未来面「つくりかえよう。」経営者編第7回(2018年12月3日)

課題

「新しい時代の医療や健康の在り方は?」

尾堂真一・日本特殊陶業会長兼社長

 読者の皆さんにとって、自動車部品メーカーの我が社が医療分野について、お話しすることに違和感を抱かれるかもしれませんね。しかし自動車の内燃機関という過酷な環境で使われている我が社の製品や技術が幅広い領域で活用されることは必然の流れだと思います。

 実は既にセラミック技術を応用した人工骨の製造を手掛けています。主力商品のスパークプラグの製造は人工骨のそれと似通った工程で出来上がります。コアの技術力を医療分野で使ってもらっていて、この実績を基に、医療分野でもっとお手伝いできないかと考えています。

 将来のEV(電気自動車)化や電動化の流れの中で会社の事業や構造を転換していかなければなりません。我が社の中核となるセラミックス材を使った材料、加工、製造のそれぞれの技術をいかせる分野の在り方について役員や多くの従業員と話し合った結論の一つが医療分野だったのです。基本理念の「良品主義」に裏打ちされた取り組みです。

 自動車部品同様に医療分野への参画は命に関わる仕事ですから生半可な気持ちでは駄目です。背中を押してくれたのは社内の議論での出来事です。若い人たちが医療分野について有意義な提案をしてくれたのです。我が社の将来だけでなく人間の将来について真剣に向き合っていることに感銘を受けたのを覚えています。それで覚悟を決めました。

 自動車分野で培った厳しい品質管理のノウハウを医療の分野でいかし、世の中に貢献したいという気持ちです。我々のルーツである森村組が設立した「森村豊明会」は長く医療関係に助成をしており、そうしたDNAが私たちの中に刷り込まれているような感じもしています。

 具体的な事例を紹介しましょう。自動車用の酸素センサーの技術を応用して在宅療法で使われているのが「医療酸素濃縮装置」です。呼吸不全や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などで肺の機能が低下した患者さんに自宅で濃縮酸素を供給します。患者さんの状況をモニタリングして同時にお医者さんに情報を提供しています。

 また「超音波センサー」によって脳の細かい血管の血液を測定、脳疾患を検出する製品も検討中です。患者さんの負担が少なく、病気の早期発見などにもつながると思います。我が社の技術で社会貢献していきたいです。

 そこで読者の皆さんに問い掛けをします。日本はまだ医療・介護などの公的な制度は維持されています。ただ国の財政事情を考えればいつまでそのシステムが機能するかは疑問符が付きます。病気にならず健康的な生活を送るためには自分、企業や社会全体は何をすればよいのでしょうか。「新しい時代における医療、健康の在り方」についてのアイデアをお寄せいただきたいと思います。

アイデア

健康を数値化する

奈良 勇輝(一橋大学法学部3年、21歳)

 あらゆるお金の動きがオンライン決済になり、個人の消費活動のすべてがデータ化される。いつ、どこで、何をどれくらい食べたのか、Suica(スイカ)といったICカード乗車券などの記録から、帰宅や出社の時間を割り出し、何時間寝たのかわかる。それらの「生活の全記録」から、健康のリスクを人工知能(AI)が数値化し、「健康値」が個人の信用情報となる。ローンを組む、保険に加入する、就活をする、そんなときに入力必須の情報となり、学歴、収入、健康値が三高と言われるのかもしれない。そこからまた、一人ひとりが健康に気を遣う社会が生まれ、健康寿命が延び、社会保障費が減るサイクルができあがる。もっとも、一番の勝者はその数値を算出するビッグデータとして多くのユーザーを抱え、決済サービスを提供するIT(情報技術)企業だろう。さまざまな分野に進出した「IT企業」が「グローバル企業」のような死語になったとき、健康社会が実現しているのかもしれない。

AI+コンビニ受診

水谷 将明(名古屋大学情報学研究科修士1年、23歳)

 気軽に病院を使う「コンビニ受診」という言葉がある。休日診療をコンビニ感覚で手軽に使うという意味だ。この言葉の意味をまったく別のものに変えたい。夜間や休日に病気やけがになった場合の薬を実際のコンビニエンスストアで24時間買えるようにする。現在は、薬剤師などの資格を持った人しか販売できないので、全てのコンビニで薬を売ることはできない仕組みになっている。そこで、人工知能(AI)を使った24時間無料のAI診察装置をコンビニに設置する。この装置に薬の説明から販売まで行ってもらう。もし、重症と判断されれば、今開いている病院を紹介する。店員も医者も一切関与しないので負担を減らせる。この計画の成功には設置するコンビニ業界だけではなく、装置を作る医療機器メーカー、薬を提供する医薬品メーカーなどが協力していく必要がある。社会が協力して機械の力も借りながら、医者の仕事を減らして重症患者に集中できる仕組みをつくろう。

明るい高齢化社会

小林 諒子(駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部2年、20歳)

 シニア限定のジムや医療センター、カフェなどが入った施設を各地につくったらどうか。現在の日本は「高齢化社会」といわれ、医療費や介護費の問題、また認知症患者の急増など多くの問題が生じている。高齢者は歳を重ねるにつれ、不安を抱え自分をお荷物のような存在だと感じていく。そんな高齢者が集い合い、シニア層向けの無理のない運動ができる場所、自分の悩みを聞いてもらえる場所、同じような考えを持つ人達と交流する場所があれば、彼らの生活は豊かになり、生きる事の楽しさを見いだせるのではないだろうか。「高齢化社会」はマイナス面ばかりで高齢者が日本のお荷物であるというような考えは減るだろう。また、多くのものが人工知能(AI)にとって代わる時代だからこそ、交流の場というものが、生活に豊かさを与えてくれるのではないかと思う。高齢者の生活が豊かになることで、次世代の未来も明るいものになるだろう。

以上が紙面掲載のアイデア

オフィス街の早起き食堂で三文の徳

梅村 茜音(一橋大学法学部3年、21歳)

 都心にオフィスを持つ企業と鉄道会社などが共同で費用を負担して、オフィス街に、朝食専用の食堂「三文」を設立してほしい。「三文」では、健康的な和食を中心に、栄養士監修のバランスの良いメニューを提供し、時間が早いほど価格を安くする。例えば、朝7時までは100円(三文を現代の貨幣価値で換算した値)とする。こうすることで、時間のない社会人が朝食を抜かずに済み、健康増進につながるうえ、社員の仕事への集中度が増して企業の生産性も上がる。食品メーカーは、スポンサーとなって自慢の健康食品を提供し、宣伝の場として活用することができる。さらに、「三文」で朝食をとるために、早めに家を出発する人が増えれば、現代社会の大きな課題である通勤電車の混雑の緩和にもつながる。働く人・企業・社会にとってメリットの大きい、まさに一石三鳥の仕組みとなる。

小型・軽量化脳活動センサーの開発

西出 利一(日本大学名誉教授、68歳)

 脳波や脳内血流のデータを小型・軽量化センサーで取得し、脳の活動状態を見える化することを提案したい。脳の活動状態を常にモニターすれば、脳梗塞など疾病の前兆をキャッチしたり、脳の疾病のリハビリテーションにおける快復状態を把握したりできる。ビジネスでも広く応用できると確信している。ドライバーの居眠り防止センサーへの応用で、安全運転と事故防止が可能になる。将来、ひらめきの予感も見える化できるようになるかもしれない。

 脳波や脳内血流を測る原理はすでに分かっている。高感度化と駆動部を含めた小型化が重要な要素技術となる。また、人工知能(AI)を活用したデータの意味判断がポイントとなるだろう。センサーを実用化するときは帽子の内側に装着し、スマートフォン画面で見えるようにすればいい。ついでメガネに装着できるまで小さく、軽くしてはどうか。

人生を記録するライフレコーダー

鳥羽 裕介(会社員、25歳)

 医療技術の発達で様々な治療法や薬剤が開発され、治せない病気は減っていく。ただ単純な医療の発達では対処できない問題が心の病気である。心を病む原因を患者が話したがらない場合は、丁寧なカウンセリングを根気強くする必要があり、一人ひとりの治療には莫大な時間を要する。そこで、ドライブレコーダーのように人の人生を記録するライフレコーダーを発明してみたらいい。

 ライフレコーダーは患者の視点から客観的にその人に起こった事実を記録する。患者の同意をもとに医者に記録を提供することで、患者は話したくない過去の出来事を自ら口にしなくても相手に分かってもらえる。医者からすれば実際に起こった事実をもとにカウンセリングを行うことができ、効率的な治療につながる。個人の監視に批判的な意見もあるだろうが、治療のためには考えてみても良いかもしれない。

すぐに寝られる枕

森下 太一(大阪経済大学経営学部3年、20歳)

 スリープテックの分野は、忙しい現代人にとって必要な技術になる。新しい時代の健康を支えるものとして私が提案するのは「すぐに寝られる枕」だ。一日の3分の1近くを占める睡眠が快適なものになれば人々の生活はもっと豊かなものになる。

 その枕は血行など脳の状態を測定しマッサージをするほか、家電と連動することで適度な室温の調節や睡眠に適した音楽を流すなど、睡眠に最適な環境をつくり出す。スマートフォンとも連動して睡眠時の状態を計測し、いびきや無呼吸状態などの異常を発見した場合は医者への診察を勧めるといったこともできるだろう。翌日予定があって早く起きないといけないのになかなか寝付けないという体験を持つ人は多いはずだ。すぐに寝られる枕は生活を豊かにするだけでなく、色々な角度から忙しい現代人の味方になる。

「笑い合う」ことで医療改革

雲岡 拓海(大阪経済大学経営学部3年、21歳)

 現在、高齢化が進んでいる私の祖母の地域に行くと、単身の高齢者同士が笑顔で会話しながら日常を過ごしている光景を目にする。医療の未来には、このような地域で支え合うシステムが必要不可欠であると私は主張したい。私自身、大学生活やアルバイトの中で、人との会話を通じて自然と笑顔が出てくる。地域全体が、このように笑いがあふれる環境になることで、身体面でも毎日外出することが楽しみとなり、運動にもつながる。2025年問題といわれる団塊の世代が後期高齢者となる社会は、医師の増員や増税だけでは国が支えきれるとは思えない。日常の中で国民が「支え合う」取り組みが重要になると私は考える。未来の世の中は、高齢化により、医療費や人手不足などの問題から暗いと考える人が多いかもしれない。しかし、そこに笑顔で明るい日差しを入れるべきではないだろうか。

良い食生活を維持するために

平地 春菜(駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部2年、19歳)

 私が提案するのは「自分の中の栄養素を測れる医療機器」だ。日本の細かい緻密な医療技術は世界でも通用すると考える。しかし、一人ひとりが病気にならないためには、「食生活」に気を使うことが大切であると考える。日本で生活習慣病が問題となっているいま、人間の体に直接補給される「食」に焦点を当てていきたいと考える。

 私は一人暮らしをしているが、生活の中で「食事のバランス」がとても大切であると気づいた。何かの栄養素が足りないと生活に支障をきたす。自分で栄養素を考えて食事することは日常生活で全員が当たり前にできることではない。そこで提案するのが「血圧計のような外から栄養素を測ることができる医療機器」だ。このような機器があれば「この栄養素が足りない」と目に見えてわかるため、不足している栄養素を補給できる。このように食生活から手助けできるシステムがあればよいと考える。

大学でセカンドライフを

後藤 元(一橋大学法学部3年、22歳)

 高齢者向け集合住宅を大学に併設させることで、高齢者の生活が豊かになる。医師や看護師を目指す学生に健康面のケアを受けながら、大学の授業にも参加することで心身ともに良好であり続けられる。比較的に健康状態のよい高齢者を対象とし、大学隣接の集合住宅で予防医療の観点から様々なサービスを提供する。学生が考えた運動プログラムで健康増進を図り、住居には見守りのためのセンサー機能を設けることで防犯体制も整える。また、大学生と同じ教室で講義を受講してもらい、若いころ大学に通えなかったような方にも再度学び直せる環境を提供する。70年ほどの人生経験を反映した、現役学生にも生きるような発言も期待できる。大学と密接に関わった環境で第二の人生を送ることによって、心も身体も若返るかもしれない。

遺伝子レベルで病気の予防を

戸田 飛向(産業能率大学経営学部2年、19歳)

 遺伝的な病気。それは人を不安にさせる。母方の祖母は5年前膵臓(すいぞう)がんにかかった。祖母は定期健診に行っていたため、早期発見することができて、今も元気に暮らしている。しかし発症した時にはちょうどテレビで芸能人の方が膵臓がんで亡くなったという報道があった時期と重なり、家族全員が不安な気持ちになった。曽祖母も膵臓がんを発症して亡くなったということもあり、遺伝的に膵臓がんにかかりやすいため、私や母がいずれがんにかかる可能性は高いと思われ、時々不安な気持ちに押し潰されそうになる。このような不安な気持ちを抱いている人は私以外にも多くいるはずだ。しかし、遺伝的な病気を遺伝させない薬があったらどうだろう? その人自身もその周りの人たちも不安な気持ちがなくなり、幸せになる人が増えるだ

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講  評

 医療や健康に関する私の問い掛けは「命」への問い掛けにもつながり、極めて奥が深いテーマだったはずです。それでも多くの投稿が寄せられたことに本当に感謝します。読者の皆さんからのアイデアを読んでいてこれらのテーマは解決に向けて実現可能性が極めて高い、夢物語ではない環境になってきていることも実感しました。

 一つ一つを読んでいて「もしかしたら身近なところで医療や健康について常々、思うところがあるのではないか」と感じさせるものがありました。だからこそアイデアに具体性があり、腑(ふ)に落ちるものになっているのだろうと感じました。

 「『健康』という信用を数値化する」は大変、面白いアイデアです。数値化することで健康に一層、注意を払うことになります。結果的に国の医療関連の財政事情も改善されていくことでしょう。個人情報との兼ね合いもありますが、そこには解決策が見いだせるはずです。

 「AI+コンビニ受診」は5万店超というコンビニエンスストアの拠点数の多さ、24時間営業という利便性と自宅からの近さを活用するものです。人工知能(AI)によって従業員の負担軽減もできそうです。メディカル(医療)とリテール(小売り)の融合ですね。「明るい『高齢化社会』に向けて」はシニアに親しまれるコミュニティーの場所の大切さを説いていますね。優しさの思いが伝わる内容として読みました。実は94歳になる私の母は昨年からグループホームに入り、最初は戸惑っていたようですが今では「まだまだ長生きしたい」と笑顔で話してくれるようになっています。

 自動車の内燃機関という過酷な環境で使われている我が社の製品や技術を医療分野でいかそうとしているのは社会貢献への強い思いからです。皆さんからのアイデアの中には当社のセンサー技術をいかしてデータを利活用できるものもあり、我が社の方向性と近い内容に驚くと同時に意を強くしました。本当にありがとうございます。

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