未来面「つくりかえよう。」経営者編第3回(2018年6月4日)

課題

「海は私たちの社会や生活をどのように変えてくれるのか」

田中孝雄・三井E&Sホールディングス社長

 海を眺めていて、いつも思うことがあります。それは「海には様々な可能性がある」ということです。風や海流は再生可能エネルギーですし、大海を泳ぎ回る魚は良質なたんぱく源になります。深海の過酷な条件でも多くの生物は存在していて、その生命力や構造の解明は緒に就いたばかりです。

 まだ私たち人類の目に触れていない生物もたくさんいるはずでしょう。海底に眠っている地下資源も利活用が期待されます。水圧や海水温は計り知れないエネルギー源にもなります。

 仮に地上で住めなくなったら、宇宙に脱出するよりも海中で生活する施設を造ったほうが現実的かもしれません。水面は重力のおかげで真っ平らです。時折、海は荒れることがありますが、海路は陸の道路や鉄道と違って自由に描ける利点があります。

 海は場所によって色が違います。地中海は息をのむような紺碧(こんぺき)ですし、日本でも太平洋側と日本海側でも違います。緯度によってもそうです。空の色や雲によっても海の色は変わります。

 ある日、こんなことを思いました。「海をもっと可視化できないだろうか」と。海が持っている可能性を可視化できればもっといろんな世界が見えてくるはずです。私たちは海についてもっと深く考えてもいいと思います。

 そんな海に関わる事業を展開している我が社はこの春、三井造船から三井E&Sホールディングスに社名を変更しました。E&Sの意味するところは「Engineering(エンジニアリング)&Shipbuilding(造船)」ですが、Eには「Environment・Energy(環境・エネルギー)」、Sには「Social Infrastructure(社会・産業インフラ)」、「Solution(問題解決)」の意味も込めています。

 E&Sは可視化された海の潜在能力を引き出すことにお役に立てると確信しています。

 もう一つ、海は癒(いや)しも与えてくれます。海原を見続けているだけでも幸せな空間を味わうことができます。私たちは物質的な豊かさを享受してきましたが、もっとゆったりとした時間を過ごすことをどこかに置いてきてしまったのではないでしょうか。海という自然と共生するワークライフバランスの在り方を考えてみることも、有意義かもしれません。

 そこで読者の皆さんにお願いです。「海は私たちの社会や生活をどのように変えてくれるのか」について考えていただきたいのです。経済、環境、人生観など海を通してどう考えればいいのか。

 難しいテーマかもしれませんが、ぜひ挑戦してみてほしいと思います。皆さんのアイデアをお待ちしています。

アイデア

海中にオフィス 楽しく快適に仕事

寺本 清香(早稲田大学社会科学部2年、19歳)

 満員電車ではなく、潜水艦に乗ったり海中散歩を楽しんだりして、海の中のオフィスに出勤する。広々としたスペースで、海底に降り注ぐ光を感じ、暗くなったら帰宅する。昼食には新鮮な海鮮料理。美しく、理想の働き方ではないだろうか。

 企業のオフィスが集中している東京では地価が上昇している。サラリーマンにとっても、経営者にとっても苦しい。労働環境は厳しく、結果としてパフォーマンスが下がってしまうのは企業、さらに日本経済にとって損失だ。いま、オンラインで完結できる仕事はたくさんあり、会議はビデオチャットで済ませられる。未来のオフィスに求められるものはエンターテインメント性だろう。わざわざ一か所に人が集まって仕事をするには、個々人が最大限の能力を発揮し、創造性が育まれるようなオフィスでなければ意味がない。

 都会の喧騒から離れ、美しく刺激的なオフィスでの新しい働き方を私は提案したい。

ストレス癒やす リラックス施設を

古沢 侑夏(駒沢大学グローバル・メディア・スタディーズ学部2年、19歳)

 日々の生活に疲れた社会人や学生がリラックスできるリラクゼーション施設を、海中に作ってはどうか。人々の生活をより充実度の高いものに変えていけると思う。

 海の中という空間は私たちにとって、非現実的な場所だ。普段長く滞在することのない水中で時間を過ごすことによって、現実を忘れることができる。リラクゼーション施設には心理カウンセラーを常駐させたい。非現実的な空間に相談できる場所をつくることで、もっと多くの人が気軽に自分の悩みを解決することのできる機会が増えるのではないか。

 現代の生活では、ストレスを抱えて生きている人が多くいる。中には自ら命を絶ってしまう人もいる。地上で働き方を変えること以外にも、何かできるのではないか。海中リラクゼーションはひとつの避難所になり、少しでも命を大事にする人を増やすことに貢献できればいい。

生態系サービス 壊さずに次世代へ

西野 夏希(大阪大学法学部3年、20歳)

 海には多くの生物が生きており、私たちはそのことから様々な恵みを受けとっている。恵みは生態系サービスと呼ばれていて、そのなかには(1)食料や遺伝資源の供給サービス、(2)気候の安定化や水質浄化といった調整サービス、(3)海水浴などレクリエーション機能や精神的恩恵をもたらす文化的サービス、(4)栄養塩の循環や光合成を指す基盤サービスがある。

 どれをとっても、私たちが積極的に海を守っていかなければ受けられない恩恵だ。供給サービスがわかりやすい。魚や貝など食料は無尽蔵に存在しないため、海を汚染したり乱獲したりするとそのぶん、恵みは減ってしまう。

 海は、地球上で長い時間をかけて育まれてきた。人間がつくることはできない。絶妙なバランスで保たれ、つねに変化している命の世界。私たちには、海のサービスに感謝し、むやみに壊すことなく未来の世代へつなぐことが求められている。

以上が紙面掲載のアイデア

五輪を海の上で開催

島野 友輔(早稲田大学社会科学部2年、19歳)

 海上でオリンピックを開催することによって、海のさらなる開発が進むと考える。海上五輪を開く上で乗り越えるべき難題はたくさんある。第1に洋上で安定した競技環境をつくれるかどうか。陸上と異なり海上は波による揺れ、強風などがあり、これらが競技に影響しないようにする必要がある。第2に選手やその関係者、観客、報道関係者などの大量の人員を洋上の競技会場まで運ぶ手段をどうするかだ。多くの人々を運ぶ点で考えると、船による輸送が現実的であると思われる。環境にやさしく迅速に大量の人員を輸送することができる船舶の開発が不可欠だろう。第3に必要な電力をどう供給するかだ。波力発電や潮力発電などの新しい技術で自立した電力供給システムを構築するのがよいだろう。これらの課題を一国でクリアするのは難しいだろう。全世界の国々が協力することによって、課題を解決しやすくなり、それぞれの国との関係も良好になるだろう。

海上住宅で世界へ

白井 瑛(早稲田大学社会科学部3年、20歳)

 海上に家を建てて、それを移動手段として活用できるようにすれば、海外旅行がもっと手軽に楽しめるのではないかと考える。海に家があれば、海外へ旅行するとき、船や飛行機のチケットを予約する必要がなく、自分達が好きなときに旅立てる。移動方法としては、建物の下部に水の中で走れるタイヤを装備し、海上に進水したと同時にタイヤを回転させ走らせる。動力は風力など自然エネルギーを活用することで、海にも優しく、地球環境を破壊することも少ないだろう。家が目的地に停泊するとき、空港での入国審査のように、身分証と建物所有証明書を見せる必要があるので、不審者が入国する危険も少ないと考える。また、波による揺れが一番少ない水路を通るため、船酔いする人も不安になることはない。将来、海外旅行に簡単に行ける方法として是非、実現してほしいと思う。

未来の桟橋レストラン

新田 三男(会社員、51歳)

 桟橋、という語感は、実に古臭いものである。しかし、遊歩道のある桟橋レストランは、古来、ヨーロッパやアメリカの港では、多くの人々が安らぎと余暇と時折は自然の荒々しさを求める代表的な場所だった。海を吹き抜ける風、はるかかなたまで続く青い海と白い雲、海を月へ導く光の道など、そこから眺める景色は、毎日同じ椅子で見ることにも価値があり、見る人にとって何ものにも代えがたい宝物だったのだろう。では未来の「遊歩道のある桟橋レストラン」とはどんな姿だろうか? 3階建てかもしれず、5キロメートルもあるかもしれない。船の一部かもしれないし海中ファームの中にあるかもしれない。駅前よりも桟橋オフィスの方が仕事が楽しく捗りそうだし、第二の人生を楽しむ移住先としてもいい。競争や効率に偏らず、人間は昔と同じ、自然の一部であり、自然は偉大で到底かなわないということを桟橋から見る海の景色が、未来人に教えてくれるだろう。

変わる社会で変わらないもの

山田 健人(神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科1年、23歳)

 「海を眺めると心が安らぐ」という人は多いだろう。海は昔から、生活の営みを支えてくれると同時に、人々にとって青春であり、思い出であり、心の拠り所であり続けている。海辺で友人や恋人と大切な時間を過ごしたり、忙しい日常を一瞬忘れさせてくれたりするような不思議な力が海にはある。

 海を活用した新しいアイデアは色々と考えられる。海中水族館や潮流発電などだ。アイデア次第で海の姿も変わるだろう。しかし、人工知能や自動運転、数々の社会問題など、変化の激しい世の中において海は、「変わらないもの」を感じさせてくれる、唯一の存在なのではないだろうか。私はそんな、時代の流れにとらわれず変わることのない、ありのままの姿の海を、大切にしていきたいと思う。

海は天然処方箋

藤井 駿(京都橘大学現代ビジネス学部3回生、20歳)

 私は農家の子としてよく言われることがある。それは、野菜は薬の代わりになるということである。実際にアメリカでは肥満治療の一環としてオーガニック野菜を提供している医院がある。そしてこれは野菜だけでなく、魚でも可能だと思う。

 例えば、鯵(あじ)やワタリガニは、ナイアシンという成分を多く含み、皮膚炎や胃腸病を予防する効果がある。サザエに含まれるタウリンは、肝臓の働きを良くする成分だ。第1段階は「風邪をひいたらあの家の魚を食べなさい」、「肝臓が弱ってるならこの家のサザエがいい」など地域内交流が生まれること。そして天然処方箋が地域外にも広がり、薬の代わりに魚をもらうようになる。これが第2段階。最終段階は事前の予防も含めて薬を必要としない生活が生まれることである。海の天然処方箋は私たちの生活を大きく変える可能性を秘めている。

現代版アトランティス大陸構想

森 孝嘉(会社員、37歳)

 海洋資源を効率的に利用・保全・観測するために、国際宇宙ステーションのような移動可能で研究機能と居住空間を備えた人工島の海上都市を建造することはできないだろうか。複数の人工島を集結させ、伝説の「アトランティス大陸」のような巨大な研究都市を構築する。そこでは、潮力や海流を使ったエネルギー創出、海底資源発掘、魚介類などの海産資源の養殖牧場、低コスト海水淡水化技術、海水へのCO2吸収促進など、様々な海洋研究を行う。水・食料不足、地球温暖化防止など、地球規模の課題解決に向けて、全世界の人々が集う国際研究都市となるだろう。また、海洋上ならではの自然や青い空、荒ぶる波、満天の星空に触れることができ、新たな海の文化が生まれるだろう。人類の生活範囲を海洋上にも広げることで新しい技術を開発し、世界が抱える社会課題を克服するために、この夢のような現代版アトランティス大陸は大きな役割を果たせるのではないだろうか。

海洋学校

田代 祥太郎(早稲田大学社会科学部2年、20歳)

 海を子供の成長、学びの場として利用するのはどうだろうか。ここで私が提案したいのが「海洋学校」である。「海洋学校」とは、自然学校や林間学校のように、体験型のプログラムを用意し、子供の人間性の発達のサポートをする学校である。ここでは、海水をろ過した水を飲料水として利用し、自分で捕まえた魚を食べるといった自給自足の生活を海上で体験することができる。また、海洋生物の観察や海中遊歩プログラムを通して、実際に海上・海中で海について学ぶことができる。さらに、エンジンを取り付け、移動式の構造にすることで、近隣の島へ行き、そこで自然学校や林間学校で行われているような山や川でのプログラムも並行して行うことができる。このような成長・学びとしての場としての海を私は提案したい。

ストレス社会と海

佐久間 蓮(駒沢大学グローバル・メディア・スタディーズ学部3年、20歳)

 海は、私たちが日々感じているストレスを和らげる力を持っている。ストレスを抱えている人が海へ行けるように企業は1年に1度か2度の長い休みをつくるべきだ。休みがあるというだけで社員の仕事に対するモチベーションも上がり会社にとっても効率がよいと思う。私は今年の1月初めから約1カ月半、入院生活を送っていた。入院中には友達がお見舞いに来たことや看護師さんと話をすることで楽しい時間もあったが、それ以上に自分でもわからないほどのストレスを抱えていたと感じる。体調が良くなり思い切って5月にハワイに旅行へ行った。ハワイの海は美しく、私のストレスを和らげていた。一度ストレスをリセットすればまた頑張れる。ストレスがたまるのは生きている限り仕方がないこと。その発散方法が重要なのではないか。海は泳いでもいいし、見ているだけでもいい。それだけでも効果はある。楽しみが先に待っているというだけで人生は今よりもきっと明るくなるはずだ。

講  評

 読者の皆さんからいただいた「海」に関するアイデアは、鉱物資源の採掘などのようにビジネスの世界で描くイメージとは異なり、癒やしとか心の安らぎのようなより人間的に暮らすための基盤としてのアイデアにあふれていました。それは海の可能性がさらに広く、深いものであることを再認識させてくれた素晴らしい内容でした。しかも未来の社会を担う10代、20代の若い方々がこの課題に向き合って、関心を寄せていただいたことも心強く感じました。本当にありがとうございます。

 アイデアはいくつかに分類できました。非日常の生活、生態系の維持保全への提案、陸上をはるかに上回る海洋面積の活用、海上・海中での定住などです。

 「海中オフィス」は竜宮城のような職場をイメージしたものだと解釈しました。まだ社会に出ていない学生さんが働く場所について斬新なアイデアを寄せてくださったのには驚きましたね。職場の環境整備の大切さを教えてもらった気がします。

 「海からの4つのサービス」は海洋との共生を軸に海の可能性をコンパクトにまとめてあり、大変面白く読めました。持続的な社会の構築に幅広い視点からのアプローチは複雑化する社会問題を解決する一助にもなるでしょう。

 「海中リラクゼーション」は新しいライフスタイルを実現する提案と読みました。逆に言うと私たちがつくってきた今の社会が若い人たちには異質なものと映っているのかもしれません。勉強になりました。

 電子版に載せたアイデアの中には、移動可能な浮体構造を使った恒久的な施設の建設の提案があり、我が社もお手伝いできるかもしれません。

 これから北半球は夏を迎えます。海辺を散策するなど海を身近に感じる季節です。改めて海の可能性と向き合って、これからの未来を思い描いてみたいと思います。

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