未来面「世界を変えよう。」経営者編第2回(2017年5月9日)

課題

「3D技術で世界をどう変えますか 」

岡隆史・日本HP社長

 皆さんは「3D」と聞いて何を思い浮かべますか。英語で「3次元」を表す言葉ですが、ゲームなどで立体的な空間を再現する「VR(仮想現実)」にも3Dの技術が使われています。

 しかし、産業界で最も注目されているのは「3Dプリンター」と呼ばれる造形装置です。プラスチック樹脂などを重ねていくことで立体を作る装置も、新しい印刷機というわけです。

 3Dプリンターはどんなところに使われているでしょうか。人間の姿をかたどった「フィギュア」や装飾家が作るアクセサリーなどはよく知られた例です。個人でも思い思いの造形物を簡単に作れるようになりました。

 一方、大企業にも製造工程に3Dプリンターを活用しようという動きが出ています。多品種少量生産に役立つだけでなく、補修部品などもデータで保存しておけば、サプライチェーンの大きな変革につながるからです。

 3Dプリンターの開発は米国のベンチャー企業が主導してきましたが、我々も3D技術が世界を大きく変えると考え、参入することにしました。サーマルインクジェット技術によるプリンターを世界で初めて商業化したのはHPです。プリンター業界をリードする我々が作るからには、実用的な製品にしようと考えました。そこで造形速度を従来の10倍に高め、コストが約半分で済む製品を開発し、日本にも投入しようと準備を進めています。

 ただ新しい技術だけにどんな利用法があるのか、既存のビジネスをどう変革できるのか、未知数のところがあります。そこで海外では自動車や機械、スポーツ用品など様々な業界の大手メーカーとオープンな協業関係を築き、新たな利用法を一緒に発掘していこうとしています。ドイツではこうしたネットや3D技術を活用して産業のデジタル化を促そうという「インダストリー4.0」が進んでいます。

 日本の製造業はアナログ時代の「匠の技」で成功を収めましたが、デジタル化戦略では遅れているのが実情です。韓国や中国などとの競争に打ち勝っていくためには、コモディティー化による価格競争に陥らず、日本にしかできない感性の世界を3Dの技術を使って表現していくことが重要だと考えています。

 そこで皆さんへの質問ですが、3Dのプリンターやスキャナー、VRなどの技術を活用すれば、世界をどう変えられるでしょうか。製造業に限らず、医療や農業、教育などで3D技術は広がっていくと思います。皆さんが考える画期的な利用法や様々な事業への活用について、アイデアをお聞きできればと思います。

アイデア

宇宙探査で威力発揮

山本 鈴音(明治学院大学文学部1年、18歳)

 3Dプリンターの活用は、宇宙探査の方法を大きく変えると考えている。長期にわたって宇宙空間に滞在しながら研究を進めるとき、宇宙船の中に3Dプリンターがあるとよいだろう。車体部分を船内で3Dプリンターにより造ることができれば、内部のモーターなど駆動部分を地球から持ち込むだけで様々な大きさの探査機が完成する。クレーターを走るような規模の探査機や、小さな穴に入って発掘調査する小型探査機も製作できるようになる。映像解析などを施した惑星のデータがあれば、到着した場所の地形を船内で模型として再現することも可能だろう。即席で作った模型をもとにその場で研究を進める道が開け、探査機の操作が困難な場所を開拓する手段の開発につながり得る。3Dプリンターが医療機関で使われつつあることは耳にするが、宇宙研究にも役立つと思う。

個人に普及、暮らしを豊かに

FANG YUAN(慶応大学大学院経営管理研究科1年、32歳)

 3Dプリンターは現時点で技術とコストの問題で、まだ企業向けの利用が多いが、近いうちに個人向けの3Dプリンターが普及すると思う。個人用3Dプリンターが普及したら、人々は買い物をしなくなって、商品の設計データや仕様を「買いデザイン」するようになるだろう。好きな家具があったら、ネットでデザインを購入して、自分の部屋に合わせて調整し、色と素材を選択したうえで、プリントアウトする。ネットショッピングが人々に利便性を提供してくれたように、3Dプリンターも人々にそれ以上の利便性を与えてくれるのではないだろうか。そして、3Dデザイナーがもっともっと必要とされるようになり、学校にも専門の学部や講座を開講しなければならなくなると予想する。また、3Dコピー機もいつか製品化すると思う。人々の生活は3Dプリンターと3Dコピーにより、どんどん便利になり、楽しくなるのではないだろうか。

医療の限界を崩す

安田 穣(芦屋市立山手中学校3年、14歳)

 僕の祖母は硬膜下血腫の手術で頭蓋骨を切り取られ、今でもポッカリ穴が開いている。常に衝撃を与えないように気を使っていて、大変そうだ。ストレスもたまっているはずだ。そんな祖母のために、3Dスキャナーや3Dプリンターを使って人工骨を作ることはできないだろうか? 祖母だけではない。きっと多くの人が歯のインプラントや骨折した骨の治療を必要としているはずだ。3Dスキャナーや3Dプリンターを使って、一人一人の骨の形にぴったり合った人工骨を作る。そうすれば、快適に、安心して自分に合った人工骨を装着できる。義手や義足なども、もっと心地よく動きやすいものになるだろう。他にも病気やケガを治すのに3Dの技術を求めている人がたくさんいると思う。3Dの技術には医療の限界を崩し、医療の未来を切り開く可能性がある。

以上が紙面掲載のアイデア

立体的な教科書

薄木 利枝(明治学院大学社会学部1年、19歳)

 学習の世界を変えるため、3D技術を小学校の授業に導入する。算数の図形の授業で紙に書かれた三角すいなどを眺めて思考を巡らせるより、ぱっと出てきてくれた方が全体像をつかむのが容易で物事を考えやすい。私自身も頭の中で図形を思い浮かべて問題を解くのが非常に苦手で、どうにか目の前に実際に図形が現れないかと思っていた。また、理科の授業では実験を3Dで見る。危険な実験を子供たちがやるのはとてもリスクが高く、また実験には費用もかかる。3Dで実験の様子を見ることで、子供たちは安全かつ正確に実験結果を知ることができる。学校が多大な費用を負担する必要もない。日本の学力低下がささやかれている現在、3D技術に頼ってみるのも改善につながる有用な方法の一つかもしれない。子供たちも目の前に現れる立体的な教科書に心躍らせるだろう。

新しい通販の姿

山田 健人(海陽学園海陽中等教育学校高校1年、15歳)

 今最も注目されているVRを生かした、3Dマーケティングストアの開発を提案したい。このストアは、全国のあらゆる商品をVR化し、この店に行くだけで、まるで現物を見ているかのような体験が得られるというものだ。写真や情報だけでは把握しくにい現物の質感・大きさを確認できないことが、現在のネット通販の欠点だが、その欠点をVRで補うことがこのストアの役割になる。事業を拡大し、海外との連携を進めれば、「あの国のあの商品、欲しいけどどんな感じなのだろう」と思った時に、すぐストアに出向いて確認することができる。将来、VRのコモディティー化が進めば、家で現物を疑似確認できる仕掛けも考えられ、次世代の必須アイテムとなるに違いない。3D技術の発展には、まず国民の身近な存在となることが大切だ。この3Dマーケティングストアが、国民と技術をより近づけてくれる、懸け橋となってくれるだろう。

3Dで世界を平和に

弓削 美海(明治学院大学経済学部経営学科1年、18歳)

 私は3Dの技術で世界から戦争をなくすことができると思う。第2次世界大戦の終結から72年がたとうとしており、戦争を体験した方々が減っている。戦争の記憶を伝えるのが年々、難しくなっているのは問題だ。私たちの世代はまだ祖父母が戦争を体験している場合があり、当時の話を直接聞ける。ただ私たちの孫、ひ孫の世代は体験者から話を聞くのが困難になる。私たちが伝えられたとしても完璧ではない。そこで3D技術を使用したVRで戦争を体験した方の話を元に、戦時中の世界を再現し、若い世代に体感してもらう。映画などとは違い、自分が本当にその現場にいる臨場感を味わうことで、よりリアルな恐怖を感じられるはずだ。戦争を知らない世代にも恐ろしさを伝えられ、それが新たな抑止力となる。そうすれば国民が戦争を受け入れるようなことにはならないだろう。

懐かしい日本の風景を3Dのジオラマで

若林 秀樹(東京理科大学大学院イノベーション研究科教授、57歳)

 城や町など、日本の懐かしい風景を立体的に再現したジオラマは愛好家が多い。ただコストが高く、大きすぎて家の中では設置場所に困ってしまう。最近ではジオラマを手作りできるサービスもあるが、数十万円から数百万円もするものまで様々だ。完成させるまでには時間もかかる。もし城や町の風景をドローンなどを使って3D画像で取り込み縮小すれば、懐かしい風景が手軽に、低いコストで箱庭サイズにでき、自分のものになる。町おこしにも役立つだろう。東京では各地で再開発が進んでいる。懐かしい長屋の風景などを今のうちに3Dを使って残しておきたい。

3Dプリンターで安心できる家を

野際 七海(駒沢大学グローバルメディアスタディーズ学部グローバルメディア学科3年、20歳)

 ついにプリンターは2次元を飛び出し、3次元(3D)の物も作り出せるようになった。これはある意味、どんな形のものでも作れるようになるという事ではないか。そこで私が考えたのが、3Dプリンターで簡易な家を作り、それを家のない貧しい人々が暮らす場所として使ってもらうという事だ。家がなければもちろん安心感がない。雨風も防ぐことができずに、衛生面でも問題がある。また、家は女性や子供の身の安全を守る大事なツールにもなる。3Dプリンターで物を作る際の主な材料は樹脂である。樹脂の家ならば雨風をしのげるし、自然の影響も受けにくいだろう。家を一軒建てるとなると多大な時間や労働力が必要だが、3Dプリンターなら一度設計図を作れば、後は完成を待つだけだ。印刷した家によって様々な不安から人々を守ることができたなら、素晴らしいと思う。

理想の靴

 

熱海 花帆(明治学院大学社会学部1年、18歳)

 3D技術で靴を作れば、健康とファッションの世界が大きく変わるだろう。子供は成長が早く、足の形に個人差がある。そのため、靴選びに困っている親が多いとよく耳にする。そこで、3D技術で靴を作ることを提案したい。最大の利点は、成長に合わせてちょうどよいサイズの靴を一人ひとりに合わせて作れることである。この利点は子供だけではなく大人にも通用する。外反母趾(ぼし)や偏平足など、様々な現代病に対応する靴もある。ただ、それらは色や形のバリエーションが乏しく、ファッションとして楽しむのは難しいのが現状ではないだろうか。3Dプリンターを使えば、自分が履きたい理想の靴を作ることが可能になる。さらに、スポーツ選手が履く靴にも応用することも可能だ。技術の発展により、一人ひとりが理想とする靴を作っていく時代となっていくだろう。

講  評

 3D(3次元)のテーマだったせいか、若い方からたくさんのご意見をいただきました。いずれも興味深い内容でしたが、3Dプリンターを宇宙開発や医療に生かすというアイデアに私も共感しました。

 宇宙開発ではすでに米国の宇宙ステーションに3Dプリンターが持ち込まれています。全ての補修部品は持って行けないので、データだけを送り、その場で必要に応じて作るわけです。しかし宇宙船内で探査機まで作るという構想は面白いと思いました。

 医療分野では3Dプリンターで人間の臓器までも作ろうという試みが始まっています。人工骨メーカーに勤める友人がいるのですが、現在は患者さんに合いそうな人工骨をいくつも病院に持って行くそうです。病院で患者さんごとに骨を作れるようになれば、効率は大きく増すことでしょう。

 私は3Dプリンターには大きく2つの利点があると思っています。パーソナライゼーションと、リアルタイム性です。宇宙の例でいえばリアルタイムの対応が重要ですし、医療では患者さん個人に最適化するパーソナライゼーションが大切となります。ネットから好きなデザインを購入し、家具を作ってしまおうという考えもパーソナライゼーションです。

 ご指摘にあったように、そうなると3Dデザイナーや3Dプリントサービスといった仕事が増えそうです。日本は大量生産によるコスト競争では中国などに勝つことは困難です。日本人が持つ感性や文化などを3Dプリンターで表現できるようになれば、新たな強みとなるに違いありません。

 一方で規制改革も重要です。3Dプリンターで日本が出遅れたのはリスクが伴う技術の導入を規制が阻んでいた面があるからです。逆にそうした規制や消費者の厳しい要求に応えられる3D技術の利用法を見いだせれば、世界にも通用することでしょう。

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