未来面「世界を変えよう。」経営者編第5回(2017年10月2日)

課題

「製薬会社は世界を変えるため何ができますか」

真鍋淳・第一三共社長

 製薬会社の仕事は、ひと昔前なら、薬を創ることに尽きましたが、今はその枠を超え、人々の生活を創ること、未来を創ることといった領域まで広がっています。例えば私たちが最も力を入れている、がんという病気との戦いです。

 昔なら、がんは不治の病で、ひとたび発症すれば、人生の終幕を覚悟せざるを得ませんでした。今や、がんは治る病気になりました。入院もせず、手術もせずに、がん治療ができるケースも増えています。がんになっても、将来の夢や希望をあきらめる必要はなく、人間らしい幸福な日々を送ることができるのです。製薬会社が、そのお手伝いをします。

 私たちが開発している抗体薬物複合体(ADC)と呼ぶ画期的な薬があります。わかりやすく言えば、抗体によりがん細胞へ薬物を直接届けるための新しい薬です。正常な細胞を破壊することなく、がん細胞だけに効くため、髪が抜けるなどの副作用の心配が激減します。あと数年で実用化できる段階まできています。

 予防医療の分野でも、製薬会社は頑張っています。病気を未然に防ぐことができれば、より良い生活や夢のある未来が開けます。インフルエンザの予防ワクチンなど、もっと改良の余地があり、今よりいい物ができるはずですし、そのための研究に余念がありません。

 人工知能(AI)やビッグデータの活用も進んでいます。病気を治すには、なにより早期発見が大事です。検査のために採取した血液や尿などの分析や、レントゲン撮影の画像の診断など、データの解析にAIは大いに力を発揮します。これまで人間の目では見落としがちだった小さな兆候でも、AIを活用することで認識できるようになりました。臨床試験を進める上で、ビッグデータをうまく使えば、研究開発の効率は高まります。他の研究機関との連携やデータの交換なども円滑に進み、新しい薬が開発されるまでの時間が大幅に短縮できます。

 今,製薬会社は大きな転機にあります。日々の研究の成果である新しい薬や技術、ノウハウを、私たちは日本だけでなく、世界の人たちとも共有したい。規模では欧米の製薬会社が先行していますが、研究者の熱意や勤勉さ、マーケティングや販売担当者の質の高さでは、日本の製薬会社は世界のトップだと自負しています。

 そこで読者の皆様にお願いです。私たち製薬会社は、世界を変えるために何ができるのか。皆様のアイデアを教えてください。これまでの製薬会社のイメージや枠組みを超えた新しい発想、私たちの常識や思い込みを破ってくれるような斬新なアイデアをお待ちしています。

アイデア

飲めば病気が見つかる薬

落合 涼花(産業能率大学経営学部2年、20歳)

 薬といえば「病気を治すためのもの」「病気を予防するもの」として定着している。がんですら手術も入院もせずに治る時代になったが、薬はその概念にとどまったままだ。そこで「病気を見つける薬」というのはどうだろうか。一回服用するだけで体の不調の理由がわかる薬だ。薬を飲んだ後の便の色で病気が判断できるといったものである。忙しさを言い訳に健康診断に行かない人々も、薬を飲むことはできる。そんな薬が生まれれば、誰でも手軽に自分の体を知り、健康的な生活を送ることが可能になる。特にがんは早期発見が大切だ。ふとした合間に飲んだ薬が早い段階でのがん発見につながり、大切な命を救うきっかけになるかもしれない。すべては命があってこそ。病気の発見を目的とした薬は全く新しいタイプのもので、人々の生活をつくり、未来をつくる可能性を秘めている。

あなただけのカスタムメイド薬

中尾 朱里(光塩女子学院高等科3年、18歳)

 風邪や頭痛、鼻炎などの症状が表れた時に何度も薬に助けられたが、合わない薬を服用して効果があまり出ないこともあった。洋服を体形や趣味に合わせてあつらえるように、個人の体の特性に合わせた内容へ調整する「カスタムメイド薬」ができないだろうか。個人の病歴など体に関する情報や遺伝子情報をあらかじめ登録しておき、性別や国籍、年齢といった諸条件に沿って薬を作る。それができたら薬効は現在よりも上がるのではないだろうか。各自の薬の効果をビッグデータとして活用すれば、新薬開発にも寄与すると考える。国や医療機関と製薬会社が連携して枠組みを作る必要があるものの、ドローンを使えば遠方に住む人にも薬を早く届けられるはずだ。受診してから24時間以内にカスタムメイド薬が自宅に届けられる世界が実現したらと想像すると、期待が膨らむ。

がんや血栓を食べる生きた薬

貝原 幹雄(無職、63歳)

 生物薬、つまり「生きた薬」を開発したらどうだろうか。地球上には未知の生物が多数存在する。アマゾンのジャングルには人を食べる細菌が存在すると聞いたことがある。そこへ調査団を送り込み、役に立ちそうな生物を採取。次にゲノム編集により薬に変える。血栓を好んで食べる細菌を注射で体内に取り込めば、脳梗塞の予防につながるのではないだろうか。がん細胞を食べる細菌があれば悪性のがん細胞を除去でき、ウイルスに対抗する細菌を見つければ肝炎の治療に役立つ。人間の幹細胞を欠損箇所に運んでくれる細菌があれば、失われた臓器を再生できる可能性すらある。その薬をなす細菌などが長期的には人間へ害をもたらす要素を持っていても、生物であれば寿命があるはず。「仕事」が終わった後に、死滅するよう設計すれば良い。実現すれば全ての人が健康に天寿を全うすることができるだろう。

以上が紙面掲載のアイデア

途上国に医療アドバイザーを派遣

木村 俊博(海陽学園海陽中等教育学校高校1年、15歳)

 製薬、この言葉から私が連想するのは、研究室で白衣を着て顕微鏡をのぞく研究員の姿だ。彼らが対外的・国際的に医療に寄与することはできないのだろうか。私は予防医療の水準が低い途上国を中心に製薬会社の研究員から構成される医療アドバイザー、いわば衛生外交官を派遣することを提案する。民間企業がゆえの高度なノウハウを諸外国に直接伝え、世界の予防医療の発展に貢献することが狙いだ。従来の医療支援の多くは、政府開発援助(ODA)や非政府組織(NGO)の主導で行われてきたが、長期的かつ大規模になりがちな取り組みは問題が生じやすい。しかし、民間企業によるダイレクトな支援は確実な実施効果が見込まれるのではないだろうか。世界の平均寿命は年々延びており、予防医療のニーズは世界中で高まりつつある。日本人としての気概を持った衛生外交官が世界の舞台で活躍し、予防医療に新たな風を巻き起こすのだ。

病気を発見する小型機械

鈴木 達也(産業能率大学経営学部2年、20歳)

 生きていく上で病気にかからないことに越したことはないが、絶対にかからない保証はない。だからこそ早期発見が一番必要なことだと考えられる。しかし、生活している中で、多少の風邪や熱ぐらいなら病院には行かない人が多いと私は思う。だから手遅れになるケースが出てしまうのだと思う。そこで、私が考えたのは、近くの薬局などで買うことのできる病気を発見する機械である。病気の詳細まではわからないが、ただの風邪なのか、初期がんなのか、何が体に起きているのかがわかるようにする。近くの薬局などで買うことができれば、少しの症状で試すことができるし、初期がんかもしれないと出れば、病院に行ってすぐ医師の診断をあおぐ人が増えるのではないだろうか。早期発見、早期治療につながるはずだ。普段の生活で自分ががんなどの重い病気になっていると思って生活してる人は少ないと思う。この機械で危機感を持つこともできるのではないか。

遠くの患者に最適な薬を

河原井 将太(上智大学経済学部3年、21歳)

 製薬会社がITを用いて遠隔地に住む個人に合わせた薬を作ることができれば、世界は変わるのではないか。離島に住む私の祖父は毎日10種以上の薬を飲んでいる。体調が変化するたびに新しく薬を処方してもらうために船に乗り、内陸の病院に通っている。祖父にとって薬は不可欠なものだが、同時に大きな負担にもなっているのだ。同様な負担を感じている人は多いのではないか。国内には、交通手段がなく病院に通うのが難しい高齢者が多いと聞く。IT技術を使い、遠隔地にいる患者に最適な薬を調合、処方できる技術を提供できれば祖父のような高齢者は大いに助かると思う。この技術を海外でも展開することができれば、病院に行きたくても行けない人々、医者が足りない地域の人々でも個人にあった薬を手にすることができる。多様な薬を製造し、患者に合わせてそれを供給できる製薬会社だからこそ提供できる新しい価値になると考える。

医療費削減へ残薬ゼロ

甲斐 元規(会社員、26歳)

 世界を変えるために、「残薬を0にするシステムの構築」ができるのではないだろうか。ヒトの一生に携わることを「ゆりかごから墓場まで」と表現されるが、製薬メーカーはクスリを患者に服用してもらうまでという意味で、クスリの「ゆりかごから墓場まで」に携わるべきであると考える。理由は2つあり、(1)処方、投薬から保存状況までを管理することで薬物治療を適正に評価できる(2)医療費の削減につながる、ということだ。日本でも、ジェネリックへの切り替えが推進されているものの、これだけでは医療費削減の効果は限られると思われる。薬の処方から残薬管理までを一貫して把握することで、残薬が減るだけでなく、最小限の薬剤で治療が可能となるなど一石二鳥になるのではないか。そのためにも、AI搭載のロボットなどを家庭に置いて服薬の管理を任せることで改善できるのではないだろうか。

AIを使った「医師ロボット」が命を救う

加藤 由佳(産業能率大学経営学部2年、19歳)

 世界には、環境やお金に恵まれずに困難な生活をし、小さな子どもが病気になる国がいくつもある。そういった国では、医療が充実していない。そこで、人工知能を使った医師のロボットがあればいいと考えた。ロボットは処方箋をストックできる内部構造にする。子どもの病気に直面している国々に、人工知能を利用したロボットを送り、医師の代わりに患者をみることができれば、少しでも多くの命を救える。また、人間は長時間働き続けると疲れたり、判断ミスをしたりといった問題が多くなる。24時間体制で働くには医師を少なくとも数人は確保しなければならない。生活が困難な国ではもともと医師が少ないかゼロという現状がある。その状況下では、他国から派遣するのが選択肢になるが、そう簡単ではない。そういった問題点を解決し、人間にはできないことも可能になるのが人工知能の良さだ。少しでも多くの命を救うことで、働ける人が増え、やりたいことができる環境が整うのではないか。

投与ミスがあっても身を守れる薬

安田 穣(芦屋市立山手中学校3年、14歳)

 最近、悲しいことに薬の投与ミスで患者の生命が奪われるという、取り返しのつかないことになる例が増えていると感じる。医者を責める人がいるが、人間である以上、ミスを完全に防ぐのは難しいだろう。そんな悲惨な状況を薬で防げないだろうか。例えば定められた量の薬がすでに投与された状態の患者がいたとする。仮に同じ薬がミスでさらに投与されてしまっても、投与済みの薬の効果がなくなるまでカプセルが溶けない、といった薬を作れないだろうか。こうすれば、投与ミスで亡くなる患者は減るほか、医者も助かる。医療の世界では現場の人しか分からないプレッシャーがあり、ミスをしないのは難しいかもしれない。提案したような薬が作り出されることによって、医者の精神的負担はかなり楽になり、少しは疲れも減ると思う。そして、手術中のミスを減らせるようになるだろう。より良い薬から、より安心できる治療へ。今はそういう時代に突入していると思う。

医療ツーリズム主催で効果的な治療を支援

谷村 悠真(海陽学園海陽中等教育学校2年、13歳)

 医療ツーリズムを製薬会社が担うのはどうだろうか。日本は温泉が多く、医療ツーリズムに適している。製薬会社の主催なので薬を少し安く提供できるだろうし、薬以外の治療と並行して使えば、より効果的に治療できるメリットがある。また、製薬会社の得意分野を生かし、日常生活では気をつけにくい塩分やビタミンなどの摂取量を考えた健康的な食事をとれるようにする。製薬会社が医療ツーリズムにかかわるもうひとつのメリットは、新薬開発の研究だ。ツーリズム参加者たちの治療に関する情報や状態、経過などについてビッグデータを作り、研究に役立てる。AIを新薬開発に利用し、ビッグデータの読み取りなどの作業を効率化する。またAIは患者の治療にも利用する。このように、製薬会社が将来は薬の開発だけでなく、多様な治療を提供するようになるかもしれない。

蚊を寄せ付けない薬

大嶋 かほる(海陽学園海陽中等教育学校2年、14歳)

 最近、「ヒアリ」のニュースをよく耳にする。一見普通のアリに見えても毒があるように、毒がなさそうな生物にも毒がある可能性がある。そのような生物から身を守るために、製薬会社が動くべきであると僕は思う。例えば夏によく発生する蚊は人の体を刺して不快な思いをさせる。市販の虫よけスプレーを使っても防ぎきれない。しかも蚊は、マラリアやデング熱といったウイルスなどを持っていて、人を刺すことによって病気もどんどん広がっていく。人に完全に蚊がよらなくなる薬を開発することによって、間違いなくたくさんの人の命が救われるはずだ。蚊以外の害のある生き物にも対応できれば大勢の命が救われるのではないか。

薬の成分が入った食材

幡鎌 太郎(海陽学園海陽中等教育学校2年、14歳)/p>

 現在、日本では製薬会社の活躍により様々な病気を薬で治す事ができている。市販されている薬もあって便利になっている。しかし、世の中には薬を飲みたくないという人もいる。水に溶かして飲める薬も開発されているが、それでも面倒くさくて嫌だという人がいる。僕はそんな人の為に、毎日の食事に入れる薬を提案したい。食材を改良するか料理にこっそり薬を入れる必要があるが、後者では自分で作る人には無理で、薬の成分が調理するにつれ薄くなるかもしれない。よって僕は、薬の成分がたくさん詰まった野菜や肉などの食材を作ればいいと思う。そうすれば、自分で作る人も気づかず、しっかりと病気を治す事が可能になると思う。

がんを予防する薬

公文 健人(東京農工大学大学院2年、23歳)

 治療の歴史は「不治」から「完治」そして「予防」へと流れをたどる。不治の病の代名詞であったがんは、今や完治できる時代に差し掛かっている。製薬会社が世界を変えるには、がんを予防できる時代にする必要がある。例えば話題のCAR-T/TCR療法の技術をがん予防に利用できないだろうか。様々ながん抗原が同定されてきているが、これらに対する攻撃性を高めたT細胞を健常者に投与し、がん発症の瞬間から増殖を防ぐのである。実現のためには技術はもちろん、健全者を対象に一生を費やす臨床試験という大きな壁がある。膨大な費用と時間を要する取り組みだが、世界を変えるためにはチャレンジする価値があるのではないだろうか。

講  評

 日々薬に関わる私たちの常識や発想を超える、大胆で斬新なアイデアをお願いしたところ、10代の中学生から70代のシニアまで、幅広い世代から多数のご提案をいただきました。

 「病気を見つける薬」は、これまでの薬のイメージを大きく変える、新しい発想だと思います。尿や便、血液などの検査は病院でないとできないため、ついおっくうになって結果的に病気の発見が遅れることがあります。病気を見つける薬を飲むだけで、こうした検査を自宅で1人、気軽にできれば、早期発見につながります。予防医学の観点からも是非、実現したいアイデアです。

 「カスタムメイド薬」も、こんな薬があったらいいなと思うアイデアです。現状では、同じ病気なら体格や体質が違っても、同じ薬を投与するしかありません。患者さんがもともと体内に持っている様々な酵素や遺伝子などの情報、腎臓や肝臓などの機能情報、身長体重などの基本情報をデータ化し、自動的に更新できるようにすれば、同じ薬でも微妙にアレンジできます。それぞれの患者さんに合った薬を、その時々の状態に合わせ、適量を投与できます。投薬効果が上がるのは間違いありません。

 「生きた薬」も研究者魂を刺激される、斬新なアイデアです。がん細胞だけを食べてくれるウイルスがあれば、体への負担が少なく、効果的な治療につながります。生きた薬は、いわば細菌と人間が共存することで、病気を治すという発想です。

 製薬は日々、進化しています。これまで以上に効果が期待できる新薬も続々と登場します。今回選んだ3つのアイデアは、単に患者さんの病気を治すという従来の薬のイメージを超えていますし、さらに新しい発想の治療もこれらから増えていくでしょう。

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