

 新たな技術の開発には利用者の目線が不可欠です。その点に注目した「『使う』発想で実用化」は、当社が行動指針として掲げている「お客さま第一」に通じる考え方でもあり、深い共感を覚えました。その発展形が「境界を越えた組織体制」なのかもしれません。業界や国境を越え、より多様な発想を取り入れるというオープンイノベーションを提案してくれました。

 新たな視点や発想を柔軟に受け入れ、そこから次世代につながるアイデアを生み出す。社会の変化に迅速に対応していくためには、このサイクルを継続することが求められるのだと思います。

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