未来面「革新力」経営者編第5回(2016年4月4日)

課題

ライフスタイルを豊かにする物流とは?

山内雅喜・ヤマトホールディングス社長

※肩書き等は掲載当時のものです。原稿のため、掲載時とは差異があります

「物流」は、世の中をよくできるか。

 物流という言葉を聞いて、読者の皆さんはどのようなことを思い浮かべるでしょうか。私たちはこう考えています。物流には生活者のライフスタイルやビジネスを変える力があり、逆にライフスタイルの変化に物流が追いついていく必要がある。真逆のことのようですが、「豊かな社会の実現に貢献したい」という熱い気持ちが根底にあります。

生活を変え、生活の変化に追いつく熱意

例えば、重いスキー板を担いで苦労している姿を見た宅急便のドライバーの気づきから「スキー宅急便」、「お願いした時間に荷物を持ってきてほしい」というお客様の声から「時間帯お届けサービス」が生まれました。「クール宅急便」は短時間の産地直送を実現し、農業や水産業の振興の一助となり、食文化の発展にも貢献できました。私たちは届けるモノがあれば、どこでも伺います。一部の自治体では「見守り、買い物サポート」が高齢者宅などの安否確認に活用されています。

 世の中がどんどん変化するなか、物流に求められる機能も高度化する必要があります。そこでIT(情報技術)、LT(ロジスティクス・テクノロジー)、FT(ファイナンシャル・テクノロジー)を融合し、さらに利便性の高いサービスへと進化させていきます。

 労働集約的な産業である物流業は、現場で働く人たちの「お客様の役に立ちたい」という感性を磨き続けないとイノベーションは生まれません。インターネット通販の急速な普及は現場の高い意識が支えています。「人の暮らしを幸せにする物流とは何か」「ライフスタイルを豊かにする物流とは何か」を絶えず考えて仕事に取り組んでいます。

 「宅急便」が生まれて40年になります。少子高齢化、地域創生といった社会的課題への対応や、労働力不足、再配達といった課題も存在します。一方で、まだ生活者が気がついていない潜在的なニーズをどのように掘り起こしていくべきなのか、宿題はたくさんあります。

 そこで読者の皆さんにお願いです。

 「物流」に期待する新しいサービスのアイデアを考えていただけないでしょうか。私たちが見落としているニーズはまだまだあるはずです。「物流」と「何」が融合すると、新たな価値を生み出すのでしょうか。社会的課題、利便性、環境問題などの宿題をいっしょに考えていきたいと思います。

アイデア

地域医療の要に

野口 裕太(上越教育大学大学院学校教育研究科2年、32歳)

 私には高齢の祖父母がいる。祖父は週に1度は通院しているが、祖母はそのたびに車に乗せ、病院まで連れ添っている。祖母もいつまで運転ができるか不安そうだが、病院で受診しなければ薬をもらうこともできない。祖母はやむなく耕作を放棄し、家事も後回しだ。地方の高齢化は深刻で、介護される人と介護する人がともに高齢者となる「老老介護」は悲惨な状態をもたらしている。この現状を「物流」と「IT(情報技術)」「FT(金融技術)」の融合で打開できないだろうか。患者の容体を医師に伝える機器や患者へのオンラインでの説明、必要な薬を宅配し料金を支払う仕組みなどが整えば、祖父は病院で4時間も待たなくて済む。

「ミステリー便」が来た

吉住 穂高(青山学院大学法学部3年、23歳)

 きょう、僕の家に楽しみにしていた荷物が来る。今回は何が届くのだろうか。宅急便の新サービス「日本全国ミステリー便」に期待が膨らむ。ユーザーは年間契約し月2回程度、荷物を受け取る。中身は全国47都道府県のどこかの特産の食材、菓子、加工品などのグルメ詰め合わせだ。どの都道府県の品物が届くかは不明。当然、毎回違う地域の物が来る。地方の名産品を取り寄せる人は増えているが、品物を自分で選ぶため未知のものを知る機会は少ない。「ミステリー便」でユーザーが未知の物を経験し、リピーターになってもらうことで、地域産業の発展にも結びつくだろう。当然、送り主は他の地域に負けないように自信の品物を送ってくるため、ユーザーも満足だ。おなかも心も満腹だ。次の配達はいつだろうか。

声も届ける「玉手箱」

木村 俊博(海陽学園海陽中等教育学校中学3年、14歳)

 僕は今、愛知県の全寮制の学校で生活をしている。2月に14歳の誕生日を迎えたが、当日は離れて住む祖父から宅急便でプレゼントと音声付きメッセージカードが届いた。カードからは無機質な機械音が奏でる「誕生日の歌」が流れた。確かにプレゼントはうれしかったが、せめて祖父の声を聞けたらなと思った。贈り主の声と荷物をいっしょに運ぶ宅急便があったらどんなに心が温かくなるだろう。荷物が届き、開けた瞬間に遠く離れた所にいる贈り主の声を聞ける玉手箱のような物流があったなら――。日本では核家族化が進み、人とのつながりが希薄になりがちだといわれるが、玉手箱のような物流がこうした事態を打開する鍵になればいいなと願っている。

以上が紙面掲載のアイデア

「産業活動の血管」が心臓を救う

佐藤 奈緒(青山学院大学法学部3年、20歳)

どくり、と耳に残る嫌な音。倒れこむ身体。遠のく意識――。あぁ、どうか近くに自動体外式除細動器(AED)がありますように。最後に願うことがこんなことになるなんて……。

 応急救護の授業でAEDは救急車が到着するまでの間、患者を守る命綱だということを知った。しかし日本で突然の心停止による死亡者は毎年数万人以上いるのに、AEDの普及率はまだまだ少ないのが現状だ。そこで昨今のインターネット通販などにより需要が高まり、昼夜を問わず道路を走行している運送車の車内にAEDを設置し、有事の際に呼び止めることで救える命も多いのではないかと考えた。顧客が急増し、実績を上げている物流業界。そのなかでこのような企業の社会的責任(CSR)を果たしていくことがステークホルダーの信頼を獲得し、長期的に発展していくことへのカギとなるのではないか。

物を運ばない物流

米倉 ときお(会社員、55歳)

3Dプリンターが現在手ごろな値段になっている。これとスキャン装置を宅急便ステーションに設置する。訪れた人が持ち込んだものを立体的にスキャンし、そのデータを、同じように3Dプリンターを設置した別のステーションに送信する。データを受け取ったステーションでは持ち込まれた品物と同じものを3Dプリンターで作成すれば「物を運ばない物流」が可能となる。

 例えば企業が試作品を作製して委託元に送ったり、あるいはお菓子の試作品を販売業者に送ったり、個人がハンドメードのお菓子を知人に送ったり、といった利用が考えられる。宅急便業者としては「物を運ばない物流」で効率性と迅速性を高めると共に、将来は個人間で「物を運ばない物流」を行う時に使う装置の販売やレンタル、保守サービスなどで収入を得られる。同時に「個人の送りたいもの」を把握し、メーカーと新しい3Dプリンターを開発して、その販売やレンタルに乗り出すこともできるだろう。

「思い出宅急便」

佐藤 翔太(海陽学園海陽中等教育学校高校1年、15歳)

 私は「思い出宅急便」というサービスを提案する。これは自分が指定した未来に品物や思いを届けるというサービスだ。例えば30年後に仲間と集まった際に思い出の品を見たいときや、学者が100年後の人々に自分の考えを伝えたいときに利用する。このサービスは未来の自分に過去のことを思い出させたいときにも活用できると思う。最近では昨日のことが思い出せないくらい次から次へと新しいものが開発されている。物事が発展していくことは悪いことではないと思うが、過去のことを未来につなげることも大事だ。自分が行き詰まったときに過去に戻ることは自分を見つめ直す良い機会だ。そんな考えから生まれたのがこの「思い出宅急便」だ。自分を見つめ直すことも人々の暮らしを幸せにする物流の一つの機能ではないだろうか。

物流×レシピサイト

寺井 奈都子(主婦、29歳)

 家事を担う主婦(主夫)にとって日々の大仕事の一つが毎日の献立を考えることだ。家族の健康を考えてバランス良く、同時にお財布にも優しく、となるとレシピブログや折り込みチラシを見比べつつ献立を考え、店を回ることになる。レシピサイトのなかには必要な材料から近隣の特売情報まで確認できるものもある。もしレシピサイトと物流を組み合わせることができたら「献立を考えること」「材料をどこの店でお買い得に購入するか」「買い物に行く」という作業を一度にでき、台所に立つまでの手順が一気に楽になる。前日の夜などにレシピサイトを見ながら翌日の献立を考え、そのままチラシ情報を確認しながら配送を手配する。これが実現すれば限りある時間を家族と過ごしたり、自分を磨いたりする時間として使えるようになり、より充実した毎日を送れるのではないか。

周期的なサービスの実現を

三宅 通(無職、66歳)

 日用品などはネットでの注文でも翌日には配送されるようになった。売り手側が流通側に働きかけて実現したものだろう。今後は流通側から売り手側などに働きかけると実現しやすい周期的なサービスについて検討してもらいたい。例えば10年間程度と寿命が長い温水洗浄便座の故障時の取り換えや、3カ月から半年程度の周期で交換する必要があるテニスラケットのガットの張り替えサービスなどだ。毎日、食卓に上がる卵や納豆、キムチなどの食品の買い物を1週間程度の周期で支援するサービスも考えられる。これらのサービスは流通側がコーディネートすると実現しやすいのではないかと思う。

低温宅配ボックス

薦田 侑季(中央大学商学部4年、21歳)

 私は宅急便をよく利用するが、自宅に不在のときはマンションにある宅配ボックスに荷物を入れておいてもらい、助かっている。しかし冷やす必要がある冷凍食品やチルド食品は宅配ボックスに入れておくことができない。不在のときでも低温食品を受け取れる「低温宅配ボックス」を設置してほしい。戸建て住宅用の低温宅配ボックスも提案したい。一家に一台設置するとコストが膨大になってしまうので、地域の人が使える自動販売機くらいの大きさの低温宅配ボックスが良い。今後、女性の社会進出が進むなかで冷凍食品やチルド食品の需要は高まる。手軽に使える低温宅配ボックスを是非つくってもらいたい。

おしゃれをレンタル

小林 仁(青山学院大学法学部3年、20歳)

 私が提案するのは洋服のレンタルに関する輸送だ。宅配会社が顧客の自宅の近所にあるコンビニエンスストアなどに、スタイリストがコーディネートした十数パターンの洋服を月ごとに送り、利用してもらう。月額料金の会員制で、洋服の受け取りや返却はコンビニで済ませられる。毎日の洋服を決めるのがおっくうだったり、そもそも洋服に興味はないけれどもちゃんとした格好をしたい日に着る物がなかったりする顧客に役立つサービスだ。私服だけでなく、社会人向けにスーツやワイシャツも取り扱う。着終わったものは洗濯やクリーニングをしなくても、そのまま返却できるようにすれば忙しい社会人や一人暮らしの学生にも需要が広がる。このサービスを利用することで新たに洋服や特定のブランドに興味を持つ人が増えれば、アパレル業界の発展にもつながるのではないだろうか。

物流×図書館「運ぶ(運book)」

杉本 綾香(学習院女子大学国際文化交流学部2年、19歳)

 図書館で本を借りたいけれど借りに行く時間がない。そう思っている人は私を含めて多いだろう。電子書籍は手軽だが、何冊も買うとお金がかかってしまう。図書館では無料で何冊も借りることができるので、私たち学生にとっては重要だ。しかし、家から図書館までは距離があり、忙しいときは出向くのも難しい。一度に多くの本を借りる必要があるときは持ち運ぶにも、ものすごく重くて持ちきれないこともある。そこでネットで予約した本を宅急便で家まで届けてくれたら、図書館で借りる手続きをした重い本を家まで届けてくれたら、と考えた。学生や働き盛りで忙しい会社員、ご高齢の方にもかなりメリットがあると思っている。

高齢化における物流の力

馬場 泰平(海陽学園海陽中等教育学校高校1年、15歳)

 これから日本は高齢化が進展し、人口が減少していく。地方の過疎化も進み、公共交通機関が廃止になったり、病院やスーパーマーケットなど生活に必要な施設がなくなってしまったりすることが考えられる。車を運転できない高齢者は自分の生活すらままならない状況に陥る。こうしたときに地元スーパーや病院・薬局などと宅急便が連携し、食料品や医薬品を過疎地の高齢者に届けるサービスを手がけることは非常に有効だ。現状でもネットショッピングなどで食料品が買えるが、高齢者のなかには使い方が分からなかったり、そもそもネットに接続できる環境にいなかったりする人も多い。普段集荷や配送の際に地域を回る宅急便の担当者に直接注文するサービスは十分有用性がある。宅急便やスーパー、薬局にとっても新しいビジネスになるとともに、地域に対する貢献もできる一石二鳥の方策だ。

遠くの子より近くのヤマト

柴田 幸夫(会社経営、47歳)

 シニア層が買い物した後の荷物を自宅に届けるサービスを考えた。担当者が買い物に付き合ってもよい。とにかく会話して様子や健康状態を知る。この担当者は絶対変えずに、お年寄りの方との信頼関係をマンツーマンで築く。一連のサービスはすべて無料で提供する。かかるコストは、離れたところに住む子供たちへの月額課金で回収する。買い物支援と同時に、両親の様子や健康状態をリポートするサービスがあれば海外など遠くで暮らす子供たちはうれしいのではないか。介護老人保健施設に入るほどではないが様子は知りたい、でも頻繁に電話するのも訪問するのも難しい──。そんなときは遠くの子供より近くのヤマトとして、信頼の置けるブランド力の高い企業ならではのサービスになるだろう。

デビットカードが使える宅配ボックス

永見 菜々瀬(国学院大学久我山中学高等学校中学2年、13歳)

 代引きで商品を頼んだ場合、自分が不在だと再配達を頼まなければならない。そこで私が提案するのは、宅配ボックスにデビットカ―ドを使える機械を設置するというアイデアだ。届けた相手が不在だった場合、宅配業者は専用ボックスに付けた機械に商品代金を設定し、品物を入れる。そして商品を頼んだ本人が機械にデビットカードを通すとボックスが開き、商品を受け取れるというしくみだ。宅配業者は代金を銀行決済で受領する。再配達の人件費を削減でき、誰にも顔を合わせずに商品を受け取れるメリットがある。一戸建てに機械付きの宅配ボックスを置くのは難しいかもしれない。その場合は、コンビニエンスストアなど近所のどこか1カ所に設置して、商品を受け取れるようにしたらいいだろう。

講  評

 性別や年齢を超え、多くのアイデアをいただき、物流や宅急便への期待の大きさを感じました。今後も生活に寄り添いながら時代に合ったサービスを開発し続けていくことが私たちの使命であることを改めて実感する機会となりました。本当にありがとうございます。アイデアの中でぜひ、検討したいものが「地域医療の要に」です。実体験を基にした切実な思いに胸を打たれました。介護、地域医療に物流を通じてお手伝いできることは必ずあるはずです。現状は規制もありますので規制緩和に向けた問題提起も含め、今後積極的に取り組むべきテーマだと考えています。

 「ミステリー便」はとても楽しいサービスです。新しい発見や豊かな食生活につながるだけでなく、地域創生へ向けた魅力的な提案だと思います。そして「玉手箱宅急便」は当社の社訓の一つである「運送行為は委託者の意思の延長と知るべし」に通じるものがあります。お客様の思いを運ぶことこそが私たちの役割であることを再認識させてくれました。ほかにも具体的かつ事業性、社会性のあるアイデアが多く、その期待に応えるために私たちはより一層努力し続けていく必要があると痛感しました。

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