未来面「世界を変えよう。」経営者編第4回(2017年9月4日)

課題

「世界の住環境を変えるために何が必要ですか」

瀬戸欣哉・LIXILグループ社長

 日本では何不自由ないことが、一歩海外に出ると、とても大変な問題になっていることが多々あります。私たち、LIXILグループの事業領域ではトイレがその一つです。

 トイレがなかったり、トイレの衛生状態が悪くて疫病を蔓延(まんえん)させたりすることがあります。安全で衛生的なトイレを利用できない世界の人びとは全人口の3分の1にあたる24億人にもおよび、日常的に屋外で用を足しているのは9億5000万人です。下痢性疾患で命を落とす5歳未満の子供は1日に800人もいて、深刻な問題なのです。衛生的なトイレの不備による経済的な損失は約22兆円(2015年、図参照)にもなります。トイレがないばかりに学校に行くのをやめてしまう女性もいます。

 水洗トイレを設置すれば解決すると思われるかもしれませんが、下水道の整備には莫大な資金が必要です。LIXILグループは水回り分野のグローバルリーダーとして、世界のすべての人々に安全で衛生的なトイレを普及させることが喫緊の課題だと考えます。

 主な取り組みとして2013年から感染症や悪臭を防ぐ簡易式トイレ「SATO(Safe Toilet)」を開発し、現在バングラデシュやインド、ケニアなど10カ国以上で120万台が使われています。SATOはその地域のニーズや生活様式に適応するように設計され、現地のパートナー企業と製造、施工、保守などを担うことで持続可能なビジネスモデルとして定着しています。

 さて、日本にいては想像もつかない現実を知った上で、皆さんには「世界の住環境を変えるために何が必要ですか」を考えていただきたいのです。これは何も、私たちの生活水準を落としたり、全世界の生活水準を現在の技術のみで先進国並みに引き上げたりすることでもありません。それは時代、地域、価値観、経済力などの環境によって千差万別なはずです。今まで以上に素晴らしい住環境をつくることは可能だと確信しています。

 また、今よりももっと暮らしやすい家(窓、ドア、キッチンなど)にしたいと思っている読者は多いはずです。人工知能(AI)、太陽光などの自然エネルギーなどの活躍の余地は大きいでしょう。環境に負荷がかからない取り組みは重要かもしれませんね。新しい技術が改良されて新興国に普及することも考えられます。「素晴らしい住環境や家」をイメージしてもらうことで、「自分たちもそうなりたい」とモチベーションを高めることにもなるはずです。

 皆さんのアイデアを集めることで、より早く「より良き社会」が実現するはずです。

アイデア

下水道使わない水洗トイレ

尾宮 啓太(海陽学園海陽中等教育学校1年、13歳)

 世界では日本の住環境は素晴らしいと考えられている。特に日本のトイレは非常に清潔で、海外の旅行客からも評判がよいと聞く。しかし、それは日本の下水道設備が整っているからであり、発展途上国が簡単にまねできるものではない。そこで、下水道がなくても完結する水洗トイレを日本で作り、海外に輸出するというアイデアを提案したい。水洗トイレの中に、水を再利用できる超小型の下水処理装置を搭載するのだ。世界中のどのような水にも対応できるようにすれば、水不足に困る国でも設置することができるだろう。災害時などで使われる「ボットントイレ」は大型タンクが必要で、回収業者に来てもらわなければならない。水を再利用できるトイレがあれば、世界中の住環境が豊かになるのではないか。

トイレを広げて住空間に

倉島 研(教職員、41歳)

 私たちは普段、トイレに入ると落ち着くという体験をすることがある。例えば高校生が学校のトイレでたむろするのにも理由があろう。大人でもトイレの個室で新聞を読んだり長居をしたりすることはないだろうか。それはトイレ空間がプライバシーを保つ機能を持ち、私たちを日常の雑多なことから解放する心理的機能を備えていることによるのではないか。言い換えれば「非日常空間」、極論すれば「瞑想(めいそう)空間」である。このような空間のメリットを、防音性を高め、空間を広げることで高めることができたら面白い。住居の中にトイレという一つの住空間を作り、諸行為の場所以上の価値を与えるのである。住宅の間取りでは「3LDK」といった表記はなじみがあるが、T=トイレをLDKと並列する価値あるものとして「3LDKT」と表記するような住居が欲しいのである。

組み替え自在、ブロックの家

日沖 健(慶応義塾大学大学院修士2年、35歳)

 幼い頃、ブロック玩具でよく家を作って遊んだ。家を構成する外壁や屋根、窓、ドア、植え込み等が何種類も用意され、自由に組み合わせて好きな家を作ったものだ。加えて、一度完成しても、好きなように組み替えることができ、豪邸にも、こぢんまりとしたかわいい家にもすることができた。これが実現できないだろうか。もし実現すれば、収入や住む場所、家族構成や必要な設備(介護等)に応じて適切な家に住むことができるし、場合によっては住み慣れた住まいをそのまま別の土地に移動させることも可能となる。不要となった部材は可能な限り融通し合うことで、その部分の生産に必要な資源やエネルギーが節約でき、地球環境への負荷の軽減にもつながるだろう。組み上がった後の強度が現時点では最も大きい課題だと思われるが、新素材や新工法の開発により解決できるのではないかと考える。

以上が紙面掲載のアイデア

「長屋」文化を世界に

小四郎丸 拓馬(会社員、27歳)

 江戸時代の日本では庶民の多くは「長屋」に住んでいた。長屋では、井戸やトイレなどは共同で使い、その整備も長屋の住人が受け持っていた。衛生環境は優れ、住人の助け合いによって様々なことが解決されてきた。この文化を活かし、発展途上国で長屋を文化までパッケージして建築できないだろうか。「長屋の大家」も住人の中から選抜し、長屋の取り仕切りを依頼する。代わりに家賃の減額を行うなどし、大家が率先して環境を整える仕組みにする。文化を輸出し、そこに住む人々が自立して健康的に住み続けられるようにする。また、これは発展途上国だけでなく、女性の社会進出が進む先進国でも再評価される仕組みだ。決して女性の就業率が低くなかった江戸時代、長屋での助け合いは子育て世代の支えとなっていた。住人全員が助け合うことを前提とした「長屋」を、文化までパッケージして普及させることで、人々の暮らしはより豊かなものになるだろう。

生ごみ発電の新常識を

宮崎 正太郎(早稲田大学政経学部3年、21歳)

 日本では「食べられるのに廃棄された食品」が年間約600万トン発生する。半分の約300万トンは家庭から排出されている。主な要因は「食べ残し」「可食部分の過剰な除去」「賞味期限切れ」だ。これらは生ゴミとして、今後も処分され続けるだろう。この住環境を変えるアイデアとして、家庭の生ゴミを活用したバイオマス発電で日常の電力を賄うエコ住区域やエコマンションの開発、というのはどうだろう。身近な住環境を変えることによって、持続可能な社会の実現を目指し、より良き社会の新たな常識を後世に残す。アイデア実現の課題としては、既存の住環境の中へ発電施設を導入する困難性や、メタンガスの管理や悪臭対策、電力会社との連携などがある。家の隣でバイオマス発電ができる住環境、というのは夢物語だろうか。「臭い物に蓋をする」という比喩表現が使われなくなるような、生ゴミに対する新たな常識を後世に残したい。

メザニンスペースを備えた家

横井 勝(自営業、49歳)

 入り口にまず玄関、そして靴を脱ぐという日本の典型的な家は、どうしても家主とゲストの双方にとって使いにくい。そこで例えば戸建ての場合、1階は土足で生活できる設計とし、2階を生活スペースとして、階段の手前にシューズクロークを備えてはどうだろうか。昔の和風の家は平屋だが、キッチンや土間などのスペースは土足だった。グローバル化した現代は外国人との共生が日常にある。人を招待したいものの、家を汚したくないとする家主の葛藤も解消できる。招待された方も気軽に行ける。人と人の交流を増やしていく発想、外と内の間にメザニンとしてゲストルームにもなるスペースのある住環境が、デジタル&グローバル&エイジング社会にとってより良い人々の交流を生み出すブレークスルーになると思う。

蚊帳が生み出す「安心な夜」

穴田 悠人(海陽学園海陽中等教育学校高校1年、16歳)

 世界の住居を快適にするには蚊帳が必要だ。今、世界では蚊を媒介して感染するマラリアにかかり、毎年2億人以上が苦しみ、32億人がマラリアに感染するリスクにさらされているという。この状況下では安心して夜を過ごせない。そこで快適な夜をサポートする役目を果たすのが蚊帳である。マラリアの感染者が多い地域では住宅内にも数十匹の蚊が生息しているとされる。だからといって住宅内で退治するには莫大なコストがかかる。一方、蚊帳なら低コストでマラリアの感染を予防してくれる。感染地域でも普及しやすいはずだ。もちろん、蚊帳をどのように使い、どんな役割を果たすか現地の人々に知ってもらう必要がある。初めて蚊帳を見た人のなかには魚を取る網に使ってしまうかもしれない。認知度を上げるまでにかなりの労力がかかるかもしれないが、蚊帳の普及には欠かせない。マラリア感染の90%はアフリカで起きているという。その地域で蚊帳を普及させればきっと世界によい影響を与えるはずだろう。

自宅エネルギー供給システム

安田 穣(芦屋市立山手中学校3年、14歳)

 世界の住環境をより良いものにするためには、エネルギーを家で自給できるシステムを作るべきだ。例えば、最近研究が進む「人工光合成」を使って得られるエネルギーだけで機能する家は、特に理想的だ。エネルギーを自給するため、発電所から電力を持ってこなくてすむ。電線をなくせるほか、発電所の事故を減らすことができる。また、停電のような広範囲でのエネルギー供給不足も防げる。各自の家ごとにエネルギーを作り出すので、必要以上の余分なエネルギーを作ることもなく、無駄を省ける。人工光合成を利用するので、エネルギーを作り出す時に発生する二酸化炭素の排出量はゼロに減らせる。このようなエネルギー供給システムをお手ごろな価格で開発できたら、エネルギーのない住環境はなくなる。街から電線や電柱がなくなり、景観が良くなるだろう。

猛暑下の断熱性能

川口 英信(自営業、48歳)

 「屋上屋を架す」とは無用なことの例えだ。ただ今後、一層の地球温暖化、亜熱帯化が進むことを考えれば、省エネ化や断熱性を高めるため、住宅の屋根を二層式にすることを検討すべきではないだろうか。真夏に車を屋根のある駐車場に止めたときと炎天下に止めた時とでは、乗り込んだときの車内の熱気が全く違う。住宅で屋根を二層式にして間に風が通るようにすれば、相当な省エネ、断熱効果が得られるのではないだろうか。さらに、屋根に散水設備を設けて一定時間ごとに打ち水すれば、気化熱の効果により快適性が一層増すと考えられる。

雑草をバイオ燃料に変換

清水 達也(自営業、52歳)

 現代の人間が快適な生活を送るうえでエネルギーは欠くことができない。世界の住環境を変えるには安価で持続可能なエネルギーの供給が必要条件である。伐採すれば廃棄物にしかならない雑草をバイオ燃料として生かすことを提案したい。雑草をバイオ燃料に変換する技術を確立し、安全な燃料として使用する。日本は世界に誇れる技術を持ち、雑草を集めるインフラの整備により雇用が生まれ、過疎地の再生にも有効に機能する。化石燃料に頼らない持続可能な社会が形成され、世界中の多くの人々が豊かな住環境を得る。光合成で二酸化炭素(CO2)を酸素(O2)に変える植物を有効利用することは、長い時間をかけて温暖化を抑制する一助にもなる。

本当の要望とは

谷口 実那(青山学院大学社会情報学部社会情報学科4年、23歳)

 相手が求めているものを考える力こそが問われている。一例は日本で使われているトイレ。そのままではトイレが普及していない地域で売れず、機能を絞って価格を引き下げた製品が好まれることもあるだろう。住生活はそれぞれの地域の特性が大きく表れるため、日本文化を色濃く反映した製品では受け入れられない可能性もある。日本で人気があった商品をそのまま輸出するだけでは、世界の住環境を変えることはできない。相手が何を求めているのかを知ることが、世界の住生活を変える第一歩につながる。自分の思いを押し付けるのではなく、相手の立場に立って提案するのは簡単そうに見えても難しい。日本で提供される中華料理が日本人の好みに沿って改良されるように、現地の人々が求める要素を読み取り、柔軟に対応していくことが世界の住環境を快適にするために必要だ。

家産家消

市地 福太郎(海陽学園海陽中等教育学校高校1年、15歳)

 住宅を大きく変える方法は地産地消ならぬ、電気と熱の「家産家消」だ。電気については太陽光を活用して発電し、家庭で使う分をその家庭が作るようにする。発電できない夜間に対応するため、同時に蓄電設備を改良する必要がある。電気自動車が様々な形で普及することが予想され、家庭内で電気をまかなう手段への需要が大きいことは明らかだ。発電時に生じる廃熱も活用すべきだ。また、鉄やコンクリートが浴びる日光を蓄積するように建材を改良し、壁面や屋根にため込んだ熱で水や空気を暖めるようにする。逆に日差しが強い夏に熱を電気に転換してエネルギーを消費すれば、その分だけ家の中は涼しくなるかもしれない。この技術を確立して安価に利用できるようになれば、電気やガスが通っていない地域でも近代的で快適な生活が可能になる。家産家消に向けた努力は将来にとって有益だと確信している。

浴室周りの一工夫

吉田 藍(海陽学園海陽中等教育学校中学2年、14歳)

 世界の住環境をより良く変えるため、私は浴室に注目する。取り組むべき課題の一つは、高齢者が入浴中に死亡する事故の防止だ。脱衣所と浴室に極端な温度差があると、血圧の変化で体調が急速に悪化する「ヒートショック」が起こりやすくなる。その対策には脱衣所の温度や湿度を上げ、浴室と環境をそろえることが有効だ。長時間の入浴も死亡事故につながることが多い。センサーを活用し、入浴時間が長い場合にアラームなどで警告するシステムがあれば事故防止につながる。安全な仕組みを構築すると同時に、心地よく入浴できる工夫も重要になる。専用の機械が人間の体温をサーモグラフィーで感知し、湯船を最も快適な温度に自動調節する。死亡事故を防ぐ安全設備を構築すると同時に、快適性にも目配りする。その両方に対応したシステムは、世界の人々の住環境の改善につながるだろう

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講  評

 地球上の様々な生活環境、文化・風習があるなかで、投稿者の皆さんが「世界の住環境を変える」という難解な問いかけに真剣に向き合ってくださったことにお礼申し上げます。投稿いただいたすべてのアイデアに目を通しました。約8割が現在、LIXILグループが未来の暮らしを見すえ研究開発に取り組んでいるほか、着手を検討しなくてはならないと思っていた内容でした。「世界の住環境を変える」という私たちの志の方向性が間違っていなかったということでもあり、とても勇気づけられました。

 提案いただいた「下水道を使わない水洗トイレ」が開発途上国で実現できたら本当に素晴らしいことです。こうした地域で下水道を整備することは難しいので、その現状を把握したうえで小型の下水処理装置を搭載するというアイデアを13歳の学生さんが投稿してくれたことに脱帽します。

 一方、私たちが暮らす日本など先進国ではさらなる快適さがトイレに求められているようです。「トイレを広げて住空間に」でご提案いただいたように、トイレに必要なのは機能性だけではありません。より座り心地がよく、自分だけの空間で快適に過ごすことのできる商品をお目にかける日は近いことでしょう。

 組み替え自在、ブロックの家」というアイデアは、住宅のリフォームの分野ではとても重要なことです。住宅を構成する部材は、それぞれ耐久性などが異なります。後から交換したい部材だけを取り換えられるように、どのように組み合わせ、安全で快適な住環境をつくるか。そこを意識した住宅や設備の設計がこれから重要になってきます。  もちろん住環境の改善はLIXILだけではできません。オープンイノベーションも活用しながら、進化させていきます。

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